第5話 頑張りたい男子と女子
心がわかるDKとわからないJK
第2章 体育祭前~合コン後
第5話 頑張りたい男子と女子
どう頑張ろうか。
どう、柏原さんの目的を達せられるだろうか。
「藤!寝るな」
「あ、はい」
怒鳴られた、ような気がする。周りに座っている人たちがくすくす笑っている。
「授業中に寝るんじゃないぞ」
「はい」
そんなに考え事してたのか。周りの人、ましてや先生の声が耳に入らないなんてことがあるもんなのか。いや、実際にあったんだ、体験したことだ。
昨日からずっと考え続けている。どうやったら柏原さんが好きだと思える人を探せるのか。
果たして、柏原さんが考えた通りにやっていれば見つかるのか。
そもそも不思議なのが、「柏原さんが好きな人を見つける」ということ自体なんだ。
なんだ?自分が好きだと思える人を探すってこと、だよな?授業以外で国語はしたくないんだけど、こればかりは考えなきゃいけない。
柏原さんのことを好きな人を見つける、その人を柏原さんに会わせる、柏原さんがその人のことを好きかぼくが”視る”。これで見つかるのかな?
だいたい、柏原さんのことを好きな人が、柏原さんも好きな保証なんてどこにもない。
でも、柏原さんだってそんなこと分かっているはずだ。あんなに物事を慎重に進める人に限ってそんな初歩的なミスはしないはず。
このことを伝えてもいいんだろうけど、「分かってる」の一言を返されるだけな気もする。
とりあえず、自分のクラスを“視る”ことから始めればいいだろう。
やってみて、上手くいかないなら別の作戦を立てるしかない。
結局授業は頭に入ってこず、作戦会議を称する頭の無駄遣いをしてしまった。作戦会議の結果は芳しくない。テスト明けで今日から部活が始まるし、意外と時間はなさそうだし、効率の良い方法はないものか考えるのは無駄じゃない、と思いたい。
「かず、今日どうしたよ」
「いや、なんかこう、頭まわってない」
あれよあれよと昼休みになって弁当を食べる時間になってしまった。
「なに?昨日なんかやった?」
「映画は見た」
「え、お前映画とか見るの?」
「なんか、気になって見た」
これは本当。柏原さんのことで良くわからなくなり、参考になるものはないかと恋愛系の映画とか漫画を見たのは本当。最後まで見る必要はなく、恋愛感情に気づいたり、好きになった瞬間というものが見たくて参考にしたはいいが、登場人物たちはフィーリング?運命的な出会い?をしていて、どうも柏原さんの作戦とはかみ合わない。そういう場を用意したらいいのかもしれないけど、現実はドラマや映画のようにならない。
「まあ結局、特にハマることもなく時間を無駄にして、夜更かしはした」
「テスト終わったからって浮かれすぎじゃね?」
「はいはい、浮かれましたよ」
「そういやさ」
目の前のやつは話題を変えようとしている。ぼくの話題はそんなに長くもたないだろう。
「あいつからさ、夏休みに合コンしないか誘われたんだよ」
「は?」
指をさしている方向に、隣のクラスのカノジョと堂々とイチャついている男子生徒がいた。
「え、あいつカノジョいるじゃん。なんで?」
「どうも、そのカノジョさんの友達とあいつの知り合いを呼んで合同主催!とか言ってる」
「なんだそりゃ」
高校生になったら途端にそんなはしゃげるもんなのか。
「かずは行く?」
「……メンバーによる」
「まじそれ」
女子陣はともかく、男子で誰が来るのかくらいは把握しておきたい。カノジョを作る気はない。
「女子誰が来るかで決めてぇのに、まだ決まってないの一点張りでさ。おれはOKしてない」
「カノジョほしいんだっけ?」
「当たり前だろ。高校生になったらカノジョの1人や2人はほしいだろ」
「高校生に限ったことかよ」
「正論言うんじゃねえ」
どう包んだってお調子者にしかならない目の前の男子生徒は思春期真っ只中にいるようだ。
「あ、なんか買ってくるわ」
「おお、いってら」
目の前のやつは財布を持って階段が近いほうの扉に向かった。なにか飲み物でも買ってくるのだろうか。
カノジョ、そういえば考えたことがなかった。カノジョいない歴=年齢ではあるが、特に恥ずかしいとも思ったことはない。というより、自分のことで精一杯すぎて恋愛事に時間を割けなかったが正解ではある。
高校生活に慣れてきて友達の話を余裕で聞けるようになっただけ、自分の中では大きな進歩だったのに。今まで他人事のようだった恋愛なんて、ぼくにできるのだろうか。
できる気はしないけど、いつかそういうこともあるのかなとは漠然と考えてはいた。
いつの間にか15歳になってて、いつまで経っても恋愛ができるほどの余裕はなかった。
どうやってカノジョって作るんだ?それを知らないから柏原さんの作戦のことも上手く考えられないのか?
