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ep.10-6 Adapted

「囲まれた……!」


 私はモニター中を見回した。四方八方に敵機のサインが描かれている。


「遠距離攻撃機と近距離攻撃機が7機ずつか……」


 低い声で呟く智。彼の目は絶え間なく動いていた。


「典型的な包囲陣形。だが穴は多い……杜撰だ」


 智の声は落ち着いていたが、頭の中では複雑な思考が張り巡らされているのがわかる。


「まずいよ、神谷くん!このままだと挟み撃ちに……!」

「大丈夫だ、聖堂」


 焦りをみせる優月に対して、智はどこまでも冷静だった。


「遠距離型は陽動、本命は近距離型だ。まずはそっちを叩く」

「できる……?」

「2人なら、確実に」


 短い返事。けれども、私の胸が熱くなるのを感じる。


「橘、北北西方向にスラスター6割踏み込め。聖堂はそのまま直上へ速度向上。1キロ上昇しろ」

「了解!」

「わかった!」


 私は言われた通りにスラスターペダルを踏み込んだ。急加速する白龍。適度なGが体にかかる。


 モニターには、こちらに向かって急接近する無人機2機が映されている。その手には短刀が握られている。


「性能は白龍の方が上だ。すれ違いざまに叩き斬る」

「……っ、わかった!」


 白龍との距離が次第に縮まる。モニターの数値が小さくなっていく。


 500、400、300、200。


 100。


「コード4411!」


 智から指示が飛ぶ。私は言われた数字をキーボードに打ち込んだ。


 瞬間、スラスターが右方向へと噴射される。白龍のボディが横滑りし、敵機の刀をわずか数メートルでかわした。モニターに短刀が一杯に映し出される。


「そのまま突き刺せ!」

「はああああっ!!」


 レバーを前に倒しきる。草薙が敵機の脇腹に突き刺さった。金属同士が擦れ合う音がする。


「いっけええええ!!」


 白龍がそのまま刀を振り切る。刃が一閃し、右の無人機が真っ二つに裂けた。爆発の炎が視界を赤く染め上げる。


「ひとつ!」


 私は声を張り上げた。興奮で手が震える。


「いいぞ、そのまま減速するな!」


 爆煙の中から、もう一機が突進してくる。真正面からだ。


「……来る!」

「よし、狙い通りだ」


 智の声は微動だにしない。


「コード2456」

「2456!」


 再びコードを打ち込む。すると、白龍の左脚が大きく後方へ振り上げられ、そのまま敵機の右腕を蹴り上げた。宙に吹き飛ばされる濃紺の腕部。


「聖堂、無人機3を攻撃」

「了解!喰らえ!」


 はるか上空から一筋の光が流れた。無人機の胸部が射抜かれ、目の前で爆発する。


「いただき!」

「ユズ!ナイス!」


 私はモニターの上部を見上げた。敵機から放たれたマシンガンの弾が月明かりのもとに照らされ、白い軌跡を描く。真鶴はその全てを最小限の動作で避けていた。


「回避優先、そのまま高度維持だ」


 智の声が静かに響く。


「無理に撃ち返すな。弾幕は牽制だ、本命は別にある」


 それをよそに、白龍の刃は次々と敵機目掛けて振り下ろされていた。爆発の赤い花びらが都会の夜空に咲き乱れる。


「東北東より銃弾、加えてその10度東から近接型。さらに南の方角、高度4.5キロからもう1機近接型」

「キリがない……!」

「1機ずつ捌いていくぞ、まずはスラスター10割。北東に向かって増速」


 私の足がペダルを全力で踏み込む。機体がミシミシと軋む音が耳をくすぐる。ビーという警告音が遅れて鳴る。


「警告は無視しろ、そのまま速度維持。3秒後に真上に上昇」


 胸の中でカウントが始まる。3、2、1。


 0。


「上昇!」


 操縦レバーを手前にグッと引く。1秒ごとに月が近づいてくる。


「コード9921、打ち込め」


 智の言葉通りに、ほぼ反射的にキーボードを叩く。


 同時に、白龍のHUDに数多の線が引かれた。レバーが私の意思とは無関係に細かく動く。


「なにこれ!?」

「いま試験中の遠距離攻撃回避システムだ。この程度ならテスト段階でも十分回避可能だ」


 機体は驚くほど俊敏に動いた。弾が装甲を掠める寸前で回避を重ねる。


「3秒後急反転、無人機8に向けて急降下。聖堂は東に100メートル移動」


 3、2、1。


 0。


