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ラスボスと空想好きのユア 2 Precious Bonds  作者: ReseraN
第3章 波乱の五人旅
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第80話「思わぬ告白」

 ユアとフィトラグスは、助っ人が駆け付けたおかげで先ほどより戦いやすくなった。


「何人来ようと同じだ! ダーケスト!」

「言われなくてもわかってます」


 ドーネクトから指示をされたダーケストはうんざりしながらも、次々とエボ・ダーカーを呼び出した。

 この召喚魔法は、助手の彼しか使えないのだ。


「二人から四人に増えたんだから、不可能なんて無い!」


 フィトラグスは酔ったオプダットを横に置き、チェリテットと共にエボ・ダーカーにダメージを与えていった。

 一撃で倒すのは難しくても、何度か斬ったり必殺技を当てていくと倒せるようになった。


 ユアとソールネムのところも順調だった。

 ソールネムの全体攻撃で弱らせたエボ・ダーカーを、ユアが一体ずつトドメを刺していった。

 ダウンしていたディンフルは「良いプレーだ」と感心していた。


「いいぜ、いいぜ! そうこなくっちゃな!」


 ダークティミーも嬉々として言うと、自分を磔にしていた魔法陣を自らの力で打ち破った。


「何っ?!」その魔法を使ったダーケストが驚きの声を上げた。

「俺がこのまま黙って見てると思ったのかよ? 甘かったな!」


 嘲るように言うダークティミー。

 ダーケストは強く歯ぎしりをした。彼が初めて悔しげな表情を見せたのである。


「ティミー! 自由になれたならちょうど良かったわ! 一緒に、このモンスターと戦ってちょうだい!」


 ソールネムが魔法を唱えながらダークティミーへ頼んだ。


「やなこった」人の指図を受けない彼はもちろん拒否した。先輩であるソールネムの頼みでもだ。

「お願い! みんな、困ってるのよ!」

「さっき、“四人いれば大丈夫”みたいなこと言ってただろ。俺は観戦しとくから、せいぜい頑張ってくれ」

「ティミー!! 闇魔導士に仕える気は無いんでしょ? だったら、私たちの味方をして!」


 彼の生意気な態度に、ついにソールネムの雷が落ちた。

 同じ声量でダークティミーが反論する。


「俺は誰の味方でもねぇ!! ずっと言ってんだろ!」

「あなたはそんな人でなしじゃないでしょう?! 優しかった頃の自分を思い出して!」

「優しかった頃の俺? あぁ~、()()()()()()()()()()()()


