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心がわかるDKとわからないJK  作者: 碌寺紫葛
第2章 体育祭前~合コン後

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第10話 気づいてほしい高校生たち

心がわかるDKとわからないJK

第2章 体育祭前~合コン後

第10話 気づいてほしい高校生たち

「まだ雨降ってる。今日は無理か」

「このまま体育祭中止になれー」

「練習会楽しそうにやってるのに?」

「ジリジリした日差しが嫌!長時間外にいたくない!ただし友達とワイワイできるならOK!」

「体育祭というイベントは好きじゃないと」

「正解。1ポォイント」


いつから八乙女ちゃん理解クイズが始まったのだろうか。

 最近は体育祭の準備や練習が放課後に入り込み、練習会は開かれても初回ほどの時間は取れていない。ましてや今日は雨が降っている。グラウンドは使えなくなり、いつもなら外で活動している運動部も体育館や空き教室付近の廊下などを使っている。

そんな中で写真部が「練習したいんです」とせめぎあっているスペースを割って活動を行える余裕はどこもないだろう。

 つまり今日の部活に顔を出してきた部員は、部室としてあてがわれているこの部屋で駄弁っている。もしくは、顔を寄せ合って課題をこなしている。あたしは駄弁っている側だ。


「かじわら」

「なに?」

「かじわらって体育祭楽しみなん?」

「うーん。どっちだろ」


楽しみ?体育祭を楽しみにしているか? どうなんだろう。


「中学のときは特に感じなかったな。日焼けするなとか、月曜日は休みだなとか」

「体を動かすのは好きではないってこと?」

「体育のことを言ってるなら嫌いな方。秋に長距離走があるって聞いて萎えてる」

「分かる。マジでヤダ」

「でも、前に友達何人かと遊びでバドミントンやった時は『辛い』とかなかったな」

「それな!ゆるく遊ぶのは楽しい」


 体育という授業のためにある程度の規定を設けられて、暑いときも寒い時も、厳しい先生に見られながら行う運動を楽しいと感じられる人間ではない。だから規定がない、遊ぶ環境を選べる場合だと楽しむ余地が生まれるのかもしれない。


「結局は強制されるから楽しくないんだろうなー」

「体力をつけるとか、チームワークを経験するとか、高尚な目的があるのはいいとしてさ」

「うん?」

「なんであんなに体育の教師って、こう、厳しい教え方になってしまうのかは、話し合う余地はある気がする」

「サボらせないように?」

「逆効果でしょ。厳しい授業から抜け出したいからサボるんじゃないの?」

「たしかに。まー、抜け出したことがバレたらヤバい環境を作るのは対策としてあるんじゃない?」

「根本的な解決ではないよね。サボる人がいるから、全員を対象に締め付けるって」

「サボる人は悪いとは思うよ?でも、教師は1人か2人でしょ?生徒は少なくても数十人なわけじゃん?漏れを把握するのは大変だから、あらかじめ罰を用意しておくのは効率的じゃない?」

「あぁ、した人のみを対象にするんじゃなくて、させないようにするために全員に課していると?」

「そうそう。そうしなきゃ先生の負担が増えるんじゃね?」

「……結局はあれか。授業態度が悪くならないようにと、担当教師が少ないから起こってしまっている可能性か」

「まあ、もっと単純な理由かもしれないけどね」

「例えば?」

「……威張りたいだけ」

「それだ。これあげる」

「なんで!?」

「面白かったから」


 手元にあったチョコ菓子を1つ八乙女ちゃんに渡す。渡されたお菓子はすぐに口の中に放り込まれ、おいしく頂かれた。


「暇なひといるー?」


 元気な声が部室としてあてがわれた教室に響いた。

声の主は最近写真部の中心に立っていることの多いはぎの先輩。教室の扉をガラッと開いて、部員全員に届くように大声を出したんだろう。


「応援団の練習を撮っていいって!」


 快活という言葉を体現したような、そんな言い方だった。


「北体育館で練習してるらしくて、そこの練習風景の撮影許可もらってきた!暇な人一緒に来て!」

「かじわら、どうする?」

「行こうかな。このままだと駄弁るままだし、友達が応援団やってるから、その練習にもなる」

「そうなんだ。じゃあ練習しよ」


 八乙女ちゃんもカメラを用意し始めた。あたしの友達のことを言っただけなのに一緒に行こうとしてくれた、ということになるが、人数はそれなりに多い方があたしだけが注目されることもないだろうし、単純に活動できると意気込んでいるんだろう。


