第8話 体育祭が近づく女子
心がわかるDKとわからないJK
第2章 体育祭前~合コン後
第8話 体育祭が近づく女子
「壱華!今日から放課後は応援団の練習することになったから、体育祭終わるまで先に帰っててくれない?」
「……あ、なんか、ダンス練習あるんだっけ?」
「そう!学校が練習していいよ~て言ったから、空き教室とか使ってよくなったの。毎日遅くなるって先輩から聞いたし、閉校時間ギリギリになるんだって」
この調子のいい友人は、クラスの中でも表立って何かするタイプの人間だ。リーダーというより何かしようと言う声に乗っかって楽しむ方らしい。
どちらにしてもあたしとは違うタイプだということには変わらない。
「忙しくなりそうだね」
「そお。カレシと会えなくなりそう。聞いてないぃ」
「通話とかしたら?」
「毎日してるよ」
学校で週5日会っているのに毎日通話とは。話すネタが尽きたらどうするんだろうか。
「たまにお昼も呼ばれることもあるらしいんだよ。一人にしちゃってごめんね」
むしろ、今日まであんたがあたしと一緒にお昼を食べていたのが驚きなくらいなんだよな。最悪一人でもどうとでもなるけど、周りから独りぼっち認定されるのはごめんだ。独りでなんでもできるなんて、中二病じゃあるまいし、交友関係は薄くても広い方がなにかといい。ついでにクラスメイトの顔を覚えるようにしよう。藤くんとの作戦のためでもある。
「大丈夫。どうにか入れそうなとこ探すよ」
「ありがと!壱華」
今日のお昼は一緒に食べるつもりらしい。もはや習慣になってしまい抜け出せない説を唱えるしかなくなった。
「そういえば部活のマネの先輩から聞いたんだけど、バスケ部に写真の練習って来る?」
「あ、聞いたんだ」
「去年もこれくらいだったな~て言ってたから」
「うん。体育祭で写真撮るらしくて、練習がてら撮らせてもらってる。でも、バスケ部はどうだろ。外じゃないしな」
「外がいいの?」
体育祭の写真を撮るということは、外での撮影になる。曇りであっても、日光の影響がいやでも関係してくるだろうし、室内と外じゃ気にすることが違う。
まあ正直、あたしの実力じゃ、まずは動く被写体を撮る練習をした方がいい。そういう意味でも気にすることを減らして、被写体をきれいに撮るという練習も悪くない。
だが、あたしが積極的に外で練習するのは、藤くんがグラウンドにいるからだ。部活の内容的に体育館にいることが圧倒的に多いであろうバスケ部は、今回は向いていない。
「体育祭は外でやるでしょ?だったら外で練習するのが都合がいいから」
「そっか。写真撮ってる壱華が見れると思ったのにぃ」
「でも、雨の日はお邪魔するかもしれないし、応援団の練習があるんでしょ?どちらにしろ、中々見れないんじゃない?」
「それもそうだねぇ。体育祭の当日楽しみしてる!ウチのこともかわいく撮ってね」
「撮るよ。体育祭の目玉でしょ」
中間テスト前に聞いた説明だと、応援団は衣装を着てダンスやらパフォーマンスをするらしい。目立ちたい人にとっては格好の機会だ。それゆえか写真部にも応援団が写る写真が多く残されていた。その写真の中に写真部員がいない話を聞いて、「この部活なら続けられそう」と思ったくらいだ。目立ちたい人達の中に入りたくはない。
「そうだ壱華。夏休みの合コンの話ってしたっけ?」
「たしか?」
「カレシもさ、人集めてやっちゃう?みたいなノリなんだよ。壱華来てくれない?」
「いいけど、期末テスト終わってから決めないの?」
「いいじゃん。早めに確保しときたいし、場所とかはまだ決まってないし」
本当にカップル主催の合コンが開催されることになるとは。これはなんだ?カレシさん側も次のカノジョを探しているのか?カレシさんも、という言い方が合っているかはこの際考えないことにするけど。
「期末テスト終わってもやる気があるなら、あたしは参加するよ。予定なんかないし」
「ありがとぉ。どこでやるのがいいかな?」
「カラオケとか?ファミレスとか?」
「カラオケだったら大声で騒いでも問題ないからいいよねぇ」
「安いところがいいんじゃない?そっちの方があたしも助かる」
「そうだねぇ。飲みほあるし、それがいいねぇ」
話が膨らんでしまった。まあ、話すだけ話して実現しないやつだろう。今は楽しくても、時間が経てば忘れるとかあり得る話だ。
