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心がわかるDKとわからないJK  作者: 碌寺紫葛
第2章 体育祭前~合コン後

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第7話 視たDK

心がわかるDKとわからないJK

第2章 体育祭前~合コン後

第7話 視たDK

 ひとり見つけたよ


「見つけたって、どういうこと」

 まだ明るいけど特に用事はないのですぐにでも家に帰ろうとした脚が動かない。

落ち着こう。中途半端な場所に自転車を止めてしまったので、端に寄せよう。

 一語一句ゆっくりメッセージを読む。誤字の可能性、まだメッセージを送ってくる可能性、ちゃんと内容を把握できていない可能性、考えても得られる情報は変わらない。


 ひとり見つけたよ


 こんな上手く進むものか?部活中に散々内容の再考を検討して、自分の認識力を疑い、すぐには結果を得られないと自分自身を納得させた30分後にこのメッセージを受け取るってなに?

 ともかく返事をしよう。運動部はまだ部活中だし、今すぐに返事は来ないだろう。


『どういうこと?』

『そっちが家に帰ってからでいいから返事ください』


よし、あたしも家に帰ろう。自分の部屋でゆっくり頭の中を整理したい。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「かず、帰ろうぜ」

「あ、うん。ちょい待って」


 返事が来ていた。写真部のほうが少し早く帰っていたんだろう。校内はスマホ使用禁止のため、校門を出たすぐの場所で自分のスマホに来ている通知をチェックする。ここなら使用禁止の範囲外だし、家に帰るまでにお決まりの行動になっている。


「なに?カノジョだったら殴る」

「違うって。カノジョいたら、たかの遊びに二つ返事で行かないだろ」

「そりゃそうだわ」


 2件のメッセージを受け取っているという通知だ。その相手は柏原さん。

内容を確認すると、ぼくが急いで送ったメッセージに対する返事だ。

 家に帰ったら返事くださいってあるし、すぐに返事がなくてもとやかく言われないだろう。柏原さんが一番気になることだろうに、ぼくを気遣ってくれているんだろうか。夕飯の時間まで質問に答えることになるんだろうな。もしかしたら通話かもしれない。


「親から連絡きてた」

「あー、りょうかい」


 同じ中学だった高倉はほとんど同じ方向に家があるから、途中まで一緒に帰るのが当たり前になった。


「昼休みに言ったさ、合コンどうするよ」

「あー、忘れてた」

「ていうかさ、かずって合コン行かなくてもいいんじゃねえの」

「え」


 昼休みに誘ってきた時点で、人数合わせに付き合うくらいはしようかと思っていたのに、なぜ今更否定してきたんだ。


「中間の時のさ、なんだっけ、隣のクラスの女子は?」

「あ、あー」


 柏原さんのことを言っている。あのとき、いつも通り高倉と帰るところを断り、柏原さんに話しかけるところを見ていたんだろう。特にほかの人の行動やら視線を気にせず柏原さんを誘ったし、そのあとのごまかし方も上手くはなかった。


「あれはさ、カノジョとかじゃなくて、その、相談?みたいな」

「ほんと、人狼とか下手だよな」

「はい」


 これはそう。“視て”しまえば誰が敵かなんて一発でわかる。でもそれを話すわけにもいかないし、自分が敵になった場合にごまかし方が分からず負けることが多い。


「まあ、合コンは来てもいいとはおもうけどな」

「どっちだよ」

「あれの主催のカノジョの方?かずが話した女子と友達じゃねえの?来るんじゃね?」


 本人に聞けば早い話なんだろう。柏原さんの作戦でも使えなくもないイベントだろうし、参加しなくてもどうにかなりそう。夏休みになにか起きて付き合うとかあるかもしれないし、提案すること自体は悪くはなさそう。


「合コンに関してはまだ決められないな」

「けっきょくメンバー次第だよな」


 そんなくだらない話をしながら自転車で帰る。柏原さんと協力している間は誰かと付き合うなんてこともないだろう。そんな暇ないし、あまり興味がわかない。まあ、良さそうな人が見つかったらでいいや、なんて軽い考えを中学の時から貫いている。


