第11話 伝えたいことがある男子
心がわかるDKとわからないJK
第2章 体育祭前~合コン後
第11話 伝えたいことがある男子
「明日の予行練習と明後日の本番はこのポンポンを持って応援をお願いします。連絡は以上です」
お昼休みの5分。お弁当を食べている際中に3年生が数人教室に入ってきた。話によると、体育祭で同じ軍の応援団のメンバーらしい。明後日に迫っている体育祭で競技中やダンスを披露する時に持つポンポンを配りに来たそうだ。
中学でもそうだったが、体育祭は各学年がクラス単位で分けられ、軍と呼ばれる集団に1、2、3年生がそれぞれ入るように組まれる。
それぞれの軍には色が振り分けられ、前日には振り分けられた色のはちまきが配られる。
そして今配られたポンポンも、その色をしたものだ。
「おじゃましましたー!」
元気よく教室を出ていく3年生たち。
「よいしょ、おまたせぇ」
あの3年生たちと同じく応援団のメンバーであるこの子は、ポンポンを配るのを手伝うために席を外していたのだ。
もちろん、今日配られるのは事前にわかっていたから、お昼を一緒に食べる前に手伝いにいく旨は伝えられていた。
「めっちゃ頑張って作ったからね!ちょっとテープを割いた方がいいよぉ」
「分かった。あとでやっとくよ」
「マジでさ、めっちゃ疲れたんだよ」
「これ作るのに?」
「そう!椅子を反対にしてさ、足2本をグルグルさせてさ、50回くらい巻けって。最初はまあ余裕かな~とか思ってたけど、必要な数と作る人が合わないあわない。先輩が何人か助っ人連れてきたんだけど、まあ結局3日くらいかかったわけ」
足2本をぐるぐる……?椅子を反対にしたということは座面が下を向いていて、テープを足に巻きつけた、という意味か?この「チアリーダーの人が応援をするときに両手に持っているアレ」ことポンポンと呼ばれるものの作り方を説明しているのだろうが、生憎、彼女の説明を受け付けられなかった。
「壱華ってさ、応援披露はやるの?」
「え?」
「あれ、練習してるやつ」
「……あぁ、校長の前で披露するやつ?やるよ。全員参加でしょ」
「よかったぁ。写真部だからカメラ優先かとおもってた」
「カメラは余裕のある時だけだよ。たぶん、披露するときはプロは撮ると思うよ」
「そっかぁ。じゃあ、ダンスするところは壱華に撮ってもらえないのかぁ」
「撮れないね」
そこを撮って欲しかったのか?だとすると、最初から無理なお話だったということか。
「まあ、競技中の応援とかは撮れるから。1年生競技以外ね」
「うん……。おねがいね」
萎れてしまった。こんなに分かりやすく花弁が散る様子が似合う「残念」は初めてみた。
残念がられたところで、状況が変わることはない。あたしにはどうすることもできない。
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「かじわら!部活いこ!」
「はーい」
今日は部員を集めて体育祭前の打ち合わせをすることになっている。
先輩曰く、撮影をする際のルールや注意事項の確認をする形式的なものだそうだ。
どうせ、他の人の邪魔になるようなことをするな、とか。自分の競技が最優先だ、とか。そんなとこだろう。
「明日ってさ、早く帰れるのかなー」
「ん? あぁ、予行練習だけだからってこと?」
「そうそう。応援団とかはさ、やることあるんだろうけど」
「みたいだよ。友達が、明日は一緒に帰れないって」
「写真部ってなにかあるかな」
「それを含めての今日の部活でしょ」
「そっか」
話しながら部室に向かうと、部室の扉は開けっ放しになっており、ひっきりなしに人が入っていく。
靴ひもを見れば、3年生の人もいることがわかった。
今日の話は学年関係なく外せないことになっているのだろう。
部室に入ってみれば、なんとなく同じ学年の生徒が固まって椅子に腰かけているようなので、それに倣って1年生の集団に混じった。
座り方は普段の部活でも似たようなものだ。入部したての頃、どこに荷物を置いていいかも分からず、大きくスペースがあった場所に、同じ1年生たちが荷物をおき、近くの椅子に座っていった。恐らくは、毎年同じことが起きているのだろう。空いているスペースが入学生によって移動しているだけだ。
だが今日は違う。みんな、校内では使用禁止のスマホを操作しておらず、今日の課題を開いているわけでもない。よくある光景なのに。
「これで全員?」
「はい。先生、お願いします」
練習会でお世話になった部長が誰かと会話してる。
顔を覚えていないあたしでも、役職が瞬時にわかった。
「はい、顧問です。今日は明後日にある体育祭での写真部の撮影について説明します」
そうか。体育祭が近くなって、たぶん顔も知らない先輩たちが説明のために教室を出入りすることが多かった。先生が説明するのではなく、生徒が動いて運営を行うものだと刷り込みがあったが、この部室に部活顧問が来る珍しい行事が、今だったのか。
部室に入って、服装が違う人がいるのに、すぐに認識できないあたしって、注意力散漫すぎやしないか?
