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心がわかるDKとわからないJK  作者: 碌寺紫葛
第2章 体育祭前~合コン後

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第17話 成果が欲しい男子

心がわかるDKとわからないJK

第2章 体育祭前~合コン後

第17話 成果が欲しい男子

「暑い中、みなさんお待たせしました!これより学年代表リレーを行います。代表の方は本部前まで集合をお願いします」


 来た。カメラチャンス!いそいそと準備を始めると、同じことをし始めた数人と目があった。写真部の先輩だ。顔を覚えていなくとも、これは確定。


「リレー撮るんだよね、えっと」

「柏原です。写真部ですよね」

「あ、あの柏原さん?」


あの?え、有名か?そんなすごいことしたっけ。良い意味でも悪い意味でも。


「萩之が言ってたんだよ。かわいい後輩がいるって」

「あ、先輩が」


 納得した。あたし本人にむかって「かわいい」と言ってくるんだから、本人以外の会話でも「かわいい」と言ってそうだ。


「そうです。その柏原です」

「うちら萩之と撮る予定なんだけど、一緒に来る?」

「おじゃましてもいいんですか?」

「うん。ていうか、いいポジションって限られてるし」


 それはそう。逆光にならなくて、リレー全体をカメラに収めることができて、人の邪魔にならない場所は多くない。しかも、部員は競争相手じゃない。むしろ協力して、良い写真を撮っていく方針だ。ここは甘えていいんだろう。


「では、おじゃまします」

「はいよー。萩之と合流してからにしようか」


 2人の先輩と少し話をしていると、はぎの先輩と八乙女ちゃんが来た。


「おまたせ~、やろっか」

「そっちも1年生?」

「はい、八乙女でーす」

「よろしく。どこで撮る?」

「部長がさ、向こうで撮ってたんだよ。スペースあったし行かない?」


 部長が!?マジか。藤くんに確かめてもらえる絶好のチャンスなのに、無茶させられない。いや待て。あたしが確かめればいいのでは?わざと隣に行く?部長が撮影に集中してたらそもそも藤くんも確認できなかったし、練習会のときに気付かなかったことを考えれば、部長は常に頭がピンク色というわけではなさそう。なら、今行っても特に進展を得られないのでは?無駄にはならないのでは?だったらついていくか。


「かじわらも行くの?」

「うん、青軍の先輩に誘われて」

「じゃ行こー。ようやくさ、緑軍も日陰に入れたんだよね」

「暑かったでしょ」

「マジ溶けそう。日陰に入ってても溶けそう」


 午後の部が始まって2時間は経過した。1日の中で最も暑くなる時間帯を過ごしているわけだが、案外熱中症にはならないもんだ。


「部長!おじゃまします~」

「はい。半分くらい来た?」

「ぞろぞろ来ちゃいました~」

「……1年生も?」


 あたしのことを認識した。2年生たちの背に隠れていたけど、すぐに見つかるか。


「柏原さん」

「はい」


呼ばれた。うそでしょ。


「ちょっと練習会のときと違う環境になってるけど、ここで大丈夫?」


あ、マジで部長としての心配だった。恥ずかし。


「どういう違いですか」

「向こうの校舎側と違って、こっちは日差しが入ってくる面積が多いから、逆光の注意をしないといけない。だから、校舎に近いほうが、その心配をしなくていいよ」

「でも部長はここを選んだんですよね?どうしてですか?」

「顔を向けられる時間が長いから」


 なるほど。スタート地点は本部の前から始まって、そのまま1つ目のカーブに入る。そうすれば生徒たちの軍が配置されている側を走ってくれる。1つ目のカーブというのは、部長が言っている校舎側のことだ。逆光の問題が起きず、日陰に入ってるから撮影者として安心できる。でもカメラがリレー走者の顔を捉えられる瞬間は短い。スタート地点から1つ目のカーブを走り切る前に顔を撮らないといけない。あとは後ろ姿だし、頑張ってズームしてゴールの瞬間は撮れるかもしれない。でも、ゴールの瞬間はプロが撮っている。プロの人は本部側に移動してるから、スタートとゴールはそちらに任せることになるんだろう。

 というか、そういうキラキラした瞬間は卒アルに載るだろうから、生徒がしゃしゃり出ても意味はない。そう考えると、1つ目のカーブを終えた直線と、2つ目のカーブを走る間を撮影チャンスとして使えるこの場所は、賢い選択なのかもしれない。


「……顔を、撮れるチャンスが多いんですね」

「簡単に言えばそう。でも、日差しが入ってくるから、撮ってからダメだったって分かることもあると思う。連写できるよね?」

「はい。騎馬戦の時もやりました」

「あ、やっぱり撮ってた?」

「はい。はぎの先輩が撮ろうって」


 部長って「撮り手に回ったら、撮られずにすむでしょ?」側の人だったのでは?