「まあ主催から誘われたら考えればいいんじゃね?人呼びを手伝わされているわけじゃないし」

「あ、そうなんだ。正直、あの主催と仲良いわけじゃないから」

「高校からだしな」

「誘われたら考えとくよ、前向きに」

「かずは誘ったら来るしな」


 基本断らないのは事実。断るときは部活か、家族からあらかじめ予定を聞かされた時くらいだ。その断る理由すら使った記憶があまりない。


「じゃ、ここで」

「おう、あしたなー」


 この分かれ道でおしゃべりは終わり。合コンのことは今考えても意味はない。今真っ先に考えるべきは、柏原さんのことを好きな人を見つけた、かもしれないということだ。


 あれは、部活中のこと。1年は基礎練習だと走らされ、走らされ、基礎練のメニューをこなしていた。特別厳しい部活というわけでもないため、息つく暇くらいはある。このご時世だから水分補給なんかは頻繁に言われる。その部活の途中で先輩が雑談をしているのが聞こえた。


「あ、そうか。体育祭近いからか」

「去年もいたっけ?」

「写真部に知り合いいないからわかんね」


 写真部という単語が聞こえたから、グラウンドを見渡してみた。陸上部や向こう側にはバドミントン部もいる。テニス部も今日は外で部活をしているようだ。

 天気が良いから、運動部がわりと多い。その中で、制服の人を見つければいいんだろう。外に来るからって、写真部も体操着を着る必要はないはず。


「なんで制服の女子がいるんだ?」


 同じサッカー部の1年生の声が聞こえた。そちらを見てみれば、立派なカメラを首から下げている制服姿の女子が数人いる。

 そのなかに柏原さんの姿があった。本人と言ってた通り、数人を連れて外に来てくれたんだ。有言実行できるなんて、柏原さんはすごいなと感心した。


「1年、かっこよく写真に撮られようとするなよ。たぶんあれは練習だから」

「本番があるんすか!」

「体育祭に向けてだよ。毎年写真部も撮影してるから、その練習だと」


 なるほど。写真部は体育祭にやることがあるから、それに乗じて人を連れてこれたんだ。柏原さんの作戦はうまくいきそうだ。元々知っていたんだろうか。

 ぼくは写真を撮られることもないだろう。たぶん、試合をしている人が中心になるだろうし、1年はそう簡単に練習試合をすることはない。ぼくが撮られる時はベンチの横で声だししている姿が背景と混ざってボケて映るくらいだろうし。

 写真の心配より、柏原さんの作戦だ。サッカー部と、柏原さんと一緒にいる人、この人たちを“視て”いく。走り込みをしている人たちは一端除いておこう。陸部を入れるかは悩みどころだが、柏原さんを認識していそうな人に絞ってみるのは悪くないと思う。ある程度範囲を狭めないと、全部は視れない。

グラウンドにいる人を、視ていく。まずは柏原さんと一緒にいる人。


  熱心な後輩だなぁ

  あとでカメラの掃除しなきゃな


 女子かな?一人は先輩っぽい。もう一人はわからないけど、同じく練習しているなら同学年かも。女子を“視た”ところで意味はなさそうだけど、柏原さんが男女関係なくって言ってたし、結果は伝えるのが良いよね。写真部の人は特になし。他の人を視よう。さすがに顔すら認識できない人を“視て”も意味がないから、ひとまずサッカー部から。

