ep.11-2 Kyoko
ペコリと頭を下げて入る、ラグールとアリアの2人。緊張しているのか、どこかぎこちない所作の中、ラグールが口を開く。
「姫様……いえ、橘杏子様。お話、聞かせてもらいました」
「ラグールさん……アリアさん……」
スタッフの間に割って入る2人を、私は目で追う。一気に部屋の空気が変わった気がした。
「お身体は……大丈夫ですか?」
「あ、ああ……私?私は大丈夫だよ、ちょっと気絶しただけ」
「レブリンと戦ったと聞きました……」
――レブリン。あの有人機に乗っていた男の名前。
「戦ったっていうか、戦えなかったっていうか。逃げられたんだよね」
「あの男、なにか言ってませんでしたか?」
「ああ……」
私の目が宙を泳ぐ。言葉が淀む。
「あの……なんか無人機に魂が刻まれてるとか言われたけど、よくわからないんだよね」
「そんな……」
アリアが口を手で押さえる。なにかを察した様子だ。
「ついにあの技術を……」
「ついに?」
「はい……禁呪刻印術です」
アリアの言葉がわずかに詰まる。
「禁呪……?」
「亡き人々の残留思念を器に刻印し、兵器として転用する……。極めて非人道的な技術です」
ラグールが言葉を繋ぐ。
「元来フロンティアでは、人は死んだ後、思念として新たな世界を漂い続けるものでした。死後の世界、こちらの考えでは別の世界線を、です」
「死後の……世界?」
聞き返す私に、ラグールは頷いてみせた。見ると、彼の口元はギュッと絞められていた。
「はい。なおかつ、想いが強ければ強いほど、その思念が現実世界にもたらす影響は強いとされてきました。なかには輪廻転生する者もいると」
「じゃあ、もしかして……」
頭の中で点と点が結ばれていく。私がフロンティア世界で死んだこと。そしていまここにいること。
「私がいまこの世界で生きてるのは……」
「おそらく、前世のあなた、エレーナ姫が遺した想い、『エルハを守りたい』という気持ちが強かったからではないかと……」
「私が……」
困惑の中に微かな嬉しさが混じる。前世の私はしっかり生きたのだという、確かな喜び。
アリアが話を付け足す。
「しかし、コルテーグの王・レブリンはその流れを変えてしまいました。肉体から放出されなければならない魂を、兵器という器に閉じ込める……。それは人の尊厳を、生き方を否定する、卑劣なものです」
「だとしたら、やっぱりあの話は本当……」
「はい……おそらく……」
重い肯定。けれども。
「ですが、橘杏子様。あなたのしたことはなにも間違っていません」
ラグールが私の考えを先回りして否定する。
「エルハの兵士はみな、国に、姫様に従順でした。国を守るべく散ったものばかりです。エレーナ姫がこうして転生し、新たな世界を守っているのならば、彼らも本望でしょう」
「そう……でしょうか……」
「エルハの軍師の言葉を信じてください」
ラグールは固く言い切った。その口調には、しっかりとした信念が込められていた。
「それじゃあ……信じます。ラグールさん、アリアさん」
私がそう答えると、ラグールとアリアはわずかに目を伏せ、深く息を吐いた。
「……ありがとうございます。橘杏子様」
「その様って言うのやめてよ、恥ずかしい」
「では、どのようにお呼びすれば……」
「杏子、でいいよ」
私は2人の手に触れた。穏やかな体温が伝わる。
その時、私の頭にある考えが浮かんだ。
「……もしかして、戦い方を工夫すれば機体に刻まれた魂を解放できたり、しない?」
ラグールとアリアが顔を見合わせる。アリアの瞳が私を見つめる。
「……できるかもしれません」
「本当!?」
「ですが現実には極めて困難かと……。刻印された魂は、器と半ば同化しているはずです。機体の中枢を無傷で制圧するなど……神業に等しい……」
――神業、神業かぁ……。
これまで戦うのに手一杯だったのに、いきなり話がハイレベルになった。しかし、頭の中にはある経験があった。
「……あれ、そういえばなんで2人は仲間になったんだっけ?」
「仲間?」
「敵だったのに、いまはこんなに親身になって話を聞いてくれてるじゃん」
私はベッド横のテーブルに置かれた勾玉に視線を送った。
「もしかして、勾玉……のおかげ?」
「勾玉……魔石のことですか?」
「そう。これのおかげで、2人の洗脳的なものが解けたのかなあって」
ラグールはしばし黙り込み、私の手元にある勾玉――魔石をじっと見つめた。やがて、ゆっくりと頷く。
「……それだ」
「へ?」
「それです。私は確かにコルテーグの兵として東京を侵略しました。しかし、この医務室で杏子を見た時、自分の中でなにかが変わった……まるで霧が晴れたかのように」
「あたしも……なぜかハクリュウと戦った後に思考がガラリと変わったような……。もしかしたら、その魔石のおかげで……」
アリアの言葉に、私の頭でなにかが繋がった。
「じゃあ……やっぱり」
勾玉をギュッと握りしめる。
「倒すだけじゃなくて、救えるんだ」
私の目に光が戻ったような、そんな気がした。




