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心がわかるDKとわからないJK  作者: 碌寺紫葛
第1章 中間テスト前

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第2話 心がわかるのはDK

心がわかるDKとわからないJK

第1章 中間テスト前

第2話  心がわかるのはDK

「……なんであたしが数学得意だってことになってるの?さっき言ってた?」


 さっきあんたは確実に言ってた。「数学は苦手だし」って。前提条件としてあたしが数学が得意っていう状況じゃない限りでてこない。

 だけど、その前提を作った覚えは少なくともあたしにはない。会話の中で言ったり、何かで聞いたとしても、こちとらあんたの存在自体を今日認識したの。

顔の覚えは良いとは言えないけど、同じクラスでも同じ部活でもないあんたが、そんな情報をどこで聞いたの。


「あ……たしか、友達とかが言ってなかった?」

「今日の開いた女子のことをさしてるなら、カレシさんと仲良しこよししてたけど」

「じゃあ、なにかで聞いた?」


 わかりやすく視線が定まっていない。マジで考えが読めない。


「なんでそんなにはぐらかすわけ?今すぐ帰るけど」

「あ、まって。そうじゃないんだよ」

「なにが違うの?一応持っている優しさでここまで来たけど、さすがに不審者相手にしたくないの」

「お、おっしゃるとおりで」


こっちが強気でいくと大人しくなるのなんなんだ?まあ、怖がらせられるならそれに越したことはないけど。これからのことも考えると、この行動の理由は知っておきたい。


「わかった。単刀直入に聞きます」

「ありがとうございます」

「……気持ちがわかるって話」

「勉強会が始まったときに出た話なら、その時に説明したはずですけど?」

「嘘を疑っているわけじゃないよ。でも、本当のことも言っていないんじゃないかって」


 途端に頭が良さそうな発言をしてこないでくれるかな。真っ先に嘘を疑わないのはなんでだ?この人もそういう勘がある人ってこと?


「……わかったとして、なにかお願いしたいことでもあるの?」

「うん、ある。単純に、おれを視てほしくて」

「なにかの口説き文句?」

「あ、そういうつもりは全くないです!!」


慌てた。本当に告白とかそういう類ではないのか。だとすると余計に目的がわかんない。


「自分の気持ちがわからないっていってるけど、それで合ってる?」

「うん」

「……ご両親に相談したほうがいいんじゃないの」


これはただの親切心。


「相談してもダメなのは確認してる。だから他の手段を試してる」

「はあ……?」

「変なことを聞いてるのは分かってる。けど、試さなきゃいけないんだよ」


この違和感はなんだろうな。ふざけているわけでも、罰ゲーム的な感じで脅されているわけでもなさそう。真剣に聞いてるだろうけど、なんでこんなに、


「やりたいことが分からないのは初めて?」

「……え?」


 「え?」と発したのは間違いなく、あたしだ。

 普段なら声に出さないであろうことを言った事実よりも驚くべきことがあったはずだ。


「そんなに不自然だとは思わなかったよ。驚いたらそんなものじゃない?」


 驚きが恐怖に変わったのを、明確に、瞬時に理解した。

 椅子ごと後ろに動こうとしたが、妙に滑り止めが効いた椅子はなかなか動かなかった。後ろに倒れそうになるのをこらえ、すぐに立ち上がれる程度にはテーブルとの間隔を開ける。


