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ラスボスと空想好きのユア 2 Precious Bonds  作者: ReseraN
第3章 波乱の五人旅
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第78話「白魔導士を巡って」

 魔導士を育成するビラーレル村。

 任務のため村に戻っていたアビクリスは宿が満室なので、昨日はサティミダの家に泊めてもらった。

 元妻が朝から家にいることが、彼にとっては嬉しくて仕方がなかった。


「いやぁ~、アビクリスがうちでご飯を食べていると、結婚してた頃を思い出すねぇ」

「思い出しても再婚はしないよ」


 見惚れる彼とは正反対に、アビクリスは朝食を食べながらきっぱりと言い切った。


 食事を終えると、彼女は家の中を見て回った。

 この家には元々住んでいたので、アビクリスにとっては里帰りだった。


「あたしが出て行く前より本が増えたね。図書館でも始める気かい?」

「ティミレッジがどんどん買って来るんだよ。前なんか“部屋に置けなくなったから、増築して読書部屋を作りたい”とまで言い出してね……」

「本当に本好きだね、あの子は!」


 息子の近況を知ったアビクリスは安堵すると共に、彼が言っていた言葉を聞いて笑った。

 次に、暖炉の上に置かれている透明のケースを見つけた。その中には魔法札が入っていた。


「ずいぶんと高級な札じゃないか。あんたが買ったのかい?」

「ああ。いつか、ティミレッジの闇魔法が目覚める時のために買っておいたんだ」


 自信満々に言うサティミダだが、アビクリスは目を点にした。


「闇魔法って……、この間、目覚めたよね?」

「…………あぁっ!!」


 サティミダは考えた末に突然叫ぶと、顔が青ざめ出した。


「ぼ、僕、魔法陣の力を抑えるために、札を貼ったよね……?」

「ああ……」


 二人して胸騒ぎを覚えた。

 何故なら、ティミレッジの闇魔法の力は一週間ほど前に目覚めたばかり。

 そして、それを封印するための札は現在、家にある。


「闇魔法用の札がここにあるってことは、前は何を貼ったんだい……?」

「こ、これと、同じやつかも……?」


 アビクリスが呆然としながら聞くと、サティミダは震える手でポシェットから一枚の札を取り出した。

 それを見たアビクリスが怒りを露わにした。


「バカ野郎っ!! これは村でも一番安くて、“効果は無いのと同じ”って悪評の札じゃないか! これをティミレッジに貼ったのか?!」

「ご、ごめんよ~! 封印用は村で一番高いし、前みたいな盗賊たちに取られたら大変だと思って、家の中に置いてたんだ!」

「闇魔法が突然目覚めることは考えなかったのか?! 今からティミレッジを探して、札を貼り直しに行くよ! あんたも来な!!」


 アビクリスは暖炉の上の札を持って、泣きじゃくるサティミダを無理やり引っ張って家を出た。


                 ◇


 とある廃墟の地下室。

 一行の先頭にフィトラグスが立った。


「ティミーを返してもらうぞ!」

「残念ですね。ティミレッジは我々の右腕になるつもりです」ダーケストが冷たく答えた。

「そうなの、ティミー?!」


 ユアが戸惑いながら聞くと、ダークティミーは気だるそうに頭をかきながら答えた。


「だから言ってんだろ。“世界の半分”とかケチくさいこと言ってねぇで、“十分の九くれ”って」

「十分の九って、ほとんどじゃねーか!」


 ダークティミーの変わらない主張に、ドーネクトは思わず乱暴に言った。

 ティミレッジの変わりように再び唖然とするユアたち。今日初めて目にするチェリテットは開いた口が塞がらなかった。


「あ、あれがティミー君?! 一体どうしちゃったの……?」

「闇魔法で心身共に変えられたのだ」


 ディンフルが教えると、「そう……」と呆然とするチェリテット。

 だが、すぐに……。


「カッコ良くない?!」


 突然大声を上げ、ダークティミーを輝く目で見つめ始めた。


「カッコ良い?! いつも、良い子のティミーが悪い子になったんだぞ!」

「そのギャップがいいのよ! いつも良い子だからこそ、たまに出る悪い姿が刺さる人だっているでしょ?!」


 珍しくオプダットがつっこむと、チェリテットは早口で主張し始めた。

 これは推しについて語る時のユアによく似ていた。そして……。


「わかるわかる! “ギャップ萌え”ってやつだよね?! 確かに、良い子のティミーもいいけど、悪いティミーは別の意味でいいんだよね~!」


 ユアが共感したことで、チェリテットと並んでガールズトークが始まった。

 二人の視線は敬うようにダークティミーへ注がれた。


「ギャップって言われても、俺は思ってることを言ってるだけだぜ。でも、ありがとな!」


 ダークティミーもまんざらではないようで、嬉しそうに返した。

「俺」という一人称に、チェリテットはため息をつきながら萌えるのであった。


「ティミー君が“俺”……? 今までになかったな~」

「これはこれで良いかも……?」チェリテットとユアがそろって、デレデレした。

「バカなことを申すな!! 闇魔法が発動しているのだぞ! 恋に落ちている場合ではない!!」

「だって~」


 ディンフルの雷が落ちた。

