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心がわかるDKとわからないJK  作者: 碌寺紫葛
第2章 体育祭前~合コン後

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第9話 上手くいきそうな男子

心がわかるDKとわからないJK

第2章 体育祭前~合コン後

第9話 上手くいきそうな男子

「構図はいくつかあるんだけど、正直初心者だったらまず写したいものを写したい場所に撮ってみて。ブレずにはっきり撮ることに集中しよう」

「はい」

「腕を固定して。自分は動かないで、被写体が来るのを待って」

「は、はい」


 簡潔に、ハキハキと、アドバイスが飛んでくる。声の主の方向を振り向くことなく返事をする。100mを走っているのであろう陸上部部員が目の前に来たら、ボタンを押す。


「さっき、よりは…?」

「見せて」

「あ、はい」


 声の主が近寄ってきたのを察し、カメラを半ば渡すように撮った写真を見せる。


「……ズームかけてる?等倍でも大丈夫そうだけど」

「え。ちょっと、設定見ます」


何かしらでカメラを操作したときに、設定をいじってそのままにしたのかもしれない。


「あ、ほんとだ。戻します」

「それで撮りやすくなるだろうし、数枚撮ってみて。他の子見てくる」

「はい。やってみます」


 あたしがそう言い切る前にもう移動してしまった。

撮影練習会。体育祭当日は、生徒として体育祭に参加はするが、空いている時間に写真部としてカメラで写真撮影をして良いということと、その写真は高校の校内誌や何かしらの書面で使われることもあるそうだ。もちろん、写真部の活動としてそれらは利用されることもある。

 まあ、1年生でカメラ初心者のあたしは何かに掲載されるような写真を撮れるとは思えないし、載りたいとも思わない。それでも、部活を続けるというか、せっかく写真部に入部したんだからと優しい先輩に練習したいと言ってみたら、写真部で練習会が開かれることになった。人生って何が起きるか分からないものだ。


「かじわら、どう?」

「うん。的確。的確すぎる」

「的確すぎる?」

「こう、要点をパッパッと言っていく感じ」

「あーわかる。部長ってほんとに写真好きなんだなっておもうわ」


 優しい先輩に練習がしたいと言ったところ「上手い先輩に声かけてみる」と言われた。入部して1カ月くらいの仲良いとはいえないだろう後輩に、そこまで優しくしてくれる先輩に感謝している気持ちと、その「上手い人」というのが部長であったことを知った気持ちと、アドバイスが的確すぎて本当に上達しそうな期待と、色々ごちゃごちゃである。


「ていうか部長ってこういうイベントに参加するんだね」

「イベントというか、部活としての活動だから部長が動くのは必然じゃない?」

「いや、活動は把握するくらいで、本人も参加するんだなーみたいなやつ」

「まあ、あたしがお願いしたようなものだし」

「そうだけどさ。こう、後ろから見てるイメージだったから。思ったより遊ぶの好きなタイプなのかも」


 2年生の先輩たちならともかく、入部して1カ月半くらいの1年生にはまだ先輩全員がどういう人かは理解してない。

 ましてや、あたしが顔を覚えるのが苦手かつ部長が進学のための放課後補習を受けていて、そもそも部活への参加頻度が少ないのだから、性格なんて知れる機会が少ない。部長だからと辛うじて顔は覚えていたのが救いなくらいだ。


「柏原ちゃん、どう?」

「あ、先輩。的確なアドバイス頂いて数枚撮ってます」

「おぉ。部長に聞いてみて正解だったね」

「せんぱい、質問です」

「ん?どうしたの、八乙女ちゃん」


 あたしに部長を紹介し、練習会という場そのものを作ってくれた優しい先輩。そろそろ顔を覚えられそう。


「こんなに大きい練習会なんて、今までもやってたんですか?」

「ううん。去年はなかったし、3年の先輩たちもやったことないって言ってたよ」

「えっ!?せんぱいが全部やったんですか?」

「顧問の先生に聞いて、先輩たちにどうですかー?て提案して、許可はもらったくらいだよ。あと、どうせ部長を引っ張り出すならさ、他に練習したい人も入れてイベントにしちゃえば部活の活動として?実績みたいなやつに載せられるじゃん?あとは、歓迎会以外で交流できる場所はあってもいいかなーって」


