第67話「三人衆との戦い 中編」
その頃、クルエグムは遠くからティミレッジとユアを見つめていた。
ティミレッジ一人なら簡単に倒せると思っていたがジュエルの力でパワーアップしていたため、自身の攻撃が効かず、イライラしていた。
「どう近づくかねぇ……」
ユアたちは今、山道を走っていた。壁などはなく、ほとんど崖っぷちだった。
「いいこと考えたぜ」二人がいる地形を見たクルエグムはある考えがひらめいた。
ニヤリと笑うと瞬間移動の魔法を使って、再び二人の真ん前に現れた。
ティミレッジがユアの前に立ち、白魔法のバリアを強化した。
「フューリアス・ヴェンデッタ!」
クルエグムは剣を振り、二人の真横へ衝撃波を撃った。
急いで避ける二人だが「どこを狙ってるんだろう?」と内心思った。
避けた拍子にティミレッジの足元が崖に近くなった。
それを確認したクルエグムが再び「フューリアス・ヴェンデッタ」を繰り出した。衝撃波がティミレッジの足元の地面を抉る。
地面は崩れ、彼は崖下へ落ちてしまった。
「うわあああーーー!!」
「ティミー!」
ユアが手を伸ばそうとするが、彼女へ向かって三度目の必殺技が繰り出された。
ティミレッジが離れた今、バリアは数度目の攻撃を受け、破られてしまった。無防備になったユアへ、クルエグムが瞬時に接近した。
「やっと二人になれたな、ユア」
彼はこれでもかと言うほどの怪しい笑みを浮かべて、 ユアの首元に自分の腕を回した。
「俺のこと、“エグ”って呼んでくれてもいいんだぜ?」
「やめて!」
ユアも負けじとチアーズ・ワンドを手にし、ビームを出した。
クルエグムは瞬間移動で避け、離れたかと思うとまたすぐに彼女の近くに現れた。
「この俺を倒せると思ってんのか? 戦ったこともない弱虫が!」
相手を中傷すると、彼はユアへ魔法弾を発射した。
ユアはすかさずチアーズ・ワンドを構えるが、魔法弾の威力で吹き飛ばされてしまった。初めて被弾したが、ダメージはほとんど無かった。
「生きてる? もしかして、これも……?」
先ほど洞窟内で不時着した時と言い、生身の人間なら重傷を負うはずだが、やはりユアは無傷だった。
イポンダートがくれたトウソウの力が守ってくれているのだ。
「魔法弾が効かない……? こりゃ面白ぇ!」
ユアの無事を確認したクルエグムは目を見開きながら笑うと、今度は剣を構えて彼女に迫って行った。
「来ないで!」
ユアもすぐさま立ち上がり、彼へ向かってチアーズ・ワンドを剣のように構えた。
しかし、まともに戦える自信は無かった。魔法弾ではダメージは少しだけだったが、動きの素早い彼について行けそうに無かった。
何よりユアは、ディンフルから怒られたばかりである。そのこともあって、自身の戦力にすっかり自信を無くしていた。
「なあ? 前の返事を聞かせてくれよ!」
クルエグムは剣先を向けながら尋ねた。「付き合え」の返事を知りたかったのだ。
ユアは答えなかった。もちろん付き合う気は無いが、拒否すればミラーレの弁当屋は襲われ、フィーヴェの邪龍も今よりもっと増えてしまう。
黙ってやり過ごしたかったが、やはり相手には見透かされていた。
「どうせ付き合う気、ねぇんだろ? 態度でわかるぜ」
クルエグムは残念そうな表情を浮かべるが、またすぐに邪悪に微笑んだ。
「覚悟は出来てんだろうなぁ? 付き合わなかった時のことを!!」
その時、二人の間の地面に黒と紫色の衝撃波が直撃した。
飛んで来た方向を見るとディンフルが大剣を持ち、マントの力で浮いていた。
