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ラスボスと空想好きのユア 2 Precious Bonds  作者: ReseraN
第3章 波乱の五人旅
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第79話「進化した手下」

 廃虚の地下室に、十体ほどの黒い全身タイツのような人型のモンスター「エボ・ダーカー」が召喚された。


「やってしまいなさい」


 ダーケストの合図で、エボ・ダーカーは一斉にユアたちへ襲い掛かった。

 フィトラグスとオプダットが剣と拳で、エボ・ダーカー二体にダメージを与えた。

 前は一撃で倒せた彼らだが、今回は吹き飛ばされても起き上がり、再び襲って来た。


「前より固くなってないか?!」

「その方が面白い!」


 驚くオプダットとは対照的に、手応えを感じたフィトラグスは面白そうに剣を構え直した。

 ソールネムとチェリテットも魔法と拳で対応した。彼女たちの攻撃を受けても、エボ・ダーカーは簡単に倒れなかった。


「確かに、前より強くなってるわね」

「まだ一撃しか食らわせてないけど、そんなに弱かったの……?」


 当時、ソールネムは教会の外から中の戦闘を見ていたため、ダーカーの実力を知っていた。

 一方、チェリテットは闇魔導士一味とは初対面なので、ここまでの状況を理解するのに必死だった。


 前は一撃で倒せていたユアだが、今日はそうもいかなかった。

 しかもダメージはフィトラグスらより少ししか与えられず、チアーズ・ワンドを振っている間に数体のエボ・ダーカーが群がって来た。


「シャッテン・グリーフ!!」


 見かねたディンフルが、ユアへ集まるエボ・ダーカーを必殺技で一掃した。

 やはり、強くなったダーカーでも彼の前では無力だった。


「あ、ありがとう……」


 そうでなくても、皆より力がまだ弱いユア。仲間たちに気を遣わせたことを申し訳なく思うのであった。

 そんな気持ちを察したディンフルが彼女を励ました。


「自信を持て。お前は充分頑張っている。風邪から復帰してからは、問題なく戦えていた。だが、無理はするな。まだレベルが追い付いていないこともある。その時は遠慮なく、俺や周りを頼れ」

