第92話「島を発つ」
前回までのあらすじ
レベルを上げたり、ジュエルを手に入れたりなどして強くなったユアたち。ディンフルもすっかり調子が良くなったため、久しぶりの五人旅を再開する。
ティミレッジに掛けられた闇の魔法陣も完全に消してもらい、闇堕ちの心配も無くなった。
一方で、失敗続きの上にアジトを失った三人衆はギスギスし、仲間割れをするほどになっていた。
北の古城。
アジュシーラが憎しみの表情を浮かべながら、王の間に来た。
中央の玉座には、組織の親玉・ヴィへイトルが腰掛けていた。
「失礼します」
アジュシーラは目が据わりながらも、丁寧な口調でヴィへイトルへ声を掛けた。
「お前から訪ねて来るなんて珍しいな、アジュシーラ。何か用か?」
「ヴィへイトル様にぜひ耳に入れていただきたいことがあり、参りました」
ヴィへイトルが妖しく笑いながら部下を迎え入れると、アジュシーラは静かに言った。
「俺に聞いて欲しいこと? 何だ? ディンフルたちの新しい動きか?」
弟のディンフルが仲間を連れて歯向かっているのはヴィへイトルも既知だったため、一行の情報が来るものだと期待していた。
「いえ、レジー……レジメルスのことです」
「レジメルス……?」
だが少年が出した名前は、同じヴィへイトル一味の一人・レジメルス。普段は「レジー」と呼んでいたが、今回は敢えて愛称では呼ばなかった。
これには理由があった。先日、アジュシーラは彼から出撃の失敗をひどく責められた上に腹に拳まで受け、最後には「頭使えよ」とまで吐き捨てられた。
アジュシーラは恨みを抱き、盗み見た彼の過去をヴィへイトルへ打ち明けることにしたのだ。レジメルスのすべてを終わらせるために……。
◇
インベクル島。
ティミレッジの魔法陣も消え、ノティザの無事も確認出来たため、一行はインベクル王国へ帰ることになった。
フィトラグスも、弟のノティザとはまたしばらくお別れだった。
「おにいちゃん、行っちゃうの?」
ノティザが寂しそうな顔で尋ねた。
最初に城を発った時は、寂しくしていたフィトラグスを逆にノティザが励まし、元気よく旅立って行った。
ところが今の悲しそうな顔からして、あの時のノティザも寂しかったが兄のために堪えていたことが伺えた。
「ああ。お兄ちゃんはしなくちゃいけないことがあるんだ。ノッティーもしなきゃいけないことがあるだろう?」
フィトラグスは幼い弟へ目の高さを合わせながら、優しく説得した。
「また来てくれる?」
「また? それは難しいな……」
ノティザは今、王子になるための修行中。来春までは、どんな理由があっても家族に会ってはならないという掟があった。
本来、今回もフィトラグスはノティザに会ってはいけなかったのだ。なので、バレた時は国王であり父のダトリンドから目一杯怒られ、罰まで与えられた。
「でも、ノッティーが毎日一生懸命やってたら、時間なんてあっという間だ。それに、修行中は友達も出来るぞ。半年を過ぎると、同じ歳の子と触れ合う機会が出来るんだ。ノッティーは良い子だから、すぐに仲良くなれるさ」
「ぼく、オイラちゃんに会いたい」
フィトラグスが説得を続けるも、ノティザは「オイラちゃん」ことアジュシーラに会いたがった。
先日、彼はユアたちを妨害するために島へ来たが、ひょんなことからノティザと仲良くなってしまった。
アジュシーラの一人称「オイラ」を取って、初めは「オイラのお兄ちゃん」と呼んでいたが、最終的には縮小して「オイラちゃん」になったのだ。
ノティザが一行の関係者と知ったためにアジュシーラが彼を誘拐したのだと、フィトラグスたちは思いこんでいた。
「ノッティー。昨日も言ったが、もうオイラちゃんとは遊んではダメだ」
「どうして? オイラちゃん、やさしいおにいちゃんだったよ」
ノティザはアジュシーラを信じ切っており、兄の頼みも聞きたがらなかった。
フィトラグスは本当のことを言うべきか迷った。弟が言う「オイラちゃん」が悪いことをしていると知ると、子供心を深く傷つけると共に今後の修行にも影響が出るかもしれなかったからだ。
そこで、安心させるためにウソを言うことにした。
「オイラちゃんはもう自分の国に帰ってしまったんだ。次は、いつ島に来られるかわからないからさ」