 機体が反転し、月明かりに代わって東京の街明かりがモニター全面に映される。


 ――綺麗……。


 そう思う暇もなく、機体が急降下する。体が前のめりになり、シートベルトが腰を締め付ける。


「うぐっ……ぐぐ……」


 喉の奥から、押し潰されたような声が漏れた。重力が一気に前方へ引っ張る。視界の端がわずかに暗くなる。


 だが、智の声だけは不思議なほどはっきりと届いていた。


「耐えろ。3秒後に解除コード0000、同時に無人機11に目標修正」


 3秒。永遠にも思える時間が胸に刻まれる。


 3。


 全身の血が頭に上る気がした。


 2。


 HUDが機体のいく先を教えてくれる。


 1。


 私は歯を食いしばった。これが正解だと確信して。


「0!」


 コードを打ち込む。機体の補助制御がなくなり、操縦レバーが緩んだ。


「目標修正……無人機11!」


 機体の進路が変わり、もう1機を捉える。


 その背後から、一筋の弾道が無人機8へと降りかかった。瞬く間に爆炎が白龍を包み込む。


「そのまま増速!」

「うおおおお!!!!」


 白龍が草薙を振りかぶる。爆炎の向こうに、黒い影。


「……見えた!」


 振り下ろされた刀は、敵機の肩口から深く入り込んだ。


 鈍い抵抗と共に、内部から爆発が起きた。赤い炎が夜空に弾ける。


「撃破!」


 私の声が弾けた、その瞬間だった。スピーカーから拍手が聞こえた。


「見事だ、腕を上げたな」


 鈍く低い声。その声音に、背筋が凍りつく。


「……っ!」


 反射的に視線を上げる。モニターの中央、散開した無人機のさらに奥。月を背に、あの有人機が静かに浮かんでいる。


 その機体は微動だにせず、まるで戦場のすべてを見下ろしているかのようだった。


「貴様らがここまで成長するとは思わなかったぞ。白き魔物の操者よ」

「……あんた、何者よ」

「その前に、大事な話をしよう」


 有人機が抜刀した刀を振り上げた。月明かりが反射して刀が輝く。


「貴様らはこの戦いで多くの機体を破壊した。まずは褒めてやろう」

「何様のつもりでそんなことを」


 優月のレールガンが有人機を捉える。いつでも撃てる姿勢だ。


「貴様らのおかげで、反乱軍の数を減らすことができたのだからな」

「……は?」

「まさか、気づかなかったとは言うまい。貴様らの倒した機体には、亡国・エルハの兵士の魂を刻み込んである」


 ――エルハ……。


 私が、エレーナ姫が治めていた王国の名前。


 まさか、そんなはず、ない。


「……嘘だ」

「なんだと?」

「嘘を言ってる……だってあれはただの機械で」

「エルハは我らに抗い、滅びた。だがその魂はなお戦いを望んだ。ゆえに我らは、その魂を器へと刻み、兵として再利用している」


 そんな話。


「信じ……られない……」


 そんな話、信じるわけ。


「それが真実だ。ここまで奮闘した褒美だ。兵士の魂の叫びを聴かせてやろう」


 有人機が刀を振り下ろす。なにかを命令するように。


 刹那、爆発が起きた。私たちを囲んでいた残りの無人機が、相次いで爆発した。次々と爆炎が花開く。


「なにしてんの!?」

「魂を解放しているだけだ」


 私の耳元に悲鳴が鳴り響く。絶え間ない悲鳴が、精神を侵していく。


『やめろ、やめてくれ!』

『エレーナ姫!姫様!!』

『ぎゃああああ!!!!』


 私は操縦レバーから手を離し、顔を覆った。涙が、吐き気が止まらない。


「ごめん……ごめんなさい……本当に……」

「杏子ちゃん!」


 悲鳴の前では、優月の寄り添う声すら聞こえなかった。


 私は、こんなにも多くの人の命を……。


 奪ってたの……?


「てめえ!」

「やめろ!聖堂!」

「でも!なんで!」


 優月は有人機を撃とうとしたが、智がそれを制止した。


「あの機体は別の世界線にいる。撃っても当たらない!」


 それを見届けるかのように、有人機の頭部がわずかに傾いた。嘲るような、愉悦を含んだ仕草だった。


「ああ、名乗っていなかったな。我が名はレブリン11世。コルテーグ王国の王位継承者だ」


 空間が歪み、有人機を闇の中に引きずりこんでいった。


「覚えておけ、白き魔物の操者よ」


 男の声は冷笑を残して消えていった。

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