 それでもユアはダークティミーへの萌えをやめられなかった。


「チェリーもよ! 良い子が悪い子になったのに、何がいいの?! 私は大反対よ! ティミーは良い子のままでいて欲しいわ!」


 続いて、ソールネムの怒りも炸裂した。

 彼女はギャップ萌えには関心がなく、ダークティミーに幻滅しているようだ。


「そうだぞ! てかお前、俺のことは散々避けといて、ティミーとは話したいんだな?!」


 オプダットは避けられたことを気にしているらしく、チェリテットの態度に不満をぶちまけた。


「べ、別に、避けてないし……!」彼女は顔を赤らめながら否定し、オプダットをわざと見ないように顔も背けていた。


「ユアもディンフルが好きなのに、ティミーに惚れ直したんだな?」


 フィトラグスからの指摘に、今度はユアの顔が赤くなった。


「ほ、惚れ直すって、そんなんじゃないから! 私は、今でもディン様が……!」


 途中で言葉が詰まった。

 洞窟でオプダットから「ユアはディンフルに愛されている」と聞かされたり、ユアが風邪を引いた時に率先して看病に来てくれたりと、彼が自分を愛していると改めて思った。

 なので、ディンフルを好きだと言うのが恥ずかしくなったのだ。


「”ディン様が”、何だ?」


 当の本人から聞かれ、ユアはますますドギマギし、両手で自身の顔を隠してしまった。


「何を照れている?!」

「て、照れててないし……!」


 あまりの恥ずかしさから思わず噛むユア。すでに耳まで真っ赤だった。



「やっかましーーーい!!」


 ドーネクトの怒号により、一同は我に返った。


「俺たちを無視するとは何事だ?! ティミレッジに闇魔法を掛けたのは俺の右腕になってもらうためだ! お前たちを盛り上げるためではない! てか、仲間が闇墜ちしているのに、緊張感のカケラもないのか?!」

「確かに。”惚れ直す”とか言っている場合ではないと思います。闇堕ちさせた側が言うのも何ですが、仲間が心配ではないのですか……?」


 ドーネクトはユアたちを叱り、ダーケストもすっかり呆れていた。

 まさか敵から説教を受けるとは思わず、ユアたちはそろって「何てことをした……」と悔やみ始めた。

 気を取り直して、ソールネムが改めて敵を睨みつけた。


「ティミーを返してもらうわ!」

「ダメだ! ティミレッジは俺の右腕になってもらう! 誰にも渡さん!」

「だから、ならねぇつってんだろ!」


 ドーネクトが拒否すると、後ろでダークティミーも激しく拒絶した。

 これにはさすがにドーネクトも考えを改めた。


「世界……三分の二じゃダメか?」

「少なすぎる。俺が手を貸すっつってんだから、十分の九……もしくは全部を希望」

「ふざけるなぁ!!」


 ダークティミーは変わらず、闇魔導士たちを困らせた。

「これならドーネクトの右腕にならないだろう」とユアたちは安堵した。


「本当に困りますね。今すぐ右腕になって力を貸してもらわないと……」

「知ったこっちゃねぇ!」


 ダークティミーは二人へ向かって、あっかんべーをして見せた。元のティミレッジの時には絶対に見せなかった表情である。



 その時、ソールネムが杖をかざしてダークティミーへ呪文を唱えた。


「ダークネス・イレース!」


 ダークティミーの体が光に包まれるが、ドーネクトとダーケストが瞬時に唱えた魔法で打ち消されてしまった。


「そうはいかん! こいつは何としても返さんぞ!」

「そもそも、闇の力を消すその魔法は二人以上で唱えるのが条件です。優秀な黒魔導士のあなたなら存じていると思われましたが?」

「ええ、()()()()()わ。でも二人以上の魔法は、一人でも魔力が強ければ可能なのよ。闇魔導士の助手のあなたなら、存じていると思ったけど?」


 ダーケストへ冷静に言い返すソールネム。敢えて彼の台詞を引用し、煽りながら聞き返した。


「ティミーを返さないなら、力ずくで行かせてもらうぞ!」


 フィトラグスは剣を、ユアはチアーズ・ワンドを構え、オプダットとチェリテットはファイティングポーズを決めた。


「我々もティミレッジが必要だ。邪魔立てするなら容赦はしない」


 しまいにはディンフルが大剣を構えた。魔王が相手となると、ドーネクトもさすがに怯み始めた。


「よろしい。魔王がいようといなかろうと、関係ありません」


 怯えるドーネクトの横で、変わらず冷静なダーケストが黒い魔法を床へ掛けた。

 その動作を見たことがあるユア、フィトラグス、オプダットはイヤな予感がした。


「あれって、まさか……?」


 魔法が掛かった床から、黒い人型の物体が次々と現れた。それはダーケストが魔法で召喚した人型モンスター・ダーカーだった。

 以前は全滅させる度に、ダーケストが倍の数を召喚するという暴挙に出ていた。


 しかし、今回のダーカーは様子が違った。前はグレー色の全身タイツを履いたような見た目だったが、今回は全身が真っ黒だった。


「紹介しましょう。ここ数日の修行で強くなったダーカー……その名も、エボ・ダーカーです」

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― 新着の感想 ―
ラブなコメですわねw そりゃ闇魔導士さんも怒るよ
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