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心がわかるDKとわからないJK  作者: 碌寺紫葛
第2章 体育祭前~合コン後

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第14話 気づけない女子と男子

心がわかるDKとわからないJK

第2章 体育祭前~合コン後

第14話 気づけない女子と男子

「いやぁ、暑いね!」


 切実に日傘がほしい。両手でカメラを構えているこの状況でどうやって日傘を維持するのかは考えてない。ただただ、日陰がほしい。


「かじわら、ほんとに大丈夫?」

「案外いけてる。でも、昼休憩で屋内を味わったら戻れる気しない」

「考えてなかった!そうじゃん!」

「お昼の後って一番暑くなる時間帯でしょ?これより暑くなったら溶けるよ?いろいろ」

「せめて人だけでオナシャス」


 八乙女ちゃんの発言がおかしくなってる。それくらい暑い。


「てか撮れた?」

「撮ってはいる。きれいかは聞かないで」

「だいじょぶなんじゃない?練習したじゃん」

「……だといいんだけど」


 作戦のためだった。グラウンドに人を連れだせるし、写真部の人たちをみてもらうのは重要だったし、一番可能性があると思ってた。でも、自分が思ってたより練習にのめり込んでた。家に帰ってから「自分は何をしてたんだ」て冷静になるけどもう遅い。


「ねえ、萩之せんぱいじゃない?」

「ん?……あ、ほんとだ」

「構えろー!」


 急にやる気でてる。まあ、はぎの先輩なら撮られても大丈夫か。写真部1年生での会話で「撮り手に回ったら、撮られずにすむでしょ?」て言ってたのを聞いた。はぎの先輩は撮ることも撮られることも好きそう。偏見だけど。


「萩之せんぱい、緑軍だから大声出して応援できるぅ」

「写真部で青軍だれだろ」

「何人かいるんじゃない?全員の軍は把握してないよ」

「そりゃそう。あたしは到底無理」


 体育祭中、生徒はどこかに所属している軍の色のはちまきを巻いているから、違う軍の人を応援なんてことは起きない。あたしは青。八乙女ちゃんは緑。藤くんは……あ、隣のクラスが黄色だったな。じゃあ黄色?


「せんぱーい!がんばって!」


 はぎの先輩は二人三脚中。一緒に走ってる人たちと肩を組んで息を合わせて走ることに集中してる。撮ってみるか。


「萩之せんぱい!がんばって!」

「が、がんばれ」


誰がとは言ってない。ギリセーフでしょ。


「撮れ撮れ!ゴール間近だぞ」


 カメラを構える。ゴールまで物理的な距離は近いけど、二人三脚はそんなに速く走れない。ゴールテープをきるタイミングまで時間があるんだから、写真は撮りやすい。

人を撮る。顔を撮る。全身と、顔に寄って数枚。ゴールテープが入る画角で、撮る。


「……ふう」

「1位は緑軍!2位が赤軍!他の2軍も頑張ってください」


実況席が盛り上がってる。青と黄色は接戦だ。どっちが先かな。


「萩之せんぱーい!ナイスぅ!」

「3位は黄軍だ!あと一歩のところで惜しかった、青軍!」


 あたしのところはビリか。まあ体育祭で優勝なんて興味がない。写真が撮れたらなんでもいい。次は2年の男子かな。


「撮れた?」

「そっちこそ撮れた?めっちゃ声出てたじゃん」

「撮ったよ。言っとくけど、これ日常だから」

「あ、趣味の方?」


八乙女ちゃんの力量とあたしのを比べる方がおかしかったのか。そりゃそうだ。


「ねえ、2年生撮り終わったらさ、涼みに行くがてら写真確認しない?」

「賛成。日陰行こう」


 それからも撮った。写真部の先輩以外で2年生の知り合いはいない、はずだ。撮って撮って、夢中になった。藤くんのことは体育祭が開始された早々に見失ったため、どうにもできない。むしろ向こうの方があたしを見つけやすいんじゃないだろうか。カメラを持ってる体操着姿の女子。特徴がありすぎる。


