第18話 目立ちたくない高校生
心がわかるDKとわからないJK
第2章 体育祭前~合コン後
第18話 目立ちたくない高校生
「壱華!なんで応援のとき撮ってくれなかったのぉ!」
土曜日にあった体育祭のおかげで、代わりに月曜日が休みになった。なので今日は火曜日。
自転車で登校するあたしは、電車で登校する生徒より遅く学校に到着することが多い。来る時間が決まっている人たちに比べたら時間的余裕があるので、あたしは少しでもベッドの上にいるために使っている。
「写真部の先輩に誘われて、リレーを撮ることに集中できたんだよ。午前中に撮ったでしょ?それで充分じゃない?」
電車通学している目の前の子は、あたしを待ち構えるかのように教室の、あたしの席に立っていたのだ。執念とは恐ろしい。
「もっと撮ってほしかったのに!午後はメイクがかわいくなったから撮ってほしかったのにぃ!」
知るか。自撮りでもすればよかったでしょうに。ていうか、すでにしてるでしょ。
でもこの場はあたしが謝る姿勢を見せないと治まらない。
「ごめんて」
「ほんとにそう思ってるぅ?」
「予定外の行動しちゃったのは事実だし、なにすればいい?」
「写真ちょうだい!アイコンにする!」
なるほど。あたしに撮影をしつこくねだってきた狙いはそれか。
「わかった。今はできないから、家に帰ったらね」
「ならばよーし」
姫は満足なさったようだ。朝からこれは重い。
実を言うと、今すぐに写真を送ることは可能だ。なぜなら、今日は写真部の活動があり、体育祭で撮った写真の品評会があるから、撮影データを保存しているSDカードと、全てをクラウドにバックアップしている。今は教師や校則違反を指摘する人がいないので、スマホを開いてクラウドから写真をダウンロードし、メッセージを送ることができる。
だが面倒だ。ただでさえ、この子との会話はエネルギーを使うのに、教師が来るか気を払いながら、ダウンロードという待ち時間をどうにかしなきゃいけないなんて嫌だ。あと、ダウンロードするならWi-Fiが欲しい。
「あ、ねぇねぇ」
「なに?」
話題が変わるのか。やっぱり、アイコン用の写真が欲しかっただけじゃん。
「壱華って、好きなタイプとかいる?」
「はい?」
「ほら、合コン」
「あぁ」
急に何かと思えばそれか。好きなタイプねぇ。
「……頭が悪くない人」
「頭良い人じゃなくて?」
「良い人だと、ガチで頭が良い人になっちゃうけど、悪くない人だったらヤバい奴を除けることができる」
「そーいうのじゃなくて」
じゃあなんて言えばいい。こういう手の話題は本当に困る。こちとら、それが分かんないから変なことしてるのに。
「身長何センチ以上とか、髪型とか、俳優なら誰似とか」
「……待って。それ聞いてどうするの」
「カレシにそれっぽい人を探してもらって、合コンに参加してもらう」
「それ合コンじゃなくて、マッチングじゃない?」
あたしの好みの人を呼べたとしよう。他の参加者が狙うことだってあり得るが、それでは主催者が「この人なんてどうでしょう?」てお勧めしているだけじゃん。
「そうだけどさ、壱華の参加のモチベーション的な?あった方がいいじゃん?」
「いいよ。暇だから行くだけだし。人集めるの大変でしょ?」
「いいのぉ?」
「いいよ」
苦手な話題は早く終わらせるに限る。条件の指定もできないし、これくらいでちょうどいいでしょ。
こんな雑談で、担任が来そうな時間まで来ていた。自分の席に座るように壁掛け時計を見せ、移動を促した。
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「よ、代表さん!」
本日何度目だろうか。数えるのは途中でやめた。
「モテてたなぁ」
「主に男子にな」
体育祭の学年代表リレーで、黄軍は1位になった。総合優勝は逃したが、目玉競技であるリレーでは1位になった。それも、ぼくが1位と2位の差を縮め、ぼくの次の走者が1位に躍り出て、ラスト走者が差を広げたからだ。その場では勝った喜びでテンションが高かったからどうにかなったけど、家に帰ってシャワーを浴びてるときに冷静になった。
目立ってしまったな、と。
「1位を追い越すっていう華を先輩に持たせつつ~、勝ちやすい状況に持っていけたのは代表さんのおかげでは~?」
「これ以上、おれのことを代表さんって呼ぶなら、金輪際おまえのラノベを読まないから」
「それは~、ちょっといたいな」
効くんだ、これ。感想を言ってくれる人を逃すのは惜しいってことなんだろうな。
「たかがやればよかったじゃん」
「だから、俺は足早くないわけ。かずみたいにはなれませんな」
体育祭当日、リレーから帰ってきたときには3年生を中心に囲まれて、声をかけられて続けた。勝ったことは純粋に嬉しかったから、どうもどうもと誉め言葉を受け取り続けた。
そして火曜日になった今日は、クラスメイトから声をかけられ続けた。でも、すでに冷静になっているので、どう受け取っていいか戸惑ってしまい、微妙な顔をしていた。
「藤!と、高倉もいる」
「よぉ、なに?」
たかが誰かに返事をした。そもそもぼくの名前を呼んでいた。誰だ?
