第74話「騒がしい晩餐」
今日も邪龍や魔物退治に勤しむ五人。
ユアも少しずつだが一人で邪龍を倒せるようになり、ディンフルからは戦力を認められていた。
「よくやった。その調子で頼むぞ」
「はいっ!」
ディンフルに褒められると嬉しくなり、言われる度にユアは子供のように元気に返事をした。
元はと言えば、彼らの助けになりたくてチアーズ・ワンドを手に参戦したのだ。
努力の甲斐あって、今では邪龍も倒せるようになった。ユアはここまで戦い続けたことを自画自賛するのであった。
しかし、一人で倒せるようになっても邪龍問題が解決したわけではない。邪龍は未だにヴィへイトルによって召喚され、フィーヴェを苦しめていた。
クルエグムの告白を正式に断ったため、邪龍の数を増やされたかもしれなかった。
もう一つ気掛かりだったのは、ミラーレの弁当屋だ。彼は「断れば、弁当屋も潰す」と脅して来た。
とびらたちが心配になるユアだが、「念のため、サーヴラスを見張りにつけておいた。弁当屋にも事情は話してある」とディンフルが先手を打ってくれていた。
弁当屋もしばらくは大丈夫らしく、ユアは胸を撫で下ろすのであった。
それでも、一刻も早くヴィへイトル一味を何とかしなければならなかった。
そのこととは別に、ティミレッジの魔法陣も心配だった。彼は幼い頃、闇魔導士ドーネクトにより闇の魔法陣を体に埋め込まれたのだ。
魔法の札で抑えてはいるが、そう長くはもたないのでこちらも早めに対処しなければならなかった。
今のところティミレッジに変わった様子もはなく、胸部に貼られた札も劣化はしていなかった。
闇魔導士との戦いから一週間経つが、ビラーレルから連絡は無かった。闇魔法を消せる最上級の浄化魔法を使える者がまだ見つからないのだろう。
「もし、ティミレッジや札に変わったことがあったら、すぐに連絡してくれ」と彼の母・アビクリスから言われたので、サポートはバッチリだった。しばらくは気長に待つしかなかった。
今日は、とある村で宿を取った。
部屋に荷物を置き、一階の食堂で夕食を取った。たくさん動いた後なので、食事が体に染み渡った。
「おいし~い」
「味は良いのだがな……」
料理に感動するユアとは正反対に、ディンフルは渋い顔をしながら食べていた。
何故なら……。
「人間、ばんざーい!!」
宿の食堂では、大勢の酔っぱらいが騒ぎ立てていた。
さらに小さなステージもあり、その上にはピアノ、マイクなど、音楽で盛り上がれる要素もあった。
すでに酔っぱらいたちが代わりばんこで歌ったり、めちゃくちゃな演奏で盛り上がっていた。
騒がしいのが苦手なのか、ディンフルは料理の味を堪能出来なかった。
フィトラグスも一国の王子なので慣れておらず、ティミレッジも明らかに苦笑いして見ていた。
唯一オプダットだけが「楽しそうだな」と、わくわくしていた。
「騒がしくてごめんね。うちはいつも、こんな感じなんだ」
ユアたちを見た宿の女将さんが謝って来た。
「いえいえ」とユアが代表して言ったその時、酔っぱらいの一人がこちらに気付いた。
「あれっ?! 誰かと思えば、フィトラグス王子様御一行では、あ~りませんか!」
その声に他の酔っぱらいも一斉にこちらを向く。ディンフルはもう嫌な予感がした。
「あぁっ! よく見たら、魔王様もいるじゃないっすか!」
酔っぱらいたちの視線が、主にディンフルへ注がれ始めた。予感的中である。
(あのような酔っぱらいどもに目をつけられると、罵詈雑言は免れぬだろうな……)
ディンフルは、酔って本音が出る人間たちに嘲られるのは時間の問題だと思った。
ところが……。
「すげぇ! 本物の魔王様だ!」
「今は英雄様だぞ~!」
酔っぱらいたちは一斉に歓声を上げ、拍手までする者もいた。
