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ラスボスと空想好きのユア 2 Precious Bonds  作者: ReseraN
第3章 波乱の五人旅
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第84話「尊敬し合う者たち」

 ティミレッジの胸に描かれた闇の魔法陣を消すには、最上級の浄化技でなければ出来ない。その使い手がインベクル島にいることがわかった。

 今日はビラーレル村の宿に泊まり、ユアたちは明日、その島へ向かうことになった。



 早朝。何やら胸騒ぎがして起きるユア。

 彼女だけ部屋を分けてもらったのと、皆がまだ寝ている時間なので話し相手がいない。

 そのまま寝付けなかったので、朝の散歩として村中を歩くことにした。


 宿を出ると、香ばしい香りが漂って来た。

 早朝から働くパン屋の匂いだった。


「こんな時間から働いているなんて、尊敬するな~」


 ユアが匂いにつられて歩いて行くと、その先にはクルエグムが仁王立ちをしていた。


「な、何で、あなたが?!」


 驚き後ずさるユアに向かって、クルエグムは距離を詰め、カップに入ったプリンを差し出した。


「食えよ。お前の好物なんだろ?」

「食べるわけないでしょ! あなたからのもらいものなんて!」


 言いながらユアはいつの間にかプリンを奪い取り、開けて食べ出していた。


「あっ! こないだ、食べたばかりなのに!」


 発言と行動が矛盾するユアを、クルエグムは初めて呆れた目で見た。


「お前、バカなのか……? たかがプリン如きに」

「あっ! プリンをバカにしたな?! プリンは心身共に癒してくれる最高の食べ物なんだよ! この間も私、風邪を引いたんだけど……」

「俺があげたプリンで元気になったんだろ?」


 クルエグムが遮ると、ユアは彼からもらったプリンを真っ先に食べたことを思い出した。

 自分が求めていたとは言え、敵からもらった物で回復したことを皮肉に感じ、落胆するのであった。


「それよりもだ! 昨日、お前らの白魔導士に散々世話になったぜ!」

「ティミーが?」


 ユアは咄嗟に思い出した。昨日のティミレッジは闇魔法に染まり、ダークティミーになっていたことを。

 普段の内気な彼とは違い、勝ち気で好戦的なのでクルエグムたちに掛かって行くのも無理はないと思った。

 ここでユアは、ダークティミーとクルエグムたちが対峙していたことを初めて知るのであった。


「シーラが言うには闇魔法とやらのせいらしいが、絶対に許さねぇからな! 俺らの部屋を物色した上に、侮辱までしやがって!」

「あ、はぁ……」


 クルエグムは身長をバカにされたことを根に持っていた。

 それを知らないユアは、ダークティミーに関してはコントロール出来ないので困惑し、生返事をするしか無かった。

 そんな反応をよそに、クルエグムはさらに苛立ちながら言い続けた。


「そして、わかったぜ。やっぱり、人間は俺らディファートを傷つけるってことな!!」


 ユアは目を見開いた。

 ヴィヘイトル一味はディファートで構成されている。そのディファートという種族は、人間から差別を受けて来たため、一部は人間を嫌っている。

 ここ数ヶ月、フィーヴェではディファートを保護する活動に入っていたが、このダークティミーの暴れっぷりのせいで、水の泡になりそうだった。クルエグムの台詞がすべてを物語っていた。


「そ、そんなことない! フィーヴェはインベクルを中心に、ディファートを保護しようとしてくれているんだよ!」

「ウソつくな!! 前に俺がインベクルに侵入した時、誰も歓迎してくれなかったじゃねぇか! フィトラグス王子が無能の婚約者といた時だよ!」

「あれはあなたが悪いんじゃない! フィットたちを傷つけたり、中庭をめちゃくちゃにして!」

「うるせぇ!! 俺は兵士や国王から睨まれた。お前の仲間からも攻撃されたからやり返しただけだ! リトゥレって町でも俺をタコ殴りにしやがって! これでも“保護する”とか言えんのかよ?!」

「ディファート側が傷つけるつもりでいるから、人間側が防御に出たんだよ! でも、本当は傷つけることはしないよ。人間みんながディファートを拒否してるわけじゃないから……」

