第12話 推測するJKと笑うDK
心がわかるDKとわからないJK
第2章 体育祭前~合コン後
第12話 推測するJKと笑うDK
「前に座った場所空いてるね」
「海開きしてなかったら割と空いてるよ。またあそこでいい?」
「そうしよう」
本当に海の方に来ないんだな。まあ、聞いてる限り山の方に家があるらしいし、イベントでもなければ来ないか。
「よいしょ。風あっていいなぁ」
「気に入ったの?」
「え。いや、ほら、その、えっと」
「はっきりしてくれない?」
「……嘘はついてません。でも、話の切り出し方に困ってました」
この場所が気に入ったことは本当っぽい。ただ気持ちとして、話の切り出し方に困ってた方が割合としては大きいと。
「単刀直入にいこうよ。わざわざここに来たんだから」
「えっとぉ、体育祭中の作戦について、話しておきたくて」
「それと?」
「え、体育祭のことだけ」
「は?」
いやいや、それだけだったら対面で話す必要ないじゃん!わざわざ自分の家の反対方向まで来て、あたしと話す理由ってなに?
「なんでわざわざ海まで来た?」
「じ、実は」
「はい」
「1週間前から作戦について連絡しようとしてたんだけど、その、画面だけ開いて閉じてを繰り返しちゃって」
「……」
絶句だった。まごうことなき絶句をかましてしまった。1週間って7日間ってことだよね?この人に対して、あと何回言葉を失えばいいんだろう。
「ちゃんと話しておかなきゃいけないよなって思ったら、その、今日メッセだけ送ってた」
「行動力の使い方おかしくない?」
「変だってことは自覚してます。もし自分のことを“視る”ことができたとしても、絶対に“視ない”」
「連絡すらできない間抜け、て視えるから?」
「うぅ」
ダメージを受けてる。言葉の刃が鋭すぎたみたいだけど、言葉をオブラートに包んでいる時間が惜しいくらいの間抜けが目の前にいる。
「ぼくも分かってなくて、どうしてなんだろうって」
「それも推測したほうがいい?」
「できるの?」
「できるかも」
初めて声をかけてきた時とか、“視える”ことを相談してきた時とか、変な行動力があるのは確かだけど、見切り発車でやってるわけじゃないとは思う。話す相手を見極めた結果あたしを選んだんだろうし、ちゃんとあたしのお願いを考えてくれるから、少なくとも馬鹿ではない。馬鹿でないから、考える頭がある。妙に芯をついてくることもあったから、
「躊躇してた?」
「か、柏原さん?」
「ごめん、考えをまとめてる。ちょっと時間ちょうだい」
とりあえず座ろ。荷物置いて、考えよう。
躊躇してた理由は?作戦の内容がまとまってなかったから。だったら話しておきたくてっていう言葉は少しズレてる気がする。相談したくてとか、一緒に考えてほしいとか、他に言葉がある気がする。ちゃんと考えが確立しているけど、不安がある?
「……」
「あの、柏原さん」
「なに」
「連絡することを躊躇したって、こと?」
「なんか思い当たることでもあるわけ」
改めて藤くんの顔を見た。何もないって取り繕うとしている顔。直観が、そう言っている。
「なんか、柏原さんにメッセ送るときって緊張するんだよね」
「なんで?大事な秘密を知っている人に、今更緊張するの?」
「うん。ていうか、だから緊張しているんだと思う」
「あぁ……初めてだから?」
「そうなのかな。柏原さんにだけ緊張するんだよね」
あたし怖がられてる?そりゃ、優しくした覚えがあんまないし、そんなやり取りが多いわけでもないし……あれ?ただ仲良くないだけでは?
