第6話 写真部の活動をする女子
心がわかるDKとわからないJK
第2章 体育祭前~合コン後
第6話 写真部の活動をする女子
「バッグ置いて、カメラ準備してて」
「はーい」
案外上手くいくもんだ。あたしが思案しないほうが物事が進むのを良しとすべきかはわからないが、今は運のおかげということにしておこう。
「かじわら、陸部みる?サッカー部みる?」
「どっちも」
「よくばりー」
「時間はあるでしょ。あとは先輩しだい」
「後輩は大人しくついていこうね」
「はいはい」
うちの写真部は人が多いわけじゃない。とはいえ、わざわざカメラを持ち込んで写真を撮ろうとする人たちは自然と共通の話題を生みやすい環境を作ってくれる。
なんとなくで始めたカメラだけど、凝りがいがあるし、親に頼んで手に入れたデジカメも先輩によればそれなりに良いものらしい。活用しない理由はない。
「お待たせ。2年はわたしだけ、1年は2人だけでいい?他によびたい人いる?」
「とりあえずうちらだけでおねがいします!」
「おーけー。今日ずっと晴れみたいだし、日焼け止めとか大丈夫?」
「大丈夫です!」
「あたしも準備大丈夫です」
「よし。校舎を1周する感じで撮っていこうか」
優しい先輩に連れられて外に出る。あたしと面識がある2人だし何かしらの感情を読み取れる可能性はある。
……冷静になっちゃいけない。いくら非現実的なことができる男子が自分の考えをぴたりと当てたことがあるからとはいえ、高校生にもなってこんな考えのもと行動しているなんて。冷静になっちゃいけない。
「柏原ちゃんが練習したいんだっけ?」
「あ、はい。体育祭あるなら、練習しても損はないでしょう?」
「真面目になんなくてもどうにかなるよ。まあ、人撮るのが好きな先輩いるから、練習会できるようにしようか?」
「都合がいいなら」
「後輩に頼られて嬉しくない人は少なくとも写真部にはいないよ。次の部活で来るはずだから、話しとく」
友人みたく甘えるのが得意だったら、もっとかわいがられるんだろうけど、それにしたって優しい先輩がいて助かった。
このまま部活内で練習会みたいな流れになればいろんな人を連れてグラウンドに行けるはず。あたしができるのは少ない友達となるべく一緒にいることと、写真部の人たちを連れて外にでかけることくらい。
最初は対象を全校生徒にしてはいたが、あたしをある程度認識している人に絞ってみれば無理をする必要はない。まだ1年だし、有名人ではないはずだ。唯一の不安は、あたしが顔を覚えるのが苦手なこと。それもあって当初は全校生徒を対象にしていた。
特に男子との関わりは少ないし、呼び出すにしたって理由がない。写真部は女子が多い。練習会と称して人を呼ぶことができれば簡単ではあるし、先輩の力も借りて写真部だけでも全員を呼べるようにしたほうがいいな。
「よし。いつも通りなら陸部とサッカー部と、テニス部かな。たまにランニングしているところとかあるけど、そこは運しだい」
「テニスコート近いし、行ってみましょうよ」
「柏原ちゃんもそれでいい?」
「はい。よろしくお願いします」
テニス部の友達いたっけ。覚えてない。まあ、藤くんがいない限りみえないわけだし、人を覚えることに気をつければいいだけか。
「まず適当に撮ってみよう!何枚か撮ったら教えてね~」
適当に撮ってみる。別に実績を残そうとしているわけでもなく、年に1回ある交流会で提出する写真を撮ることを目標に部活は行われている。
大きな実績を残しているわけでもない部活で、週3日の活動をしていれば部活をしているというレッテルを手に入れられるならと、カメラさえどうにかなれば楽できる部活だと思って入部したが、想像以上に居心地がいい。
細々とイベントはあるらしいが、先輩曰く「どうにかなる」そうだ。ここなら適当に理由をつけて学校の各所や時間帯を問わずに行動できるという利点もある。入部した当初は考えもしなかったが、学校を動けることに意義が増えている状況ではある。人を連れていかなければ意味がないので、誰かと常に一緒にいたい人だと思われる可能性はあるが。
「あれ、明度調整できる?あとは写真のどこに、一番映したいものを置くかだね」
今は初心者向けのアドバイスを頭に入れよう。まだ他に直すべきところはあるんだろうけど、これは初歩的なことだ。これができなきゃきれいに撮れないんだろう。
「柏原ちゃんって、テニスをしている人を撮りたいの?」
「あ、いや。動いているものもきれいに撮れたらいいのかな、て。正直目標自体が曖昧で」
「ううん、そうじゃなくて。今、一番撮りたいものってなに?」
「……テニスを、している風景?」
「あ、おけおけ。じゃあね」
先輩がカメラの画面を指さしながら操作を教えてくれる。何を撮りたいのか分かりにくいってことなのかな。
「もう何枚か撮ったら移動しよう。集中しているのに邪魔しちゃ悪いしね」
「はーい」
「はい」
