第3話 テストを乗り越えた高校生
心がわかるDKとわからないJK
第2章 体育祭前~合コン後
第3話 テストを乗り越えた高校生
「終了。書くのやめ」
部屋中にカランッとシャーペンを放り投げる音、ペラッと指から紙を手放す音が響く。監督の教師が何か言っている気がするが正直半分聞き取れているか分からない。
原因は分かっている。1つは、部屋にいる生徒たちがため息やようやく終わった喜びを声に出しているからだ。友達に答えを確認している声も聞こえる。
もう1つは、テスト中からあった。約束事がだんだん頭の容量を占領し始めた。
「この後部活がある人は遅れないように。あと1年生のこの時期によくあることだけど、テスト終わって浮かれて、課題の提出ができなかったとかあるから、忘れんなよ」
教師の有難い忠告は聞けた。何か提出するものはあったか確認しよう。
かばんは廊下にあるから、いったん教室に持ち運んで広げてみようか。
「では、テストお疲れ。解散」
監督の教師がテストを回収して教室を去っていく。それと同時にガタッと椅子から立ち上がる音が同時に鳴った。
「おい、かず」
誰かに呼ばれた。名簿的にも近い位置にいる彼は真っ先にこちらに来たんだ。
「たかはどうだった?」
「無理。現代文とかほぼ勘」
「漢字くらいだよな、これ授業でやったやつ、て言えるの」
「マジでそれ。こんなにムズイって聞いてないんだけど」
正直難しい。高校に入って初めての定期テストでレベルの高さに圧倒された。これは勉強しないといけないな。受験とか考えると、いい点取ったほうが何かといいだろうし。
「あ、かずは部活ある?」
「なんか、打ち合わせだけやるって聞いた。あと部室の掃除?」
「俺がっつり部活するんだわ。多分ギリギリまでやるし、先帰っといて」
「おーけ。たぶん先帰る」
荷物が置いてある廊下は人で溢れている。完全に出遅れた。廊下に出るための列に並んで待つしかない。
列の最後のほうに並ぶと、時間がかかるけど自分の荷物を探す手間は省ける。これはライフハックになるだろうか。つまらないことを考えながら、荷物を手に取り自分の教室に戻ろうとすると、女子と目が合う。
「……」
すぐ視線を外された。偶然なのに、偶然同じタイミングで荷物を取るために廊下に出て一瞬目があっただけなのに。
「あ?なにしてんの、かず」
「何でもない。マジで何でもない」
「自白してね?」
「そう思ってるなら何も言わないで。課題出しに行こう」
おー、と気合の入らない返事を受け取って、自分の荷物を自分の机に乗せる。
ここからは流れ作業だった。課題を提出しに行って、机の中に置き勉の教科書を入れていく。スマホ使用禁止の高校でも教師がいない間にスマホをつけることはよくある。スマホで部活の予定を再度確認し、打ち合わせだけであることを再度認識する。
「じゃ、行くわ」
「お、たか、またな」
たかと呼んでいる友人は中学からの友人だ。部活が終わるとほぼ同じ方向に自転車で帰る仲だが、今日は例外だ。打ち合わせのために部室に行き、恐らく掃除を誰がするか、じゃんけんでもするのだろう。1年生は無条件でやらなければならないような状況ができあがっているとは思う。
案の定、打ち合わせのあとに数人の先輩がじゃんけんで負け、1年生全員が掃除をすることになった。先輩風を吹かせる人たちは掃除道具を持たずに駄弁っている。予想はできたことだし、早く終わらせたいからさっさと掃除をしよう。
「おつかれー、かいさーん」
先輩の一声でみんなが散り始める。部活用の荷物もないため比較的身軽だ。荷物を持ち、教師がいないことを確認するとスマホを起動させる。メッセージが来てないか確認すると2件メッセージの着信通知があった。
そっちはいつ終わる?
今自転車と一緒に校門にいる
待ち合わせ相手は校門の外にいるようだ。あそこなら高校の敷地外だから、堂々スマホが使えると生徒がたむろする場所だし、人を待つには分かりやすい場所だ。待たせないように小走りで向かう。すでに自転車を動かしているようだから、早く自転車を取りに行こう。
いざ校門前に行くと予想以上に人がいる。テストが終わった解放感で遊びたい欲が高まっている高校生たちはどこに向かうのだろうか。
待ち合わせ相手を探しながら自転車を引くと、ポケットに入れたスマホに通知が来る。
人が多いから移動した。コンビニ来れる?