 ダークティミーの言葉で、ソールネムの動きが止まった。

 その隙を狙ってエボ・ダーカーが襲い掛かる。


「危ない!」


 ユアがソールネムを襲った敵を倒したおかげで、彼女は間一髪助かった。


「ソールネム、大丈夫?」

「え、ええ、ありがとう。私のことはいいから、あなたは敵を倒して……」


 ユアが心配しながらも離れると、ソールネムは再びダークティミーへ向かい合った。

 普段冷静な彼女だが、明らかに動揺していた。


「確かに、将来のために敢えてきつく言って来たわ。もしかして、気にしてるの?」

「ああ。いっぱい()()()()()()()()()ぜ! だから、手は貸さねぇ!」


 ダークティミーは敢えて強調しながらソールネムへ吐き捨てると、その場を去って行った。


「コラ、待て!」


 ドーネクトが彼の後を追おうとするが、眼前で思いきりドアを閉められた。

 もう少しで顔面と接触するところだった。


「おのれ、ティミレッジめ……! このままでは石を探す計画が捗らん!」

「あれではキリがないので、いっそ右腕を諦めるのも手ですね……」


 エボ・ダーカーを召喚しながらダーケストが横から言った。

 あれだけ頑ななダークティミーでは相手が難しいため、もう降参状態に入っていたのだ。



 その頃、酔っぱらったオプダットが再び、戦っているフィトラグスへ抱き着いた。


「ちょ……! こっちは剣振ってるんだぞ! 急に来たら危ないだろ!」

「王子さま~、みじめな俺を助けてくれよ~。俺は子供の頃に病気で死にかけて、親友まで亡くしたんだぞ。こんな俺が生きてたら、死んじまった親友に申し訳ねぇよ……」


 先ほどは甘えんぼモードだったが、今回は泣き上戸だった。

 オプダットは力強く抱き着いており、フィトラグスは剣が振れなくなった。見かねたチェリテットが無理やり、彼らを引き離した。


「いい加減にしなさいよ!!」

「な、な、な、何だよ~?」


 突然離されたことに驚き、オプダットが今度は怒りを交え始めた。


「フィットが嫌がってるでしょ!」

「“フィット”じゃなくて“王子様”だろ~? フィトラグス様は、フィーヴェでいっちばんカッコ良くて偉い王子様なんだぞ~。無礼は許さないんだぞ~」


 ベロベロに酔う彼に耐えられなくなったチェリテットは、思わず相手の頬を引っ叩いてしまった。


「何すんだよ~!?」

「あんた、そんなに情けない奴だったの?!」

「だって、しょうがねぇじゃん……。俺、病気して普通の子と同じように学校に行けてなかったし、勉強も出来ないし、親友も俺のせいで死んじまったしさぁ……」

「弱音を吐かないで! オープンはそんな人じゃないでしょう!!」


 今度はチェリテットが声を荒げた。ただ、今はエボ・ダーカーの相手で周囲もずいぶんと騒がしかったため、その声に気付かない者もいた。


 二人が話している間に、フィトラグスが必殺技でエボ・ダーカーらを弱らせていった。

 それでも、オプダットの酔いが覚めることはなかった。


「俺、お前にも避けられてんだぞ……。こんな状態でどうやって、仲間や友達作れってんだよ……」


 チェリテットは息をのんだ。

 実はクロウズの一件以来、彼女はオプダットの目をまともに見られなくなっていた。なので、「避けている」と思われるのはほぼ事実であった。


「あ、あれは、避けているって言うか……」

「避けてるじゃん……。俺が話し掛けても逃げるし、目を合わせたら慌てて逸らすし、一緒に仕事もしてくれなくなったしさぁ……」


 オプダットの目から涙がこぼれ始めた。

 相手が酔っているとは言え、チェリテットは後悔し始め、これは弁明が必要だと強く感じるのであった。


「オープン! あのね……」

「お前もクロウズやパールと一緒で、俺の前からいなくなるんだろ? わかるんだよ……」

「聞いてっ!!」


 珍しく続くネガティブ思考にしびれを切らしたチェリテットは、オプダットの肩を両手で押さえつけながら、真正面から相手の目を見た。

 本当は今も見られなかったが、「嫌われている」という誤解を解きたかったのだ。


「”クロウズさんやパールさんみたいにいなくなる”って言ってるけど、忘れたの? クロウズさんはあなたの友達になってくれたじゃない! 最後は“オープン”って呼んでくれたでしょ?! パールさんはいなくなっちゃったけど、今でもあなたの胸の中で生きているはずよ!」


 説教を始めるチェリテットを、オプダットもまっすぐに見つめ返した。


「それに、“明るく、友達を大切に”ってアティントス先生から教わったことも忘れたの? そんな後ろ向きの考え、オープンらしくないよ!」


 アティントスの教えを思い出し、オプダットは目を見開いた。

 チェリテットはさらに言い続けた。


「それとさ、私があんたを避けていることになってるけど……ごめん。正直、会いづらかったんだ。で、でも、別に嫌ってるわけじゃないの! 何ていうか……その……」


 チェリテットは、誤解をされないよう必死に言葉を選んだ。オプダットはその先を待ち続けていた。

 目の前で見つめられると余計に適切な言葉が浮かばず、彼女は思わず言ってしまった。



「逆に、好きなんだよっ! あんたのことが!!」



 その告白が聞こえたのか、周囲の動きが思わず止まった。

 ユアもソールネムも、フィトラグスも、休んでいたディンフルも、さらに襲っていたエボ・ダーカーやドーネクト、ダーケストですらも、チェリテットとオプダットへ目が釘付けになっていた。


「い、今言うことじゃないのはわかってる……。言っておかないと、あんたはずっと誤解するし、何より目の前で泣かれたら言わずにおれないって言うか……。言うなら今しかないって思ったの!」


 チェリテットはすっかり紅潮していた。

 見ていたユアも思わず顔だけでなく耳まで赤くなった。


「何故、お前まで赤くなる?!」

「こ、恋バナって、ドキドキするんだも~ん!」


 ディンフルにつっこまれ、ユアは両手で顔を覆い隠した。自分が告白されたわけじゃないと言うのに……。



 一緒になって見入っていたダーケストが我に返り、「何をしているのです?! やってしまいなさい!」と、既存のエボ・ダーカーへ指示を出しながら、新しい分も召喚した。

 手下たちも続きが気になるのか一瞬戸惑ったが、命令を聞くと慌ててユアたちへ襲い掛かった。



「リアン・エスペランサ・スパークル!!」


 立ち上がったオプダットがエボ・ダーカーへ、稲妻をまとった拳を当てた。

 襲って来た複数体が黒いモヤとなって消えてしまった。


「は……?」ダーケストが目を見開き、素っ頓狂な声を出した。


 オプダットが倒したエボ・ダーカーらは召喚されたばかり。つまり、体力がまったく削られていない。

 今までその状態で来た手下たちは倒すのに時間が掛かったが、たった今、召喚された者たちはオプダットの一撃で瞬殺された。

 これには、いつも冷静なダーケストも驚くしか無かったのだ。


「酒も抜けて来たし、俺も手伝うぜ!」


 先ほどまで酔いながら泣いていたオプダットは、すっかり元気になっていた。

 本人が言うように体内の酒が抜けたのと、たくさん泣いてスッキリしたからだった。


「と言うことは……」チェリテットは元の色に戻っていた顔を再び赤くさせた。

「ありがとな、チェリー! 俺もお前のこと、大好きだぜ!」


 オプダットがウィンクしながら、彼女へ言ってみせた。今度はチェリテットが耳まで真っ赤になった。

 しかし、今の「大好き」はおそらく「友達として」だろうと思った。チェリテットは友達以上の想いを込めて打ち明けたが、逆に今のオプダットは何の恥ずかし気も無く言ったからだ。

 だがこれも、彼の平常運転なのはすでにわかっていた。


「あとチェリー! 俺はいつも前向きだぞ! 後ろ向きに歩いたことなんてねぇよ!」


 さっきの「後ろ向きな考え」を間違った捉え方をしていた。

「これも平常運転だ」彼女だけでなく、共に旅をして来たユアたちまで思った。同時に、元通りになった彼を見て、全員で安堵するのであった。

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― 新着の感想 ―
こいつらに酒を与えてはいけない、と思う吉宗…フィトラグスであった
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