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ラスボスと空想好きのユア 2 Precious Bonds  作者: ReseraN
第3章 波乱の五人旅
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第66話「三人衆との戦い 前編」

 ティミレッジがユアの手を引いて走っていると、眼前にクルエグムが立ち塞がった。瞬間移動の魔法でやって来たのだ。


「まだ返事聞けてないんだけどなぁ、ユア?!」


 ティミレッジはユアの手を離すと、彼女を背にして立った。


「また邪魔かよ? どけぇ!!」


 クルエグムが剣を振り下ろすと、ティミレッジはすかさずバリアを張った。


(そういえば、ティミーのバリアってヴィへイトル一味には効かなかったはず……!)


 思い出したユアがチアーズ・ワンドを手に取る。

 だが心配をよそに、バリアはクルエグムの剣を弾き返し、そのままの形で残った。


「何っ?!」クルエグムも驚いた後で、ティミレッジが持つ杖の先端にはまった青色のジュエルに目をつけた。


「ジュエルの力か……。うぜぇ!!」


 彼は怒りに身を任せ、何度も剣でバリアを斬りつけた。

 ところが、前は魔法弾一発で壊れたバリアも、何度攻撃を受けても破られることはなかった。これには後ろで見ていたユアも感嘆するのであった。


「ジュエルの力、すごい……」


 そのバリアを張ったティミレッジ自身も驚いており、魔王討伐の旅に出ていた時よりも強くなったことを確信した。そして、ここまで身を守れるのなら、フィトラグスやオプダットはどうなっているのかが気になり出した。

 同時に不安も脳裏を過ぎった。魔王討伐の時にジュエルがあったら、ディンフルを倒していたかもしれなかった……。


 そんなことを考えているうちに、怒りに満ちたクルエグムが必殺技を使い始めた。


「フューリアス・ヴェンデッタ!!」


 彼の剣から黒と赤紫色の衝撃波が何発も繰り出されたが、やはりそれらもティミレッジのバリアでかき消されてしまった。


「悪いけど、君がどいて!」


 ティミレッジは再びジュエルのついた杖を光らせると、今度はクルエグムの体を茶色い光で包んだ。


「体が重い……!」


 先ほどアジュシーラへ使った、相手の動きを遅くする白魔法だ。

 クルエグムが動くのに時間が掛かっている間に、ティミレッジは再びユアの手を引いて彼の前をすり抜けて行った。


「何がジュエルだ?! ふざけんなぁ!!」


 クルエグムしかいなくなった場所に怒号が響いた。


                 ◇


 別の場所では、オプダットとレジメルスが拳や蹴りを駆使して戦い合っていた。


「リアン・エスペランサ・スパークル!!」


 オプダットが地面を殴ると衝撃波と雷が発せられ、レジメルスへ向かってそれらは伸びて行く。


「グルーム・フレイユール」


 レジメルスの手から弓型をした青緑色の衝撃波が出ては、オプダットの必殺技をかき消した。

 だがすべては消せずに、彼の手に小さな電流が走った。


「ちっ……!」


 レジメルスが不満そうに舌打ちをすると、オプダットが再び必殺技を使った。

 先ほどと同じように地面を殴って、衝撃波と雷を発生させた。同様にレジメルスも必殺技で相殺すると、今度は雷をうまくかわした。

 ここで彼から戦いをやめ、口を開いた。


「君さ、何でさっきから地面を殴ってるの?」


 突然聞かれオプダットも戦いを中断し、目を丸くして聞き返した。


「な、何が?」

「いや、“何が”って……。そんなにすごい技を使えるなら、僕に当てればいいじゃん。どうして当てないの?」


 質問の意味がわからず頭をひねるオプダットへ、レジメルスはため息をついて解説した。


「あのフィトラグスやエグ……クルエグムはそれぞれの剣で斬り合うだろう? でも、君はわざわざ地面を殴ってから必殺技を発生させてる。使い方は人それぞれなんだろうけど、せっかくなら僕を直接殴った方が良くない? 敵にアドバイスするつもりないけど……」