「と、とりあえず、結論が出たんだけどさ」
「はい。なんでしょうか」
「その、ただ、あたし達が仲良くないだけじゃないかと」
「……へ?」
間抜けな声が聞こえたな。間抜けな行動と間抜けな声を体験しちゃった。次はどんな間抜けだろうなぁ。
「あぁ、そっか。ぼくたちって、友達ではないのか」
「なんだと思ってたの」
「……秘密を共有した、なんだろう、戦友?」
「壮大すぎてツッコむ気もおきないわ」
そうだった。この人、間抜けじゃなくて天然だ。
「単純に、あたしに気を遣って送れなかっただけじゃないの?」
「うん。かもしれない」
納得してくれたようで何よりです。さて、流石に本題に行きたいところなんだが。
「これでいい?満足?」
「本当にすごいよね。“視えてない”んだよね?」
「若者が流出して人口減りまくってるこの田舎で、そんなことできる同い年なんてそうそう会わないでしょ。年代を度外視してもいないでしょ」
「そうなんだよなぁ」
あの相談から1カ月くらいは経つけど、未だに疑ってたんだ。噂ってこえー。
「ふ、ふふ」
「え?今度はなに?」
「いや、やっぱ、“視える”ことを前提に話してるって不思議だなって」
「……今は緊張してないの?」
「あんまり。なんでだろうね」
軽い笑みを続けていた。確かに緊張はしてないみたい。
あれか?字で伝えるより、声に出す方が性に合っているタイプなのか?告白は直接言う的な?
「本題に入ってもらってもいいですかー?」
「あ、そうだった、ごめんなさい」
よし、軌道修正できた。
「おれたちにとって初めての高校の体育祭だから、実際にどうなるかは確かじゃないところが多いけど」
「うん」
「体育祭の内容見たら、わりと学年ごとに人が動いてる感じだから、柏原さんが動いてておれが見るっていう形がとれない。てなってくると、“視る”余裕がでてくるのって先輩たちになるんだよね」
「うん」
「まあ、そんな大人数を同時に“視れない”て問題があるんだけど、1年生を“視る”のは難しいってことをちゃんと理解してほしい、かな」
前提の確認ね。実際、待ち時間みたいなのが起きて他の人をみれるかもしれないけど、結局大人数を相手にできないことを考えれば、1年生を除外して考えるのはアリよりか。
「もちろん。無理はしてほしくないし」
「ありがとう。体育祭で、1回見つけた人の特定できたらいいんだけど」
「あれから情報なしだもんね。ていうか、グラウンドに連れていく作戦が上手く行ってないのもある」
「こっちも部活してるから、ちゃんと視ることができなかったし、柏原さんのせいじゃないと思うよ」
体育祭なら生徒も先生もグラウンドに揃うだろうから、その中にいるかもしれない。
先生だったらどうするんだ……?え、問題じゃない?
「どうかした?」
「いや、なんでもない」
「?」
一旦は、考えるのやめよ。そんなおらんやろ、うん。
「ていうか、むしろ1年をみれなくてもいいんじゃない?」
「え、でも」
「だって、1年だったら何かしらで接点できるだろうし、接点がつくり辛い他学年をターゲットにするのは、効率的って言えるんじゃない?」
「なるほど。チャンスなのか」
「そう、それ」
もしかして、1年生をみれないことが不安なところだったのかな。他学年が中心になってしまうから一気に確認ができないっていう懸念点みたいな?
