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ep.5-4 Growing

「どうしたー?起きろー杏子ー!」

「なかなか起きませんね…」

「最近疲れてるって言ってたしねぇ」


 3人がじっと見つめる中で、私は重い瞼をそっと開けた。ぼやけた視界が次第にクリアになっていく。手元のノートにはよだれが垂れていた。


「あれ?私、浜辺にいたような……?」

「寝ぼけてるし」


 葵の呆れ顔も鮮明になっていく。その隣の優月がニンマリとした表情をしている。いまの私は相当なアホ面でもしているのだろうか。


「私、どれくらい寝てた……?」

「えっと、30分くらいです」


 平泉さんが淡々と事実を告げる。


 ――私、そんなに寝てたの?自分のしたことの意味が寝起きの意識の中でもはっきりしてきた。


「ごめんなさい、私、なんか最近こんなんばっかで……前もチューニングしてたら寝ちゃったし」

「杏子ちゃんもなの?」

「え?」

「実はね、わたしもそうなの」


 優月はテーブル上の腕組みに顎を乗せ、ゆったりとした口調で語った。


「なんかね、家でのんびりしてると急に眠くなったりするの」

「それって普通じゃない?」

「でも、見る夢が決まって変なの。毎回どこかの城にいたり、森にいたり……」


 優月の話に、私は妙な既視感を覚えた。まるで、自分の夢と合致しているような、そんな気がする。


「私も、変な夢見るよ。まるで、異世界にいるような……」


 異世界。その言葉を私は頭の中でなぞった。


 ――もしかして、私が見たのはフロンティア人の世界だったりして……。


 そう思索に沈んでいると、中津川さんの私たちを呼ぶ声が聞こえた。


「みなさん、ご飯ですよー」


 見ると、中津川さんの両手には大皿が握られていた。美味しそうな匂いが鼻をくすぐる。


「今日は餃子を作ってみました!私、出身が浜松なもんで、餃子は得意料理なんですよ」


 みんながノートを退けたテーブルの上に、円状に並べられた餃子の皿が置かれた。人数分の白米と小さいサラダもある。


「それじゃあ、いただきまーす」


 私たちの手が一斉に合わさる。箸が皿に伸び、餃子が次々と口に運ばれた。


「これ、美味しいです!」

「ありがとう、橘さん」


 あまりの美味さに私の口から称賛の言葉が飛び出す。


「毎日作ってるんですか?料理」

「はい。優月は毎日忙しいので、家事は私が手伝ってます」

「でも、大変じゃないですか?」

「優月に比べたら私は全然です。私は所詮バックアップなので」


 中津川さんが申し訳なさを滲ませる。


「本来ならば、ドールユニットで戦うのも私たち大人がやるべきなんです。子供たちはもっといまを楽しまないと。それなのに、いつも戦闘に駆り出してるのが申し訳なくて……」

「中津川さん、それは違います。私は人々を守りたくて自分から白龍に……」

 

 中津川さんは無言のまま首を振った。


「子供はもっと自分のために生きるものなんです。身勝手に遊んで、たまに勉強して。そういうものなんです」


 私の手がフリーズする。


 ――自由な生き方って、なんだろう……?そんな答えのない問いが心に芽生えた。




 夕食も食べ終わり、風呂も終えた私たちは、ソファに座りながらアイスを口に放り込んでいた。


「冬に食べるアイスも格別だねぇ」

「このあとも勉強だけどねぇ」

「うっ……わかってるよユズ……」


 スプーンについたアイスを舐めながら、私は真ん中に座る葵を一瞥する。


「でもさぁ、こうやってみんなでやると勉強も苦じゃないね」

「そうねぇ、わたしはずっと何事もひとりだったから」

「まさにロボット同好会万歳って感じ」


 葵が得意げに口にする。


「そういえばさ、私たちの他にも人類がいるって不思議な感じだよね」

「今更?」

「うん、今更」


 葵は舐めたスプーンを天井に向けて言った。


「その人たちとも、本当は仲良くしたいんだけどなぁ」

「わたしも、友達になりたいわ」

「でも、実際は攻めてきてるし……」


 私も葵を倣ってシーリングライトを見上げた。


 ――どうして、フロンティア人は攻めてくるんだろう……。


「人ってどうして仲良くできないんだろうね?」

「さぁ……でも、なんか糸口はあるかも……」


 私たちは、フロンティア人がなぜ攻めてくるかを全くと言っていいほど知らない。それは、iARTSや政府の上層部ですらそうなんだろう。


 それなのに、攻めてくるという理由だけで撃退している。全く解決策になっていない、そんな気すらする。


「まぁ、考えてもしょうがないか」


 葵がスプーンを口に咥えながら言葉を溢した。


「私たちがまず仲良くないと、ね?」

「それもそうねぇ」

「うんうん」


 私の頷きに葵が満足そうに応える。


「じゃあ決め!私たちはいつも一緒!泣くときも、笑うときも!」

「泣くときも……」

「そう!涙はみんなで分け合う!」


 葵の言葉には、確かな力強さがあった。悲しいときも、楽しいときも、私たちは一緒。そんな決意にも似た強さだった。


「あ、ねえねえ」


 私たちの視線が優月に集中する。


「それなら、一緒に写真でも撮りましょ!」

「お、ナイスアイデア!」


 葵が勢いよく食いつく。優月はスマホを取り出すと、私たちの前に掲げた。


「じゃあ、ピースして、はいチーズ!」


 カシャッという音と共に、1枚の写真が撮られた。私たちの、友情の印だ。

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