「2年生競技『二人三脚』は終了です。次の3年生競技『騎馬戦』が始まるまで」

「終わったねぇ」

「日陰行こう。疲れた」

「いこー」


撤収撤収。暑い暑い。無理無理無理。集中できてたからなんとかなったけど、集中しすぎても問題起きそうな暑さ。マジで暑い。


「え、全然違うんだけど」

「蒸し暑いわけじゃないから、直射日光をどうにかすれば案外軽減できるのかも」

「撮り始めるまで日陰であちぃとか言ってたのに?」

「過去じゃなくて写真を振り返るよ」

「うま」


どちらにしたって過去のことだ。うまいも何もないでしょ。


「壱華!」

「ん?」


この言い方は、まさか。


「かわいく撮れてるぅ?」


 遠くはないが近くもない。応援団は色ごとに分かれている軍の中でも前列に配置され、競技を全うしている生徒を最前線で鼓舞する立ち位置を用意されている。

 ただ、あたしたちから一番近い色は赤色。あたしのクラスの青はその隣。つまり、20人分くらいの椅子を飛び越して、あの子は声をかけてきた。


「壱華ぁ!」


 手をブンブン振っている。視線が集まるから止めてほしい。

控えめに手を振り返し、OKのサインを送る。見えてくれ、頼む。


「ありがとー!たくさん撮ってねぇ!」


更に手を振っている。ブンブンブンブン。あたしも軽く手を振って、日陰に行こう。


「元気だねぇ。あの子、練習のときの子だよね?」

「そう」

「かわいねぇ」

「ニヤニヤしないで」


もう声をかけてこない。いったんは満足したのか。早く写真を確認しよう。


「……あ、やっぱり」

「どした」

「なんか、パッとしないなって。撮ってて思ったんだよ」

「見せてー」


撮った写真の一覧が見れる画面に戻し、八乙女ちゃんと撮り始めたところから写真を選択していく。


「……全体を撮ってるんなら成功じゃない?」

「いや、なんか、パッとしないんだよ」

「パッとねぇ」


 全身を写しているものならまあ納得できる出来ではある。でも、上半身とか、顔を撮りたかったものは特にパッとしない。なんだろ、これ。


「頑張ってるねー、2人とも」

「せんぱい!1位おめでとうございます!」

「ありがと~。柏原ちゃんも応援してくれたよね?」

「違う軍なので、曖昧な言い方でしたけど」

「それでもありがと。写真どお?」


 はぎの先輩、自分の競技が終わってすぐこっちに来てくれたのか。後輩想いだな。


「見てもいい?」

「どうぞ」


 八乙女ちゃんは抵抗なくカメラを差し出した。こういうやり取りは練習会で慣れたと思ったが、本番中となるとまた違う気持ちになる。


「二人三脚だったから、ブレ少なくていいよね」

「そうなんですよ。速く動いてないから、捉えやすくて」

「にしても、わたしすごい笑顔じゃない?」

「1位なんですから、当然でしょ」


キャッキャッしてる。女子っぽい。あたしはできない。かわいくない。


「柏原ちゃんも見せて」

「あ、はい」

「……課題が多そうだね」

「わかりますか」

「うん、自信のない顔してる」


顔、今のあたしの表情か。そんなに落ち込んでいたんだ。


「……ん?」

「先輩?」

「ちょっと、カメラ貸してもらえる?」

「あ、どうぞ」


なにかあったのか?あたしのカメラを優しく受け取って、操作を始める。


「……ねえ、八乙女ちゃん」

「はい、なんですか?」

「これとこれ、どう思う?」


なにをしているんだ?写真の比較?


「なんか、違いますね」

「そ。何が違うんだろ」

「あの、なにかありました?」

「これとこれ、見比べてくれる?」


 カメラが返されるとき、左右にキーを押し、2枚の写真を比べてた。そのままカメラを受け取り、先輩に倣って2枚を比べる。


「なにか、違いますか?」

「言葉にできないんだけど、わたしは違うって思ったよ」

「かじわら、もっかい見せて」

「はい」


 八乙女ちゃんと一緒に2枚を比べる。自分で見るときよりゆっくり間をおいて写真を切り替える。


「わかった!」

「声大きい」

「顔、かおがパッとしてる!」

「それだ!」


 先輩まで声が大きい。さっきも大声で視線を集めてたから、今は声を控えてほしいのに。


「顔ですか?」

「そう。ていうか、わたしの顔ピントあってる」

「こっちは男子ですよねぇ」

「……顔」


わからない。顔がパッとしている?はぎの先輩の顔がはっきり写っているということなのかな。


「わかんない、です」

「撮ってる本人だけ分かんないやつかもね。3年生の始まるから、また撮ろうよ。おじゃましてもいい?」

「やりましょー」

「部長撮ってあげて」


 3年生だから、そりゃ部長は出るだろうけど、部長って写真撮られるの嫌じゃないのかな。


「部長、体重軽いから上になったんだって。一昨日すごい落ち込んでた」

「花形じゃないですか。撮りやすいし」

「そ、みんなで撮ろ~」


落ち込んでたんだよね?撮っていいの?


「その前に水分補給してね。わたしはカメラの準備もするから、ここに集合ってことで」

「はーい」


 はぎの先輩と八乙女ちゃんは同じ軍だし、ここから反対側のスペースに行くから、あたしの水分補給だけだと、待つ時間が多いだろうな。どうしようか。そんなこと考えてたら2人との距離が開いていった。まあ、ゆっくり自分の椅子に戻ればいいか。


「あ」

「……」


 向こうが絶句してた。向こうというのは、藤くんのことだ。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ぬるくなったな」


 首に当てていた保冷剤から冷気が感じられなくなった。返さなきゃな。

たかはどっか行った。おれとラノベの話で盛り上がることはないし、待ち時間を過ごしていると、実際の時間経過より長く感じる。おれの調子が戻ったことを確認し、他の友達のところに遊びに行った。

 1人になったし、作戦を続けたいところなんだけど、ここは人が多し、上手く“視る”範囲を絞れない。無茶しないでおこう。


「壱華!」


ん?なんで、柏原さんの名前?


