第68話「三人衆との戦い 後編」
クルエグムはユアを追い始めようとするが、その前にディンフルが立ちはだかった。
「やっぱり簡単に行かせてくれねぇか。なら、力ずくだ!!」
再び怒りをむき出しにしたクルエグムは剣を振って、必殺技を何度も繰り出した。
ユアはティミレッジの白魔法のサポートを受けながら、襲って来る邪龍を倒して行った。
先ほどは上手くいったが、二回目となると簡単に倒せなくなっていた。
「さっきは上手くいったのに……」
「ディンフルさんが危なかったから、つい興奮したんじゃない? それで、いつも以上の力が出たんだと思う」
「早く倒さないと、他の邪龍もやって来るよ~!」
「攻撃力を上げるよ!」
ティミレッジが杖を掲げた途端、ユアの体が赤い光に包まれた。
その状態で攻撃をすると、ディンフルを助けた時のように一撃で邪龍を倒せた。
「これはすごい! ティミー、ありがとう! しばらく世話になるかも!」
「全然構わないよ! 一緒にがんばろう!」
快く返事をするティミレッジに感謝しつつも、ユアは次々と邪龍を倒して行った。
チアーズ・ワンドを剣のように振ったり、ビームを出したり色んな戦法で邪龍と戦った。
しばらくすると、戦いながらディンフルたちの方を見た。彼らも剣を交えて戦っていた。
クルエグムの顔を見たユアは、ミラーレの公園で告白されたことを思い出していた。
リアリティアを出て、過ごしやすくなったところへ突然現れ、「俺と付き合え」と言い出した彼。
ユアを娘のように可愛がってくれるまりねにも牙を剥いた。
さらにヴィヘイトルがディンフルの城を奪い、邪龍を召喚していたことも発覚し、告白を断れば「弁当屋を潰す」とまで言い出した。
それらを思い出していると、ユアの中でだんだん怒りが募り始めた。
(リアリティアに居づらくなったからミラーレに来たのに、何で来たの? 弁当屋でお金を貯めながら、入試に向けて勉強しようと思ってたのに……)
気付くとユアは走り出していた。
その足はクルエグムとディンフルの方へ向かっていた。
「ユアちゃん?! そっちは危ないよ!」
慌ててティミレッジが呼び止めるも、ユアは止まらない。
彼女が着いた頃には二人は互いに距離を取っていた。
その間にユアはディンフルを背に、クルエグムと向かい合うように立った。
「ユア? 何故来た?!」もちろん、ディンフルも驚きの声を上げた。
「よお。来てくれたってことは、付き合う気になったか?」
それまで不機嫌だったクルエグムはユアを見た途端、邪悪を含みながら笑い出した。
「ディン様やみんなを、これ以上傷つけないで!!」
目の前の相手に怒鳴ると、チアーズ・ワンドが持ち主の感情に応えるように光り始めた。
ユアは、これまで以上に思い切り振った。
「スーティアン・アニマシオン!!」
ピンクと白の強い光がチアーズ・ワンドから現れ、クルエグムを襲った。
ユアが必殺技を使えないと思い込んでいたため回避が遅れ、そのせいで邪龍を呼び出す水晶玉を落としてしまった。
「やべっ……!」
クルエグムが取りに行こうとすると、ユアは今度はチアーズ・ワンドからピンク色の球体がいくつも出し続けた。ユアもがむしゃらに邪魔をし出したのだ。
クルエグムはうなりながら剣で球体を斬り捨てていった。
「今だ!」相手が球体に気を取られている間にディンフルが駆け出し、自身の大剣を振った。
「シャッテン・グリーフ!!」
大剣の攻撃と黒と紫の衝撃波が当たり、水晶玉は粉々に割れてしまった。
ディンフルの必殺技が流れ弾のように当たり、周囲の邪龍も一掃され、一匹もいなくなってしまった。
「くっそ!」
悔しさに顔を歪めるクルエグム。