「人は殴らねぇ」


 オプダットが出した答えに、今度はレジメルスが首を傾げた。


「魔物とか悪魔とかの悪い奴は殴る。でも基本、人は殴りたくねぇんだ。将来、仲良くするかもしれないだろ? ましてや、お前はディファートだ。知ってるか? 今、フィーヴェではディファートは保護しなきゃいけないんだ。だから、なおさら殴れねぇ。必殺技だって死なない程度に抑えてんだぞ!」


 相手の戦闘論に、レジメルスは再びため息をつくのであった。


「本当にお人好しだね。めちゃくちゃだるいんだけど……」

「だるいなら少し休むか? 座ってもいいぞ!」


 意思疎通が出来たと感じたオプダットは、笑顔で相手へ休憩を勧めた。

 するとレジメルスは瞬間移動で彼の真ん前に現れ、その腹部に強烈な膝蹴りを入れた。


「うっ……!」

「空気読めよ。君みたいに底抜けに明るい奴、ムカつくんだよね。はっきり言って無理」


 痛みで腹を抱えてうずくまるオプダットを、レジメルスは見下すように睨みつけた。


「息の根、止めてあげるよ」

「ま、待て待て! 話を聞いてくれ!」


 レジメルスは相手の制止も聞かず、手の中から青紫色の魔法弾を出した。



 するとその時、オプダットの顔の前を、楕円形で薄茶色の虫が横切った。目に見えるほどの大きさだった。


「うわぁっ! 虫だけはイヤなんだよ~!」


 慌てて手を振ると、虫は今度はレジメルスのマスクにくっついた。


「げっ……!」


 レジメルスは怪訝な顔をすると急いで手で払い除け、その場を離れた。

 見ていたオプダットが再び目を輝かせ始めた。


「もしかしてお前も虫が嫌いか?! 俺ら、気が合うな!」

「冗談じゃない!!」


 初めて感情たっぷりに声を上げると、レジメルスは着けていたマスクを乱暴に外した。下の顔が露わになった。


「最っ悪……! 悪いけど、勝負はお預けだよ」

「へ……? 何で?」

「虫は嫌いじゃないけど、カメムシは別。くさいし、臭いも落ちないじゃん……! それじゃ」


 簡単に言うと、レジメルスはマスクを持って、魔法でオプダットの元から消え去って行った。おそらく、マスクに付いたカメムシの臭いが取れなくなったのだろう。

 オプダットは皮肉にも、自分が嫌いな虫に救われたのであった。


                 ◇


 アジュシーラが繰り出す魔法を、フィトラグスは剣さばきでかわしていた。

 彼もジュエルのおかげで前より戦いやすくなり、相手の攻撃をすべて剣だけで相殺していた。

 苦戦はしなかったが、相手にはダメージを与えられていなかった。


「さっきから守りに入ってるけど、それじゃあオイラは倒せないよ~。もしかして、オイラが子供だから遠慮してる? エグでないと思いっきり戦えないの? ()()()()()()が子供を傷つけたら問題になりそうだもんねー!」

「君みたいに悪い子なら、なおさら“正義の王子”がたしなめないといけないな」


 アジュシーラは敢えて嫌味のように「正義の王子様」と強調してみせたが、逆に相手も自称したため、悔しがり出した。


「じゃあ、偽善の王子!」

「はいはい。俺を皮肉るのにうってつけの言葉だな。でも俺は、偽善でやっているわけじゃない。今は君たちの元へ手が届いてないだけで、助ける気が無いわけじゃない」

「は? 何言ってんの?」

「ディファートは今や、フィーヴェで守られなければならない存在。だが、理解者はまだ少ない」

「”まだ”どころか一生出ないでしょ。“大昔から続いて来たことは簡単には終わらない”って、レジーが言ってたよ!」

「いや、終わらせるんだ。俺たちが生きている間に。でも君たちがこうやって暴れていると、人間は余計にディファートへ不信感を募るし、いつまで経ってもディファートが嫌われ続けてしまう」