「萩之さんさ」

「いいじゃないですか~。消しませんよ~」


 はぎの先輩がニヤニヤしてる。分かってたんだ。


「……」

「あの、消しましょうか?」

「いや、大丈夫!」

「あ、はい」


 いいんだ。全然消すんだけど。あんまり部長が写ったやつ確認してないから、今なら何の憂いもなく消去するけど。


「柏原さんはここで撮る?」

「撮ってみようと思います。ちょっと、顔を撮ることに興味が出始めたので」


 どうも引っかかっている。二人三脚ではぎの先輩の顔だけはっきり撮れたことに、まだ説明ができていない。撮影した写真全部を確認したわけじゃないけど、また顔をはっきり撮れる瞬間ができるのなら、このチャンスを逃さない方がいい。


「興味あるんだ?」

「はい。確かめたいことがあるので」

「……わかった。じゃあ、ここ立って」


 先ほどまで部長が立っていた場所は、部長の一言で空いた。部長自身はすぐ隣に移動している。


「え、え?」

「ここ。校舎見てもギリギリ日差しが入らないし、直線が撮りやすいから」

「でも、部長が見つけた場所じゃ」

「少し隣にズレただけだし、柏原さんの身長でも大丈夫かは保証できないから、立って確認して」


 先輩としての気遣い、あたしよりカメラに慣れている、ちゃんとデメリットも言われた。

断る理由がない。


「あ、ありがとうございます」


 恐る恐る、部長が立っていた場所に足を踏み入れる。軍が確保しているスペースを邪魔しないで、差し込んでくるはずの日差しが校舎によって遮られている。


「いい場所ですね」

「大丈夫ならよかった」


 あんまり表情を変えないイメージだったけど、少し笑った気がする。

安心?本当は笑うタイプ?それとも、あたしが褒めたから?さっきのは褒め言葉に入るのか?わからない。藤くんのおかげで、部長が「あたしを好きな人」の最有力候補になったから、そういう恋愛てきな方も考慮しているけど、わからない。

 まあ、分かったら藤くんに相談しないんだよな。あたしも無茶はしないでおこう。


「各軍から、1年生と2年生は1人ずつ、3年生は2人を選出し、4人構成で走ってもらいます。順番は自由です。1年生から走ってもよし、選手の個性を生かして、1位を目指します。」


 順番自由なんだ。なおさら、藤くんだけを撮らないのは難しいな。軍は分かっているとはいえ、黄軍の何番目は撮らないで!なんてめんどうな注文は通らなかっただろうな。

ごめん。たぶん撮る。祈るくらいはします。


「では位置について、よーい」


 体育の先生が大声で決まり文句を発したあと、パァン。競技開始を知らせる破裂音がした。

破裂音っていうのか?空砲なんだろうなとしか知らない。


「フレー、フレー、せ・き・ぐ・ん!」

「がんばれーがんばれー、青軍!」

「いっけーいけいけいけいけ、黄軍!」

「おっせーおせおせおせおせ、緑軍!」


 走り出しと同時に応援も始まる。反対側のはずなのに、赤軍の掛け声まで聞こえる。

いや、応援に耳を傾けてる暇があるなら撮ろう。カーブが終わったら、顔を捉えて。


「撮れー!チャンスだぞ~!」


はぎの先輩のテンションが高い。気合入ってるな。

カシャ、カシャ。カシャカシャ。

選手が近づくにつれて、シャッター音が多くなる。撮る。撮る。顔を、はっきり撮る。


「先頭を走っているのは、青軍!続いて黄軍が距離を詰めています!」


撮る。撮る。自分の軍が勝ってるらしいけど、どうでもいい。撮る。撮る。


「カーブを曲がった先に、第二走者が待機してます。バトンをつなげるでしょうか!?」


 スタート地点にいると顔が撮りづらいから、1つ目のカーブの方向を撮れるように体の向きを変えておく。


「次々と第二走者に変わっていきます!青軍はトップを維持できるのか?」


 ここからまばらに人が走ってくるはず。あ、1位と2位が近いな。

あれ?黄軍の人、藤くんじゃない?