「ごめん、怖がらせる気はない。でも変なお願いをしているんだから、こっちも、こう、理由を説明したほうがいいと思って」

「どういうこと?」


こっちが推測するより説明されたほうがまだいいけど、マジでわかんない。予想しても意味をなさない状況なんだろう。大人しく聞いてみるか。


「さっき、嘘はついていないんだろう、だけど本当のことも言ってないんじゃないかって。

そう言ったよね」

「……うん」

「嘘じゃないことも、話を聞いて混乱してることも、間抜けだと感じたことも、全部。

  ”視える”んだよ」

「……みえる?」


 素直になれば、この人は「考えていることがみえる」と言っている。

だけど、そんなことを簡単に信じるほどバカじゃない。


「なにがみえるの?」

「うーんと、なんて言ったらいいんだろう。考えていること?って言ったらいいのかな」

「……頭の中が分かるってこと?」

「そうだね。うん。それだね」

「それを信じろと?」

「うん。じゃないと話が進まないかな」


あっさりしてる。

 信じてくれと懇願するでもなく、自分にとっては当たり前だと。でも今さっき自分が変なことお願いしてるって、自分で言ったよね?この人。


「……信じてほしいのに、真剣さがないような気がしてるんだけど」

「うーん、そういうわけじゃないんだけど。まあ、諦め?があるのは確かだよ」

「諦めてるの?」

「うん。だって、今まで信じてくれた人はいないし」

「よく、あたしに話したね」


 率直な感想が勝った瞬間だった。


「諦めてる。でも自分の考えが視えるわけじゃないから、本心もよく分からなくて」

「あぁ、鏡をみても自分の考えが分かるわけじゃないんだ」

「うん、視えたことは一度もないかな。だから、わかる人におれをみて、ほしい」


急に片言になった。告白がどうのって指摘したから言い淀んだのか。


「理由はわかった。わかったけど」


 あたしは何もできない。この人があたしを”視える”人としてとらえているならお門違いだし、本当にあたしはみえるわけじゃない。


「何もできないよ。あたしはその、みえるわけでもないし」

「お門違いなんだね」

「あ、そ、そう。はい」


みられた。素直に怖いけど、今の場においては断る理由になるからちょっと助かってる。


「……わかってはいたよ。おれみたいな人はそういないって」

「力になれない、ご、ごめんなさい」

「謝らないで!変なこと言ったのはこっちだし、その、同意なしに視たし」

「今までに同意を求めることはあったわけ?」

「いや、ないけど」

「ないんかい」


この人、若干の天然か?苦手なんだよ、天然さん。


「わかるっていうのは、本当に可能性の話をしているだけなんだね?」

「そうです。あたしはみえるとか、感じ取れるとか、そういうのは全くないです」

「うん。それが分かっただけでもいいや。ありがとう」

「ど、どういたしまして…?」


 確かに、今まで聞いた話から考え得る可能性を話し、それが相手にとって新しい視点であることが多かった。それで「気持ちがわかる」なんていう評価に繋がってしまったわけだが。だから、初めて会った人の気持ちは早々分からない。

 お茶会のときは集まった目的や、話し方などから、多数が考えることを言ったに過ぎない。本当に「ここの生徒の8割はそう答えると思う」「当てずっぽう」なんだ。


「…今考えてたことみた?」

「え、視てない。勝手に視られるのはいやでしょ?」

「それはそうだよ」

「だから視てないけど、視たほうがよかった?」

「いや、だ、大丈夫。だいじょうぶ」


みようと思ってみるものなんだ。まあ、今の考えは口で説明するの恥ずかしいから言わないことにしよう。


「……このことは高校の誰かに言った?」

「言ってない。柏原さんが初めて」

「お、おう」


 誰も知らないのか。まあ、これが何か話題の種になると思ってないし、弱みを握ってこいつをこき使おう!なんて考えも持ち合わせていない。それより、このことを誰かに言って、特別な関係性であると邪推されるほうが面倒だ。


「一応確認するけど、このことは言わないほうがいいよね?」

「あ、うん。今のところは言わないでもらえると」

「? なんでそこも曖昧に返事するの」

「いや。曖昧っていうわけじゃないけど、こう、変えていこうかと思ってて」


変えていく?何を変えるんだ?


