ep.15-2 戦力
「風に当たってくるの。20分後にレブリン様と話があるから。あんたはさっさと寝なさい」
道場を後にするワタシを、エレーナは止めなかった。更衣室で正装に着替える。白と黒、ところどころに金があしらわれている、いかにも女騎士然とした服装だ。
「ったく、レブリン様もこんな夜になんの話かしら」
大広場で風を身に受けながら、ふとそんなことを考える。
さっきは罵倒したが、エレーナだって弱いわけではない。冷酷さにしたって十分あるはずだ。
――なら、なんで勝てなかった?
「ああ、もう!訳わかんない」
なんでワタシがこんなことを気にしているんだろう?"神裂きのメッサ"ともあろうワタシが。
―――――
カーペットの敷かれた大階段を上り、真正面に構える扉を開ける。魔導灯で照らされた大部屋は、夜だというのに妙な明るさで満たされていた。
「来たか、メッサ」
レブリンは最奥の玉座に座していた。長い顎ひげを指先で撫でている。
「レブリン様、いかなるご用件にございましょう」
「ふむ。メッサ、お前はタチバナ・キョウコについてどう思うか」
「タチバナ・キョウコ……ですか?」
ハクリュウの女性操者、タチバナ・キョウコ。噂では、彼女がハクリュウを操るようになったのはここ数ヶ月の話らしい。
「ハーケンドールとズイカクのデータ、お前も見たはずだ」
「は、確かに」
「どう感じた」
「……恐るるに足りません」
先のズイカク戦で、ハクリュウは全くと言っていいほど動けていなかった。そもそものスペックも、ズイカクとハクリュウとでは天と地ほどの差があるようにも感じた。
「ほう?どうしてそう感じた」
「あのハクリュウの……おそらくレプリカは、元の力を全く再現できていません。まず出力ですが、量産機であるハーケンドールには勝るものの、ズイカクの足元にも及んでいません」
「うむ」
「それに……動きにもぎこちなさがあります。おそらく、元の操縦系統を再現できていません」
ワタシはレブリンの目を真っ直ぐ見つめた。
「ハクリュウとタチバナ・キョウコは、脅威ではありません」
レブリンはゆっくりと立ち上がり、長机に手をついた。木製ならではのしっかりとした音がする。
「では、光線の減衰をどう説明する」
「塔を貫くはずだった……あの光線ですか?」
「そうだ。なぜ、あの光線は塔を直撃する前に消滅した?」
「それは……」
説明できなかった。あの現象だけは、理屈ではどうしても説明できない。
「覚醒、したんだ。あの瞬間だけ」
「覚醒……?」
「ハクリュウとタチバナ・キョウコには、自身も気づいていない能力が備わっている。空間すらも捻じ曲げるほどの、強大な力が」
「……」
「そしてその発動条件は、操者たるタチバナ・キョウコの"優しさ"だ」
――優しさ……?
そんなもののなにが戦闘に役立つというのだろうか?
「優しさなどでは戦いには……」
「そうだ、勝てない。本来ならばな。優しさなどくだらないものだ。戦いには冷酷さこそが求められる」
「では、なぜ……」
「それが"輪廻"というものだ。人を強くするのは単なる武術だけではない。守りたい、壊されたくない、助けたい。そんな甘ったるい、くだらない情念も強さに寄与するのだ」
「……到底、理解しかねます」
レブリンは口に笑みを浮かべた。
「だからこそ、制御しがいがある」
「制御……ですか?」
「ハクリュウとタチバナ・キョウコを、がんじがらめにしてしまえば良いのだ」
笑みがより深くなる。奥に考えが潜んでいる、そんな笑みだ。
「守りたい相手を増やせば増やすほど、あの娘は迷う。救いたいものを目の前に積み上げれば、判断は鈍る。想いを曲げてしまえば良いのだ」
「人質……」
「そうだ、よくわかっているではないか」
――素晴らしい考えだ。
ワタシは心の底からそう思った。戦いに使えるものならなんでも使えば良い。それを理解しない者など敗れれば良いのだ。
「作戦を告げる」
レブリンは机をドンと叩いた。威勢のいい音が響く。
「オウキで、トウキョウを襲撃せよ」