だめだ、初心者向けにわざわざ先輩が動いてくれる状況で、練習には参加していたいし、上達できる機会は逃したくない。でもテニス部に知り合いがいるかを判断したいけど、そもそも顔を覚えていないあたしが判断するなど、農家じゃない人が野菜の良し悪しを判断すること、動物の飼育員じゃない人が動物の状態を見分けることと同じ。
今日は作戦がそう上手くいかないだろう。まあ、最初から上手くいくなんて確証もなかったし、今日はお試しだな。それに藤くんが部活に集中していれば、こっちを認識できるかも怪しいんだから、今日上手くいくなんて思わないでおこう。
「はーい、写真チェックしますよ~」
「先輩、さっきからたぶん陸部の人たちが校舎の回り走っているから、グラウンドあんまいないんじゃ?」
「短距離とかはいるよ。あとバド部いるかもね。コート近いし」
「そっか。男子と女子どっちだろ」
「さすがに覚えてないな。あ、各自で撮ることにする?30分くらい撮ったら集合ってことで。グラウンドに時計あるからそれ目安にしよ」
自由行動か。カメラを持ってるから写真部だとは判断できるだろうが、あたしを認識したときに「他に人を連れていない」と藤くんが思い込んでしまったら元も子もない。
もし、あたし以外にカメラを持っている人を見つけても、見ない可能性もある。実際あたしが「連れてくる」と言っているのだから、一緒にいた方が都合がいいだろう。
「一応一緒にいませんか。その、1年が一人だけだと、変な目で見られるかもしれないし」
「せんぱい、手放すのはやすぎません?もうちょっと教えてくださいよ」
「そう?2人ともそんな心配しなくていいと思うけど。まあ、一緒にいるか、かわいいね~」
「おねがいしまーす」
この友人が人当たりのいい性格でよかった。あたしだけじゃこうはいかない。
「うん、まだ撮りたいものが定まってない感じするね~。よし、グラウンドに移動しよ」
「はーい」
個人練習ではないものの、30分ほど時間を設けることに変更はなかったため、今は自由に撮っている体になっている。それでわかったことがある。
「藤くんすら見つからない……」
さすがに自分の視力を疑ずにはいられない。校舎の窓から個人を見分けるには多少の時間を要したり、絶対正解できるものではない、それはわかる。
だが今あたしが立っている場所はグラウンドだ。同じ高さにいるはずなのに顔を見分けることもできず、ましてや知り合いの立ち位置にはいる藤くんのことを見つけられないなんて、そこまで酷いものだとは思わなかった。
「かじわらー、いいの撮れてる?もう10分経ったよ」
「なんか、こう、個人個人の顔がはっきり撮れない」
「ブレるってこと?」
「ぼんやりするっていうか、うん。人物向いてないのかも」
「落ち込むなってー」
肩をぽんぽん叩いてくる友人は純粋にカメラの技術面のことで悩んでいると思っているんだろう。もちろん、カメラもうまく使えていない状況ではあるが、これは自分の認識の問題もあると思う。カメラは高性能になってきているが、人間の目にはまだ追いついていない、という話を聞いたことがある。これはカメラの技術的な問題と、自分がどう見ているかの双方の問題があるではないだろうか。
「かじわらってさ、難しく考えるタイプ?」
「え。た、たぶん」
「その気持ちもわかるけどー、今日の始めにさ、かじわらが自分で言ってたことだけどさ」
「え、なに?」
「とりあえず色んなもの撮ってみればいいんじゃない?今日の先輩のアドバイスって基本的なものが多いし、今日もお試しにしようよ」
「……ほんと、高校っていい人多いね」
「なに?残念ながら推し一筋なんで受け皿ないよ」
すぐに冗談を返してくれるところが、今は助かっている状況だ。
そうだ、落ち着こう。焦っちゃダメ、せかしちゃダメ。どうせ1年は使うつもりで提案したことだ。受験とかの話が出てくるまでは、焦らないでいよう。
結局、藤くんと目があった気もせず、何ならあたしが藤くんの顔を認識できたか不安になったまま、カメラの練習だけで終わってしまった。
そう落ち込むことのない結果ではあるけど、自分の不甲斐なさを実感したことが大きすぎた。作戦を立てる前にまずはスマホで「顔 覚える」と検索することが先かもしれない。
「おつかれ~、また明日ね~」
「先輩、今日はありがとうございます!」
「柏原ちゃん、先輩には伝えておいたから部活のときはその人と練習してね」
「わざわざありがとうございます」
「いいんだよ、かわいい後輩のためですもの~」
ばいばーい、と手を振り先輩は教室を出ていく。3年生の先輩に声をかけてくれたそうだが、あたしが一度でも会ったことのある人だろうか。
「よーし、かじわらも帰る?」
「友達に用事があるからそっち済ませて帰る。自販機のとこまでは一緒に行ってもいい?」
「ジュース買いたい!ちょっと話すのつきあって」
部活に来る前の約束を果たすために玄関に向かわなければならない。強制的に下校する時間まで余裕はあるし、彼女の部活がいつ終わるかも明確ではないから、どこかで待つことになるだろう。
