コウシャクサマという男
バァン!私は重いドアを開け、言い放つ。
「公爵様!離婚してください!!」
積みあがる資料の向こうに見える顔は明らかに不機嫌だ。
「何だ。朝から物騒なことを口にするな。」
えぇ、あなたにとっちゃ物騒なことでしょうね、いきなり離婚だなんて。でもね、私にはあなたの想像を軽く超える物騒な事情があるのよ!!
時はさかのぼり数日前。
「な、なによこれぇ~?!」
私の叫び声が大きな部屋中に響く。正確には、私ではない誰かの声が響いたのだが。
昨夜、私はいつも通り勤めているブラック企業で、愛という名のサービス残業をこなしたあと、深夜に帰宅し、使い古した布団にダイブし眠ったはずだった。なのに、目が覚めると真っ白ですべすべなベッドで眠っていた。しかも、ぼさぼさなはずの髪は腰まで伸びる綺麗な白い髪になっている。ごわごわだった髪質もまるで変わっていた。
「サラサラじゃない…!」
私は思わず目を輝かせて、髪を撫でる。
すると、突然バンッ!と音を立てて扉が開いた。
「どうなさったのですか、ツウィ様!!」
どうやら、私の叫び声を聞いたらしいメイド服を着た女の人が、部屋に入ってきた。
・・・・・・ん?え? ツウィ?
「ツウィ――?」
聞き覚えのあるような、でもどこか遠い響きの名前。
心の中で何度も反芻しながら、私は頭を抱えた。
1人で悶々とする私をよそに、彼女は私の元はずんずんと歩いてくる。
「もう公爵様との朝食の時間ですよ!」
こ、コウシャクサマ???
なにそれ、おいしいの…?
いやいや、まって、ほんとにどういうこと??
私が――「ツウィ様」なの??
混乱する私をよそに、彼女はてきぱきと、フリルまみれの派手なドレスを取り出す。
「あ、あの…」
おそるおそる口を開く。
「ここ、どこですか?」




