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心がわかるDKとわからないJK  作者: 碌寺紫葛
第2章 体育祭前~合コン後

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第4話 わからない女子と男子

心がわかるDKとわからないJK

第2章 体育祭前~合コン後

第4話 わからない女子と男子

「柏原さんが好きだと思っている人を探すんだよね?高校?中学?」

「知らない」

「……は」

「あたしがそれ相応のことを要求するつもりだって、言ったよね」


知らない?知らないってどういうことだ?だって、自分が恋愛感情を抱いている人を探すってことだよな?ぼくは聞き間違っていないはず。


「それを説明するためにこれが必要なの」


 そう言いながらペンで開かれたノートのページを叩いた。説明する、何を?


「探す範囲はとりあえず高校でいいよ。学年は問わず、男女もとりあえず問わない」


 柏原さんはスラスラと箇条書きをしていく。探す人の条件は高校に通っている生徒全員に該当する。確かに骨が折れる作業かもしれない。


「柏原さんが好きな人を探すの?柏原さんを好きな人を探すの?」

「……前者が分からないから、後者を探して」

「全校生徒を対象に、柏原さんのことを好きな人を探すと」

「そう。それが第一段階。その次は」


 またスラスラと書き始めた。今度も箇条書きだ。すごいきれいな字を書いていく。


「その人をあたしと会わせて。それで、あたしがその人に恋愛感情を抱いているか、みてほしい」

「……誰かと付き合いたいの?」

「まあ、そんな感じ」


意外だ。クールとも言えて、友達も少なくない柏原さんは、恋愛ごとに現を抜かすタイプではないように思っていた。実際に“視た”ときに、そんな感想を抱いたんだ。


「骨が折れるでしょ?その分、あんたの気持ち理解?のために時間使うから。どう?」

「まあ、それなら?」

「ちゃんと考えて。ていうか、これが可能かどうかを確かめたいんだけど」

「技術的には可能です」

「返事になってない」

「いや、言葉通り。できるとは思うけど相当な時間が必要かな。特に接点がない先輩とか」


 全校集会のような集まりで“視よう”とすると、無数に“視えて”しまうから情報過多で頭がパンクする。そうなってくると人数を限定して、確実に“視える”環境がほしい。


「全校集会とかは使えないってこと?」

「うん。ちゃんと“視えない”よ」

「あ、やったことあるんだ。じゃあ信頼するわ」

「一言余計では」


 初めて会ったとき、これはテスト前の勉強会を指している。その時は人当たりは良さそうに思えた。でもぼくが奇妙な提案をしてからというもの、柏原さんの言葉はどんどんキツくなっていく。本音を隠すつもりがないんだろう。


「体育祭も無理ってことだよね?まあ少なからず、あたしと接点がある人が恋愛感情を持つだろうし、全校生徒にしなくてもいいのか」

「なおさら体育祭って難しいかな。ほら、ぼくらってクラス違うでしょ?同じ軍になれないし、同じ軍の先輩を視てほしいなら、柏原さんの軍を“視ない”といけないから」


 柏原さんの顔が少しこちらを向いた。ずっとノートに字を書き続けていたのに。何か変なこと言ったかな。


「そっか。体育祭は割と悪くないと思ってたけど、まあ難しいなら何か他の考える」

「ありがとう」

「とりあえずお礼の内容はこんな感じ。あとでコピーするからそれ渡す」

「ご丁寧にどうも」


 基本的に柏原さんはしっかりしている方なんだろう。事務作業とかが向いているような気がする。彼女のきれいなノートはきれいに畳まれると彼女のスクールバッグに収納された。


