第1話 心がわかるJK
心がわかるDKとわからないJK
第1章 中間テスト前
第1話 心がわかるJK
「やっぱり当たるよね!壱華すごいよ」
目の前の友達は、手にしている紙パックのジュースを握りしめながら興奮している。
「どうして分かるの?なんかこう、わかりやすいことしてた?」
「いや?そういうわけじゃないけど」
「やっぱりカウンセラーになれるよ。だって、人の心わかるんでしょ?」
カウンセラーってそういう職業だったっけ?そんな職業あってたまるか。
「この前のさ、ウチのカレシのことだって当たってたし。そりゃ2カ月だよ?でも怒るポイントわかんないんだよね。いっぱいデートしてるのに」
「……女子と男子じゃ、違うこともあるんじゃない」
「壱華だって女子じゃん」
自分でもめちゃくちゃなことを言っているのは分かっている。
「まあまだ1年だし、他の人探してもいいよね~。他校の人とか狙いたくない?」
「どうやって知り合うの」
「友達とか、部活とか、合コンとか?バイトが一番ありそうだよね」
意外と現実的な選択肢を出してくる。
「でも、うちの高校ってバイト禁止じゃなかった?」
「そこなんだよー!!!なんでそんな高校選んじゃったのかな」
「中学の時の説明会で言ってなかった?」
「え、あった?なんで教えてくれなかったの」
「寝てたほうが悪い」
入学したときに同じクラスの隣の席だったからか、実験のグループが一緒になったか、中学では大した関係はなかったが、入学した高校が同じでクラスも同じだったため話すことが多くなった目の前の友達。
基本的に調子がいい。いい意味でも悪い意味でも。
「壱華はカレシつくんないの?もう5月だよ?」
「あーいいや。テストあるし」
「テスト終わったら?」
「夏休みってこと?なんも予定ないな」
「え、じゃあさ、カラオケとかどお。KPOPくらいは分かるでしょ?」
流行りのものくらいはわかる。いくら好きなものがない自分でも、SNSを見る時間くらいはあるから。
「なにすんの?」
「何人か友達よんでさ、遊ぼうよ。壱華は来るだけでいいから、適当に、ね?」
「……いいよ。なに?本当に合コンでもする気?」
「よくない?ウチとカレシで人呼ぶから」
カップルが主催する合コンってなに?まあ、数合わせだし、いいか。
「よし、まずはテスト乗り越えよう!赤点回避!」
「赤点回避」
やっとお昼ご飯を食べ始めた友達に付き合ってたら、昼休みはあと僅かになっていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
眠たくなる気持ちを抑えながら授業をこなし、今週は3階の廊下を掃除しなければいけないため、荷物を持って階段を上る。
自然と役割分担がされていたため、昨日と同じくほうきをもって目につく埃を集めていく。
掃除中は下を向いて作業をするのと、テスト期間に入ったからか机に向かう時間も多くなり、多少は首が痛くなる。
1周だけと首を回しているといつもは誰もいないのに、男子生徒が壁に寄りかかって立っていた。
「………」
こちらに気づかず何かを読んでいる。
そこも掃除の範囲ではあるが、まあ1日くらい掃除しなくて問題ないだろう。明日忘れずにやろう、と作業を続行した。
「お疲れ様でした」
監督の先生からチェックを受け、終わりの号令をすると生徒たちはぞろぞろを階段へ向かう。
荷物を持ち、早々に学校から出よう。
「そんなにハマった?よくね?それ」
「うん。めっちゃおもしろい」
「テスト勉強中に読みたくなって、昨日ずっと読んでた」
「おれも巻き込まれたってこと?」
男子たちの会話が聞こえる。片方はさっき階段のところで立っていた生徒だ。
同じクラスではなさそうだから今日だけ待ち合わせをしていたんだろう。じゃあ明日は掃除できるな。
「壱華ー!」
「?どうしたの」
「テスト期間は部活ないし、一緒に勉強しない?さっきコンビニ行って色々買ったし」
「あーいいよ。飲み物買ってきていい?どこでやる?」
「適当に教室いこうよ。ウチか、隣で探そうよ」
学校から出ても図書館とか、公共施設の勉強スペースに行くつもりだったし、教室でも変わりないか。
「ほかに誰か呼んだ?2人だけ?」
「カレシが何人か呼ぶって。女子呼んでって頼まれたから」
「それで、あたし?」
「うん。女子でしょ?」
この子はそんなにあたしを数えたいのか。時々不思議に思ってしまう。
1階まで降りて自販機で手早く飲み物を買い、自分の教室に戻る。何の教科を勉強するのか考えながら、友達のそのカレシさんを見つける。
「おまたせ。場所決まった?」
「うん。隣で6人かな?何勉強するぅ?」
「課題多いのは数学だし、地理は暗記だし、化学基礎は何していいかわかんない」