 試合が始まったから、写真部の人に意識が向いている人はあんまりいなそうだけど。


  ここでこう

  帰ったら寝てぇな

  帰るときにワックス買わんきゃ


 意外と雑念がある中で部活してるんだな。まあ「目指せ全国!」みたいなテンションでやってないし、部活をやっていたという証がほしいだけの人もいるかもしれない。

 まだ試合をしない1年生の特権を使ってみんなを“視て”いこう。

写真部とサッカー部にはいないっぽいし、一応このグラウンドにいる人も“視て”おこう。

 とはいえ距離はあるし、顔を認識できないからもし見つけたとしても誰かがわからないだろうし、部活だけでも特定できるのがいいのかな。

 えっと、校舎側は陸部か?短距離してるもんな。“視る”だけみておこう。


「……え」


いた。陸部の人?いや。なんか違う。どこだ。どこにいる。


「おーい。藤どうかした?」

「え、あ、なんですか」

「なんか声出てたから。なんかあった?」

「あ、いえ。その、忘れ物、思い出して」

「あー、多分今日はたぶんギリギリに終わるから、教室とかだったら明日にしとけよ」

「そうっすね。そうします」


しまった。思わず声を出してしまった。

 まさか、見つかるわけないと思っていたのも大きいけど、あれは、グラウンドにいる人じゃない。どこだ。まだ”視える”。どこだ。どこにいる。

 校舎?なら1階かな。じゃあ、窓を中心に”視て”いけば分かるかな。あっちは体育館でしょ。こっちは、何があるんだっけ。えっと、ん?あそこって。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


『実験室?』

「うん。多分、グラウンドが見えて1階で、て考えると1年の教室の下じゃないかな?」

『グラウンドの様子を見てた人がいたってこと?』


 自転車を走らせて家に帰り、シャワーを浴びて今は夕飯ができるのを待っている。

あの時”視えた”ことを伝えるために、とりあえずでいいから情報があることを伝えようと着替える隙を見てメッセージを送った。

 今考えれば先走って見つけたことを伝えたはいいが、すぐにでも詳細を聞きたがるだろうから、まず時間があるかどうかを確認すべきだったと、自分のコミュニケーション能力を疑ってしまうことになった。

案の定柏原さんはそれについて詳しく話を聞きたいから通話をしようと提案してきた。向こうも夕飯を待っている時間らしく、手短に詳細を話すことになったのだから、ぼく自身も冷静じゃなかったんだなと、自分の部屋で短い反省会を開いた。


「どう?心あたりある?」

『心当たりもなにも、誰だか分からないじゃん。実験室ってことは、南体が近いってことでしょ?体育館で部活してた人の可能性もあるし、放課後に実験室を使っていた人の可能性、たまたまそこを通った人の可能性だってあるでしょ?ていうか放課後に実験室なんて使うの?』

「それは知らないなぁ。科学系の部活なんてあったっけ?」

『あたしが文化系だからって知ってるわけないじゃん』


 正論です、はい。見つけたのはいいけど、人を特定できなかったんだから今日の収穫はなしと同じなのかな。


『まあ、見つけてくれたし、いるという事実を知れたのは収穫あったんじゃない?』

「……”視れない”だけで、わかったりしないの?」

『何の話?』

「いや、ちょうど、その。今日は収穫なしなのかなって考えてたら、柏原さんが収穫はあった、って言ったから、おれの考えていることが分かったのかなって」

『……』

「あの?柏原さん?」

『いや、あの、ガチの偶然。フォローの意図もない感じで発言した』


 フォローの意図はあってほしかったけど、本当に偶然だったんだろう。柏原さんが驚いて黙ってしまうくらいには偶然だったんだろう。


『とにかく、一人いたってことは、少なくとも入学してから接点のある人だと思う』

「まあ、入学して2カ月目だしね」

『同じ中学の人の可能性も捨てきれないけど、特別仲が良かった人とかいないし』

「じゃあ、同じクラスとか、同じ部活とか、あとは……」


考え得る可能性を考えた。人が人を好きになる瞬間を考えた。


「一目惚れ……とか?」

『はい?』


 よくよく考えてみた。必ずしも、互いのことを知っている状況と限定する必要はないんじゃないだろうか。「見た目がタイプ」とか「背が高くてかっこいい」みたいなきっかけはあるんじゃないだろうか。