「基本的には、競技が優先です。同じ学年の人は撮れないと思ってください。それ故に、違う学年の人を積極的に撮りに行きましょう。学年が違う人同士、互いに写真を撮っていくことになります」
予想通りだ。あたしは一年生を撮れない。もしかしたら応援団だけとか、競技もやることもない手持ち無沙汰な時に撮れるかもしれないけど。
「ただ、毎年最後の方にある『学年代表リレー』は競技に参加する人数が少ないかつ、参加する生徒が運動部がほとんどなので、キミ達の中にリレーの参加者がいない限り、学年関係なく撮れる絶好のチャンスです。リレーの選手でも良し、それを応援している人でも良し」
学年代表リレー。まあ、中学であろうと高校であろうと、そういう類の競技はあるもんだよな。万年文化部、どんなに過大評価されても運動神経は中の下、体育祭ですら億劫になるような貧弱やっているあたしに、リレーなんていうイベントはここから東京までいけるくらいは遠い存在。
なんならこの説明会も早く終わってくれとしか願っていない。
「決して競技の邪魔はしないように。たまに、カメラを覗いたまま近づいていく生徒を見かけるので、誰かと一緒に行動することを強く勧めます」
早く終わってくれ~。早く終わってくれ~。早く終わってくれ~~。
「説明は以上です。質問はありますか?」
良し来た。本当に質問があったとしても、この静かな空気をぶち壊す勇気を「空気が読めない奴」と称される暗黙の了解によって、数秒の沈黙は「話の終わり」を意味している。
「……はい。では、明後日の体育祭頑張りましょう。後はいつも通りの活動なりしてください」
よっしゃ。あの沈黙を破る先生には多少同情するが、あいにくあたしはそれを肩代わりする甲斐性を放り捨てたんでね。
「かじわら、帰る?」
「課題しようと思ってたけど、部活すんのかな」
「そもそも運動部が活動してないんじゃない?たしかさ、グラウンド整備とかなんか、あれ、設営とかするんでしょ」
「あ。そっか。練習できないか」
明日は晴れたら1日中、体育祭の予行練習になっている。それまでに先生たちや体育祭を運営する生徒たちがいることになる、運営本部としてのスペースの準備などが必要らしい。
運動部はこういう時に設営やグラウンドの準備に借り出されるらしいが、万年文化部のあたしには関係のないことだ。
藤くんは巻き込まれたのだろうか。運動部の総人数は分からないが、単純に考えて全校生徒の半分がグラウンドの準備をするのは、どう考えても邪魔だろう。
「……ん?先生、もう出てった?」
「うん。通知チェックしてた」
八乙女ちゃんが堂々とスマホを見ていた。校内はスマホの使用禁止が校則としてある以上、先生の目というのは意識していないといけない。
それじゃあとスマホの電源をつけた。生徒の中にはマナーモードにしておいて、すぐに見られるようにする人もいるらしいが、もし音がなってしまったことを考えると面倒この上ないので、あたしは電源を切っておく派。
「えっと……あ」
「なんかあった?」
「……応援団の友達からメッセージ来てた。明日明後日忙しいから、借りてたもの返したいだって」
「あぁ、OK。部室に帰ってくる?」
「どうしよう。……あ」
もう一度スマホを見る。更にメッセージが来たようだ。
「……そのまま帰ろうかな。なんか天気微妙だし」
「チャリだもんね。分かった、バイバイ」
物分かりというか、気遣いができる友人は持っておきたいよな。心の中で感謝しておいて、荷物をまとめて部室を出ていく。はぎの先輩が「ばいばーい」と手を振ってきてくれた。軽く会釈して、足早に部室を出ていこう。まさか、向こうから話を振ってくるなんて。
「あ、柏原さん」
「え、はい。」
声をかけられた、誰だ?