「次なんだっけ」
「現社」
「おじいちゃん先生だし、寝てもいいかぁ」
ご飯を食べて、春の暖かさがある、そして担当の先生の声が妙に眠気を誘う、この状況では流石に眠気をこらえるのに必死になってしまう。ノートがとれるか心配になってしまうのも無理はない。もし眠ってしまって字がぐちゃぐちゃになっても、この子にノートを見せてもらうことはないだろう。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「柏原ちゃん!」
「はい」
「この前さ、写真上手い先輩に声かけるって言ったでしょ?今日来れるんだって」
「え、本当ですか」
「うん。4時くらいに来れるってさ。だからグラウンドで練習じゃないくて、ここにいてくれる?」
「わかりました。わざわざありがとうございます」
先週、外で撮影の練習をしたいと言い出した日にこの先輩から言われた提案だ。それにしても写真が上手い先輩に教えてもらう話が進んでいたとは思わなかった。3年生で受験勉強のために部活にあまり参加できないという話も聞いていたから、来れないと思っていたからだ。まあ部活の日全てで外に連れ出して見てもらうことなんてことは無理なことは前提としてあったから、行けなくても何も問題はないだろう。
「かじわら、よかったじゃん」
「うん。まさか本当に教えてもらえるなんて思わなかった」
「私も一緒に教えてもらえないかな?」
「八乙女ちゃんは割とうまいじゃん。初日からカメラ持ってきてたし」
「これは趣味。入りたい部活もないし、カメラ自体は好きだし、せっかく道具があるなら使いたいじゃん?」
「趣味と実益を兼ねてる感じね」
「そう。でも先輩たちが上手い人が多いから、どうせなら上手くなりたいじゃん?」
入部したくらいの頃、自己紹介がてら聞いた気がする。自分はいわゆる二次元作品のオタクで、中学の頃からイベントに行き、親からもらったカメラでアニメのコスプレをしている人を撮っていたそうだ。思い出として見返すことができればそれでいいと思ってたけど、入学して写真部の存在を知って、先輩たちが撮った写真を見て、「上手くなりたい」と、それが入部理由だと。
「そういえばさ、かじわらって応援団も撮る?」
「うん。友達が出るから」
「あー、いそう」
「何が?」
「応援団とかいう陽キャの集団に参加する友人がいそう」
どういうことだ。口に出してはいないが、顔で分かってしまうくらいには、よく理解していない表情を出していると思う。
「だって、一番友達になれなそうな写真部員ってかじわらだったもん」
「……え」
これは口から出た。思いもよらない発言だった。
「ほら、写真部ってアニメ好き割といるでしょ?かじわらってそういう趣味がないじゃん?だから、わざわざ階も違うクラスから声かけて一緒に部活に行く仲になるとは思わなかったよ?」
「あ、そうなんだ」
「まあ、流行っているものは見るから話すネタはあるし、別に『あの先輩かっこいい』みたいなこと言うタイプでもないから、話しやすいなと今は思ってる」
「あぁ。なるほど」
どちらかと言うと、周りと話をするために流行りものを見ている。でも結局続きが気になっていつかは見終えていることは多い。後者は、話しづらい。
「はーい。みんな席について。体育祭についてちょっとお話があります」
先輩の大声が響いた。なんだろう。教えてくれる3年の先輩が来るからと待っていたが、他に何か話があるんだろうか。
「はい、部長からの連絡です。6月17日にある体育祭で写真部が写真を撮影することについてです」
2年の、あたしたちにグラウンドでの練習に付き合ってくれた先輩だ。そういえば、よく部長と話をしていた先輩の女子がいた。あの人だったのか。仲が良いんだろう。
「体育祭の写真撮影で、希望者向けに練習会を開くことが決定しました。今年度始まってから一発目の目標として、顧問からも練習会の許可を得たそうです」
部員たちから小さく「おぉ」と声が上がる。部の活動として正式に練習会を開くことになるなんて。まさか、あたしの発言がきっかけになっていないよな?あたしが練習したいとか言い出したから、顧問の許可がいるくらいのことになっていないよな?