「人間って散々ディファートをいじめておきながら、自分たちがやられたらすぐ被害者面するんだね! そういうとこだよ!」


 アジュシーラの言葉にフィトラグスは息をのみ、思わず動きが止まってしまった。


「チャンス!」


 アジュシーラの手から魔法弾が放たれ、大きな爆発音がした後で砂煙が出た。

 ところが砂煙が消えると、剣を構えたままのフィトラグスが立っていた。剣を振るのが遅かったので、魔法弾は消せたが体には少しダメージを負っていた。


「被害者面……か」


 アジュシーラの言葉を一部を引用して繰り返した。


「認める気になったぁ? てか、認めろよ!」


 アジュシーラは、ダメージを負いながらも苦しそうでないフィトラグスが理解出来なかった。

 先ほど「悪い子供は正義の王子がたしなめなければならない」と言われたばかりだが、叱られる空気が今のところ感じられなかった。


「何だよ? 文句あるなら言えば?!」


 アジュシーラが煽ると、フィトラグスは質問し始めた。


「正直に答えてくれ。君は、俺たち人間が怖いか?」

「はぁ……?」


 思いもよらない問いかけに、開いた口が塞がらなかった。


「い、いきなり何だよ?! ああ、怖いよ。怖くてしょうがないから、早く絶滅して欲しいよ! そんなこと知ってどうするのさ?」

「俺もディファートが怖いんだ」


 アジュシーラはますます理解出来なかった。次の瞬間、彼は大声で笑い始めた。


「オイラたちが怖いってこと? 正義の王子様なのに?! 面白~い! エグやレジーにも言ってやろ!」

「ああ、笑えばいい」


 フィトラグスはやはり怒らず、冷静に相手を見ていた。

 アジュシーラは感情的にならない王子へ怒りが募り、ふくれっ面をして見せた。


「俺たちにとって、ディファートは未知の種族だからだ。一人一人持っている力は違うし、人間と性格も違うんじゃないかとか色々考えてしまうんだ。今はディンフルやサーヴラスとしか接点がないが、もし逆鱗に触れたりすると、“人間が危なくなるんじゃないか”って考える時もあるんだ。特に、元魔王はな……」


 突然、冷静に語り出すフィトラグスにアジュシーラはつまらなく感じて来た。


「あ、そ。怖いならずっとビビってればいいじゃん。お前がディファートを怖がると、オイラたちが有利になるだけだよ!」


 アジュシーラは生意気に言った後で、必殺技を繰り出した。


「チーキネス・シュピーレン!」


 フィトラグスの足が凍り付き、身動きが取れなくなった。

「これで動けないね! 覚悟しな!」楽しそうな声が響く。


「君たちの方がもっと怖かったよな?」ここまででフィトラグスは怒りを示さなかった。

 足が凍りついた相手からその言葉が向けられ、アジュシーラは思わず固まってしまった。


「は……? そう言ったじゃん! てか何なんだよ、さっきから?!」

「何もしてないのに色んな人から嫌われて、いじめられて、大切な人を殺されたり、住むところを追われたりして大変だったな」

「い、今頃、同情されても嬉しくないんだよっ!」

「そうだよな。大嫌いな人間から“つらかったな”なんて言われても嬉しくないよな。でも今、ディンフルが君たちに暮らしやすい世界を創ってくれようとしている。俺たちももうディファートを怖がらないし、他の人間たちにもそう伝えるよ」

「出来ない約束はしない方がいいんじゃない?」


 説得されてもアジュシーラはつっけんどんな態度を取り続けた。

 それでもフィトラグスは凛とした表情で強い意志を見せた。


「“出来る、出来ない”じゃなくて、してみせる。何故なら俺は、フィーヴェ代表の国の王子だ。君たちを助ける立場の人間だ。父上も保護を考えて下さっている」


 何を言っても言い返され、アジュシーラはとうとう反論出来なくなった。そして、話の内容も気に掛かっていた。

 最後にフィトラグスは「助けが遅くなってすまない」と謝ると、自身の足を凍らせている氷へ剣を向けた。


「ルークス・ツォルン・バーニング!」


 繰り出される炎によって氷は溶け、フィトラグスは自由の身になれた。

 だが、アジュシーラはとっくに戦意を失っていた。


「き、今日はここまでにしてやる!」


 悔しそうに言うと、彼は瞬間移動の魔法で消え去るのであった。

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