「おつかれ~」
「なんだよ、空井」
「合コンのやつでさ、ちょっと聞きたいことあったんだよ」
「あー、俺らを勝手にメンバーにいれたやつね?」
ちょっと棘がある。まあ、冗談の範疇に収まる程度ではある。
「悪かったって。それでさ」
お構いなしに続けた。本当にテキトウな性格してる。
「一応聞いとくんだけど、よびたい女子とかいる?」
「はあ?おい、こっちにまで人呼びを手伝わせるんじゃないだろうなぁ?」
「ちがうちがう。一応って言ってんじゃん」
「おれらの好みの子を呼ぼうかって提案なわけ?」
「そうそう、それ」
気遣いなのかどうか分からないとこだな。それか、呼べる女子が多いから選り好みしようって話か。今はカノジョがいるから大丈夫だけど、入学したばっかは割と騒がしかったな。
実際に人だかりができるわけじゃないけど、“視て”しまったときに、こいつのことを考えている女子は多かった。騒がしいと思えるほどにはたくさんいた。
「いないんだったら別にいいよ。特になし?」
「ねぇよ。勝手に開催しとけ」
「はいはーい。じゃ」
テキトウに手をひらひらさせて、この場を離れていく。ぼくもそろそろ部活に行く時間だ。
やりたいことがあったのに、時間が迫ってくる。
「今日遅くなるかもなんだわ。先帰ってて」
「うん」
「なにしてんの?」
「ちょっと、確認しておきたいことが、あって」
バッグの中でスマホの電源をつける。昼休みのときにスマホを使う生徒がいるけど、中には登校したときからスマホを機内モードにして、休み時間の度に通知を見ている人がいるけど、スマホの没収なんて不名誉は嫌なので、電源をオフにしておくタイプだ。
「……あった」
柏原さんから送られた、写真部の部長さんの写真を確認したかった。
今までグラウンドで柏原さんが人を連れてこれたのは体育祭があったからだ。これからはグラウンドで“視る”ことはほぼできないだろう。でも偶然出会うことはあるかもしれないから、顔を覚えておきたい。まだ覚えられてないから一応写真を見ておきたかった。
「なに見てんの」
「関係ない」
「なーに見てんの?」
「プライバシーの侵害」
「マジでなに見てんだよ」
しつこくなってきた。バッグで隠しながら見るしかない。
体育祭が終わった翌日に数枚の写真と「真正面で撮れなかったから角度違うもの送っておく」とメッセージが来た。律儀だな。
「おい、何笑ってんだよ」
「へ」
「かず、まさかカノジョじゃねぇだろうな?」
笑ってたんだ、ぼく。
「おい!カノジョか?」
「違う」
「女子か?」
「ち、違う」
「女子か!?」
声が大きい。確かに女子。騒がないでほしい。浮つく話ではない。考えがごちゃごちゃしてきた。
「合コン行くって言ったよな?抜け駆けか!?」
「してない。する気ない。違う」
「明らかに嘘ついてただろ!?」
「部活行かなきゃだろ!」
こっちも大声を出すしかない。まだ教室にいる人たちの視線が痛い。注目されたくない。
「忘れねぇからな!帰り聞くからな!」
「遅くなるんじゃないのかよ」
部活に遅れるのは流石に避けたいらしい。たかも自分のバッグを持って教室を出る体勢になった。たかの自転車の有無を確認して帰る時間をずらそう。
「待ってろよ!」
「前言撤回すんなって」
今日は騒がしい日だ。部活でも何か言われるんだろうか。火曜日とはいえまだ1週間が始まったばかりなのに、とても疲れた。
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それなりに集まった部員。ノートや問題集が一切置かれていない机。各々のカメラをケースから取り出し、画面を見ながら何か話している。
「これよくない?」
「めっちゃいいじゃん。上手いねぇ」
「動いてるの撮るのは初めてだったけどね。いつもポーズ決めてくれる人撮ってたからさ」
今は写真部の中でもたまにしかしない品評会である。品評会なんて仰々しい名前がついているが、撮った写真の中でも良い写真を、本人だけでなく他人の意見も交えて選出していこうって集まりだ。そういう性質なわけで、いつも補習やらなんだで来れない先輩たちも都合をつけて部活に参加している。
もちろん部長も参加している。けど、部長はノートパソコンの前から動いていない。部員が持ってきたSDカードやらUSBメモリのような保存媒体を差し込み、撮影データを開いて、先輩たちから意見をもらうためのパソコン操作係になっている。
とりあえず3年生から品評会を始めているので、1年生の出番はまだだろう。
「かじわら、にらめっこ終わってるけど、どう?」
「わかんない。でも、はぎの先輩と八乙女ちゃんの感覚が間違ってるとも思えない」
「なんの話?柏原ちゃん」