「そっか、よかった」
「言っとくけど、この作戦って割と長期戦想定だよ?」
「1カ月って、長期じゃないの?」
「最低でも半年は覚悟してたけど」
「えぇぇ……」
こっちとしては、今の3年生が参加できる体育祭と文化祭は通過点だと思ってた。それを過ぎたとしても、まあ、先輩に告白するなんて状況を作り出すハードルが高すぎる。
「そうえばさ」
「はい、なんでしょう」
そんなかしこまらないでよ。
「体育祭、難しいみたいなこと言ってなかった?」
「うん、言った。大人数を同時に視れないから」
「じゃあなんで今、体育祭で作戦実行する気なの?」
「それは」
案外返事が早い。何か考え方でも変わったのか。
「1回見つかったことと、やっぱり、一目惚れの可能性を捨てきれないから」
「……ん?どういうこと?」
「1回見つかっただけだから、せめて学年とかは絞っておきたいし」
「あぁ、そーいうこと」
「さっき言ってくれたけど、他学年を視る効率的なチャンスなんでしょ?チャンスは生かしたいじゃん」
今のところあたし達の頼みの綱は1本しかない。それを確かなものにするってことなら分かるけど、無理してほしくないな。
「大変じゃない?」
「無茶はしない。だから、絶対に見つかる保証はない」
「それを知ってるから長期戦なんでしょ」
「おきづかいどうも」
自分のキャパは分かってるみたいだから、そう馬鹿なことはしないと思ってる。体育祭中に話すことができるのなら、ターゲットを絞る手伝いもできるかもしれないけど、そんな余裕あんのかな。
「何について考えているんですか?」
「藤くんの負担を減らす方法がないか、模索中」
「……ふ、はは」
今日よく笑うな。爆笑ではないけど、なにがおかしいの。
「無茶はしないって。たくさん“視た”時ってすごく気持ち悪くなるから、もうしたくないんだ。あれをまたする気は起きない」
「そ、そんなに嫌なの」
「うん。なんて言ったらいいんだろ。頭を色んな方向から掴まれて同時に揺さぶられる感じ?」
「うぇ」
あれか?乗り物酔いの更に酷いやつか?そりゃ自分で飛び込みたくはないな。
「わかった。信じる。無茶しないで、ほんとに」
「大丈夫。心配かけないようにする」
それなら大丈夫か。まあ一応、体育祭中でも手伝えそうなことは考えとこ。
「あと、一目惚れの可能性だっけ?前に話さなかった?」
「うん。提案したし、それでも柏原さんを知ってる人に絞って行こうって話をしたのも覚えてる。でも」
「でも?」
「柏原さんのことを好きな人って、絶対に柏原さんが知ってる人なのかなって」
どういうこと?少なくとも、あたしの顔を見たことがあるんだし、何かしらで関わりがある人になるんじゃないの?
「例えば、全校集会とかですれ違っただけとか、登校で毎朝見かけるとか」
「……続けてどうぞ」
「とにかく、今って可能性は広く考えなきゃ見つからないんじゃないかな」
「一理ある。でもそれこそ、体育祭以外でも藤くんの負担が大きいんじゃないの?」
「……」
鳩が豆鉄砲を食ったみたいな、目が少し大きく開かれた。おかしいことは言ってないよな。
「柏原さんってさ」
「はい」
「言葉がきついことはあるけど、優しいよね」
「はい?」
言葉がきついのはそりゃそう。意図的っていうか、藤くんと仲良しこよしする気がないし、天然くんを目の前にしたらツッコミたくもなる。まあ、そもそも本性ではあるか。
でも、優しいってなんだ?作戦を続けるために、不必要なことは避けたいだけなんだけど。
「なに?みたの?」
「やってない!柏原さんには許可もらう!」
「許可を得られると思ってんの?」
「得られないと思います」
「現実見れてよろしい」
ふつうに無理はしてほしくないっていうか、あたしのために頭を揺さぶられる気持ち悪さを経験してほしくないだけなんだよ。この2、3週間ほとんど藤くんのために動けてないし、あたしを気にかけてもらうことの方が多かったから、貸しを作り続けてる感覚というか。とにかく居心地が悪い。
「確実に藤くんの負担大きいのに、あたしができることないじゃん。それが嫌なだけだよ」
「あれか!対等じゃない」
「よく覚えてんね」
「印象的だったよ」
まあ、あたしの気持ちを理解してくれたのならそれでいっか。
「じゃあ、本当に無茶はしないで。他学年をみてくれるのは有難いけど、収穫なしでもあたしは問題ない」
「うん。今日話しておきたかったこと、だいぶ話せたと思う」
「だいぶ?他にあるの?」
「えっと、1回見つけたって人はサッカー部じゃなさそうっていうのと」
自分の部活の人ではないと。あたしがグラウンドに行ったときに確認してくれてたのか。
「あと、その……」
「なに?」
「……柏原さんって、体育祭のとき写真撮るんだよね」
「うん。だからグラウンドに人連れていけたんだよ。今更なに」
「……おれのことは撮らないでほしいなって」
「え?いや、たぶん撮ること自体難しいと思うけど」
学年ごとに出場種目が割り振られているから、自分が出場する時は同学年の人も出場に動いているということ。顧問の先生も、藤くんだってこのことは理解している。
「種目同じなんだから、カメラ構える余裕なんてないよ。藤くんを撮れるチャンスなんて」
「学年代表リレー」
「え? ……え、うそ」
「代表になりました」
マジか。そりゃサッカー部なんだし、あたしに比べたら運動神経なんて上も上だろうけどさ、代表になるくらいって、クラスで一番速いとかそういうレベルじゃないの?
