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ep.17-2 現実

 iARTSのパイロットルーム。その中にあるベッドの上で、私はうずくまっていた。なにをするでもなく、ただひたすらに現実をシャットアウトしていた。


「私のしたいこと、正しいんだよね……?」


 不意に言葉が漏れる。私はただ敵味方問わず助けたい、そんな想いで白龍を動かしている。きっと、白龍も同じ考えだと思う。だから、あんな見たこともない力を……。


 わかっていた。それが単純に見えて、実は想像し難いぐらい難しい絵空事であることを。


 でも。


「ねえ、白龍。あなたも、助けたかったんだよね?」


 ――キィン。


「ふふ、ありがと」


 トントン。


 ドアをノックする音がした。


「杏子ちゃん?いる?開けていい?」

「ユズ……」

「開けるよー?って、開いてる」


 ドアが開かれ、優月の姿が見えた。見るからに心配そうな目つきをしている。


「心配しちゃったよ、あんなに怒っちゃうから」

「……ごめん」

「謝らなくていいよ。わたしも神谷くんに叱っちゃったから。なんで戦ってくれたのにあんなこと言うんだって。そしたら思ったよりシュンってしちゃって。子犬みたい」


 優月は「ここ、座っていい?」と言ってベッドに腰掛けた。


「まあ、神谷くんの言うこともわかるっちゃわかるんだけどねぇ」

「……そう、だよね」

「五分五分ってところかも」


 私はそっと顔を上げた。優月はいままでにないくらい優しい顔をしていた。


「知ってる?わたしって割と敵には容赦ない方なんだよね」

「……知ってる。フライトユニットぶん投げた時、ビックリしちゃった」

「あはは、バレてたか。アレ、思ったより高いんだってね。額聞いて腰抜かしちゃった」

「……でしょ」


 少しだけ口元が緩んだ。優月はその変化を見逃さなかったのか、よしよしとでも言いたげに頷く。


「わたしさ、杏子ちゃんが白龍に乗る前、ひとりで戦ってたでしょう?その時は、結構敵パイロットを殺してたんだ」

「……」

「コックピットから敵の悲鳴が聞こえた時は流石に気分悪かったけど、あんまりなんとも思ってなかったんだ。話したっけ?白龍が動く一戦前の話」

「してない」

「左脚に右脚、右腕まで吹き飛んで頭も半壊してもう最悪って感じで。しかも残弾も1!死ぬと思ったよ」

「でも、死んでない」

「そそ。最後に1発で敵のコックピットを貫いてさ。その前にわたし、なんて言ったと思う?『100万年早いわ!!』ってさ。古臭いよねぇ」


 優月は天井を仰いだ。緩んだ表情が一瞬真面目になる。


「それで、白龍に乗って戦う杏子ちゃんを見て思ったんだ。わたし、名前負けしてるなぁって」

「名前負け?」

「つまり、杏子ちゃんに優しさで負けてるってこと」


 無邪気に足をバタバタとさせる優月から、ちょっとした物悲しさを感じた。


「杏子ちゃんは優しい。とにかく優しい。でもね、やっぱりそれは命取りにもなるよ」

「……命取り」

「そう。もし、オウキに隠し武装があったら?オウキがフロンティアに逃げて、帰ってきた時にハイパー・オウキになってたら?」

「ふふ、なにそのネーミング」


 ちょっと面白くなって、私は軽く吹いた。


「まあともかく、敵への優しさは必ずしもメリットにはならないよ。ただ」

「ただ?」

「それを可能にしちゃうのが、白龍なのかもねぇ」


 ――白龍。


 その言葉に思わず身が引き締まる。


「白龍、凄いよね。わたしの真鶴とは大違いでさ。渡辺さん、めっちゃ興奮してたよ。こんなの見たこともない!って」

「凄いって、どう……」

「んー、詳しくは知らないんだけどさ。でも、白龍なら終わらせられるかもしれない。優しさで、この戦争を」

「戦争……」


 トントン。


 再び、ドアがノックされる。


「橘。入ってもいいか?」


 智の声だ。


「……いいよ。鍵、開いてるから」

「入るぞ」


 ドアがそっと開かれる。見えた智の姿は、想像よりもはるかに萎えていた。


「……橘」

「なに?」

「……申し訳ないことをした。すまない」


 智は礼儀正しく腰を90度曲げた。


「橘がどうして戦っているか。どういう想いで戦っているか。全く考えていなかった。自分の定規に当てはめてしまった。本当に申し訳ない」

「神谷くん……」

「橘の言う通り、俺はドールユニットに乗る資格はない。自分に言い訳をしてきただけだ、だから」

「謝らなくていいよ」

 

 私の言葉に、智は少し驚いた様子で私を見つめた。


「私も、理想論を振りかざしすぎたなって。考えてみれば、神谷くんの言うことも正しいなって、思った。私の方こそ、ごめんなさい」

「橘……」

「でも、私はどうしても守りたいなって思っちゃうよ。それが、私が白龍に乗ってる価値だと、意味だと思うから……」


 私は目を擦った。小粒の水滴が手につく。


「でも、私が危なくなったら」

「……もちろんだ。俺たちが止める。例え、それが橘の理想と違っても」

「よかった。わかってくれて」


 その時、スマホがブルブルと震えた。出ると、渡辺さんの声が聞こえた。


「杏子っち?聞こえてる?」

「はい、あの……なんでしょう?」

「凄いよ!白龍!私たちの想像を遥かに超えてくる!こんなに凄い機体とは思わなかった!ちょっと見にきてよ!!」


 優月の言う通り、渡辺さんは興奮の真っ只中にいた。

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