ep.11-1 Kyoko
私って、なんなんだろ。
正義を信じて、街を人を守りたいって言って戦って。
戦って戦って戦って。
でも、その裏で人をたくさん傷つけて。
昔からの仲間すらこの手で守れなくて。
……私って、本当、なんなんだろ。
―――――
「……ううっ、うっ」
私の意識が眠りの海から浮上する。網膜を白い光が突き刺す。
「杏子ちゃん!!」
「橘!」
優月と智の叫び声がする。いまいち現状が飲み込めなかった。ただ、ベッドのような物の上に寝ていることはわかった。
「ここは……?」
「iARTSの医務室です、橘さん」
中津川さんの姿が目に入る。手には書類のようなものを抱えていた。
「橘さん……あなたは白龍のコックピットで気を失っていて、本部に転送後にここに運ばれたんです」
「そう……なんですか。ありがとうございます」
「いえいえ、感謝したいのはこちらの方です。こんな無理なミッションを……」
「全部、神谷くんのおかげです。私はなにも……」
私はベッドから上半身を起こした。周りには医療スタッフや平泉さんや渡辺さんの姿もあった。
「それは違う、橘」
「神谷……くん?」
振り向くと、智が身を乗り出していた。額に季節らしからぬ汗が流れている。
「俺は指示を出しただけ、実際に戦ったのは橘と聖堂だ」
「でも、あんな的確な指示、凄いよ。無人機……も倒せたし……」
口が言葉を言い淀む。
――無人機……。無人機。
その中には。
「大丈夫?杏子ちゃん……」
「だ……ダメかも、あはは」
私は口角を緩ませた。完全に作り笑いだ。
「私さ、ずっと無人機だと思って倒してた。無人機なら人を殺したことにはならないって。甘かったなぁ……、そんなわけないのにね」
「杏子ちゃん……」
「あの悲鳴を聞いたとき、思い出しちゃった。みんなのこと、前世で私と一緒に戦ってくれた人のこと、私を身近で支えてくれた人のこと……」
私は手の震えを隠すように布団の中に腕を突っ込もうとした。だが。
「いいの……。もう、無理しなくて……」
優月の手が私の左手をそっと握る。生ぬるい、優しい温度が伝わってくる。
「わたしもムキになっちゃった。てめえ、なんて言っちゃってね。もっと杏子ちゃんに寄り添うべきだった……ごめん、なさい……」
優月の瞳から涙が溢れる。私よりも優しいユズなりの、自責の涙。
「ユズが謝ることじゃ、ないよ……」
「でも!わたし、あの男を討つことしか頭になかった、すぐ隣でバディが苦しんでるのに、なにもしてあげられなかった……」
優月の涙は止まるところを知らない。スーツのシミが徐々に面積を増やす。
「聖堂」
智が割って入る。その声に冷たさはなかった。
「聖堂の怒りは当然のものだ。あの男の言ったこと、したことは常軌を逸している。本当だったらな」
「……本当?」
私が聞き返す。
「あの男は俺たちの敵だ。敵の言葉など、信用に値しない」
「でも、あの時確かに声が……!」
「それだって本物かわからない。確かめる術はないが……」
「……本物だったら?」
医務室に沈黙が落ちる。機器の音が静かに脈を打つ。
「……橘、よく覚えとけ。橘が守るべきは過去じゃない。今だ」
「今……」
「そうだ。今の東京、友達、そしてお前の家族だ」
「それにさ、街を守れたじゃない、今回も。それを後悔しちゃだめだよ……」
「ユズ、神谷くん……」
私の胸にすっと言葉が落ちた。軽くて、だけど重たい言葉。
――そっか……そうだよね……。
「……私って馬鹿みたい。ここで悩んだら、大事なもの、守れないのにね」
また「あはは」と笑う私。作り笑いではなく、胸の奥からの笑みだった。
「今日はiARTSでゆっくりしていってください。ご家族には、聖堂さんから伝えてあります」
「あ……ありがとうございます」
私はベッドの上でペコリと腰を曲げた。
すると、個室の扉が仰々しい音を立てて開いた。その向こうにいたのは、
「すみません、失礼します」
ラグールとアリアだった。




