ep.15-4 戦力
鋭い双眸と黒の装甲。ところどころに残る改造の痕跡。白をベースに整った3機とは異なる雰囲気をまとった機体。
黒鉄の2機は台車に固定されたまま、整備車に引かれていた。けたたましいサイレン音と共にこちらに向かってくる巨大な体躯は、それだけで迫力があった。
「黒鉄壱式はラグールの機体で大剣・十握剣が特徴の近接機。黒鉄弐式はアリア機で、真鶴と同じタイプのレールガンを装備してるわ」
渡辺さんが腰に手を当て自慢げに説明する。機能としては白龍と真鶴の量産型のように感じた。
――これを量産できる技術があるのか……。
そう思っていた時、わたしの後ろから声がした。
「優月さん、おはようございます」
振り向くと、そこにはラグールとアリア、それに神谷くんの姿があった。3人ともパイロットスーツに身を包んでいる。
「3人ともおはよう!」
緊張が一気に解け、わたしは元気よく挨拶を飛ばした。
「これから機体の調整?」
「はい。自分たちも、ハーケンドール……黒鉄には何ヶ月も乗っていないので、感覚を取り戻さなければ」
「私に至っては武装も変わってますので……」
「あっ!そうだよね」
アリアの機体はもともとビームライフルを装備していたが、真鶴が破壊していたのだ。
「まあ、ビームライフルは街中でぶっ放すにはちょっとね〜」
「それよりも、聖堂。お前、身体は大丈夫なのか?」
智の視線がわたしの腕に刺さる。
「あっこれ?前よりは痛みも引いたし大丈夫だいじょ……いてて」
わたしは少し腕を動かそうとしたが、瞬間鋭い痛みが走った。智がため息を吐く。
「……聖堂。無理はするなとあれほど言っただろ。治癒が遅くなったらどうする」
「ご、ごめんね……」
「俺たちは皆、お前の回復を待ってるんだ。橘だってそうだ」
「そうだよね……わたしが戦わないと、みんなに苦労が……」
「違う。お前自身のことが大事なんだ」
「……神谷くん?」
智の語気が強まる。冷静なのにどこか熱いノリを感じた。
「だから!……安静にしとけ。戦うのは俺たち3人でなんとかする」
「えへへ……ありがと」
少し照れ臭くなって頭をボリボリ掻く。神谷くんがこんなことを言うなんて、少し意外だった。
「でもまあ……ちょっとは見てもいいんじゃない?気になるでしょ?黒鉄と青麟」
「うん!それはもちろん」
「なら、見に行きましょ。スペックとかそういうのは私たちの方が詳しいし」
アリアはそう言ってわたしの右手を掴もうとした。新しい機体、新しい装備、そして、新しい仲間。戦いに挑むことを忘れ、心が跳ねた。
その時だった。
『空間動観測!繰り返す!空間動観測!場所は館山市沖5km!青麟、黒鉄壱式、黒鉄弐式の転送準備をお願いします!』
戦いの音が、鳴った。機体から走り去る整備スタッフの足音が、証明と言わんばかりに状況を裏付ける。
「あっ……」
わたしは思わず手を引っ込めてしまった。アリアががっかりそうな顔を浮かべる。
「あーあ、来ちゃったか……」
「アリアさん……」
「まあ、来るよねぇ。そのために機体準備してたんだし」
3人の顔が引き締まる。もはや談笑する場合ではなくなってしまった。
――わたしは、戦えないのに……。
「わたし……」
「優月さん、自分たちなら大丈夫です。これまでこの世界の全員に多大なる迷惑をかけてしまった……その罪滅ぼしがしたいだけなのです」
「そんな……でも!」
「……聖堂。俺たちに、任せろ」
わたしの肩を智の手がポンと叩く。軽くも重くもない、不思議な感覚が乗っかる。
「中津川さん、聖堂をお願いします。渡辺さんは機体まで案内してください」
「わかりました」
「よぉーっし、いっちょ任せな!」
渡辺さんと共に機体へと向かう3人の背が、次第に小さくなっていく。
「黒鉄壱式、弐式、固定解除!」
「青麟、転送フレーム接続急げ!」
「館山方面の衛星リンク更新、急いで!」
怒号とアナウンスが入り乱れ、整備区画の全てが忙しなく動く。
「聖堂さん、行きましょう。これ以上は危険です」
「……でも」
――まただ。
また。
ひとりぼっちになっちゃった。
その事実が、胸をさらに痛めつけた。
「みんな……ぜったい、生きて帰ってきて……」
わたしは心の底から祈った。