「壱華は数学得意じゃん。教えてよぉ」
確かに中学のとき一番点数がよかったのは数学だけど、高校はレベルが違う。正直、平均点より高い点数をとる自信はない。
「なに?数学得意なの?」
カレシさんが話に加わった。1回?2回か?話したことある程度だ。
「何やるぅ?あ、期間限定のやつ買ったの。いっしょにたべよっ」
「あー、うん。食べよ」
予想してはいたが、勉強会という名前のお茶会なのに、お菓子が手元にない。
「あたしもなんかお菓子あったほうがいいかな?」
「いいよいいよ。誘ったのこっちだし。壱華も一緒に食べようよ」
「ありがと」
気が利くのか、この機会を壊されたくないのか、どちらでもいいから乗せられておこう。
「掃除終わったから入っていいぞ」
「おじゃましますぅ」
教室の掃除が終わり隣の教室にお邪魔する。自分たちの教室と同じ構造のはずなのに、違う雰囲気を感じるのは、高校でも同じか。
6人と聞いていたが実際は7人だった。
机を合わせた男子3人、女子4人がそろった。内2人は他5人をお構いなしに話している。
正直クラスの内訳もわかっていない。そもそも顔を覚えるのが苦手だし、自分のクラスメイトを全員言えるか不安なくらいには、自信がない。
「よろ~」
「おじゃましまーす」
友達のカレシさん以外の男子たち、この雰囲気に見覚えがあるなと考えた瞬間に思い出した。さっきの掃除の時に、待ち合わせに来た男子と待っていた男子だ。帰ったんじゃなかったのか。まあ、どちらでもいいか。
「マジで課題多くない?聞いてないんだけど」
「高校って楽しいもんだって先輩から聞いたのにね」
「だまされた~」
初めての高校の定期テストで不安と、何とかなるだろうという謎の余裕が混ざっている。
「あ、君が壱華ちゃん?」
「え、うん。そうだけど」
恐らく、今借りている教室で普段勉強しているであろう男子が声をかけてくる。
「あいつから聞いたんだよ。なんかすごいって」
彼は今仲良しこよししているカレシさんを指さしながら、曖昧な内容を繰り広げる。
「あれでしょ?人の気持ちがわかるんでしょ?」
この言葉を皮切りに、お茶会に参加している全員の視線が向けられた。
「あ、誇張されているね。別に、気持ちがわかるわけじゃないよ」
「壱華はウチの悩みを一発で解決したよ!男子の気持ちも分かるの!すごいでしょ!」
すごいでしょって、あたしはあんたの所有物か?
「可能性の話をしただけだよ。こう、状況を整理して?なんていうか、その」
「え、じゃあ。今の俺も気持ちもわかる?」
曖昧な内容を繰り広げ続けるこの男子は、席から身をのりだして、こちらを向く。
「……なにを当ててほしい?」
「え、今俺がどう思っているか?」
「……いつの間にか課題が全部終わってくれないかな」
「当たり!!」
当たっちゃうか、そっか。適当にやったんだけど。
「すごいじゃん!聞いた通りじゃん」
「ここの生徒の8割はそう答えると思う」
「当てずっぽう?」
そこで使う頭を今手元に広げている問題集に向ければよろしいのではないでしょうか。
「そりゃあたしも思ってたことだけど、テスト赤点回避より、課題どうにかしたいのかなって、こう……直観が?」
とか考えているあたしも余計な頭を使っている。
「ま、問題集とか自主勉ノートの提出とか、色々あるもんね。自主勉なんだから勝手にさせろって感じ」
気を使われたのか、話題がつまんないのか、女子の1人が流れを変えてくれた。助かった。
「ここわかんなぁい。しってるぅ?」
「えっとね、こーじゃね?」
付き合っているもの同士で仲良くやってくれ。あたしは少しでもお茶会を楽しむんだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
お茶会のお菓子は1種類ずつ食べた。いっぱい食べるよりたくさん種類を食べたい派だ。
「今日はおつかれー、また明日ね!」
主催者の友達はカレシさんと腕を組んで帰っていった。2人とも電車通学のはずだし、駅まであの調子だろう。早く帰りたい。
「おつかれしたー。あたしチャリなんで」
「バイバーイ」
「またねー」
またね、ってまた気持ち読むとかどうとかさせるつもりかよ。顔覚えなきゃ。逃走用に。
さっさと帰りたい。さっきまでお茶会してたから、さすがに家に帰って勉強しなきゃ。
「……あ……あの!」
声が近くなる。高校に入ってからは、低い声の主は大抵男性に絞られる。
振り返ると予想通り男子が小走りしてこちらに向かっているが、顔に見覚えがあった。
「どうしました?」
「あの、電車通じゃないんだよね」
自転車で駅まで行くことを考慮したのか?なんで電車通学か確認してきた?