ユアに必殺技を放たれた上に邪魔をされ、守っていた水晶玉が壊されてしまった。彼が報復しに来るのは時間の問題と思われた。
だが、光や球体のすべてが無くなった途端、クルエグムは天を仰ぎ大声で笑い出した。
「これは傑作だ! 俺にわざわざケンカを売りに来るなんて、いい度胸してんじゃねぇか!」
ユアは笑い続けるクルエグムをまっすぐ睨み続けていた。
「お前の気持ちはわかった。でも、ディンフルといても幸せになれるとは思えねぇ。一目惚れだから、まだ内面を知らねぇだろ? 知ったら、離れたくなる時が来るぜ。俺たち三人衆みたいにな!」
「ディン様は、人を傷付ける人じゃない! あなたとは違う!」ユアは負けじと言い返した。
「人は傷つけないが、ディファートは傷つけたぞ! 同族だってのによ!」
ディンフルは息をのんだ。今の言葉が胸に刺さったのだ。
命乞いをする人間たちを許し、三人衆を怒らせた過去が脳裏によみがえるのであった。
「いずれわかるぜ。裏切り者の魔王より、俺の方がいいってことをな! また遊ぼうぜ。今のお前、めちゃくちゃ面白かったぜ!」
最後にクルエグムは再戦を約束し、魔法で消えて行った。
ユアは必死で立ち向かったことを「遊び」と捉えられ、胸の内にモヤモヤが残るのであった。
◇
クルエグムがアジトである廃墟に戻ると、すでにアジュシーラとレジメルスが部屋で休んでいた。
「何で先にいるんだよ……?」
ようやく帰った彼の顔が、見る見るうちに般若のように変わっていった。
ベッドに座って本を読んでいたアジュシーラが一番に答えた。
「だってあいつら、強くなってんだもん」
「弱ぇ奴から相手すりゃいいじゃねぇか!」
「弱い奴がユアしかいないし、エグが相手したがってたじゃん……」
クルエグムに怒鳴られたアジュシーラは反論するが、語尾へ行くにつれて声が小さくなった。
「偽善の王子はどうした?! 倒したんじゃなかったのか?!」
「倒せてないよ。あいつ、つまんないもん」
答えに腹を立てたクルエグムは舌打ちすると、近くにあった小さな棚を蹴飛ばした。中に入れていた物が散乱した。
「ちょっと、あまり散らかさないでよ。そうでなくてもこのアジト、埃っぽいんだから」
マスクを外したままベッドに寝転がっていたレジメルスが文句を垂れた。
クルエグムの矛先が彼へと変わった。
「てめぇも何で帰ってんだ? あのバカの武闘家、相手にしてたんじゃねぇのかよ?!」
「カメムシが出たからやめた」
「はぁ?!」
事実、レジメルスはカメムシが止まったことでマスクに臭いが付き、戦意を無くしていた。
嗅覚に長けたディファートの彼にとって、カメムシは最大の天敵なのだった。
「ふざけんな!! 俺らはヴィへイトル様から大切な水晶玉を預かって、守るように言われたんだぞ! “相手が強くなったから”とか、“カメムシが出たから”とかつまんねぇ理由で放棄してんじゃねぇ!! やる気あんのか?!」
クルエグムは三人衆で最もヴィへイトルを崇拝しているため、水晶玉を守る任務は何としても達成したかった。
そのため、(個人的に)くだらない理由で先に帰った二人が気に入らなかったのだ。
「エグだって守れなかったじゃん」
アジュシーラがぽつりと言った。
彼の台詞に、今まで仰向けで目を閉じていたレジメルスが思わず目を開けた。
「は? 偉そうに言ってるくせに、失敗したの……?」
「しかも、ユアに邪魔されたんだよ」
アジュシーラは廃墟に帰ってからすぐに、額にある第三の目でクルエグムたちを見ていたのだ。
「先に帰ったてめぇらよりマシだ!!」
金切声を上げるとクルエグムはドアを力強く閉めて部屋を出た。あまりの衝撃に、ドアが外れてしまった。
三人衆の空気はますます悪くなる一方であった。