「藤くんって、足速いんだ」
「別に、一番とかじゃないんだけど」
「だけど」
「代表決めるってなって、足速い奴らを上から呼んで言ったらギリギリ範囲内に入っちゃって、じゃんけんで一人勝ちしちゃいました」
「あー……」
右手で口元を抑えた。藤くんを傷つける言葉が出ないように。笑いをこらえている様子を見られないように。
「今、可哀そうにって思ったでしょ」
「みた?」
「視るとかじゃなくて、友達からもおれもそう思ってるから」
「……ど、どんまい」
心なしか、藤くんの顔が白くなっている気がする。あんまりノリ気じゃないんだ。運動部に入ってるし、友達と外に出て遊ぶんだから、イベントごとは楽しめる方なんじゃないの?
あ、目立つのは避けたいのか。みれることを大っぴらにしたくないんだろうな。
ん?もしかして、みることを誰かに言って、変な目で見られたとか?いや、これは妄想。誰かにこのことを言った経験が少なそうだったし、理解を得ることを諦めてる様子がある。ていうか自分でそう言ってた。
「そうだね。確約できない」
「理由を聞いてもいい?」
「2つ。1つはあたしに制限をかけたところで、他の部員が撮る可能性を排除できない」
「そうだよねぇ」
あたしが他の部員に「1年の藤くんて男子を撮らないで」てお願いを触れ回ることなんてしたくない。そもそも藤くんの顔を知っている部員なんて、あたし以外にいるのか?
藤くんと同じクラスの人っていたっけ?
「もう1つ。そもそも写真上手くないから、藤くんを避けて撮るなんて技術はない。上手くないから数こなしたいし、速く動いている人を撮ろうとしてんだから、偶然画角に入ることだってあり得る。1位と2位が接戦で、どちらかが藤くんだったら絶対に撮られるよ」
「うわー、具体的なこと言わないで!わりと緊張してるんだよ!」
「よく作戦のこと話してきたね。ちゃんとみれるの?」
「視ることはそこまで気を張らなくてもできるよ、大丈夫」
慣れってやつか。
「まあ一応気にしておくけど、たぶん無理だよ」
「大丈夫。たぶん、ぶっちぎりでトップにもビリにもならない速さだから、目立つこともないんじゃないかな」
「それはそれでどうなの」
「いいよ。1位になりたいわけじゃないから。頑張るけどね」
「うん。違う軍だから大声で応援はできないけど、頑張れ」
じゃんけんで一人勝ちしてしまった藤くんへの哀れみと、出場するんだから何もハプニングなく走ってほしい気持ちが混ざった。
「ふふ」
「今日めっちゃ笑うじゃん」
「だって、柏原さんが大声出して応援したら、流石に頑張れそう」
「……物珍しさで頑張れるなら、大丈夫だよ」
まあ恐らくですが、自分の軍でも大声で応援するか怪しいところではある。大声出すこともないから自分がどこまで大きな声を出せるか知らないし、疲れそうだし。
「なんか、この1週間の妙な気持ちなんだったんだろって感じだな」
「話して楽になった?」
「うん!」
「当日じゃなくて、数日前でもいいから約束の連絡くらいはして。そうしたら都合つけるし、そんなに忙しくないし」
毎週外にでかける方ではないし、都合はつけやすい人間ではある。
「こうやって会って話すこと自体は苦じゃないから、呼んでくれたら行くよ」
「そうなんだ」
「直接会った方が藤くんのこと分かる気がするからね。表情とか、話し方とかで得られるものはあるから」
「……ありがとう」
今日の藤くんは、よく笑う。
ここから5話ほど体育祭が続きます。
「筆止まらなすぎじゃない?」と自問しましたが、止めることができませんでした。
長くなりますが、お付き合いください。




