ep.6-4 Rebirth
人影の消えた街に、白龍のスラスターが咆哮する。最高速度で飛行する白龍の姿は、まさに龍そのものだった。
私の目が敵機を捉える。敵は、大通り上で静止していた。足元には、いくつもの大破した車が転がっている。
「距離を詰めれば……!」
ビームライフルさえ排除すれば、攻撃力を大幅に削げる。いまの私の頭には、それしかなかった。
白龍が草薙を抜刀する。家々から噴き出す炎が刀に反射した。
――きっと、あの家にも人が……。
「このぉぉぉおおおおお!!!」
レバーに合わせて白龍の脚部が前へ揃えられ、足裏のスラスターが逆噴射する。急減速と共に脚が大きく開かれ、刀が振り上げられる。
刀は、ビームライフル目掛けて一直線に振り下ろされた。
――これさえ除けば……!
だが、シートに座る私の視界には、切断されたビームライフルではなく、数多の電流が走っていた。
草薙は、敵機の左腕から展開された緑のシールドに弾かれていた。見た目は白龍のものとそっくりだ。
「邪魔……!」
私の手がキーボードを打ち込み、白龍の左脚が弧を描くように振り抜かれる。
それを察した敵機は、足裏のスラスターを噴かせ瞬時に後退した。
回し蹴りは、空を切った。
「なんで……!」
私は敵機の方に目をやった。
瞬間、ビームライフルが発光する。
一瞬、世界がスローモーションになり、全ての音が消え去ったような気がした。
――しまった、やられる……!
そう思った時、突如として敵機は大きく跳ねた。同時に、道路に大きな穴が空いた。ダン!という音が遅れてやってくる。
「外した!」
優月の悔しげな声が聞こえる。再び、弾の発射音が鳴り、敵機がまたしてもそれをかわした。
「アハハ!2対1とは卑怯だねえ!」
突如、スピーカーを聞いたことのない女の声が通過する。
「誰!?」
思わず声を上げた私に、女はぶしつけな返事をした。
「あれぇ?ラグールから聞いてないかしら?まぁいいわ。あたしはアリア、王立機動軍のエースよ」
アリアと名乗る女の声は、明らかに興奮していた。
「王立……機動軍?」
「ありゃ、それも知らないのかぁ。ラグールの口は思ったより堅いのね。簡単に言えば、あんたらが言う"フロンティア"の正規軍よ」
――軍隊?
私は耳を疑った。私たちはそんなものと戦っているのか?
目線が空中に止まる敵機を見上げる。恐らく、いま地上にいる白龍が攻撃しても倒せないだろう。
「軍隊なら、なんで街を襲うんですか!?敵は私たちだけでしょう!?」
「きみ、お子ちゃまだねぇ」
敵機がシールドを展開している左腕を構えた。かと思えば。
シールドはみるみるうちに形を変えていった。楕円形から、直線になり、そして。
刀になった。
「なっ……!」
「あんたたち、あたしらの技術を相当解析したらしいけど、こういうのはまだ身につけてないみたいねっ!」
敵機が空中で一回転し、刃を叩き落とす。
「くっ……!」
私の足が瞬発的にペダルを踏み込む。白龍の足裏のスラスターが動作し、刃を寸前で避けた。
「おっやるねぇ、でも!」
敵機の刃は止まることを知らない。私は白龍のシールドを展開し、攻撃を防ぐことに専念した。刀が振るわれる度に腕が激しく揺れる。
「アハハ!それじゃあ勝てないよお?」
女の余裕を帯びた声が耳を通り抜けていく。
「杏子ちゃん!敵を空中に上げて!あいつの機体、背部スラスターが少ない!空中戦に弱い!」
「でもどうやって!」
優月の言っていることは本当なのだろう。けれども、どうすれば。
――いや、ひとつある。
そうか。
そうすれば!
私は白龍のシールドを畳んだ。
「ちょっ……杏子ちゃん!?」
「作戦が、ある!」
白龍が左手に収まっていた草薙をも捨てる。
「降参かなぁ!?」
緑色の刃が迫り来る。白龍の右腕を切り落とそうとしている。
その直前、私はペダルを一生懸命踏んだ。手が操縦レバーを操る。
白龍は刃を避けるように身を屈ませた。そして。
「いっけえええええええ!!!!!」
白龍の左拳が、敵機の顎をぶち抜いた。あまりの衝撃に、敵機が空中に打ち上げられる。
「そこだ!」
優月の嬉しさの混ざった声がする。直後、レールガンの弾が敵機のビームライフルを貫通した。
ピンク色の爆発の下、白龍の右脚が回転する。
「喰らえ!」
渾身の蹴りが、敵機の胴体へと叩き込まれた。
衝撃波を残し、敵機が大きく弾かれるように吹き飛んでいく。
「やった!」
私はコックピットの中でガッツポーズを決めた。勝てた、そう信じて疑わなかった。
「へえ?やるねえ、きみ。舐めてたよ、正直」
女の声が鳴る。不思議と、悔しさは感じなかった。
「ひとつ教えてください。なぜ、私たちの街を襲うんですか?」
「……まあ、ご褒美に教えてもいいか」
女は深く息を吸い込み、吐き出した。
「あんたらの街を破壊するとね、こっちの魔力が増すんだ」
「……魔力?」
「そう。魔力。要はぶっ壊せば壊すほど強くなるってこった。お前らみたいな雑魚の命でも貢献できるってこったな」
私は開いた口が塞がらなかった。
――そんなことのために?そんなことのために、命を。
奪ったのか?
「……なんですか、それ」
「は?」
「そんなことのために、何人の命を犠牲にしたと思ってるんですか!?」
「心外だな、エレーナ姫さんよ」
――エレーナ姫?なんで。
「なんで、その名前を……」
「魔力が増すとね、いろいろと便利なんだよ、姫さんよ。あんたは連れて帰れとのお達しだ、だから」
「あんたらの世界になど行かない!!!」
白龍が再び草薙を握る。目的は、至極単純だった。
「殺す……!」
私が操縦レバーを握り、白龍が刀を高く掲げた。
刹那、シートから溢れんばかりの赤い光が放たれた。血にも似た、赤い光。
「な、なに!?」
「アハハ!引っかかったねえ!」
女の跳ねるような声が脳を揺らす。
「あんたにねえ!こっち側を見せてやるよ!」
女の言葉が脳に直接叩き込まれる。
赤い光は、止まらない。
脈打つように明滅しながら、視界を、意識を侵してくる。
そして――
私を、コックピットごと包み込んだ。