ぼくが”視れ”ば、相手がぼくを好きかどうかはすぐに分かる。会ったことはないけど。
実際に会ったところで、相手がぼくのことを好きなだけで、ぼくが相手を好きになれるとも思えない。これはなんとなく分かってるからこそ柏原さんの作戦が上手くいくとも思えないんだろう。でも、改善案も代案も持ち合わせていない状況で柏原さんを説得できる気がしない。どうしたらいいんだろう。
「おい、何頭抱えてんの?」
「え」
いつの間にか目の前の友達は自分たちの教室に帰ってきたようだ。周りも分からなくなるほど考え込んでいたのか。いや、さっきの授業でもやったことだ。今更驚くことでもない。
「あー、やっぱ眠いみたい」
「おう、部活中に寝るなよ?」
心の底からではなく、その場の言葉だろうけど心配する態勢はとってくれるようだ。
「授業じゃなくて部活の心配?」
「授業中は寝るもんでしょ」
なぜか知らないけど、授業に眠くなる魔法でもあるかのように寝たくなる瞬間はある。
「次化学基礎じゃん。なんかあったけ」
「小テストあった?」
「お前も覚えてないのかよ、なあ、次ってなんかあったけ?」
別にグループを組んで駄弁っている男子たちは少し驚いてはいるが、こいつは顔が広いので、特に訝しまれることもなく答えが返ってくる。
「なんもなかったはず。いつもどおり?」
「おけ!」
元気なお返事だ。
「寝たらノートよろ」
「保険は効きません」
「またまた~」
本当に、ちゃんと板書ができるかどうかは疑問なところだ。多少頭を切り替える時間として昼休みを使うことはできはしたが、また考え込んでしまうような気はしている。
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「壱華ぁ」
毎日聞いている声だ。もう授業はないから、何か話したいことでもあるんだろうか。
「今日って写真部ある日だよね?」
「うん。そうだけど」
「帰りさ、玄関とかでいいから会えない?壱華から借りた小説さ、友達に貸してたじゃん?今日の部活で返してくれるらしいから、今日のうちに返しておきたくて」
「あー、わかった。じゃあ、閉校時間でいい?」
「それくらいで!よろしく」
1週間前、あたしがこの子に貸した小説は、あたしが知らない友達に渡っていた。事前予告がないことにはもう慣れてしまった。事前に言ってほしいもんだが、破損して返ってきたことはないため、今はなにも咎めていない。
「かじわらー、部活いこうよー」
「あ、うん。今いく」
課題に必要な教科書と参考書と資料集だけ入れて、あとは机とロッカーに置いておく。必要分だけ持ってもカメラがあるから容積は大きい。壊したくないし、慎重にもなる。
「今日どうする?なんか撮る日でしょ?」
「どうしよう。外とか行く?」
「風景にするかー。かじわらはどうする?」
「……人にしようかな」
「マジ?初心者だよね?部活におじゃまする感じ?」
「ハードル高」
サッカー部に行けるように誘導してみたはいいが、一応写真の許可とか、撮影のレベル的にハードルは高い。すぐには実行できないか。
「大人しく風景にしときます」
「そうしとけ、そうしとけ。まあ、美術部とか友達いるし、人は撮れるかもよ?」
「あそこって写真苦手な人多くない?無理やりはしたくない」
「それはそう。うーん、他にいいところ」
歩きながら1週間ぶりの部室に行く。