「……はいっ!」


 ディンフルの優しい言葉でユアは不安が吹き飛び、自信を持って再びエボ・ダーカーへ向かい始めた。



 一行がエボ・ダーカーらと戦う様子を、ダークティミーは胡座をかいて楽しそうに眺めていた。

 それをいいことにドーネクトが魔法を使うと、ダーケストとの三人が球体に包まれ、上の階へ移動し始めた。


「何だよ、これ?! せっかく面白かったのによ!」


 無理やり連れて行かれるダークティミーは、まるで好きな番組を見ている途中でチャンネルを変えられた、もしくはテレビを消された子供のように激昂した。


「まずい! ティミーが!」


 オプダットが真っ先に気付くが、三人を包んだ球体は地下室の天井を通り抜けて行ってしまった。


「みんな、行って! 私らがこいつらの相手をするわ!」


 チェリテットがエボ・ダーカーを殴りながら言った。横で戦っていたソールネムも力強く頷いた。


「二人で大丈夫か?」

「少し手強いザコだと思えば大丈夫よ。それよりも、ドーネクトとその助手の方が手強いわ。だから、四人で行って」心配するディンフルへソールネムが説明した。

「二人だけじゃ危ないよ。私も戦う!」


 ユアも参戦を名乗り出た。さすがに女性二人だけを残して行きたくなかったのだ。

 これにはチェリテットが元気よく答えた。


「大丈夫! 二人でも何とかなるから。ディンフルの城でも私らでザコ敵を相手して、フィットたちを先に行かせたんだから!」


 確かに、ディンフルとの戦いにソールネムとチェリテットの姿は無かった。

 あの時でも二人で乗り切ったので、フィトラグスたちは当時を思い出して信頼し始めた。


「わかった。厳しくなったら、すぐ連絡してくれ」

「そっちもね。ティミーを頼んだわよ」


 互いにエールを送り合うと、フィトラグス、オプダット、ディンフル、ユアの四人は地下室を後にするのであった。


                 ◇


 廃虚の上の階。

 地下室のちょうど上の部屋は、大広間になっていた。


「さあ、ティミレッジ! もう一度言う! 俺の右腕になるのだ!」

「ならねぇよ!!」


 エボ・ダーカーとユアたちの観戦を邪魔されたダークティミーは、怒り心頭で即答した。


「そ、そう言わずにさぁ……」


 思った以上の感情と声量で怒鳴られ、ドーネクトはすっかり怯んでしまった。

 その横でダーケストが深くため息をついた。


「仕方がありませんね……。本来ならここまで従わない者は即排除ですが、今回はどうしてもあなたの力が必要なのでね」

「だから、従わねぇつってんだろ!」


 ダーケストが手をかざすと、背後に現れた闇の魔法陣にダークティミーは磔にされてしまった。


「動けねぇ……!」

「言うことを聞かなければどうなるか、教えなければなりませんので」

「ちょ……! あまり手荒に扱うなよ! 俺の右腕になる奴なんだから……」


 ドーネクトが頼み込むように言うが、「未熟なあなたに言う権利があるのですか?」とダーケストから冷たい表情で一蹴され、落ち込んでしまった。



 再びダーケストがダークティミーへ手をかざしたその時、部屋のドアが勢いよく開き、ユアたちが入って来た。


「ティミー?!」ダークティミーの様子を見たユアが驚いた声を上げた。

「お前ら?! エボ・ダーカーをたくさん出したのに、何故?!」

「仲間たちが相手してくれてるよ! ティミーを返せ!!」


 驚くドーネクトへ、オプダットが怒りに任せて叫んだ。


「こいつは右腕になるんだ! 返すもんか!」

「なら、力ずくで返してもらう!」

「オススメはしないが、そうするしかないな」


 フィトラグスとディンフルは再び剣を構えた。

 ユアもチアーズ・ワンドを構え、オプダットもファイティングポーズを取った。


「本当に困りましたね……。こちらにも来てもらいましょう」


 ダーケストが手から黒い魔法を出すと、地下室で会ったのと同じエボ・ダーカーが数体現れた。


「結局こいつらと戦うのか……。でも、俺らの敵じゃねぇ!」


 フィトラグスを先頭に一行が戦おうとすると、エボ・ダーカーらはどこからかタルを取り出し、ユアたちへ向かって中の液体をぶっかけた。


「うわーーーーー!!」


 フィトラグス、オプダット、ディンフルは全身が濡れてしまった。ユアは即座にディンフルが盾になってくれたおかげで濡れずに済んだ。

 だが、においで液体の正体がわかった。


「これって……、お酒?!」


 ユアが判断した途端、オプダットとディンフルが倒れてしまった。

 オプダットはベロベロに酔い、ディンフルは足に力が入らなくなった。


「ぐぅ……。よりによって、アルコールを撒き散らすとは……」


 ディンフルは少量でも飲酒をすると体に力が入らなくなるのだ。

 一方、オプダットは酒に弱いのか普通に酔っぱらっていた。


「すげぇ~、朝からこんなに飲めるなんて、夢のようらぜ~!」

「悪夢の間違いだろ……」オプダットの様子を見てフィトラグスがうなった。

「よく見たら、王子様と魔王が一緒に戦ってるって、おもしれーな! これって確か、“共闘”って言うんだろ?!」


 オプダットは酔いながら笑い出した。

 しかも、いつも言い間違うはずなのに、珍しく正しい言葉を言い当てた。


「つっこむ準備してたのに、正解しやがった……」


 いつもと違う様子にフィトラグスが悔しがっている間に、エボ・ダーカーが一斉に襲い掛かって来た。


 彼は剣を振り、ユアはチアーズ・ワンドからビームを出したりして応戦した。

 しかし、あちらは強化されているので二人がどんなに攻撃しても倒れる気配がない。


「私に任せろ……うわっ!」


 ディンフルが立ち上がろうとするが足に力が入らず、体もフラフラですぐに倒れてしまった。


「ディン様、無理しないで!」見かねたユアが声を掛けた。


 その時、エボ・ダーカーの一人がディンフルへ襲い掛かった。

「危ない!」ユアがすかさず間に入り、チアーズ・ワンドを振って追い払った。


「酔いが覚めるまで休んでて!」

「ありがとう……。くれぐれも無理はするでないぞ」


 ユアが戦闘に向かい、ディンフルが休むという、いつもとは逆の立場になった。

 途中ドジをしながらもエボ・ダーカーと戦う彼女を見て、ディンフルは穏やかに笑うのであった。


(まさか、ユアに守られる日が来ようとはな……)



 フィトラグスも剣を振ったり、必殺技を出したりしてエボ・ダーカーを退けていた。

 だが個体の耐久力が増えたため、一体を倒すだけで時間が掛かってしまう。


「二人だけじゃ、きついな……」


 さらに最悪なことに、酔っ払ったオプダットが抱きついて来た。


「わっ! 何するんだよ、オープン?!」

「王子さま~、俺のことも守ってくれよ~。俺、友達いねーと、寂しいんだよ~」

「何言ってんだ?! お前、普段はそんな弱音吐く奴じゃねぇだろ?!」

「俺はダメ人間なんだよ~! だから、助けてくれ! 頭も悪いし、暗いし、自己中だから友達がいねぇんだよ~!」

「そんなこと無いだろ! オープンはいつも底抜けに明るいし、友達想いだろ? 頭悪いのは認めるが……」


 二人でそんなやり取りをしている間に、エボ・ダーカーの数体が襲って来た。



 チェリテットのパンチが炸裂しエボ・ダーカーが退いたことで、彼らは難を逃れた。


「チェリー!」

「間に合ってよかった……」

「あとは任せて」


 ユア側にはソールネムが駆けつけた。助っ人の登場で、安堵する一行であった。

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― 新着の感想 ―
これはディン様と既成事実を作る時にも使えそうな手ですねユアさん
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