「行動方針というか、今までは一応隠す方針だったけど、何か変えたほうがいいかなって」

「……その一歩が今ってこと?」

「そうだね。理解するためというか、今まで放置してきた悩みを解決したいな、みたいな?」

「思い切ったことしたね」

「褒めてる?」


褒めてるけど褒めてない、が感想だが素直に言わないようにしよう。


「正直な感想を言っただけだよ」


嘘はついていない。


「……柏原さんって噓はついていない方法をすぐ思いつく人?」

「ツッコミどころがあるんだけど」

「あ、ご、ごめんなさい」

「謝らなくていいよ。もし、こちらの同意なしにみたなら謝って」

「視てないです。これは本当です」


この人の焦り具合から本当なんだろうな、とは思う。


「まずツッコミ1つ目ね、その、気持ちがみえるせいか知らないけど、素でみえるような発言はやめときなさい。今までどうやって隠してきたのさ」

「……気づかなかった」

「これだから天然は」


思わず口に出してしまったが、もういいや。この人に隠そうとしても意味はない。むしろきついことを言って距離を取ろう。


「もういいや。あんた……名前、名前」

「ん?なに?」

「怒りをぶつけたくてあんたの名前を口に出したかったのに、名前知らないと思って」

「あー、クラス違うし、知らなくて当然じゃない?」


至極まっとうな意見。至極まっとうな、はず。


「じゃあ、なんであたしの名前知ってるの」

「え」


焦ってる。本当にこの人表情を隠せない人だな。


「ツッコミ2つ目。おかしくない?違うクラスで、名前を知らなくて当然のあんたが、なんであたしの苗字知ってるの?さっき呼んだよね?」

「あー、言ったっけ?」

「正直に言って、ストーカーさん」


こいつ、もしかしなくても、


「あたしに目をつけてた?いつから?あたしの噂なんてものが流れてないことを願っているけど、どこで話を聞いたの」

「これじゃ尋問だよ」

「尋問するに決まってるでしょ!」


 大声を出してしまった。でもこれは正当防衛。マジで同じ高校の人がいなくてよかった。


「……隣のクラスだし、なんとなく女子の会話が聞こえただけなんだよ」

「風の噂で~みたいな話はないってことね?」

「はいそうです。聞いたことないです」


 今まで吐いたこともないくらいのため息が出た。長くて、特別音も大きい。どういう感情で吐いたものかも分からないため息をした。


「……5月くらいに、おれ、カノジョがいるヤツと席近くて、カノジョ作ったって話から聞いてたんだよ」

「あの、誰がいてもイチャイチャするあの人たちの?」

「そう。カレシの方と知り合いなんだよ。それでカノジョのことを紹介されて、柏原さんと話しているところを呼び出して紹介されたんだよ」

「……え?それであたしの顔を認識したの?!」

「え、うん。なんとなくだけど」


 信じられん。顔を覚えるのが苦手な自分からは到底考えられない認識の仕方だ。印象的な特徴は持ち合わせていないはずなのに。


「廊下ですれ違ったりとか、玄関で見かけたりとかで、カノジョさんの方は覚えたかな」

「……続けてどうぞ」

「ど、どうも?えっと、それで、カノジョさんが玄関で待ってたんだけど、カレシのほうは日直だったから遅くなるよって言おうとしたんだよ」

「親切」

「そう?あ、えっと、それで話している内容が聞こえちゃったんだよね」


 目の前の人曰く、あの子はこう言いふらしていたらしい。


「うちの壱華が解決してくれたの!カレシの好みばっちりのプレゼント渡せたんだぁ」


 確かに5月になるかどうかの時期、誕生日が近いというカレシの誕プレを本人に相談したところ、「なんでもいい」と言われ、詳細を聞こうと食い下がったら「なんでもいいっつってんだろ」と少し勢いよく言われたらしい。

 それであたしに相談してきた。怒った理由が分からない。カレシと関係は続けたいから仲直りも兼ねてプレゼントを渡したい。こんな内容だったはずだ。あたしが可能性を考え、たどり着いた結論はこうだ。


「本当に何でもいいんじゃない?向こうからしたら、本当に何でも喜ぶのに、食い下がってきたから、どうしていいか分からなかったとか?だったら無難な物がいいと思う。学校で使う文房具とかは?使ってくれるところ見たいんじゃない?実用的なものを渡したら喜ぶとは思うよ」