彼の背中には助け出されたティミレッジが背負われていた。
「ディン様!」
「クルエグムは俺が相手をする。お前はティミレッジを頼む」
ディンフルは降り立つなり、ティミレッジを降ろした。彼の悲鳴を聞きつけ、邪龍をそっちのけにして助けてくれたようだ。
ユアはティミレッジを担いで避難し始めた。
ユアが離れた上に大嫌いな元魔王が現れ、クルエグムはわかりやすく不機嫌になり始めた。
「最悪だぜ……」
「こちらの台詞だ。ヴィへイトルめ。遠隔でインベクル近くに邪龍を召喚しおって!」
「ヴィへイトル様を悪く言ってんじゃねぇ! 一度もダメージを負わせられずにやられたくせによ!」
「目を覚ませ! ヴィへイトルは誰も大切に思わぬ。お前たちのこともいずれ……」
「黙れ!!」
ディンフルの言葉を遮るとクルエグムは剣を振り、必殺技を放った。
「フューリアス・ヴェンデッタ!!」
怒りからか、ユアたちに使っていた時より威力が強めになっていた。
だが、ディンフルの剣さばきの前では、どんな強さでも相殺されるのであった。
「前にも言ったが、お前たちに私は倒せぬ。一度、話し合おう」
「話すことなんかねぇ!」
「……仕方あるまい」
互いの剣を何度も交え、その度に紫と赤紫色の衝撃波が二人の周囲を駆け巡った。しまいには周りの地面が抉れるほどだった。
そんな剣撃を、ユアとティミレッジは離れた場所から眺めるのであった。
「やっぱりすごいな、ディン様……」
「クルエグムもけっこう強いよ」
感心していると、一匹の邪龍が二人の横を通り抜け、ディンフル目掛けて襲いかかった。
「しまった!」
ディンフルは今、クルエグムと鍔迫り合いの最中。
手元を緩めれば相手の剣が当たる。だが、このままでは邪龍の攻撃を受けてしまう。
八方塞がりで焦るディンフルを見て、クルエグムは口角を上げた。
「ダメーーー!!」
ディンフルの背後に来たユアがチアーズ・ワンドを力強く振り下ろした。
すると、攻撃が当たった邪龍は黒いモヤとなって消えてしまった。
「何だと?!」
見ていたディンフルとクルエグムがそろって驚きの声を上げた。
特にクルエグムは、先ほどユアの相手をした際に彼女の戦力を把握したばかりだった。
「あんなに弱かったくせに……?」
相手が油断している間にディンフルは大剣を払ってクルエグムを遠くへ飛ばすと、ティミレッジへ振り向いた。
「お前の白魔法か?!」
「い、いえ! 僕、何もしてません!」
「白魔法無しでも強くなったと言うのか……?」
ユアの能力に度肝を抜くディンフル。
洞窟内では思わず彼女を怒鳴ってしまったが、今の一撃で彼は救われたのだった。
彼はユアに近付き、声を掛けた。
「助かった、礼を言うぞ」
「い、いえ……。見ていられなくなって、飛び出しただけなので……」
感謝されるとは思っていなかったユアは緊張し、思わず敬語になってしまった。
「クルエグムは俺が何とかする。その間に、邪龍を食い止めてもらえぬか?」
「えっ?!」
ユアは驚愕した。
洞窟で「お前には戦わせられない」と言ったディンフルから、直接指示を出されたからだ。
「今の調子でやれば大丈夫だ。本当に、ありがとう」
ディンフルは穏やかな笑みを浮かべた。
戦いで初めて彼に褒められ、ユアは嬉しさからか、すっかり元気を取り戻した。
「はいっ! 私、がんばるます!」
あまりにも元気に返事をしたので、「頑張る」と「頑張ります」が混じって「がんばるます」と間違えてしまった。
だがディンフルは気にしておらず、再びクルエグムの元へ向かうのであった。