「なんかこう、高校生になって変なフィルターがかかって、その、なんていうんだろう」

『4月だったら分かるし、実際に周りにいたよ。でも今更?もうすぐ6月になるよ?』

「あり得ない話じゃないと思うよ。というかまだ5月なんだよ。柏原さんのことをよく知っている人のほうが少ないんじゃないかな」

『……』


 柏原さんはまだ黙った。なんでそうも一目惚れの可能性を疑わないのかは疑問だし、むしろそういう始まり方のほうが多いんじゃないか、というのがぼくの意見である。

高校生になると違うのかなとも思うけど、生徒全員か知り合いかの2択に絞らなくてもいいのも事実なんじゃないか。

 もちろん、範囲を絞れるならそれがいいと思う。でも間違った絞り方をしたら面倒なのはお互い様だ。なんで「柏原さんのことを好きな人を探す」なんていうことを頼んできたかは知らないけど、答えは早く知りたいだろう。


『……わかった。藤くんの意見も一理ある』

「あ、ありがとう」

『でも、それが実在したとしても探す範囲はあたしと顔見知りでいいんじゃないの?』

「手始めに探すのは、顔見知りにするってこと?」

『一目惚れだとしたら一度はあたしの顔を見たことがあるってこと。つまりあたしもその人の顔を見た可能性が高い。だったらあたしの活動範囲で探すのが確率的にあるでしょ?』


ん?どういうことだ?ぼくの話した内容は一端おいておく、ということか?


『遠目から顔を見て、その、一目惚れ?というパターンもあるんだろうけど、ちゃんとあたしの顔を認識できる関係の人を探したほうが、一目惚れの可能性を含めて探し当てやすいでしょ?』

「あ、なるほど」

『まあ、今日みつけてくれた人は誰かもわからないし、もし放課後毎日実験室あたりにいるんだったら、そういう行動をする人で絞ればいい。偶然通った人だって含まれるんだから、写真部の活動がある日はグラウンドに行けるようにしてみる』

「そうだね。見つかったとはいえ、特定しないとだもんね」

『まあ、写真部の人の中にいるかどうかって話もあるから、体育祭まではグラウンドを中心に探してもらえる?絶対じゃないから』

「まあ、なるべく”視る”ようにするよ。基礎練中は集中してるから、部活の後半くらいだと視やすいかな」


 後半だったら先輩たちが試合していることも多いし、レギュラーになって試合で活躍したいみたいな願望はない。選抜だって頑張るつもりはないし、うちの高校は強いわけじゃないから、そんなに厳しい練習にもならないだろう。


『わかった。でも、外に出られる口実は体育祭までしか通用しないし、それまでになるべく色んな人を連れていけるようにする』

「うん。よろしく」

『……ちょっとごめん』


 そういうと通話画面上で柏原さんがミュートにしたのが見えた。誰か来たのだろうか。


『お待たせ。夕ご飯ができたって呼ばれたから、そろそろ通話は終わりで大丈夫?』

「うん。こっちもそろそろだろうから、これくらいにしよう」

『わかった。次の部活は明後日だから、また連れだせるか試してみる』

「明後日ね。わかった」

『それじゃ。また学校で』


 通話はむこうから切られた。こっちもメッセージアプリを閉じて、スマホを裏返しに置く。天井を見上げたら、自然とため息が出た。少し疲れたのだろうか。


「……なんで、知りたいんだろうな」


 柏原さんの目的は分からない。単純にカレシが欲しいみたいな、そういう高校生らしいものだったら多分ぼくは拍子抜けするだろう。もちろん、その可能性が一番高いんだから、何を驚くことがあるんだ、という話なんだけど。


「経験、かな」


 今まで色んな人の考えていることを”視てきた”。だからこそ、柏原さんがそんな単純な考えで、ぼくに頼んでくるような気がしない。


「やめやめ!詮索はやめ!」


 深読みして勝手に考えているのは止めよう。ぼくだって悩んで頼んだことだし、柏原さんも柏原さんの悩みがあって頼んできたんだろう。詮索はやめて、悩みがある者どうしの協力をしているだけなんだ。

そう。これは、悩んでいる者同士の、協力関係なんだ。

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