「ちがうよ。チャリ通」
「よかった。時間ある?」
「え?」
「門限とかある?問題なかったら、その、少しだけ話したいんだよね。ポテトとかジュースとか頼んでいいよ、おごるから」
この人、もしかして掃除のときに立ってお友達を待っていた人?お茶会にもいた?
なんで、あたしを選んだんだ?暇そうな女子はまだいるし、校門の向こうにもいるのに。
「あー……いいけど、そっちもチャリ?」
「うん。時間も大丈夫」
「じゃあ、ジュースだけでいいや」
「やった。ありがとう」
何を喜んでいるんだろう。すごく薄い可能性だけど、これは罰ゲーム?そんな漫画みたいなことあるか?ないな。だとすると、あたしの何かに興味がある?
シンプルなのは「カノジョがほしくなった」。話しかけられそうな女子に目をつけたとか?
「向かうけどいい?なんかあった?」
「あ、ううん。一応お母さんに連絡する」
「OK」
これに嘘はない。スマホを探して連絡をいれておく。友達と勉強して帰る、と。
「待たせた、ごめんなさい」
「大丈夫、大丈夫。行こうか」
自転車のかごに弁当用バッグを入れて、自転車に乗る。男子のいる方向を見ると、男子がこちらを振り向いたせいで目が合う。アイコンタクトできたのか男子がペダルに足をかけた。
行くことに問題はなく、テスト大変だねとか、部活なに?とか基本的な質問が飛んでくる。
なんで?とか考えているくせに、誘いは断れないのが自分の嫌いな所。
質問に答えながら目的地にたどり着く。高校生御用達のファストフード店でジュース2つとポテトを頼んで席につく。同じ高校の人はいなそうだ。よかった。
「おれがポテト頼んだけど、食べたかったら食べていいから」
「あ、どうも」
「アイスティーだよね?」
「うん。シロップもらってくる」
「いってらっしゃい」
最後まで聞かずに席をたつ。注文を受け取る窓口を覘いてシロップがあることを確認すると1つ手に取り、ついでに紙ナプキンを2枚とっていく。
「はい。適当に使おうよ、これ」
紙ナプキンをお互いの真ん中に置く。ありがとう、と聞こえた気がする。
「いただきます」
「……いただきます」
行儀が良い。同世代の子と比べると、ないがしろになりやすい挨拶は忘れないようだ。
「できたてうま」
「……」
シロップを全部アイスティーに入れてストローで混ぜる。一口ためしに飲んで、好みの甘さになっていることを確認する。
「……で、何の用?」
「ん?何の用って?」
なんでそんなとぼけた声を出す。
「用があって声をかけたんじゃないんですか?」
「あー……うそ」
「え」
何を言っている、この人は。話たいからわざわざここまで来たんでしょ。
「うそ……じゃないけど、本当じゃない」
「なにそれ。あたしは話したいって聞いたからここにいるんですけど」
「うん、そうなんだけど」
「はっきりしてもらえる?テスト?ほかのなにか?」
通称「お茶会」の帰りだし、テストとか勉強関係で聞きたいことがあっておかしくないはず。いうて、あの会で活躍した覚えはない。
「うん。数学は苦手だから聞きたいし、さっき聞かれてたやつも興味ある」
「まあ、確かに中学のときは数学が一番点数高かったけど、正直高校はレベルが違う」
「そうなんだよね。これ以上難しくなると困るんだよ。受験とか色々考えるとね」
いたって普通の感性だな。高校のレベルに追いつきたい気持ちはわかる。でも、その前に確認しなきゃいけない。
「わかるところだったら答えるけど、その前に確認させて」
「はい、どうぞ」
「……なんであたしが数学得意だってことになってるの?さっき言ってた?」