「もう帰るんだね」
「え、あ、はい。まだ連絡とかありますか?」
部長だ。そっか。顧問の先生と一緒に部室を出て、どこかにいって戻ってきたんだ。お勤めご苦労様です。
「いや、ないんだけど……」
ん?連絡はないけど、帰ることを確認してきた?どういうことだ?
「あの、友達と待ち合わせしてて、その、連絡したら分かってくれると思うので、戻りましょうか?」
「あ、いや。大丈夫。待ち合わせ、優先して」
「そうですか。ありがとうございます。」
一礼してこの場を去ろう。急ぎの連絡じゃないなら、八乙女ちゃんか、明日にでも聞こう。
連絡してきたのは藤くんだ。今校門前にいて、話したいことがある。というのが1つ目のメッセージだ。
何か作戦に進展があったのか、今までのメッセージの履歴を見ても、作戦のことでしかやり取りしないから十中八九作戦のことだ。
というか、グラウンドの設営準備に参加していないのか。いつも部活があるのに今日は暇だから、今までのことを整理するために呼んだ?
推測を並べても無意味なことくらい分かっているが、このメリットで繋がっているだけとしか言えない、友達の前では友達と呼ぶが実際はそんなに仲良くもない、そもそも他の人に「どうやって知り合ったの?」を詳しく説明できない、この関係性の人からの呼び出しを考え続けることはおかしくないと思う。
えっと、靴、靴。おっと、勢いよく落としてしまった。履きやすいように向きを変えて、下駄箱の扉を閉めて。出入口にはそれほど人はいない。ジャージ姿で走って来る生徒もいるけど、あれは設営準備をしている人なのかな。
たしか、校門前にいるって言ってたよな。どこだ?後頭部で人を見分けられるなら今まで苦労してないって。
「あ、こっち」
一人振り返った男子生徒。あたしが小走りで来たから、足音が聞こえやすかったのかな。
「いきなり連絡なんて、どうしたの」
「えっと、ここじゃなんだから場所移したいんだけど、どこがいい?」
「じゃあ、海は?」
「いいね。自転車取ってきた方がいいんじゃないかな」
あ、藤くんを見つけることに集中して自転車の存在が抜けていた。
「持ってきます……」
間抜けだなぁ。なるはやで取ってくるぞぉ。
今朝はこのあたりに止めたから……あった。鍵あけて、カバンをカゴに入れて、よいしょ。
そんな遠くはないけど、人を待たせているという焦りから自転車に跨って漕いでいく。
「お待たせ」
「早いね。じゃあ行こっか」
藤くんも自転車に跨ったことを確認して、あたしが先導して海に向かう。天気予報で曇りのマークが連続していることは朝に確認済み。微妙な天気であることに嘘はない。だぶん、雨が降らない。これは勘。
順調に海まで走っているし、同じ制服を着た人には会ってない、はず。