これを聞き、ノティザは何かを思い出したような顔になった。
「そういえば言ってた。オイラちゃん、“りょこーで来てた”って」
「旅行か。だったら、なおさら会えないかもな」
フィトラグスは、内心ホッとしていた。
旅行なら次はいつ会えるかわからないため、小さな弟の説得も上手くいきやすいと思ったからだ。
最終的にノティザは納得し、来年の春まで王子修行を頑張ることを約束した。
修行を経て、早く城へ帰って兄や両親に会いたかった。同時に、馬に乗れるようになってアジュシーラへ会いに行きたいと思っていたのだ。
去り際、フィトラグスは胸を撫で下ろしていた。
ノティザが寂しがって泣きついて来たら、自身も行きにくかった。それがアジュシーラを口実に説得したおかげで無くなったからだ。
◇
王国へ向かう船の上。
島へ行く際、船酔いで苦しんだユアとオプダットは乗船前に酔い止め薬を飲んだおかげで、今回は酔わずに済んだ。
「いや~! 船旅は快適だなぁ!」
「島へ行く時は酔いつぶれてたでしょ……」
行きとは打って変わって元気なオプダットへティミレッジが苦笑いをした。
同じように前に酔っていたユアも、船から見える景色を堪能していた。
「気持ちいいな~。こんな快適な船は本当に初めてだよ」
「船はリアリティアにもあるのだろう?」
「あるよ。でも、遠足や修学旅行でしか乗らなかったかな」
「シューガク旅行?」
「最後の学年の時に行く学校行事だよ。学校にいる間はリマネスがいたから楽しめなかったんだ……」
ディンフルは初めて聞く学校行事を理解した後でリマネスの名前を聞くと、ユアがどれほど辛かったのかが手に取るようにわかった。
「あのリマネスと一緒ならな……」
そこへ、ユアが持つファンタジーフォンが鳴った。
前に掛かって来た時は女子寮のタハナからだったが、途中でアヨに替わり説教が始まったため、楽しめなかった。
なので、画面に表示された画面をおそるおそる確かめてから出ることにした。今回もタハナからの着信だった。
「も、もしもし……?」ユアは覚悟を決めて電話に出た。
「あ、ユア。元気? 今、少しだけ大丈夫?」
「うん。どうしたの?」
「もう知ってるかもしれないけど、イマストVのDLCが出るらしいよ!」
「本当に?!」
ユアは近くにいるディンフルや仲間たち、他の船客に轟くぐらいの声量で叫んだ。
睨まれ、慌てて声を抑えて確認した。
「イ、イマストVのDLCって、初めてじゃない?!」
「そうなの。さっき、公式の知らせが上がってたの。ユアならもう知ってると思ったよ」
「あぁ~、それどころじゃなくてね……」
確かに今はイマストの情報を調べている時ではなかったし、何よりイマストVのキャラたちが目の前にいるからだ。
「そんなに忙しいの?」
タハナの心配する声が聞こえた。ユアは「まぁ……」と言葉を濁すしか無かった。
以前、電話の後も色々あり、どこから話せばいいかわからなかった。
「ところで、タハナ。クルエグムって知ってる?」
ユアは無理やり話を切り替えた。こちらのことを根掘り葉掘り聞かれないようにするためだった。
「クルエグムって、ボツキャラ? 知ってるけど、どうしたの?」
「今度のDLCに出るのかな?」
「わかんない。まだチラッとしか見てないし、ざっと見た感じだとDLCは新しいエリアや衣装の追加だけっぽいよ。気になるなら、調べてみたら?」
ユアは絶句した。
何故なら、今いる場所はインターネットを見られる環境では無かったからだ。自身のスマホも、フィーヴェでは圏外なので当然機能しなかった。
「ご、ごめん。今、ネットが繋げる環境にいなくて……」
「え? そんな僻地にいてるの? 本当に大丈夫?」
「う、うん。たまにネットには繋げられるから、心配しなくていいよ」
「そう。こっちでも調べたらまた連絡するね。じゃあ、これから授業があるから」
「うん。わざわざ、ありがとう!」
タハナが電話を切った後で、ユアも電話を切った。
アヨの乱入も無く、穏やかに通話を終わらせられてホッとした。しかし……。
「途中、叫んでいたがどうしたのだ?」
ディンフルや仲間たちからは白い目で見られたことは、言うまでも無いのであった。