今は写真部の1年生4人で固まっている。あたしは自分のカメラを操作して、体育祭の写真をずっと見比べていた。どの写真で顔がはっきり写っているのか。自分で分かりたいのに全くピンと来ない。
「なんか、上手く撮れてるやつがあるらしいんだけど、自分じゃ判断できない」
「見てもいい?」
「うん。どうぞ」
あたしのカメラに3人が顔を寄せて画面を凝視する様が出来上がった。
「二人三脚からかな」
「私と先輩が見つけたやつ?」
「そう。2人もそう思うかは気になる」
さかのぼって、二人三脚が写っているところまで最小表示で動かしていく。ぽいものが見つかったから少し拡大させて、はぎの先輩が写っているものを探していく。
「柏原ちゃん、めっちゃ撮ってるじゃん」
「連写もしてるから」
「八乙女ちゃんから聞いてたけど、すごいノリ気なんだね」
「……そんな、やる気ないように見える?」
「うーん、のらりくらり的なイメージが強い」
実際それは正しい。のらりくらり、問題に巻き込まれることも、楽しいイベントに参加すること自体も避けてきた。人付き合いが苦手というか、同時に数をこなせない。手狭く、確実に、手元に残していきたい人だけを選り好んで。
「かじわらはね、気になったことがあると案外集中するんだよ。最近気づいた」
「そーなんだ」
「そうなんだ?」
「本人が疑問もってるけどだいじょぶそ?」
「本人が気づいてないことを指摘できた私すごない?」
高校でできた友達の中では、間違いなく八乙女ちゃんはトップクラスにあたしのことをわかっている。あまり踏み込んでこないし、これといった趣味がないあたしには向こうから話してくれて、聞き専に回れる状況を作ってくれる。理解のある友人だ。
「あった。これ」
「どれどれ~」
「萩之先輩かわいいな」
「かじわら~、これくれない?」
「はぎの先輩がOKしたらね」
八乙女ちゃんはさっきから良いと思った写真を欲しがっている。なにをしたいんだろう。
「みつ、集めてなにすんの?」
「家のパソコン借りてコラージュでも作ろうかなって」
「雑コラ?」
「ううん。ちょーきれいなの作る」
そういうことか。自分で撮ったもの以外に素材がほしいのか。あたしのでいいのか?
「ねぇ、壱華ちゃん」
「なに?」
「萩之先輩が写ってるもの、全部みていい?」
「いいけど、ちょっと待って」
はぎの先輩が写っているものはほとんど連続して撮っているはずだから、探すのは難しくないはず。右のキーを押して、ゆっくり次の写真を映し出していく。
「……うん。なんか、はっきりしてるね」
「でしょー?なんでだと思う?」
「うーん。わかんないな」
「萩之先輩がくっきりしてるね」
たしか、体育祭のときにも八乙女ちゃんとはぎの先輩がそう言ってたような気がする。はぎの先輩はきれいに撮れてて、次の2年生男子の番になるとぼんやりしてた、みたいな。
「よくあることじゃない?」
「え?なにが?」
「柏原ちゃんが知ってる人を撮るときは、力が入ってるだけとか」
「そういうこと?」
写真部の中で2年生の先輩はいる。けど正直、顔を覚えている自信はない。はぎの先輩はお世話になったし、隣で八乙女ちゃんが先輩がいることを教えてくれたから、先輩本人であるという認識はあったと思う。それだけで、きれいに撮れるものなんだろうか。
「好きなもの撮るときは、気合入るでしょ」
「それな」
「八乙女ちゃんが速レスしてどうすんの」
好きなもの?魅かれるものってこと?まあ、はぎの先輩は好意的に見ているが、良い先輩だな、以上の感想はない。
「ていうかさ、絶対1枚は選ばれるんでしょ?」
「ねぇ。名前を伏せられるとはいえさ、廊下に掲示って、やばくない?」
「なんの話?」
考え事をしてたら話題が変わっていた。なんのことだろう。
「聞いてない?この品評会で1人最低1枚は写真を選んで、それを貼ったものをあそこの廊下に飾るんだって。部活の活動記録てきなやつ」
「あー……聞いたような、忘れたかったような」
「後者じゃね?」
言い当てないでほしい。
「誰が撮ったか分かんないならいいんじゃないかな。ずっと貼り出されるわけでもないだろうし、人だかりができるわけでもないだろうし」
「どうしよう。そんな、出来が良いものなんてないけど」
「柏原ちゃんは心配しなくてもいいでしょ。さっきの萩之先輩のやつよかったよ」
「貼られる先輩の気持ちはどうなの」
「気にしなそうだけどな」
はぎの先輩は、部長の隣で品評会を取り仕切っている。まだ3年生の順番が終わっていないのに、楽しそうに話している。コミュ力高いな。
「ま、どうせ部長が選んでくれるよ」
「先輩にまかせよ」
「……うん」
良い写真。実際にどう見えるかというより、自信がない。自分が撮ったものに対する自信がない。せっかく練習会を開いてくれたのになぁ。
……練習会で、教えてもらったのになぁ。