「そんなの、信じねぇ! 今回の白魔導士がいい例じゃねぇか! 絶対、許さねぇからな!!」


 再び遮ると、クルエグムは最後に吐き捨ててから空間移動の魔法で消えてしまった。

 インベクルやリトゥレでは、フィトラグスらは人々を守るためにクルエグムと戦った。だが、ユアは彼を痛めつけながら、共存を願うのは矛盾していると感じ始めた。

 共存の難しさを痛感し、空になったプリンのケースを持ったまま、唖然とするしか無かった。


                 ◇


 朝方、ビラーレル村の宿の前。

 今日はソールネムとチェリテットは別件のため、ここでお別れだった。


「今回はありがとう」

「いいえ。大して力になれなかったわ」


 ユアが代表してお礼を言うと、ソールネムが昨日のことを一言で振り返った。

 それをティミレッジが慌てて否定した。


「そんなことないです! 大量のエボ・ダーカーも、ソールネムさんやチェリーちゃんがいてくれたから、戦えたんです! ……僕は参加出来ませんでしたが」

「私らがいても、最後はゼエゼエ言ってたからね」チェリテットは苦笑いした。


「改めてソールネムさん、昨日のことですけど……」

「もういいわよ。私もこんな性分だから恨まれてもしょうがないわ」

「恨んでなんていません! 信じてもらえないかもしれませんが、僕……ずっと、ソールネムさんを尊敬して、魔導士を続けて来たんです!」

「私を……?」


 ソールネムが驚いた目でティミレッジを見つめた。

 どうやら、初耳のようだ。


「い、言う機会がなかったので、今になってしまいましたが……。初めて見た時は“何てキレイな人なんだ”って思ったんです」

「そんなこと言っても、なびかないわよ」


 ソールネムは突然冷静に戻って言い返した。

 ティミレッジはそんな彼女に少し怯みながらも、話し続けた。


「あ、頭も僕より良いし、常に冷静沈着だし、芯も強くて、僕が見習わなきゃいけないところ、たくさん持っているんです。だから僕……、ソールネムさんみたいな魔導士になりたいってずっと思ってて……。それだけじゃないです。“もっと強くなって、サポート出来たらいいな”って思ってたんです!」


 しばらくティミレッジを見つめた後で、今度はソールネムが話し始めた。


「あなたが魔導学校に入って来る時、楽しみだったわ。高等学校を首席で卒業して、魔力も強かったし、何よりもかつての英雄アビクリスさんの息子だって言うから、色んな人が噂していたし、期待していたのよ」

「期待してい()……?」


 唐突の過去形をティミレッジは聞き逃さなかった。


「やって来たのは、男性魔導士の中でなよなよしていて、人見知りが激しく、体力も無いからすぐにバテると言う期待外れの魔導士見習い。おまけに、ビラーレル(いち)ヘタレのサティミダさんと同じで白魔法一筋だったから、みんな嫌な予感がしたのよ。決して、白魔法を悪く言っているんじゃなくて、血筋のようなものを感じたのよ」

「うぅ……」


 初めて聞かされる陰の評判に、ティミレッジとサティミダは同時に震えた。


「でも、すぐに払拭されたわ。勉強も魔法の授業も常に優秀だし、たった一年で白魔法担当の先生が推薦するほどだったんですもの。それに誰に対しても優しいし、最初は期待半分、不安半分だったみんなも今ではすっかり尊敬しているわよ、あなたのこと」

「ほ、本当ですか?!」

「それに、私も……」ソールネムは突然うつむき、声のトーンを落として言った。

「えっ?! い、今、何て?」

「……別に」


 彼女はまたすぐに顔を上げた。


「それとね、あなたの優しさは絶賛されているけれど、それだけではダメよ。その優しさを利用して、つけこんで来る輩もいるからね。敢えて厳しく指導したのよ」

「えっ? ()()()……ですか?」

「あなたには、優しさ以外のことも知って欲しかったの。そのつもりで厳しさを教え込んだつもりだけど、あなた、後輩たちからナメられるぐらい優しくあり続けたわね……」

「気付きませんでした……」


 ソールネムが呆れるように言うと、ティミレッジは肩を落とした。

 彼女を尊敬してはいたが、同時に「怖い人」という印象も持っており、それを「一種の優しさ」と気付けなかったのだ。


「しょうがないよ! ティミレッジにはヘタレの血が入ってるんだから。そんなヘタレと一緒にさせたあたしも悪いんだけどな!」


 横からアビクリスが茶化すように言った。

 構わず、ソールネムが彼女を説教するトーンで注意した。


「そうですね。出来れば、あなたがティミーを引き取って欲しかったですね。闇墜ちした時に苦労したんですから」

「だな……」


 今の言葉が響いたのか、アビクリスの勢いが落ちた。

 彼女もまた、ダークティミーに侮辱された一人だったからだ。


「これからも、フィットやユアたちをお願いね。みんなを優しく守れるのは、あなたの強みなんだから」

「は、はいっ! ありがとうございます!」


 最後にソールネムから称賛の言葉をもらったティミレッジは、大声で礼を言いながら深々と頭を下げるのであった。



 魔導士二人がまとまったところで、今度はオプダットがチェリテットに尋ねた。


「なあ、チェリー! 今日も俺のこと、好きか?」


 突然の質問に、他の者が驚愕した。

 ユアは顔を赤らめ、ソールネムは「何でそんな聞き方するの?」と言わんばかりに、彼を般若のような形相で睨みつけた。

 昨日、その場にいなかったアビクリスとサティミダは何のことかわからず、顔を見合わせていた。


「……好きだよ」


 チェリテットはしばらく黙った後で、照れながら答えた。

 オプダットの質問は「友人以上」を思わせるものとは思えなかったが、「これがオープンなんだ」と思い、敢えてそう答えたのであった。

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