1階に自販機がある。近くに長椅子があるから休憩がてら待つことにしよう。教師に見つからないように連絡の一言を送っておけば意思疎通くらいはできるだろう。
話し相手もいれば、時間をつぶすのにさほど苦もないだろうし、そうしよう。
「うん。聞き専なら得意」
「やった!いこー」
今日は事を急ぎすぎた。それが結論としよう。作戦の精度以前の問題が出てきたのなら、藤くんとの約束の内容を変える必要もあるだろう。だが今頭にある作戦は藤くんに比重がかかりすぎている。別案も用意していたほうがいいだろう。
「今日さ、9時から生放送で重大発表あるんだよ。シルエットだけ出てるんだけど、あれは絶対に新衣装なんだよね。ふだん大きめのパーカー着てるキャラの指が見えるんだよ!わりとバラバラな服装してるグループだからワンチャンおソロとか、アイドル衣装とか、スーツでもいいよね!マジ妄想とまんない」
「へー」
「なんでバイトできない高校に入ったんだろう。貢げないじゃん」
「グッズってバカにできないらしいね」
「一つひとつはそんなに高くないんだよ。全部コンプするとか複数集めるとか、ガチャとか際限ないわけ。はやくおとなになってATMになりたい!」
「大声で話さないほうがいいよ、おさえて」
これは聞くことしかできない内容だ。時々ジュースを飲みながら相槌をうって、熱が入るたびに抑えるよう声をかけることしかできない。たぶん、これ以上の働きは求められていないんだろう。
「そういえばさ、かじわらってハマってるものとかないの」
「ん、あたし?」
「そう。韓国ドラマとか、アイドルとか、アプリゲーとか」
「……てきとうに、流行ってるものはさらってる?みたいな」
「話題にできるってこと?」
「どっちかっていうと、話題に追いつくため?」
好きなもの、といわれるとピンとこない。テレビもほどほど、SNSと呼ばれるものも適当に。自分から発信するというより他人とか、友人のものを見ることが多い。いいね欄のほうが見ごたえがあるアカウントしかない。
「オセロとかはする。無心でできるし」
「ぽいことしてんね」
「ぽい、かな」
「うん。あ、そういえば、用事ってなに?だれか待ってるとか?」
「友達に貸していた小説を返してもらう予定なんだけど、いつ部活が終わるか分からないから、ギリギリまで待つつもり」
「スマホは使わなくていいの?まあ、立ちっぱなしで待つことにはなるか」
「喉渇いてたし、たぶんあそこの廊下通るから、見つけられるはず」
今座っている場所は人通りが多く、色んな箇所に伸びている廊下の集合地点になっている。おまけに自販機が置いてあるから人と待ち合わせるには最適の場所だ。
「噂をすれば。わりと多めに足音聞こえるから誰か来るんじゃない?」
「先帰っていていいんだよ。あたしだけが用あるんだし」
「お目当ての人が来たらお先しつれいしようかな」
一応こちらに向かっている集団に目を向けつつ、話を進める。お目当ての子の姿が見えるであろう廊下は、あたしたちが座っている椅子の方向に曲がると玄関に繋がるようになっている。もしあたしが見つけられなくても、向こうが見つけてくれる可能性が高い。今日の出来事もあって、あの子を見つけられるかすらも不安に感じた自分の小さな抵抗策だ。
「あ、壱華!待っててくれたの?」
「そんなに待ってないよ」
「かじわら。じゃあね」
宣言通り、お目当ての子が話しかけてくれたので、話し相手は帰っていく。
「また部活で」
「なに?同じ部活の人?」
「そう。荷物多いけど、ここに置く?」
「置かせて~。かさばるんだよぉ」
部活用のカバンを椅子におき、普段教科書などを入れているカバンの中をガサゴソと引っ張り出す。
「これこれ。ありがとね」
「いいえ。一応続きものなんだけど、興味ありそう?」
「わかんない。今度聞いてみる」
完全にあたしとこの子の友達との貸し借りになってる。いつからそんな約束になったか覚えはないが、いちいち気にしてれば1週間の内5日は頭をパンクさせることになるだろう。
「壱華も帰ろ」
「うん。お友達によろしく」
玄関を抜ければ、電車利用者と自転車通学の人と、車を待っているのか校門で立ってスマホをいじる人で溢れかえっている。
かばんの中でこっそりスマホの電源を入れ、校門を抜けるころには操作を受け付けてくれるようにする。そこまでSNSに傾倒してないとはいえ、何か通知が来ているかくらいは気になる。家で待つ母からなにか来てないかとか。
自転車を連れながら人込みを抜け、スマホの画面を見る。どうでもいい通知などを消していくと、1件メッセージが来ていることがわかった。
メッセージを送ってきた主は藤和葉だ。
「え、なに」
普段なら家に帰ってからゆっくり確認をするのだが、相手が相手だ。なにか重要なことを連絡してきたのかと思い至りその場でアプリを立ち上げることにした。
彼のチャットと開けば一言だけ、送られてきたことが判明する。
ひとり見つけたよ