「柏原ちゃん!よかったら応援団に……もう準備しているね」

「はい。実は友達が応援団してて、きれいに撮ってて言われてるから」

「おぉ真面目だねぇ。3年の先輩たちは来れない人多いらしいから、今日はほとんど個人練習みたいなものだけどね」

「いえ。練習する場を設けてくれただけで有難いです」

「柏原ちゃん…っ」


 なんでそんなに喜んでいるんだろうか。これはあれか?良い後輩の行動を目の当たりにしたからか?それともあたしがそんなに真面目だと感じたのか?


「よし。準備できた人はついて来て!北体の中では他の人に邪魔にならないように気を付けてね」


 はぎの先輩について行くのは5,6人程度。まあ、そもそも写真部自体がそこまで人数が多くない。急に、しかも1年と2年から行動力のある人と言ったら妥当な人数だろう。

そういえば、どこの応援団の練習を見れるのか聞いてなかった。まあ、練習なんだし、どこでも問題ない。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ワン、ツー、スリー、フォー!」

「「ファイブ、シックス、セブン、エイッ!」」


 高校指定の体操服で、リズムをとりながらダンスの練習をする男女が2グループほどいる。

体育館の半分を仕切って、片方が応援団、もう片方がいつもここを使っているんだろう部活が使っていた。

 入り口側の半分を応援団が使っていたからか、応援団の練習を見るために、隙間を通るとか、何かに配慮するのも最小限で済む配置だった。


「友達いた?」

「いた」

「どこ?」

「あっち、手前から数えて3番目」


 体育館の入り口に対して垂直になるように、人の横顔が見えるように列が作られたグループ。そこに友達がいた。同じクラスの、カレシのことばかり考えている、あの子。


「へぇ。もう振付覚えてる感じかな」

「うん」

「なんかさ、私たちも簡単なの踊るんでしょ?これ踊らされなくてよかった」

「うん」


 それは思った。今流行っているアップテンポな曲を流しながら、軽快なステップを踏んでいる応援団たち。これと同じことをしろと言われた日には、1カ月あっても上手く踊れる自信はない。


「……かじわら?」

「へ、なに」

「なんか、お手本みたいな気が抜けた返事だったけど」

「あ、あぁ。そう?」


そうか。なにかに集中でもしていたんだろうか。


「ぼっちじゃないとは思ってたけどさ、よりにもよってかわいータイプだとは思わなかったよ」

「みーとぅー」

「え?」


 不思議だろう。友達と紹介し、今まさにその友達が一生懸命に応援団の練習をしているというのに。なぜ自分はその友達と友好関係を築けているか分からないと言ったのだ。そして、これがその友達に聞かれていないことを願うくらいの臆病さがあることを実感した。


「よくわかんない。中学は一緒だった。でも一回くらいクラスの席が近くなった程度。部活とかで仲良かったとかもない。でも、今はクラスが一緒の友達」

「あぁ。そういうこと」

「わかる?」

「高校入って、同じクラスに知り合いがいなそうで、でも中学が同じ人を見つけたから仲良くなった。なるへそ」

「……そういうものかな」


 気の抜けた返事をしてしまった理由がわかった。よくわからないまま友達という枠に収まっている人は、カレシのことしか考えず、趣味が合うわけでもない、考えを理解できない部類にすら入る。でも今、目の前で、その人は真剣に練習をしていた。写真を撮るという口約束はしたものの、適当にやっている姿を撮らなきゃいけないのかと思っていたのに。


「……練習、しようか」

「そだね。せっかく場所を用意してくれたもんね」


 雨のせいでそもそも体育館が運動部に占領され、それぞれの活動範囲が狭くなっているところに、体育祭の応援団がダンスの練習をしていて、さらにそこに写真部が入り込んだんだ。壁際を歩いて、練習の邪魔にならないように動きは最小限に。

