第65話「妖しい水晶玉」
洞窟内。
奥から来る大量の邪龍を片付けると、オプダットが通路の突き当たりに何かを発見した。
「何か光ってるぞ!」
その言葉を合図に、五人は奥へと駆け始めた。
すると、岩で出来た台座の上にある青紫色の水晶玉が、黒く怪しい光を放っていた。
「間違いない。邪気の正体はこいつだ!」ディンフルが真っ先に感じ取った。
「これ、一体何なんですか?」
「説明は後だ!」
ティミレッジが尋ねると、ディンフルは急いで水晶玉へ拳を振るった。
一瞬、「素手で割るのか?!」と思う四人だが、よく考えるとディンフルは緑界という異世界で、ユアが持つ魔封玉を足で踏み壊したことがある。
その魔封玉は「ダイヤモンドよりも固い」と言われており、それを簡単に壊したディンフルなら水晶玉も難なく壊せるだろうと思った。
「チーキネス・シュピーレン!!」
彼の拳が水晶玉に当たろうとしたその時、どこからかオレンジ色のワイヤーが現れ、その先端が水晶玉にくっつき、持ち上げてしまった。
たどって見ると、三日月の乗り物に乗ったアジュシーラが手から魔法のワイヤーを出していた。
「アジュシーラ! 何故、ここに?!」
「お、お前らこそ、何でいるんだよ?! これは渡さないぞ!」
ディンフルが怖いのかアジュシーラは震えた声で言うと、水晶玉を持ったまま外へ飛んで行った。
「待て!!」
駆け出す一行。
ティミレッジと共に感じた禍々しさ、アジュシーラが壊されまいと急いで持ち出したことから、やはり水晶玉は邪龍と関係があるとディンフルは睨んだ。
あまりにも前の三人が速く走るので、ユアとティミレッジは遅れ気味になってしまった。
するとここで、ユアのチアーズ・ワンドが光り、四角形の物体を二つ出してくれた。
これはチャロナグ・タウンの裏山に登っている最中にも出たもので、楽に山頂まで連れて行ってくれる優れものだった。
早速、二人がそれに腰掛けると、四角形はディンフルたちと同じ速度で飛び始めた。
「速っ!」
あっという間に前を走る三人へ追いついた。
「何だ、その乗り物は……?」
初めて目にするディンフルが半ば呆れたように聞くのであった。
ユアが答える前に一行は外に出た。
飛び出した先には、クルエグムとレジメルスがいた。クルエグムはアジュシーラを見るなり、怒りで声を荒げた。
「今まで何してたんだ?! 置いてかれてぇのか?!」
「水晶玉を見張ってたんだ! こいつらが壊しに来たよ!」
アジュシーラは答えながら、ユアたちを指さした。
「は……? 何で君たちがいるの?」
レジメルスは冷静を装っているが、声のトーンからして驚きを隠せていなかった。
「お前たちこそ、何故ここに? その水晶玉は何なのだ?!」
ディンフルが聞き返すと、クルエグムが怪しい笑みを浮かべた。
「聞きてぇか? これはヴィへイトル様がいる古城から、遠隔で邪龍を呼び出せるものだよ」
「どういうことだ?」
「ヴィへイトルが遠くで召喚魔法を使ったら、あの水晶玉から邪龍がテレポートして来るってことだよ!」
理解出来ないオプダットが聞くと、ティミレッジが詳しく解説をした。
「つまり、その水晶玉のせいで邪龍が増えていたんだな?!」今度はフィトラグスが憤怒した。
「そういうことだ。やめてやってもいいんだぜ? ユアが俺と付き合ってくれたらなぁ!」
そう言うと、クルエグムが再びニヤリとしながらユアを見た。
ディンフルら四人が彼女を隠すようにして立ちはだかった。
「ユアは貴様とは付き合わぬ。その水晶玉を渡してもらおう!」
「やなこった!」
アジュシーラは水晶玉を持ったまま、三日月型の乗り物でその場を去ろうとした。
「させないよ!」
ティミレッジが白魔法を使うと、アジュシーラと三日月の乗り物が茶色い光に包まれた。相手の動きを遅くする補助魔法だった。
「な、何するんだよ?!」
突然、乗り物が急に止まったため、彼の手から水晶玉が落ちてしまった。
「もらったぜ!」
すかさずオプダットが拾いに行こうとすると……。
「グルーム・フレイユール」
レジメルスの手から、弓型をした青緑色の衝撃波が発せられた。
オプダットは避けたためダメージを逃れたが、水晶玉が跳び上がり、転がって行ってしまった。
今度はディンフルが大剣で斬ろうとするが、水晶玉から大量の邪龍が現れた。
素早く大剣を振り邪龍を倒すが、水晶玉からは次々と邪龍が現れては彼を襲って行った。
「なら、俺が!」
次にフィトラグスが剣を構えて浮いていた水晶玉を斬りに行くが、目の前に邪悪な笑みを浮かべるクルエグムが立ち塞がった。
フィトラグスは剣を構え直した。インベクル王国の中庭では一方的にやられたが、ジュエルを手にした今は彼と互角に戦える自信があった。
このままクルエグムと剣を交えた戦いになると思った矢先、いきなり相手が高々と手を上げ、指を鳴らした。
すると、新しい三日月の乗り物に乗ったアジュシーラが青紫色の魔法弾を撃ってきた。
「何?!」
フィトラグスは急いで剣を振り、魔法弾を打ち消した。
以前は相殺する時にダメージを受けたが、ジュエルの力でそのダメージからも守られるようになっていた。
だがフィトラグスは、クルエグムの代わりに来たアジュシーラに疑問を抱いた。
「悪く思わないで。オイラも急に言われてビックリしてんだから!」アジュシーラ本人も不本意そうだった。
「君は魔法を使う者として、ティミーとやり合うと思ったけどな」
フィトラグスに言われると、アジュシーラは一瞬だけ体を強張らせた。
彼の中ではティミレッジはダークティミーのイメージがついてしまい、「今は白魔導士でも、急に闇堕ちしたら……?」と悪い考えが過ってしまうのだ。
なので、クルエグムの急な合図に対応せざるを得なかった。と言うよりは、ディンフルやティミレッジ以外の者と戦った方が精神衛生的にも良かったのだ。
そのままフィトラグスはアジュシーラと戦うことにした。クルエグムの行く先も知らずに……。
ディンフルは大量の邪龍、オプダットはレジメルス、フィトラグスはアジュシーラとそれぞれ戦う中、ティミレッジはユアを連れて逃げていた。
「あの人のことだから、きっとまたユアちゃんを狙って来るよ! 僕が守るから!」
「ありがとう。でも、無理しないでね」
ユアは仲間たちに感謝しつつも、申し訳なく思っていた。
せっかくチアーズ・ワンドを手に参戦出来ても、クルエグムと戦えなければ意味がなかった。
今は仕方がないとしても、自分の力が役に立てないことをもどかしく思うのであった。