 今思い返しても、無難なことしか提案していない。本当にただ、つまらなくならないことを言っただけなんだ。

 それが、たまたま当たっただけ。本当に、たまたま、カレシのほうの心境がわかっただけ。

 なんで分かったかは、自分でもわからない。だって、可能性を考えただけだ。


「話が聞こえちゃって、そのカノジョさんの話が広がったのか、他の女子が柏原さんの話をしているところを聞いたこともある。ほら、女子って廊下でおしゃべりすきでしょ?」

「たしかに」

「だから苗字もそこで知った。名前は覚えてなかった。今日知りました」

「……間違って苗字を言うの、不注意すぎない?」

「あ、そ、そう、ですね、はい」


この人、一回は詐欺に合うのではないか?どうしてそんなに詰めが甘いのか。


「ほ、ほかに、何か聞きたいことはある?」

「え?」

「ないんだったら話を進めてもいい?」


え、なんでこんな強気なんだ?いや、強気じゃなくて、なんかこう、


「ほかに話したいことでもある?」

「うん。その、柏原さんならもう分かってると思うけど、もしおれの提案に協力してくれるなら、お礼を用意する必要があると思ったんだ」

「そこには頭まわるんだ」

「……視てないけど、バカにしてるよね」

「うん」


はっきり言おう。この人と仲良くする気はない。


「お礼……例えば、何がある?」

「課題を代行するとか、何か教えるとか、あんまりやりたくはないけど、これを活用するとか」


これ、目の前の男子は自分の目を指さしながらお礼の提案をしてくる。


「……どうやって活用するの」

「え、えー。誰か、好きな人がいたら応援するとか?」

「応援、ね」


 確かに、この男子しかできないことではある。本当にみえるというなら、好きな人のことも分かってしまうということだ。自分が嫌っている人を遠ざける手伝いもできてしまうんだろう。実際どうするかは置いといて。


「もちろん、協力できないってなっても、その、秘密にしてほしいからそれなりにお礼はするよ。そのつもりで今日は声をかけたし」

「……自分に不利益があるにも関わらず、声をかけるのってすごい勇気いるよね」

「ん? 不利益ってなんのこと?」

「ほぼ確実に高校3年間を通して脅される可能性があるのに、そんなことをいうのって、かなり無謀だと思うけど」


 実際そうだろう。卒業まで苦手教科のノートをよこせとか、課題代行を頼まれてもおかしくない状況だ。学生にとって楽をすることはそれなりに優先順位が高いことのはず。


「だって、柏原さんは脅さないでしょ?」

「……」


絶句。何も声に出ない状況を示すなら、今の状況はぴったりだろう。


「驚いて声が出ない状況をこんなに味わったことないわ」

「そんなに驚くことだった?勝手に視ていたことを言ってるなら謝るし、お礼に含めたっていいよ」

「いや。そうだよね。知り合いでもなかったらそりゃ試すよね」

「思わずとかじゃない限り、自発的には視たりしない。確認したいことができたら、“視る”かな」


一応人は選んでいる、というわけか。今回の場合、あたしに声をかけるか否かを探るためのものなんだろうけど。


「柏原さんは脅すとか、誰かに危害を加えることを……嫌っているというか、自分に返ってくることを怖がるんじゃない?それか、脅すことを頭にいれていない。もしくはくだらない手段だと思ってる、とか」

「……だいたい合ってる。脅すなんてこっちも体力いることを好んでしない。というか、マイナスな関係は、絶対に後で問題を起こす」

「経験者みたいに言うね」

「経験者というか、奴隷とか、虐げられた国民は、一揆を起こすもんでしょ?」


 歴史の教科書を読むといつも思う。恐怖とか弾圧で作られた土台は崩れやすい。人間関係で同じことをするつもりはない。


「ふふ、そうだね。恐怖政治はよくないね」

「……お礼はすぐ思いつかないし、協力するかも今は決められない」

「うん。すぐに決まるとも思ってないよ。柏原さんはよく考えて」

「ただ、今思いついていることは1つだけある。それを実行するかは考えなきゃいけないけど」

「あらかじめ聞いていいもの?」


 確認をとってきた。最初からそうだったかもしれないけど、素直に質問を投げてくるのは、こちらの遠慮がなくなったから?それとも、みなければ直接聞くしかないと思っているから?これに関してははっきりしたところで何か得られる気はしない。直観だ。


「あんたが変なことを提案してきたから、それ相応に無茶ぶりをしなきゃ損でしょ?」

「はい。覚悟はしています」

「それで今思いついた無茶ぶりをとりあえず投げてみて、可能かどうか確認しなきゃ、家に持ち帰ることもできない」


 変なことを思いついた。我ながら頭がおかしい。こんなの、誰にも、言ったことはない。

少し気持ちを落ち着けるため、呼吸を整えた。初めてのことだ。少しは気持ちが跳ねる。

 それを分かってか、この男子は何も言わない。あ、名前聞くの忘れてた。

まあどうだっていい。どうせ、あたしは顔を覚えるのが苦手だ。


「……あたしの好きな人を、探してほしい」

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

第1章はここで終わりです。

次の話から第2章になります。

第2章からは話数がとてつもなく増える予定です。

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