 良い撮影ポイントなんて限られているから、数か所に写真部が密集している状態だ。今更場所を変えたところで練習している人たちの邪魔になってしまう可能性がある。

だったら大幅に場所を変えずに、良い写真を撮ろうとせず、なにかの写真を撮る練習をしよう。ここで撮ったものを提出するわけでもない。

 そうやって30分ほど練習した。良い写真が撮れたわけではない。ブレなかったとか、眩しくないとか、狙ったポーズを撮れたとか、そういう基礎的なことだ。この前部長に教わったことを復習したようなものだ。


「よ。今日も集中してる?」

「あ、先輩」

「柏原ちゃんと八乙女ちゃん。そろそろ帰ろう。始まった時間が遅いし、ここから帰って片付けないと」

「わかりました」


 元々入り口に近いところに立っていたから、あたしたちが歩き出して写真部が北体育館から撤退する形になった。

体育館の雰囲気を脱すると自然と雑談が始まる。他愛もない会話をして、部室に辿りつき、片づけをし終わっても閉校時間まで余裕がある。

 サイズが小さい飲み物を飲もうと自販機に寄り、八乙女ちゃんは先に帰り、一人で小さい飲み物を飲む時間を過ごす。


「……作戦」


 ぼそっと声に出してしまった。また今日も忘れていた。まあ、藤くんが毎日できる余裕があるかと言われると絶対にうんとは言えない。まあ、毎日しなくてもいいっちゃいい。

一人は見つかったわけだし、他に誰も見つからなくてもその人を特定する方向に移行すればいい。

 別のタイミングで同じ人を見つけたら特定もしやすくなるだろうし、同じ学校に自分のことを好きな人が3人いれば多いだろう。そもそも1人いただけで収穫がある。


「だれ、なんだろうな」

「だれって?」


 独り言を言っていたはずが、返事が来て驚きを隠せなかった。


「壱華、だれ待ち?」

「いや、これ、飲んでた、だけ」

「そお?あ、ねぇねぇ」


 よかった。これは自分が話したいことを一刻も早く言いたいときのあれだ。


「練習見に来てくれたでしょ!」

「あ、あぁ。うん」

「来ることは知ってたけどさ、まさか壱華だとは思わなかったよ」

「あたしも、まさかダンスの練習しているところ見れるとは思わなかった」

「どお?いい感じで撮れた?」

「いや。まだ練習中だし、ていうか初心者だし」

「カメラあるんでしょ?見せてよ」


 見せられるが、めんどうだ。カメラケースをカバンから取り出し、ケースからカメラを取り出し、スマホより小さい画面を肩を寄せて共有するのは面倒と感じた。一瞬で感じた。


「カメラしまっちゃったし、取り出して、見せて、片付けまですると時間ギリギリになるかも」


 本当っぽい嘘。恐らくは余裕で間に合うが、閉校時間に間に合わない可能性を示せば、電車通学しているこの子には効くだろう。この田舎で電車を逃すことは問題になるはずだ。


「そっかぁ。じゃあ明日見せて」

「明日は部活ないから持ってこない」

「じゃあ次写真部がある日に見せてねぇ」


 ここまで言われれば見せるしかない。今日帰ったら写りが悪すぎる写真を削除しておこう。見栄えをよくしておこう。


「わかった。今度ね」

「よし、帰ろ」

「はいはい」


 あと少しだけ残っていた飲み物を勢いよくストローで吸い、小さく畳んでゴミ箱へ。


「あれ?3年生?」

「ん?」


 分かりやすく指を指した先には、生徒の集団があった。

中学校からの癖で、知らない生徒が目の前に来たら真っ先に靴を見る。高校でも学年によって靴ひもの色が違うから、自分の学年の色でなければ先輩であるからだ。


「たぶん、そうじゃない」

「なんかの文化部かな?帰り?」

「……同じ学年の人だけだね」

「え?」

「みんな靴ひも同じ色。部活だったら色んな色が混じってるんじゃない?」

「たしかに」


 同じ部活であろうと、同じ学年の友人と喋りながら玄関に向かっている可能性もある。だが、どの人の区切りであろうと同じ色の靴ひもをしている。

おそらくこれは、どこかの学年の集団。仮に3年生であると仮定するとなれば。