「はい、疲れた。お菓子~」


 チョコ系のお菓子を手にとり食べ始める。


「あ、ぼくも」


 しょっぱい味がほしくて買ったスナックを開ける。テスト終わりかつ、大事な提案を引き受けてくれた喜びもあって、普段よりおいしく感じる。


「うま」

「さすがに疲れたわ。お菓子食べたら、あんたの提案を具体的に聞きたいんだけど時間ある?」

「うん。大丈夫」


そういえばぼくの具体的なことは言ってなかった。ちゃんと言わなきゃだよな。


「……えっと」

「まさか、何も考えてないなんて言わないでよ?」

「そうじゃない!そこまでバカじゃない!単純に、柏原さんみたいにこう、具体的に話すの難しいなって」

「それ食べながら考えて」


 そうすることにしよう。目の前には静かな海があるんだ。落ち着いて考える環境はある。海でも見ながら考えをまとめよう。


「……」


 柏原さんも海を眺めてお菓子を食べてる。穏やかな空気ってこういうことを言うんだろうな。なんだかんだ友達が隣にいて騒ぐことが多いから、こんな静かな時間初めてだ。なにも“視えない”って、こんな感じなんだろうか。


「しずか、だな」

「でしょ。ここって意外と邪魔されないんだよね」


 柏原さんは穏やかな顔をしている。そういう表現を現代文の教科書でも見た気がする。


「なに?口になんかついてる?」

「あ、や、その」

「なんで慌ててんの」

「すぐに、柏原さんが肯定するなんて、なかったなって」

「あたしが頭から否定するやつだと思ってる?少なくとも、あんたの詰めの甘さが原因だけど?」

「ご、ごめん」


怒られた。なんの理由もなく顔を見てたらそりゃあ感じ悪いよな。うん、ミスった。


「家の方向は反対だからあんまり来れないけど、また来たいくらい良い所だね」

「田舎のくせして、静かな場所って案外少ないからさ。割と貴重」

「海って騒ぐ場所だと思ってた。静かな場所って図書館とか?それくらいしか思いつかないな」

「あそこって高校生意外といるし、考え事より勉強とか、作業を進められる場所って感じ。黙ってボーっとするなら、ここが一番」


 饒舌だ。ぼくの詰めの甘さを指摘するときの迫力のあるしゃべり方じゃなくて、本当に、自分の素直に感じた意見を言っているみたいな。“視てる”わけじゃないのに、人の気持ちを考えるのってなんか違和感がある。ぼくだけの感覚だろうけど。