 色々考えていた。よかった、あたしだけが原因じゃなかった。


「行動力やばいですね」

「ありがと。こっちも後輩たちと仲良くなれるんだったらウィンウィンだしね」

「色々ありがとうございます」

「いいんだよ。かわいい後輩のためだもんね~」

「萩之せんぱい、ありがとうございます」


 あの人はぎの先輩というのか。覚えよう。覚えよう。


「あと20分くらいで部室に戻って帰る準備したほうがいいだろうって伝えに来たのもあるから、時計見るの忘れないでね」

「はーい」


 そういうと他のグループの方へ小走りで向かっていった。


「よし、もうちょいだし練習しよっか」

「うん、上手くなりたいし」


 部長のアドバイスを頭の中で繰り返しながら写真を撮っていると、あれから忘れることのなかった「作戦」をすっかり頭から追い出していたことに気づかないくらい集中していた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「そう上手くいかないか」


 あれから、忘れずに、柏原さんを見かけたら周りの人を“視る”ようになった。でも、この前見つけた1人しか探し出せていないし、同じ場所を“視た”けど現れることはなかった。柏原さんも部活のある日に毎回外に出られるわけでもない。あの1人は本当に運よく見つけた人だったんだなぁと痛感しながら部活をしていていた。


「かず、お前ってさ、カノジョ欲しくないわけ?」

「……え」


 今日はなぜか我慢できないくらいに腹が減ったのと、水筒を1本忘れて喉が渇いたこともあり、自転車で家に帰る途中でコンビニに寄って軽食と飲み物を買った。帰り道が途中まで一緒の高倉もコンビニに用事があったのか買い物をしていた。ぼくが食べ物を買っているところを見たら「俺も食べよ」と言い出し、公園にあるベンチで一緒に食べることになった。


「かずって中学の時からカノジョ作らなかったじゃん?高校入ったらそういう気でも起きるんじゃねって思ってたけど、その気もなさそうだったし」

「あー……」


 結論から言えば、たぶん向いてないと思う。

自分のことを好きな人を見つけるのは簡単。自分の好きな人が誰のことを好きか探すのも簡単。気になる人の好きな人を“視た”ことだってある。まあ、その人は他の男子が好きだったから、早々に諦めた。


「……気になる女子はいたけど、他の男子のことが好きだったらしい」

「え、誰」

「恥ずかしい」

「なんだよ、教えろよ」


 たかがニヤニヤした顔を近づけてくる。嘘ではない。嘘は話していない。罪悪感に似たこの気持ちを軽くする方法を早く知りたい。


「まあ、好きな人がいるからっていう理由で諦めるのは、かずらしいよな」

「え?」

「草食系?だっけ」

「押しが弱いと言いたい?」

「それだな」


 確かに振り向かせるという選択をしなかったのは事実だけど、正直あまり頭になかった。

自分がそんなにかっこいい方だと思ったこともないし。


「作ってみればいい、とも考えたけどさ、そうまでして……な?」

「誠実じゃないとか考えてるわけ?」

「いや、まぁ……はい」

「別にいいんじゃね?好きじゃないと付き合っちゃいけないなんて法律があるわけじゃないし」

「そうだけどさ」


 自分のことをどうでもいい人なんてたくさんいる。もっと気楽に考えてもいいんだろうけど、ましてや、カノジョというポジションの人が欲しいなんてどういう理由だ。


「まあ、もしカノジョできたら教えろよ」

「そうじゃなくてもしつこいくらいに聞いてくるだろ」

「気になるから当然だろ」


 カノジョ……柏原さんのことに協力しているから考える時間がない。それでもいいんだ。柏原さんにも協力してもらって、自分の考えていることに時間を割いた方がいい。そう思ってるからこそ、学校生活と作戦を両立させてるわけだ。