「私を侮辱しないのか……?」
ディンフルが疑問に思っていると、見ていた女将が説明してくれた。
「何で侮辱なんかするんだい? 今は魔王じゃないんだろ? 毎日邪龍退治を頑張ってくれてるし、前だって無理がたたって倒れたそうだね? 今や、世界を救おうとしている英雄じゃないか! そんな英雄様を非難しようものなら、ここの常連さんたちが許さないよ! みんな、あんたを尊敬してるんだから! もちろん、あたしもね!」
よく見ると、女将と酔っぱらいたちはディンフルを敬う眼差しをしていた。
彼は「フィーヴェでインベクル城の次に受け入れてくれる場所があるとは……」と感銘を受けた。
同時に思い出していた。
非難を受けると覚悟を決めるも、自身を受け入れてくれた場所が他にもあることを。ミラーレの弁当屋と図書館だ。
あそこではディファートの概念すらなく、ディンフルが説明しても誰一人として不気味がらずに受け入れてくれた。今の酔っぱらいたちは、その時のとびらやまりねたちによく似ていた。
そんなことを考えていると、一行の席に酔っぱらいたちが寄って来て、取り囲み始めた。
ディンフルが活躍していることも、仲間たちも超龍を倒したことを知っているため、フィトラグスたちも尊敬の目で見られ始めた。
しかし、ユアだけは超龍戦に出ておらず、邪龍戦も最近参戦し始めたばかり。
唯一知名度は無かったが、酔っぱらいたちは優しく話し掛けて来た。
「お姉ちゃんは幸せ者だねぇ! こんなイケメンな英雄様たちと一緒にいられるんだから!」
一人がそう言うとユアは顔を赤らめ、「イケメンな英雄様と一緒にいる」という言葉を頭の中で反芻し始めた。
(言われてみると、ディン様だけじゃなくてフィットもティミーもオープンも、みんなよく見たらイケメンだわ。ゲームのキャラだからカッコ良く描かれてて当たり前なんだけども、リアリティアでは普通に生きてたら、絶対に無い経験だ!)
ユアは、オプダットから「ディンフルに愛されてるぞ」と言われた時のように、顔を赤くし目を開けたまま気絶した。
「お姉ちゃん、何でお酒飲んでないのに顔が赤いんだ?」
「ユアちゃん?! 戻って来て~!」
異変に気付いたティミレッジがユアを呼び戻す。
その間、酔っぱらいたちはグラスに酒を注ぎ、ユアを除いた一人ずつに手渡した。
「すまぬが、酒は飲めぬのだ」
ディンフルが断ると、酔っぱらいたちは一斉に驚きの声を上げた。
「魔王様、お酒飲めないんすか?!」
「ウソだろ……。あんたみたいな魔王様だったら、玉座に足組んで座って、グラスに注いだブドウ酒とか飲むんじゃないのか?!」
「何故、ブドウ酒限定なのだ……? 私はコーヒーしか飲まぬ」
ユアは我に返ると、また思い出した。
かつて、自身もディンフルに対して色んな姿を思い描いていた。
その中に、酔っぱらいが話した「玉座に足を組んで座り、洋酒(ブドウ酒含む)を飲んでいる」姿もあった。
しかし実際、ディンフルはお酒が飲めない。
リアリティアで誤って飲酒した際、少量でも足元がふらつき、発言まで変になっていた。
さらに弱体化もした。リマネスが雇ったボディガードを難なく倒して来た彼だが、お酒が入った時は一度もダメージを与えられず、ボコボコにやられてしまった。
「あんなディン様は二度と見たくない」ユアはこれから先、絶対彼にお酒を飲ませないよう強く誓っていた。
そして、「玉座でコーヒーを飲む魔王様も悪くない」と新たに妄想するのであった。
「魔王様と王子様たちの活躍に、かんぱーい!!」
酔っぱらいの一人が音頭を取ると、食堂にいる皆が手に持ったグラスを高く掲げた。
もちろん、ユアのグラスにはジュース、ディンフルも今だけ酒を注いでもらい、乾杯の後は酒が平気なティミレッジに飲んでもらうのであった。