「……どうやったら、わかるんだろうね」


するっと言葉が出た。


「ぼくはさ、ずっと“視えた”から人の気持ちがプラスでもマイナスでも分かっていたんだよ。今も苦しくなるときあるし、”視えなくなっても”いいなって思うこともあった」

「…うん」

「でも自分の気持ちはずっとわかんなかったんだ」

「……うん」


静かに相槌を打ってくれる。余計なこと喋っちゃいそうだ。


「将来役に立つとか、いざというときに使えるとか、そんな未来のことじゃなくて」


今なら、言葉にできるはずなんだ。


「なんで、視えるようになったか、知りたい。今どうしていいかわからないから、自分の気持ちを知りたい」

「……前者は皆目見当がつかないよ。それは分かって」

「分かるもんじゃないとは思ってるよ。さすがにそこまでは頼まない」


余計なことを言っただけ。でも、その余計なことを言わなかったら、たぶん言えなかった。


「それに、順番的にも後者?のほうを解決したほうがいいと思ってる。よくわかってないのに、ダラダラと持ち続けていいモノじゃないよ」

「要は、あんたがそのみえる状況に対して好意的か、離れた後に不安を感じることがあるのか判断してほしいと。」

「そう、かな?」

「正直お礼の内容を重くしすぎたかと思ったけど、そうでもなかったね」

「想像より重かったけど、ぼくは対等だなって思ったからいいんじゃない?」


あ、なんか、ほぐれた?柏原さんの顔っていつも力が入っているイメージだったけど、今力抜けた?ような気がする。


「なに、見てんの」

「あ、ごめん!」


じーっと見ちゃうのはよくない。よくない。柏原さんの顔も戻っている。気のせいだったかな。


「あ、それ食べ終わってから言ったほうがよかった?」

「え、あぁ。別に。これ全部食べる気なかったし」

「そっか。食べ残す前提で買えばよかった」


 あいにく、ぼくが買ったものは蓋や封ができないものだ。

 自分の持っているものをどうにかして封できないか考えてたら、隣で手際よく箱を小さく収納し、お菓子をこぼすことなくかばんの中に詰めていた。

 柏原さんはかばんを閉じるのではなく、またノートを取り出している。さっきお礼の内容を説明したページの隣に文字を書き始めた。


「何を書いているか聞いてもいい?」

「これ?さっきのやつ大きく書きすぎたなって思って」

「文字が書かれている範囲が広いってこと?」

「それ。だからメモくらいというか。折りたためば手のひらくらいのサイズになるようにまとめたくなった」

「あー、確かに、そっちの方が持ち運びしやすいし便利だよね」


 これまたきれいな字で先ほどの箇条書きを小さく、見やすくまとめている。普段のノートもきれいなんだろうな。


「あんたもこっちの小さい方いる?」

「いいの?」

「いいよ。校内じゃスマホ見れないから写真で共有しても気軽に見れないでしょ」

「じゃあ、ありがたくもらっておきます」


 たしか向こうにコンビニがあったはずだ。そこでコピーできれば、あとの会話はスマホで進めることになるだろう。


「柏原さんって几帳面だよね」

「はい?」

「だって、字きれいだし、かばん重そうだから教科書とか入ってるんでしょ?説明だって丁寧にしてくれるし、おれにはキツイ言い方するけど、普段は優しそうだったじゃん」

「……自分がわかるように、自分にとって良くなるようにしてるだけ」


 確かに柏原さんの言う通りの側面もあるだろうけど、回りまわって人からの印象を良くしているんだな。


「それで几帳面にできるならすごいことじゃないかな」

「……こっちからも一つ聞くけどさ」


え、なんだろう。またなんかやらかしたかな。


「な、なんでしょう」

「固まらなくてよろしい。ちょっとした好奇心だよ」

「は、はあ」


この状況で何に好奇心が働くというのか。あれ、好奇心が働くで合ってるっけ?


「男子って、中学くらいからおれ、ていうよね」

「あー、まあ多くなるかな」

「あんたはおれなの?ぼくなの?」

「え、えっと。おれ?かな」

「家だとぼくで、外だとおれ使いってこと?」


ん?なんで2つ使っている認識なんだ?学校だとおれって言ってるはずだけどな。


「な、なんでそう思ったか聞いてもいい?」

「たしか、説明のためにノートに箇条書きしてるときかな。ぼくって言ってた」

「お、おれ、が?」


口が回らない。え、ぼくって使ってた?うそだろ。


「最初に話したときはおれって言ってた気がしてたし、待ち合わせ決めるときもおれだった気がするから、ぼくって聞いてちょっとびっくりした」

「……完全に、その、あの、気が緩んでたわけじゃないと思うけど」

「本音話すために、気を遣う場所を変えただけだとは思ったけどね。ほら、女子って別に変わるタイミングってあんまりないじゃん?」

「まあ、思春期でおれになる人は多いよ。お、おれもそうだし」

「どっち使っても変だとは思わないから」

「あ、ありがとうございます」


 どうってことないことなんだろうけど、なんか恥ずかしい。柏原さんの言う通り、今まで話したことないことを話すこと自体に気を使ったから、ぼくが出たかもしれない。


「あの、周りの人に言うのはちょっと、避けてもらえると」

「何言ってんの?言ってメリットないし、そもそもそんなこと話したら、あんたとあたしが仲がいいってことになるじゃん。言わないよ」

「あ、はい」


 正論だ。言うメリットがない、確かに。


「まあいいよ。そのままでいたほうが分かりやすいし」

「わかり、なにが?」

「思わずぼくって言うほど、本音に近いことを言っているんでしょう?自分の気持ちを知りたいってことなんだし、覚えていて損はない。今後指摘することも、誰かに言いふらすこともしない。あたしが覚えていて、判断基準の一つにするだけ」