「かわいく撮れてるぅ?」


 大きな声出してるな。目立ってるんじゃない?ていうか、近くに柏原さんがいるのか。

 あ、いた。すごく微妙な顔してる。応援団に友達いるんだ。あれ?もしかして、あいつのカノジョさんか?顔見えないけど、声の感じそうじゃないか?


「ありがとー!たくさん撮ってねぇ!」


 更に微妙な顔してる。ん?こっち来る?あ、どうしよ。学校で声かけるのはマズイよね。


「かわいねぇ」

「ニヤニヤしないで」


 柏原さん気づいてなさそう。カメラに集中してるっぽい。あんま見ないようにしよう。ガン見しない。でも、柏原さんのことを見ている人は“視たい”。どうしたらいいんだ。

 友達と会話始めたし、おれに気づいてないよな。静かにしてよう。

あれ?こっちに走ってくる女子がいる。緑色のはちまきだ。だれだ?


「頑張ってるねー、2人とも」

「せんぱい!1位おめでとうございます!」


あ、柏原さんの知り合いだった。人増えていくなぁ。どうしよう。逃げるべき?でも、保冷剤返したいんだよなぁ。返しに行く道に柏原さんたちがいるんだよなぁ。

 動かない方が安全な気がする。下手に動いちゃダメな気がする。逃げても別にいいんだろうけど、保冷剤返さずに自分の軍の場所に戻るのは、不自然な気がするし。

 どうまわり道しても結局柏原さんたちがいるところを通過しないといけないから、ここに留まるか、自分の椅子のところに帰るかの2択になる。どうしようどうしよう。


「わかった!」


びっくりした。柏原さんの方から聞こえたけど、柏原さんの声じゃない。あ、また微妙な顔してるし、話が盛り上がっている。

 なんか一昨日、おれの手助けも考えているって言ってくれたけど、柏原さんの方も写真部の活動に集中しているから、ゆっくり、収穫なしになりそうでも頑張ればいいか。最低でも半年は覚悟しているらしいし、文化祭までに分かれば早いって思ってそうだしな。


「その前に水分補給してね。わたしはカメラの準備もするから、ここに集合ってことで」


あ、途中から柏原さんたちに合流した人が動き始めた。移動するんだ。よし、これで保冷剤を返しに行って、自分の軍の場所に戻るぞ。


「あ」

「……」


しまった。柏原さんに認識された。他の2人は?あ、もうこっち見てない。よかった。話さないですみそう。柏原さん、このことバレたくないみたいだしな。


「……」


ん?なんか、柏原さんの眉間に皺が寄ってる。あれ?なんか、引いてる顔してる。なにかやらかしたかな?あの2人から何か言われたとか?


「……」


大きく口を開けて、なにか話してる?いや、声には出てない。口だけ大きくわざとらしく動かしている。

あ、お、え?

何を言っているんだろう?


「はあ」


ため息された。何かしたんだ。なにかやらかしたんだ。どうしよう。とりあえず、軽く会釈して、ちょっと目が合っちゃいました感を出しておこう。保冷剤を返しに行こう。小走りで返しに行こう。

 柏原さんは何を言ってこなかった。体育祭の運営本部とデカデカと書かれている場所に行き、担任を探した。簡単に見つかったので、保冷剤を返して、体調は良くなったことを報告したら、水分補給をしろと注意された。リレーの代表なんだからと。胃がキュッと絞められた気がした。気をつけますと返事をし、自分の軍のところに戻っていく。

 さきほどの日陰まで行くと、柏原さんが立っていた。知らない振り、知らない振り。


「あ、ごめん」

「へ?」


柏原さんから声をかけられた!?なんで??


「紙落としちゃった」

「ん?紙?」


 足元をみると、小さなメモ用紙が落ちていた。親切心で拾い上げたら、書かれた文字が見えてしまった。

『お昼休憩 南階段に集合』

あ、これは、伝言!?


「ゴミ落としちゃったんだ。中見た?」

「あ、うん。ど、どうしましょうか」

「あっちの方に行くときに捨てようと思ってて」

「じゃあ、おれが捨ててきましょうか?黄色なんで近いし」

「あ、ありがと」


 すごい、柏原さんの顔が冷静。これは、おれがこのメモを持っておいた方がいいかな。ていうか、グラウンドにいるのに紙とペンを持ってるの?なんで?


「かじわらー、おまたせー」

「早いね。まだ競技始まってないから、ちょっと涼んでいこ」

「そうしよー」


またここにいるんだ。さっさと自分のところに戻ろう。

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