毎日じゃないとはいえ、定期的に活動をしていればネタがなくなる瞬間は来る。まあ、現状に当てはまるものは「今持ち得る撮影レベルで無理のない場所が思いつかない」ということだ。要はレベルをあげる必要がある。もちろん、写真家になりたいわけではないが、きれいな写真は撮りたいという単純な向上心は持ち合わせている。
「グラウンドには行ってみる?風景撮れるし、ワンチャン練習できるかもよ」
「とりあえず、先輩に撮影場所の報告と道具準備しようよ」
「それな」
お互いに奇妙な相談をしたんだろう。あの藤和葉という男子生徒は何に信頼を置いてあたしに相談を持ち掛けたか、それを考えたところで答えを知る術はない。
藤和葉も答えが手に入る確証などないだろうが、こちらだって同じだ。
それを理解しているか、いつか確認する必要があるかも分からないが、今はあたしが考えた作戦が本当に有効かを確かめるのが先決だろう。
「あ、そういえば聞いた?」
「え?なにを」
「体育祭のとき、写真部ってカメラ持っていくんだって」
「あー、先輩がちょっと言ってたやつ?結局それって強制なの?」
「というより、写真部の課題兼高校からの依頼らしい。当日はちゃんとプロも入るから、卒アルとかに使われることはないって。どっちかっていうと校内誌向けに写真部の写真を使わせてほしいんだとさ」
「はあ。あたしのは採用されないだろうな」
「基本的に先輩たちから選ばれるって。思い出だと」
生徒の努力というものはきれい見えるものなんだろう。自分の写真がなにかの媒体に掲載されるなんてことを考えたことはなかった。
「まあ、1年の新人が先輩より優先されると何かしらで面倒だろうな。うちの部活にそんな先輩がいるわけじゃないだろうけど、他の部活の人からなんか言われそうでヤダ」
「ヤジを飛ばしたいだけの人は一定数いるだろうね」
「かじわらは心配してないの?」
「特に。初心者のあたしの写真は採用されないだろうし。あたしが校内誌てきなものに興味がないから、気にしないかも」
「それもそう。ちゃんと読んでる人いなそう」
駄弁っていればあっという間に部室に着く。
部室に来てみれば、先輩たちが体育祭について話していた。事前に話を聞けたおかげで内容を飲み込みやすい。概ね友人が先ほど話してくれた内容と同じで、体育祭であってもカメラを忘れずに、と念押しされた。
それと朗報が1つ。体育祭が近くなると写真部が動く人を撮る練習をするため、運動部側から理解を得やすいらしい。「かっこよく撮って」なんて冗談が飛ぶくらいには特に問題が起きることもないらしい。陽キャは写真を撮られることに抵抗がない、ということを忘れていた。この現代では気を付けたほうがいいとは思うが。
「ラッキーじゃん。ちょうど外に行こうって話してたんですよ」
「おお、向上心あるねぇ。柏原ちゃん、練習したいの?」
「あ、好きな写真のジャンルが分かるまではいろんなもの撮ろうかなってだけですけど」
「いいことじゃん。時間くれるなら、練習付き合うよ。久しぶりに撮りたいし」
「え、いいんですか! ありがとうございます!」
中学の時は先輩という存在と良い関係を築けたとは言えなかったけど、ここではそこまで気を張らずにいられる。
高校生になると何が違ってくるのか、未だに理解できていない。だが、高校生になってようやく年上の人を尊敬する気持ちの一端を知れた気がする。