まあでも、高校生なんだから、と言われれば納得してしまう自分もいる。


「あ、やべ。もう帰るわ」

「そんなに喋ってた?」

「いや。19時に公開される新情報があんだよ。部屋で確認したいから帰るわ」

「お、おう」


 そう言って、たかは自転車に跨って早々と帰ってしまった。

 多分、好きなラノベかアニメのやつだろう。自分ではライトとか言ってるけど、ぼくからすればライトとか関係なくただオタクって感じなんだよな。


「……帰ろう」


 コンビニで買ったものを食べ、自分も自転車に乗ってゆっくり帰っていった。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 思ってたより集中していたらしい。

 まさか作戦のことも忘れて撮影会に集中しているなんて考えもしなかった。はぎの?先輩が前もって言ってくれた終了時間が経過していたことに気づかず、集中して周りの音が頭に入ってこず、挙句の果てに八乙女ちゃんに強く肩を叩かれて、走って部室に戻るなんて。

 はぎの先輩は笑ってくれたし、高校の閉校時間には余裕をもって学校の敷地外に出ることができた。にしたって、ここまでの集中力を出してしまうとは少し恥ずかしささえ感じる。


「いやー、そんなにノリノリだったとは思わなかったけど、計画して良かったよ。体育祭まではやるつもりだから、遠慮なく先輩連れ出してね」

「はい。ありがとうございます」


 はぎの先輩が校門の近くで声をかけてくれた。良いのか悪いのか、印象的な後輩になった気がする。


「かじわら、見事に集中してたねぇ」

「授業中に発揮してほしいよ」

「好きなことには集中しやすいもんでしょ。なんか、ノリ気なんだなって思えた」

「面白かったですか」

「ううん。部活だから活動してるみたいな変な責任感かなとも思ってたから、案外楽しんでるんだなって。かじわらに便乗して練習会できたし、楽しかったよ」


 自分でも驚くほどに集中していた。入部したときから、そんな責任感などはない。なかったはずなのに。


「そんじゃ帰るね。バイバイ」

「ばいばい」


 手を振り、自分も自転車で帰ろうとしたとき。


「柏原さん、だよね」


 声をかけられた。さすがに声の主はわかった。このあたしでも分かる。


「部長。今日はありがとうございました」

「いや。基本的なことというか、カメラの機能を教えただけだったし」

「それがとても助かったので。あと、忙しい中時間を作ってくれたんじゃないんですか?」

「補習がない曜日だし、部活には普通に行きたかったから」

「じゃあ、普通に教えてくれたから、お礼を言っただけです」

「……」


あれ?なんかおかしな言い方をしたか?キツイ言い方だったか?返事に困る言い方だっただろうか。


「あの、部長?」

「あ、いや、その、あの」


なぜどもる。やはりキツイ言い方だっただろうか。


「すみません。なにか、おかしな言い方でしたか?」

「いや。違う」

「え?」

「……今日は、いつもより遅いだろうし、家に帰ったほうがいい」

「あ、はい。お気遣いありがとうございます。では、失礼します」


 軽く頭を下げ、自転車に跨り、真っすぐ帰宅することにした。特に寄る場所もないし、写真の出来をゆっくり見たい。

帰る前にスマホを確認をしておこう。藤くんからメッセージが来ているかもしれない。


「……何もない、か」


 まあ、部活中は触ることも難しいって言っていたし、少なくとも藤くんが家に帰るまでは何も来ないだろう。まあ、そもそも何かしらを見つけない限り報告をする必要もない。連絡が来たら気にするくらいがちょうどいいのかもしれない。


「大丈夫。バカなのは自覚してる」


 あまりにも都合が良い同級生は、その後しばらく連絡をしてこなかった。良い意味で写真部の練習会に集中できたし、あたしのことを好きな人が毎日見つかってたまるか、という話でもある。体育祭が近くなっていくにつれ、学校中が体育祭に向けて動くことも多くなった。応援の練習とか、体育の授業で多少は競技の練習をさせてくれた。全校生徒が、放課後の時間を使って、部活の時間を押してでも、体育祭に向かっていた。

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