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ep.6-3 Rebirth

「中津川さん!」

「橘さん、いまどこですか!?」

「ウチの高校の校庭です!優月もいます!」


 徐々にざわめきを増す校庭の片隅で、私はスマホ越しに中津川さんに向かって叫んだ。黒煙は勢いが途絶えないどころか、次々と新たな爆発が起きている。


「白龍と真鶴をそちらに転送します!よろしいですか!?」

「はい!」

「杏子ちゃん!これ!」


 スマホを仕舞い、優月がスポーツバッグから取り出したパイロットスーツを受け取る。


 コートを脱ぎ、制服の上からスーツを装着する私を、葵が不安そうに見つめる。それまでの浮ついた感情はいつの間にか消え去っていた。


「杏子……」

「大丈夫!今回も勝ってくるから。心配しないで」

「でも……」

「……私は葵に勇気をもらったんだから。負けるわけないじゃん?」


 私は言葉を確かめるように左手を強く握りしめ、その拳を葵へと差し出した。咄嗟の行動だったが、葵もその意図は掴んだようだった。


 私たちは、友情の握手をした。


「うん!そうだね、負けるわけない!」


 葵の体温が伝わった、その瞬間だった。


 背中に、ギラつくような熱さが走った。


「えっ?な……」


 私は思わず振り返り、空を見上げた。


 そこにあったもの、それは。


 一筋の光だった。


 紫色の光が、校庭の真上を横切るように走っていた。


「あれ、なに!?」


 あまりの眩しさに目を背けた時、視界の右側でなにかが弾けた。


 赤い光が校舎をも照らし、轟音が鼓膜を破りそうになる。


 私は音のした方へ目をやった。


 ――ビルが、溶けてる……?


 学校からそう遠くない場所に建っていた高層ビルが、オレンジ色に発光していた。オレンジ色のそれはまるで液体のように地面に向かって流れ落ちていた。


 溶解。その2文字しか思いつかなかった。


「熱線……」


 優月が震え声で呟く。


「杏子ちゃん!急がないとみんな死んじゃう!」


 その焦りようは尋常ではなかった。




 転送された白龍のコックピットに座した私を、優月が急かすように言う。


「杏子ちゃん!行かないと!」

「わかっ、てる!」


 ペダルを踏み込み、スラスターを起動させる。白龍の高度が上がっていき、街並みが小さくなる。


 操縦レバーを押し倒すと、白龍は敵ロボット目掛けて飛行し始めた。真鶴がそれに追随する。


 それと同時に、モニターに敵機の情報が表示された。


 ――黒いロボット。しかし、その見た目は初戦や東京湾での戦いと違う場所が多い。


 右手には灰色のライフルのようなものが握られている。左腕にもなにかが嵌められている。


「ユズ、さっきの、なに?」

「あれは、ビームライフル……」


 優月は消えそうな言葉でそう言った。


「ビーム……ライフル?」

「なんでも溶かす熱線兵器……ビルも、人も」

「……白龍の装甲も?」

「……たぶん」


 胸の奥が、ヒヤリと冷えた気がした。


 いままで幾多の攻撃を受け止めてきた白龍の強固な装甲を……溶かす?


「じょ……冗談キツいよ……。大体、それならどう戦えば……」

「とにかく、胸元に飛び込んでライフルを除去しないと……。わたしは後方からアイツを狙撃する!杏子ちゃんは気を逸らして!とにかく、街に被害が……」


 優月の言葉を途切らすように、警告音がコックピットを震わした。即座にモニター上に警告表記が出される。


 そこにはこう書かれていた。高エネルギー反応、と。


「回避!」


 優月が叫ぶ。私の手がレバーを横に振る。


 刹那、避けた白龍の右肩を熱線が掠めた。コックピットが紫色に染め上げられ、衝撃がダイレクトに伝わる。


「きゃあああああっ!!」


 私は不意に悲鳴をあげた。機体にダメージはなかったが、それでも伝わった激しさは感情を揺さぶるに十分だった。


「杏子ちゃん!」

 

 優月が私を呼ぶ。いつもの明るさはどこにもない。


「勇気を!出して!杏子ちゃんは強い!」


 ――私は、強い?


 強いって、なに?


 強いって、どういうこと?


 私の頭が思考を巡らす。

 

 ――恐れないこと?


 怯まないこと?


 敵に勝つこと?


 ありとあらゆる回答が走馬灯のように消えていく。


 怖い。その感情が、頭を支配する。


 怖い。


 怖い。


 でも。


 私の手は、操縦レバーから離れていない。


 ……。


 ――そうか。


 そういうことだったのか。


「逃げて……ない」


 私は、逃げてない。戦いから。敵から。


 自分から。


「私は。私は、強い!!」


 私の手がレバーを握る。いつもより強く握っているのに、いつもよりどことなく軽く感じた。


「行くよ!白龍!!」


 ペダルをグッと踏み込み、白龍が生きているかのように呼応する。


 速度が急上昇する。それは、迷いを振り切る速さだった。

 

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