 正論でさっきとは反対側を殴られた気分だ。


「はい、できた。はさみあったっけ?」


 柏原さんはかばんをごそごそ探している。話をしながらよくこんなきれいにまとめられるな。そんなことは考えなかったけど、柏原さんには一生勝てない気がする。


「この小さくまとめたほうを持ってて。あたしは大体覚えたから」


 はい、と言って、A4ノートの4分の1くらいにまとめられたメモを渡される。


「よし。今後の連絡は基本的にこっちで」


 スマホを持ちながら説明する体制に入ったようだ。


「なんか追加で提案あったら連絡して。部活中でもまあ、いじれるから」

「あ、ちょっと難しいかな。チャリ通だし、家に帰ってから連絡することが多いかも」

「わかった。部活なんだっけ?」

「サッカー部」

「わあ、陽キャ」


 柏原さんは自分のことを陽キャではないと思っているのだろうか。


「そっちの部活を聞いてもいい?ほら、視なきゃいけないし」

「あ、そうか。写真部に入ってる」

「写真?カメラもって?」

「うん。今カバンに入ってるよ」


それでかばんが重そうだったのか。てっきり教科書が詰まっているものと思っていた。


「じゃあ、部活中は学校内とか移動していることが多い?」

「まあ、毎日部活やってないけど、撮りたいものがあったら歩いてるよ。友達と」

「見かけたら、”視る”ようにするよ。大抵はグラウンドか、雨の時は中でやってるかな」

「誰か連れていけそうだったら一緒に行くわ。そうしたらみれるんでしょ?」


”視ている”わけじゃないけど、柏原さんが「みる」て言うことに抵抗が少なくなっている気がする。


「そうだね。簡単に場所を動けるわけじゃないから、そっちから来てくれると助かる」

「そのほうが効率良さそうだしね。そのときは話しかけないでよ」

「あ、はい。”視る”ことに集中します」

「部活を続けながら、ね」

「あ、はい」


 ぼくのこと、ひとつのことしかできない人だと思っているのかな。マルチタスクってやつをできる気はしないけど、そこまでバカじゃないよ。


「よし、作戦会議はこれくらい?」

「まあ、なにかあったら連絡すればいいだけだし」

「それはそう。じゃあ、あたしは帰るね」

「うん。分かりやすい指示書をありがとう」

「どういたしまして」


 そう言いながらかばんを閉じて肩にかける。カメラが入っているからか、慎重に持っている。


「おれは食べきってから帰る。気を付けて」

「近いから大丈夫でしょ。じゃ」


 最小限の範囲で手を振って、自転車を置いた場所に歩いていく。

 これで、ようやく1歩進んだ。ぼくがぼく自身を分かるために、できることをしようって決めてからそんなに経っていない気はする。

高校に入ってから思っていたことだし、柏原さんに声をかけたのも正直言って行き当たりばったりに近い。柏原さんなら分かるかもしれないって一瞬でも考えてたら足が動いていた。話を持ちかけたときだってどうにでもなれ、て気分だった。


「これで、わかるといいな」


 声に出してしまった。周りには誰もいないから、聞かれていない、はず、うん。

 これを食べきったら家に帰ろう。テストが終わって、明日からは体育祭に向けてなんか練習があるらしいし、高校生活って思ったより騒がしい。

 柏原さんのクラスを”視る”機会があったら”視る”こと。

柏原さんのことを好きな人を探すってやる事は簡単だけど人が多いし、別の恋愛事情を知ってしまうから、これから口に出すことも気を付けないとな。

そういう、事故で知ってしまったことを気にしない、人の事情に口を出さないことには人一倍気にしているつもりだから、何か余計なことを言うことも少ないとは思う。

 とはいえ、どうしよう。こんなことは初めてだし、どうやったら上手く事が進むかは正直わからない。本当に「技術的には可能」という状況で、知ること自体は難しくはない。何か”視る”ことで疲れたりすることもないから、人を選べばそう長くかからないはずなんだ。


これで、これからを考えられるんだ。

これで、この生きづらさを、解消する方法を探せるようになるんだ。

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