「受験関係で何かある、とか?」

「放課後にあるやつ?」

「かもね」

「うわぁ。部活終わったらこれあるのかぁ」

「それくらい勉強しなきゃ、受からないんでしょ」

「いやだぁ。勉強したくなぁい」


 大声で喋るなと心に留めながら、家に帰るために靴を履き替える。今日は雨が降っているから自転車は使えなかった。上手く連絡がつけば母に迎えの車をお願いできるだろうが、ここはまだ学校内。スマホを使っているところを見つかれば、先生に没収されてしまう。学校の敷地から出て使うのが賢明だが、雨脚が強い。傘で片手をふさがれながら、濡れないようにスマホを使うのは難しそうだ。どうしよう。


「壱華。帰りどうするの?」

「どうしよう。近くのコンビニによって連絡してみようかな」

「そっか。ウチはカレシと帰るからじゃあね」


 はい、知っていました。どうにかできないか解決策を考えるとか、一緒にコンビニまで行くとか、友達間で発生しそうな優しさはこの子にはない。まあ、一緒に来たところで何を話せばいいかわからないから、いらない助けではある。


「じゃあね」

「カメラ忘れないでね!」


 持ってくることは忘れないだろうから、見せてとお願いされれば見せることになるだろう。そっちが忘れている方が可能性は高い。経験からの推測だ。


「マジでどうしよう」


 帰りは一人。言った通り、コンビニに寄って連絡を取ったら、小さめのお菓子でも買って待っていようか。


「柏原さん」


 小さい声が聞こえた。


「あ、部長」

「部活終わった?」

「はい。友達と話していたので、他の部員はもう帰ったと思います」

「そ、そっか」


 あの生徒の集団にいたのか。じゃあ本当に3年生の集団で、放課後の補習の帰りだったということか。


「雨、降ってるけど、帰りは大丈夫?」

「あ、それが少し迷っています。母を呼べればいいんですけど、スマホ取り出さないと」

「案外この玄関先で使ってる人いるよ。手っ取り早く連絡だけしてみたらどうかな」

「そうなんですか……」


 先輩の経験則からのアドバイス。参考にしておきたいが、悩みどころだ。一応玄関や下駄箱の周辺に教師がいないか確認をする。


「ボクでよければ、壁になるよ」

「いいんですか?」

「無事に帰ってほしいから」


 それはありがたい。でもお友達と一緒に帰ったりしないのだろうか。でも、早々に連絡を取りたい。


「じゃあ、お言葉に甘えて」

「はい」


 部長は教師が使う出入口側に立ち、学校の中からもあたしが見えないように壁になってくれている。

先輩の気遣いに感謝しつつ、スマホを取り出す。電源をつけてみれば、数分前に母からメッセージが送られていた。迎え行けるよ、とすでに車を出すつもりだったようだ。甘えよう。素早く「校門前にお願いできる?」とメッセージを送る。

 あとは音をなし、でもバイブレーション機能はつけて、スカートのポケットに入れておけば、メッセージが来たことは分かりやすくなる。


「ありがとうございます。連絡できました」

「早かったね」

「母が迎えに来るつもりだったようです。校門を出たところと連絡したので、傘さして待ってます」

「うん、わかった」


 傘を開いて、カバンを持ち直す。最大限濡れないような恰好をして歩き出す。


「部長はおひとりで?」

「え?うん。今日の補習は仲良い人いなかったから」

「補習だったんですね。お疲れ様です」

「あ、ありがとうございます」


 丁寧にお礼を返された。なんか、間合いが掴めない人だ。


「もう大丈夫?」

「はい。あとは待つだけですし。色々ありがとうございました」

「いいよ。じゃあ」


 部長も傘を開いて、一足先に歩き出す。男子だからだろうか、自分の歩くスピードより速く校門まで進んでいく。

 校門前はあたしと同じように、帰りの迎えを待っている人でごった返している。

少しわかりやすい場所に立っておこう。



「……一歩、進んだのかな」

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