ep.13-1 Paradigm
「……くっ」
操縦レバーを握り直す私の手に、異様なまでの緊張が走る。ペダルを踏む足も震えている。
白龍のコンディションは良好だった。だが、これもいつまで持つかわからない。
「弱い……弱すぎる」
パイロットの声は相変わらず私の頭だけに響いていた。
「タチバナ・キョウコ。あなたは、なぜ自分をエレーナ姫の生まれ変わりと偽るのか」
「偽る?」
「そう。こんなにも弱いのに」
――弱い。
私の頭を2文字が転がる。
――弱い。
それに対抗するかのように、ラグールの言葉が蘇る。
『エレーナ姫は、敵味方分け隔てなく考えられる、とても優しい方でした』
「……私は、弱くないよ」
私は俯きながら否定した。
「確かに、いままで何度も負けそうになったし、何度も挫けそうになった。こんな大事な機体の操縦を任されてるのが不思議なくらいだよ。でもね」
息をすーっと吸い込む。胸に取り込んだ冷気を声と共に吐き出す。
「私は、弱くない。だって、これまでの戦いで人を守る勇気と、怖さを知ったから。前世の私みたいに……。だから、あなたには負けない」
ズイカクのパイロットは沈黙した。言いくるめられたようだった。
しかし、その静寂はすぐに破られた。
「……黙れ」
「……?」
「黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ!!!!」
耳をつんざくような怒号が脳内に浸透する。
「私は、強い!強さこそエレーナ姫の価値!存在する意味!お前のような偽物など!!」
ズイカクの左手に握られたビームライフルの銃口が発光する。ピンクの光が周りの建物を照らす。
「いなくなれぇぇぇぇええええ!!!!」
ビームライフルの照準が白龍に向けられた。光が増していく。
「……っ!!」
覚悟した、次の瞬間。
ズドォン!
放たれたビームは白龍の左肩を掠めた。コックピットが光で染め上げられる。
光の束は、背後の高層ビルに直撃した。
蒸発する建物、空に立ち上るキノコ雲、遅れて届く爆風と轟音。
気づけば、ビルのあった一角には、もはやなにもなかった。
「そんな……っ!」
それは、絶望的な光景だった。アリアの機体とは全く違う威力が、私の常識を壊していく。掠めただけで剥がれた白龍の装甲が、なによりの証拠だった。
「杏子ちゃん!!大丈夫!?」
「う、うん。大丈夫。でも……」
――あんなのを連射されたら……!
その不安は的中した。再び、ビームライフルに光が満ちていく。それを狙う真鶴のレールガン。
だが。
ライフルの狙いは白龍ではなかった。ズイカクが左腕を大きく上に上げる。
そして。
「えっ?きゃああああぁぁぁ!!!!」
光は、真鶴のフライトユニットと左脚部を貫いた。翼が弾け、機体の姿勢が乱れる。
「ユズ!!」
爆炎を上げながら高度を失う真鶴を、私はただ見つめるしかなかった。
やがて墜落した真鶴からは、もくもくと黒煙が上がっていた。
「ユズ!応答して!ユズ!!」
「聖堂!!」
私と智の声が混ざり合う。けれども、優月から返事はない。
「やはり、弱い……」
「……っ!」
「あなたも、あなたの仲間も」
私の眉間に深い皺が刻まれる。怒りに似た感情が私を支配する。
「エレーナ姫が強いのはっ!誰かを守ろうとしたからだよ!!あなたみたいに誰かを傷つけたいからじゃない!!!!」
「……守る」
ズイカクのパイロットがポツリと呟く。
「なら、これも守れる?」
瞬間、白龍のモニターの映像が乱れる。
それだけではない。どこか、気持ち悪さが心に芽生える。
――なにが起きて……!?
私は首からぶら下げている勾玉に触れた。指先に微かな、しかし確かな熱が走る。
「……勾玉が」
――怯えてる……?
ただの石のはずのそれが、生きているかのように震えている気がした。
「橘!どうした!?」
智の叫びが鼓膜を揺らす。
「神谷くん!なんかモニターが……」
私は答えながら目を凝らした。
モニターのズイカクが重なって見えた。
いや、違う。空間そのものが揺れている。
――世界線が、変わろうとしている……?
「なにをやって……!?」
ズイカクの双眼が赤く、不気味に光る。
「どう?これでも」
ズイカクのパイロットが落ち着いた口調で言う。こちらを試しているかのような口調。
「守れる?」
その言葉と同時に、モニターの乱れが消えた。私は視線を白龍の足に下ろした。
「……えっ!?」
そこにあったのは、白龍を見上げる群衆の姿だった。




