ep.15-3 戦力
「聖堂さん、お身体の方はどうですか?」
「んー、結構良くなってきたかしら」
医務室のベッドの上。わたしの瞳が中津川さんを直視する。
「痛みは取れてきたし、この姿も様になってきたかしら」
若干無理のある笑みを浮かべる。
診断の結果、わたしの骨折は全治6週間とのことらしい。既に戦闘から2週間経っているので、残りは約1ヶ月だ。
「そういえば、真鶴の方は?」
「はい、現在可能な限りリソースを注いで修復作業に当たっています。2週間以内には完了する予定です」
「……ありがとう」
――真鶴よりわたしの方が重症だったのか……。
人間だから当たり前といえば当たり前だけど、少しだけ意外に感じた。
「杏子ちゃん、元気してるかなぁ……会いたいなぁ……」
「橘さんは当分iARTSには……」
「……わかってる」
わたしは天井を見上げた。この真っ白な模様も見慣れたものだ。
「わたしよりも、杏子ちゃんの方が大変な思いしてるからねぇ……。わたしでもおかしくなっちゃいそうなのに」
東京タワー戦の後、車に半ば強引に乗せられるわたしを、杏子ちゃんは引き止めようとした。大粒の涙を流しながら、車から降そうとした。「待って!居なくならないで!」という言葉が何度でも頭に流れる。
それは、あまりにも痛々しい光景だった。
「杏子ちゃん、遺跡に行ったんだっけ」
「はい、先週私たちと一緒に」
わたしの急な話題転換に、中津川さんは即座に対応した。
「何かわかった?」
「はい……。白龍は想いを受け取る機械であると」
「想い?」
「想いを受け取り増幅する、唯一の機動神だと言ってました」
――唯一、かあ……。
真鶴になくて白龍にあるものって、わたしの思っているより大きいのかも。
「……見たい」
「え?」
「整備区画、行ってもいい?」
―――――
中津川さんの同伴のもと、わたしは整備区画に足を下ろした。青麟と真鶴、それに白龍が区画の最奥に向かって1列に立ち並んでいる。
「わたし、完成した青麟初めて見たかも」
ロールアウトしたばかりということもあって、青麟からは新品特有の真新しい匂いがする。傷だってひとつも付いていない。
わたしは足元からじっくり見上げた。脚部、腕部、胴体の形状は白龍たちとほぼ一緒で、白龍が浅葱色、真鶴が紅色で彩られているのに対し、青麟は濃紺のラインが入っている。
大きく変わったのは頭部で、白龍と真鶴が人間と同じように2つの眼をしていたのに対し、青麟は2つの眼が真ん中で繋がったような、単眼のカメラアイを有していた。
「これが青麟……」
「おはよう、ユズっち!」
わたしを呼ぶ妙に軽い声がした。渡辺さんだ。いつも通り白衣を身に纏っている。
「渡辺さん、お久しぶりです」
「いやいや、心配したよユズっち。怪我したっていうからさ。真鶴もボロボロだし……」
「その節はすみませんでした。わたしのせいで……」
「いいよ、直すのが私たちの仕事だし」
渡辺さんは寸分変わらぬテンションで話を進める。
「そういえば、完成した青麟を見るのって初めて?」
「はい、どんな機体かもあまりわかってなくて」
「まあ、簡単に言えば『強襲機兼支援機』かな?」
「強襲機兼支援機……?」
わたしが聞き返すと、渡辺さんは待ってましたと言わんばかりに頷いた。
「そうそう。前に出て殴るだけでもなければ、後ろで援護するだけでもない。前線に食い込んで状況を作りつつ、味方の動きも底上げする。ちょっと欲張りな設計だね」
「欲張り……」
「ほら、あそこにバックパックがあるでしょ?」
渡辺さんが指差した先には、灰色の巨大な箱状の物体があった。
「あれを装備すると火力と情報処理能力が格段に増すの。真鶴のフライトユニットみたいに、機体を特徴づける重要な装備ね。いまから付ける予定」
「……そういえば、フライトユニットはどうなりました?」
「ああ、あれも作り直し」
渡辺さんは露骨に肩をすくめた。
「跡形もなく吹き飛んじゃったからねえ」
「す……すみません」
「だからいいって。それに、せっかく一から作り直すんだから、もっと性能良くしないとね」
「性能を、ですか?」
「うん。今までのフライトユニットは数年前の設計を元にしてた。でも、今回作ってるのは一味違う。推力から機動性まで何もかもが違うよ」
親指を立てる渡辺さんに、わたしはペコリと膝を曲げた。
「ありがとうございます。なにか、わたしにできることがあったら……」
「うーん。正直言ってなにもないんだけど……せっかくだしあれでも見てく?」
わたしが首を傾げた時、整備区画内に放送が流れた。
『ただいまより、黒鉄壱式、黒鉄弐式の移送を行います。安全第一でお願いします』
初めて聞く名前がわたしの好奇心をくすぐる。
「黒鉄……?」
「ああ、知らない?あれだよ。ハーケンドール」
「ラグールさんとアリアさんの乗っていた機体をこちらで改修し、新しく付けた名前です」
中津川さんが情報を補足する。その間にも、整備区画内の巨大扉が駆動音とともに開いていく。
中から現れたのは、漆黒の機体だった。




