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ラスボスと空想好きのユア 2 Precious Bonds  作者: ReseraN
第3章 波乱の五人旅
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第72話「良薬、口に甘し」

※本当は「口に苦し」が正しいですが、今作では敢えて「甘し」にさせて頂いております。

 インベクル王国の一室。

 ユアは起きていたが、頭がボーっとしていた。まだ熱があるのだ。

 だが、たくさん寝たため、眠気はまったく無かった。


 寝ぼけ(まなこ)のまま窓へ寄り、外の景色を眺めていると、目の前に見覚えのある顔が映った。


「よお」


 何と、クルエグムがベランダに現れたのだ。

 しかし、意識が朦朧とするユアは、夢だと思い込むことにした。


「いや、夢だ。こんなとこに、あんな憎ったらしい奴がいるわけない……」


 熱がある頭でも、ユアは彼を「憎ったらしい奴」と表現する元気はあった。

 相手もまんざらではない様子らしく、ニヤニヤと笑い続けた。


「“憎ったらしい”ねぇ……。そう思われるのは慣れっこだよ」


 ノーダメージだった。

 怒って襲って来ることはなく、クルエグムはユアの顔の前に、ある物を差し出した。


「食え」


 それはプリンだった。しかも、丁寧に使い捨てのスプーンまでついていた。


「お前の仲間が言ってたんだ。“ユアにプリンを届ける”って。しかも、風邪なんだって? これ食って、早く元気出せ。そしたら、また遊んでやる。こないだ、面白かったからな」


 言われるままにユアはプリンを受け取った。

 クルエグムのことはまだ夢だと思っているのか、プリンを見た途端に目の輝きが少しだけ戻った。

 今の彼女は、目の前の敵よりも大好物しか目に入らなかったのだ。



「ユア様。お粥が出来ました……」


 言いながらサーヴラスが部屋に入って来た。手にはお粥の入った器を持っていた。

 だが、クルエグムを見ると、表情がさっと変わった。


「お前は?!」

「よお、サーヴラス。久しぶりだな」


 クルエグムは「邪魔が入った」と言わんばかりに不満を顔に出し、無愛想に言った。

 二人は、魔王だったディンフルに仕えていた時以来に再会したのだ。


「何故、ここにいる?! ユア様から離れろ!」

「ただの見舞いだ。もう帰るよ」


 サーヴラスに応えると、クルエグムはまたユアの方へ向いた。


「じゃあな」


 一言だけ言うと、彼は魔法でその場から消えて行った。

 サーヴラスは急いでお粥を近くのテーブルに置くと、ユアへ駆け寄った。


「ユア様、おケガはありませんか?!」


 当のユアはまだボーっとしたまま、プリンを見つめていた。


「それはプリン……? 食べてはなりません! 奴のことなので、毒が入っていると思われます!」



「ユア!!」


 クルエグムとは入れ違いに、ディンフルが現れた。

 町から馬車で戻った後、店でプリンを受け取ると、魔法で先に戻って来たのだ。


「プリンを買って来たぞ!」

「ディンフル様、クルエグムがここへ来ていました」


 ユアへプリンを渡そうとすると、サーヴラスが真っ先に報告した。

 衝撃の知らせを聞いたディンフルは、驚いて目を見開いた。


「申し訳ありません。私がついていながら……」

「いや、お前はよくやってくれた。食事の手配などで抜けていたのだろう? その隙を狙って来ることも考えられる。奴やヴィへイトルなら、やりそうなことだ!」


 謝罪するサーヴラスをディンフルはフォローし、クルエグムたちを罵倒した。


「それで、何かされたのか?」

「私が来ると、すぐに帰りました。ですが、ユア様の手にプリンが……」

「プリン?」


 サーヴラスとディンフルが目をやると、ユアは付いていたスプーンでプリンを一口ずつすくって食べていた。



「あぁーーーーー!!」



「何をしているのだ、バカ者ぉ?!」


 二人で絶叫を上げると、ディンフルはユアの手から慌ててプリンを取り上げた。


「あ……、私のプリン~」


 ユアはおもちゃを取り上げられた子供のごとく、泣きそうな顔になった。


「“私のプリン”ではない! これはクルエグムが持って来たものだろう?!」

「ユア様! 今さっき忠告しましたよね?! “毒が入っているかもしれない”と! 何故、躊躇なく食べているのですか?!」


「毒なんてないよ。プリンはプリンだよ~」

「何をふざけたことを言っている?! 敵が持って来たものだぞ! 少しは警戒せぬか!」

「この世に悪いプリンなんてないっ!」

「ふざけるなぁ!!」


 おそらく、高熱で頭が正常ではないのだろう。ユアは夢心地のまま、プリンを何度も欲しがった。


「食べるならこちらにしろ! インベクルで買った安全度100%のプリンだぞ!」


 ディンフルが、丁寧に箱に入れていたプリンをユアへ手渡した。しかし……。


「……ダメ! プリンは週に一個って決めているんだ!」

「今だけ忘れぬか、その掟とやらは!!」


 風邪でうなされていても、自らが作った決まりだけはきちんと覚えていた。

 その後、ユアは延々とディンフルから説教されてしまった。

 先ほど一緒に怒ったサーヴラスだったが、「病人相手にそんなに怒らなくても……」とユアへ同情せざるを得ないのであった。


                 ◇


 大好物のプリン(敵からもらったものとディンフルがほぼ強制的に食べさせたもの)を補給したユアは見る見るうちに元気になっていった。

 倒れてから約一週間、ようやく元の状態に戻り、意識もすっかり冴えていた。


「私、クルエグムからもらったプリンを食べたの?!」


 後にディンフルやサーヴラスから聞かされたユアはひたすら驚いた。

 高熱を出している間のことは、ほとんど記憶にないようだ。


「そうだ! 毒が無かったから良かったものの!」


 ディンフルは腕を組みながら、呆れていた。


「まあまあ。ユアちゃんも熱で頭が働いていなかったので、プリンしか見えてなかったんですよ」


 ティミレッジが微妙なフォローをするが、ユアがプリンしか見えていなかったのは事実だ。


「それにしてもだ! 普通、敵が来た時点で警戒しないか?」


 次にフィトラグスが唖然としていた。

 珍しくディンフルと同じく、今回のユアには呆れ果てていた。


「ユアは“みんな仲良く”をモットーとしてんだよ!」


 横からオプダットがユアを庇うと「お前じゃあるまいし!」と、ディンフルとフィトラグスが声をそろえた。元因縁の二人が同時に同じセリフを吐くのはレアな光景だった。


「本当にごめんなさい……」


 ユアはようやく自身の行動のおかしさに気付くと、ディンフルたちへ頭を下げた。

 ティミレッジとオプダットは笑って許してくれたが、ディンフルとフィトラグスは「本当だぞ」とまだため息をついていた。


「私……、週一個って決めてたプリンを、来週からは二個までなら許すことにするよ!」


 謎の決意に、ディンフルたちはずっこけた。


「そこじゃない!!」


 思わず、四人そろってユアへ怒鳴りつけた。

 的外れな懺悔なので、怒られても仕方がないのであった。

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これはみんなツッコミますわ
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