内容を素早く読むと、自転車にまたがってコンビニに向かう。高校から一番近いコンビニは一軒しかない。真っすぐそこに向かうと待ち合わせ相手は分かりやすく立っている。
「ごめん。待たせた」
声をかけるとこちらを見て顔を認識する。睨んできているけど、大丈夫かな。
「……藤くん?」
「うん。藤和葉です」
「……うん、大丈夫、覚えた、はず」
「顔を覚えるのが苦手ってやつ?」
「そう。それ」
「だから廊下で目が合った時にすぐ視線外した、とか?」
テストが終わり、廊下で荷物を取って再度教室に戻ろうとしたときのことだ。どう優しく言ってもあれは睨んでいた。
「あー、あれ藤くんだった?」
「本当に覚えられないんだね」
「こればかりはごめん。マジで覚えられない」
まあ、待ち合わせはできたし、これからの展開次第では覚えていなくてもいい状況になるかもしれない。
「どこいく?前と同じだと多分人いるよね」
「それ考えている最中。……今頭にあるものを言っていい?」
「ど、どうぞ?」
何を提案するつもりなんだろう。
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空が晴れているのも相まって、とても青く見える。
平日の午後2時くらい。親子とか、大学生っぽい人とかがちらほらいるがこんなに広いんだ。顔を認識するのはおろか、服装の色だけが分かる程度の距離感だ。
「こんなに砂浜が静かなの初めて見た」
「イベントでしか来ないの?」
「うん。友達がダンスイベントに参加するからとか、花火するためとか、そんな感じ」
「うわ、陽キャ」
ぼくって陽キャなのか?連れられて来ることが多いから、積極的ではないんだよな。
「ま、どうせ友達の付き合いでしょ?」
「……本当に“視え”てない?なんで当たるの?」
「かおでバレバレ」
目の前の柏原さんはさも当然のように当ててくる。今まで“視える”ことに依存して他人の気持ちを図っていたぼくからすると、同じ力か、別の似たものにしか思えない。
「なんで、話をするために海に行こうなんて提案をしたの?」
「……あの」
歯切れが悪い。柏原さんと話したのはこれで2回目。字だけのやり取りもそんなに多くはない。それにしたって歯切れが悪い。
「一人になりたいときに、いつも座ってる場所がある。小説みたいかもしれないけど、案外性に合っているらしくて」
「……ロマンティックって言ったら怒る?」
「そう思われたっていいよ。どうせ今回はいつもの場所で話すつもりはないし」
待ち合わせに使ったコンビニで飲み物とスナックを買った。多少は長く話をする気なのだろうか。ということはあの我ながら奇妙な提案に乗ってくれる、ということだろうか。
「ここ。ベンチあるし、荷物置けるからいいでしょ」
「めっちゃいい。気遣いありがとう」
「あたしが置いておきたいだけだよ。よいしょ」
柏原さんのカバンは少し重そうだ。まじめに教科書を持ち帰るひとなのかな。
「ノート…あとペンは」
「ノート?」
「口より文字でまとめたほうがわかりやすいから。よし。始めていい?」
「うん…?」
なんでこんなに準備をするんだ?まあ、答えが聞けるなら、いいか。
「まず前提ね。あんたは自分の気持ちを知りたい、自分が今どんな気持ちでいるかを知りたい、自分は他人の気持ちがみえるけど自分をみることができない」
「うん、合ってる」
「それで、あたしが他人の気持ちが分かると話を聞いたあんたは、あたしに、自分の気持ちをみてほしいと」
「うん……うん」
少し恥ずかしい。
言葉はあってるし、それ以外の言葉を知らないからそれでしか表せないんだけど、柏原さんに指摘されたことを思い出すと顔が赤くなりそうだ。
「あたしは別に気持ちはわかるわけじゃない。でも、あんたはみてほしいと言ってきた。それで前回話した結論として」
「うん」
「テストが終わるまで保留したい。あんたの頼み事を受けなくても、みえることを隠し続けるからそれなりのお礼を受けられる。お礼の内容も含めて考えさせてくれ、ってあたしは言った。合ってる?」
合ってる。あのとき、話が一通り終わると黙り込んだ。その間に注文したポテトを食べて、口の中がしょっぱくなって、ポテトがあと4分の1くらいになったところで柏原さんが口を開いた。
お礼の内容も含めて考える時間をちょうだい、と。
柏原さんは残りのポテトを食べ、アイスティーを飲み干すと、連絡先の交換を求めてきた。
クラスが同じわけでも、部活が同じわけでもない。そんな男女が連絡を取り合う手段といえば、学校の廊下で話すか、メッセージ上のやり取りくらいだ。当然メッセージを選ぶだろう。今回の集まりと待ち合わせはテスト期間中にメッセージ上で提案してきた。それ以外の話は一切していない。
「単刀直入に言うと、引き受ける」
「本当!?」
心底驚いた。いや、お菓子やノートを準備している段階でそんな気はしていたが、実際に返事を聞くと思わず声が出てしまった。
「確かに前回はあまり引き受ける気はなかった。でもリターンを考えたら、それくらいのことをしてもいいとは思ってる」
「……柏原さんって平等って言葉すき?」
「ううん。対等の方がすき」
「あぁ」
納得した。
確かに、欲しい結果のためにそれ相応の労力を払おうとするのは平等とも言えるが、当人からしたら対等という言葉のほうが合う気がする。
「じゃあ、それ相応のリターン?を考えているってこと?」
「うん。というか、自分のした発言をもう1回考えただけだけど」
「柏原さんの好きな人を探してほしい、だっけ?」
柏原さんはそう言った。今思いついたお礼の内容を提案する際に、彼女はそう言った。高校生となれば恋愛ごとなんて欠かせない要素だ。実際過去に、恋愛事でも自分の“視える”力は役立った。でも、引っかかることがある。
「柏原さんが好きだと思っている人を探すんだよね?高校?中学?」
「知らない」