「まあ、そんな大事じゃないよ。3年の先輩を加えた何人かのグループになって、運動部の部活にお邪魔する。体育祭が近くなれば、グラウンドで応援団の練習もあるから、邪魔にならないように練習をすること!」
「かじわら、よかったじゃん。せんぱいめっちゃ動いてくれてるじゃん」
うん、めちゃくちゃ優しい先輩なのは重々理解したが、ここまで大きくしなくてもよかったのではないだろうか。素直に喜べない。
「で、3年の先輩なんだけど、毎回全員が参加できるわけじゃないです。大学受験のための放課後の進学補習に参加している先輩もいるから、ずっと同じ先輩が一緒ということは難しいかもしれません。まあ、交流会的な面もあるらしいので、色んな先輩と話してみてください」
なるほど。先輩と後輩が話す機会も含めた練習会。それなら部活を巻き込んでのイベントになるのは理にかなっている。よくわからない責任が少し軽くなった気がした。
「で、4時すぎくらいに3年の先輩がここに来れるらしいので、今日お試しの練習会を開いてみようと思います。予定がある人とかは帰って大丈夫だし、今日以降も参加希望があればやるっていう緩いやつだから、気になってたら参加してみてください。話は以上です。4時までは個別に質問とか聞くからわたしのところに来てください」
そういうと先輩は自分の荷物を置いていた机のところまで歩き出した。部内でいろんなところから話し声が始まった。大方、練習会に行くかどうかの相談を友人たちでしているのだろう。
「かじわらは行くでしょ?」
「うん。その例の先輩と話はしないと」
そう言い、他の1年と話をしながら4時まで待つことにした。正直、練習会を開くことになったのはあたしの発言が原因か確かめたい気持ちはあったが、当の先輩は2年生に囲まれていて、話を聞ける状況じゃない。
でも、あたし以外の1年生も比較的ノリ気のようだ。何かを続けるために目標があったほうが良いとは聞くが、まさか練習会がその効果を発揮するようなものになったのだろうか。
段々練習会の話から普段の世間話のようなものに移り変わってきたころ、4時を少し過ぎたころ、部室の扉がガラッと開かれた。
「部長!終わったんですね!」
「待たせてごめん。ここにいる全員が希望者ってこと?」
部長と先輩が話し、他の3年生たちも空いているところに荷物を置き始める。
「じゃあ今日の練習会に参加する人はカメラ準備して!5時くらいまで軽くやるよ!」
その号令を皮切りに部室にいるほとんどが自分の荷物を開き、カメラを取り出した。もちろん、あたしも準備を始める。
「準備できた人はなんとなーくでいいからグループ作ってもらえる?先輩たちも1グループに2人とかいてくださると助かりまーす」
2年の先輩が大きく明るい声でテキパキと指示を出す。来年の部長はあの人になるのかな。
「八乙女ちゃんは誰かとグループ組みな。あたしは先輩待った方がいいだろうし」
「先輩とマンツーマン?頑張るね」
「いや。一緒に待たなくてもいいよ、て意味」
「じゃあ気にしなくていいよ。かじわらも含めたグループ作って担当してもらおうよ」
「あ、うん」
八乙女ちゃんの配慮もあり、いつも近くに席を取る4人でグループを組み、カメラの準備をして待つことになった。
「この子が、話してた1年生です」
2年の先輩の声が聞こえた気がした。座って準備をしていたためか、影が見えた。その影の方向に顔をあげると、男女2人が立っていた。
「柏原ちゃん、この前話した、人物写真が上手い先輩」
先輩が話を引き受けてくれた時は、顔を覚えるのが苦手なのことを危惧し、同じ部活にいるのに顔を覚えていないなんてどういうことと言われるのが怖かった。
何回か練習会をすることになったとき、次の練習で忘れていたらどうしようと思っていた。
「よろしく、柏原さん」
「……よろしく、おねがい、します。部長」