「黄軍、青軍に嚙みついてます!」


こりゃ、撮らないなんて選択肢はないな。ごめん。撮る。


「後ろから緑軍が迫る!迫る!」


撮る。撮る。撮る。

 それからのことは正確に覚えていない。撮って撮って、撮りまくった。リレーが終わって、自分の軍の場所まで撤収して、順位発表して、椅子を教室まで運んで、帰る支度をして。

写真部の面々とは話した気がする。はっきり覚えているのは、家に帰ったら泥のように眠ったことだけだった。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 何も進まなかった。1歩進んだなんて勘違いだった。

隣に立ってもらったくらいで、その後何も話せなかった。

今年で終わりだから、進学して、離れることになって、近くにいることすらできなくなる。

いやだ。何もできないままなんて。

告白できたらいいな。フラれたらどうしよう。

名前で呼ばれたいな。いつまで部長のままなんだろう。

笑顔を撮りたいな。笑っているところ見たことない。

 一度、撮ったことはある。体育祭のために練習しているときに、真剣な目で自分のカメラを構えて写真を確認している姿が、一目惚れしたときと同じくらいきれいだった。

隠し撮りだから本人には言えない。罪悪感でデータを消去しようとしたけどまだ残っている。何回、申し訳なさで消そうとして結局できなかったか。

 ボク以外に誰にも見つからないように少し面倒な分類の仕方で保存している。面倒だから、そう簡単にボク自身が見ないだろうと思っていたのに、結構な頻度で見ている。


 写真部への勧誘にはそんなに参加できなかった。でも部長になったからには出来るだけ顔を出しておきたい。萩之さんが上手くやってくれてるらしいからお礼もしないと。

 入学の合格発表から勧誘は始まっていた。合格したと思われる中学生たちに部活紹介のビラを配り、高校の建物内ではよく人が通るところにビラを貼り、部活紹介でどんな活動をしているか説明した。部長はやることが多い。なんで引き受けたんだろうと後悔すらしていた。部長だからと動いたり呼ばれたりすることは多いが、他の3年生や萩之さんも動いてくれて、いい部活に入ったなと思っていた。それを原動力に頑張ろうとしていた。


 この4月半ばから5月頭にかけて、部室の扉は開きっぱなしだ。いつもは教師に隠れてスマホを使うために扉を閉めている。でも今は勧誘できる時期なので、そうも言ってられない。ビラと「ようこそ」と書かれたポスター。部室に入ってすぐには活動紹介のための写真を展示していた。去年もそうだったが、大勢が部室を埋め尽くすなんてことは起きない。せいぜい1人か、友達同士で2、3人いれば大盛況だろうと思っていた。

 部室まで距離を縮めていくと、1人の女子生徒がスクールカバンを持って立っている姿が見えた。これは、新入生かな?誰か勧誘してくれているかな?

真剣に写真を見てる。とても真剣に。


「部長!来れたんですね!」

「うん。1年生?」

「はい!この子、部長が撮った写真見て、きれいだって」

「え?部長さんが?」


 勧誘をしていたのは萩之さん。そして、スクールカバンを持ったまま、視線を写真からこちらに。


「ど、どうも」

「あ、えっと、写真部、どうかな?」

「あの、こちらの先輩にも話したんですけど、カメラ持ってなくて」


心臓がうるさい。


「ボ、ボクと同じ学年でもそういう人、いたから、初心者向けのおススメのカメラを、教えたり、できるよ」

「……」


 また写真の方を見た。ボクも同じ方向を見ていたら、萩之さんがニヤついていた。

緊張してるよ。萩之さんみたいに話すの苦手なんだよ。


「興味ある~?」

「……はい。この写真みたいに」


それも、ボクが撮った、去年の文化祭で撮った、笑顔の写真。


「人の笑顔がきれいだと思える写真が、撮れるでしょうか」

「撮れるよ。ものすごく下手に撮る方が難しいから」

「……ありがとうございます」


微笑んだ。でも愛想笑いだ。そんなんじゃない。もっと、心から笑った、ボクに向けた笑顔が見たい。

一目惚れって実在するんだと、今日知った。


フラれてもいいや。部長のままでいいや。せめて、笑顔が見たい。

笑顔を撮りたいと言ったキミの、笑顔を撮りたい。

最有力候補を見つけて、体育祭は終了です。

まだ第2章は続きます。

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