第61話「五人旅、スタート」
今日からディンフルが復帰し、五人で行動することになった。
これまで付き合ってくれていたソールネムとチェリテットは、それぞれの村と町の周辺の魔物退治を手伝うことになったため、旅にはついて行かないことになった。
ソールネムいわく「ディンフルがいるなら、私たちはいなくていいでしょ」とのことだった。
身支度を終えたユアたちの元へ、フィトラグスとディンフルがやって来た。二人とも、ダトリンド国王に呼ばれていたのだ。
「早速、父上から依頼があった」
「この近辺に邪龍の巣窟らしきものがあるらしい。それを調査して来て欲しいそうだ」
「巣窟?」ティミレッジが聞いた。
「このところ、近くの洞窟から邪龍が大量に出ているらしい。もしそこが奴らの巣ならば、滅却せねばなるまい」
「そこを壊せば、邪龍は減るか?!」
巣が見つかったことで、オプダットが嬉しそうに尋ねた。
「おそらく減らぬ。色々あって忘れているかもしれないが、邪龍にはヴィへイトルが召喚しているものもいるのだ」
「そういえばそうだったな……」予想が外れ、うなだれるオプダット。
「とにかく邪龍を倒せば、レベルアップにもなるね! 頑張ろう!」
ユアがやる気に満ちながら言った。
五人旅で戦えるのはこれが初めてなので、いつも以上に張り切っていた。
ところが、ディンフルは良い顔をしなかった。
「何を言う? お前は留守番だぞ。いくら何でも危険すぎる」
「えっ?!」
ユアが悲鳴のような声を上げると、フィトラグス、ティミレッジ、オプダットも驚いた目でディンフルを見た。
「何で留守番なんだよ? ユアも戦えるぞ!」
フィトラグスに言われ、ディンフルはハッとなった。ユアが戦えるようになったことを忘れていたのだ。
「……そうだったな、すまぬ。しかし、邪龍と戦うにはもっとレベル上げが必要だとイポンダートが言っていたはずだ」
「大丈夫! 昨日ビラーレルでたくさん倒しまくったから!」
ティミレッジが「“倒しまくった”って、一人では無理でしょ」と付け足した。
ユアは邪龍にダメージは与えられるが、まだ少しずつだった。なので、昨日もトドメは他の者が刺してくれたのだ。
本人の意気揚々さと戦闘結果の温度差に、ディンフルは思わずため息をついた。
「あのな……。倒すとは、一人でトドメまで刺すということだ! 人任せでは、”倒した”とは言わぬ!」
「で、でも、ユア、昨日すっごく頑張ってくれたんだぞ!」
「結果を残していなければ一緒である!!」
オプダットが慌ててフォローに入るも、ディンフルはユアの頑張りを認めようとしなかった。彼の中では、未だ不安だったのだ。
苛立つディンフルを見て、ユアも途端に緊張し始めるのであった。
◇
洞窟へ向かう道中も魔物は出た。
だが、真っ先にディンフルが倒してしまい、四人の出番はほとんど無かった。
特にユアは自然と後方へ下がっていたので、一度もチアーズ・ワンドを抜けなかった。
もどかしい思いを抱えたまま、一行は洞窟にたどり着いた。
「ここ、来たことあるぜ!」
魔王討伐でフィーヴェ中を回った一行は、知らない場所が無かった。
オプダットは懐かしく思ったのか、目を輝かせた。
「たしか、森の人食い花を倒した直後で攻略したとこだよね?」
「ここはここで大変だったぞ……」
ティミレッジも振り返り、フィトラグスは苦悶の表情を浮かべた。
「とにかく行くぞ。どんなに大変でも、進まねばならぬ」
唯一、洞窟事情を知らないディンフルが率先して入って行った。
攻略本で内部を知っているユアは「どんな洞窟なのか聞かないんだね……」と唖然とするが、魔王であり戦闘力に長けた彼なら、一発本番でも難なく攻略出来るのだろうと考えた。
ディンフルの後を追うように、ユアたちも洞窟内へ入って行った。
◇
ユアたちが洞窟に入る頃、ヴィヘイトル一味の三人衆は、岩で出来た台座の上にある青紫色の水晶玉を取り囲んでいた。
「大丈夫そうだな」
クルエグムが水晶玉の無事を確認する後ろで、レジメルスは気だるそうに腕を組み、アジュシーラはビクビクしながら見つめていた。
「ねえ、これって三人で来る必要、あるの……?」
アジュシーラは先日、ジュエルの破壊に失敗したばかり。それを見抜かれてから、クルエグムとは特に一緒にいたくなかった。
質問に不満を持ったクルエグムが「あぁ?」と怒りを交えながら聞いた。
「それ、どういう意味? 僕らと行動したくないってこと?」
レジメルスが土壁にもたれながらアジュシーラへ尋ねた。
「す、水晶玉が大丈夫か、確認しに来たんでしょ? それなら、一人で良くない……?」
アジュシーラがおどおどとしながら聞くと、クルエグムが彼へ向き合い、見下すような視線を向けた。
「ヴィへイトル様のご命令にケチをつける気か?」
「違うったら! ヴィへイトル様は悪くないよ!」
「じゃあ、誰が悪いんだ?! 俺か? それとも、レジーか?」
クルエグムが怒鳴ると、アジュシーラは萎縮してしまった。
見ていたレジメルスは助けるでもなく、「また始まった」と言わんばかりに「だる……」と漏らした。
すると、今度は彼へ怒号が上げられた。
「またそれか……。聞いてるこっちまでだるくなるから、マジでやめろ!」
「しょうがないでしょ。ネガロンスさんから“嫌な予感がするから、三人で見て来て”って頼まれたんだから」
「“しょうがない”? お前も三人で行くの、嫌なのかよ?」
「そりゃあ、シーラの気持ちもわからなくもないよ。ひたすら上から目線で自慢して、ちょっと指摘しただけですぐ怒る人となんて、一緒に行きたくないもん」
「それ、誰のこと言ってんだ?!」
クルエグムがレジメルスへ怒鳴っていると、アジュシーラはため息をついた。
「またケンカ……。こういうのあるから、三人で行きたくなかったんだけど」
「何だぁ?!」クルエグムが再びアジュシーラを睨みつけた。
「生意気言ってんじゃねぇぞ! 俺やレジーの必殺技がねぇと、敵にダメージ与えられねぇクソガキが! お前の必殺技、相手をナメ過ぎなんだよ!」
「オイラだって、ちゃんとやってるよ! 二人だって、オイラの目が無いとユアたちがどんな状況かわからないくせに!」
アジュシーラは自身の額にある第三の目を指して言った。この目には、一度会った相手なら遠くにいても探れるため、クルエグムとレジメルスは重宝していた。
ただ最近は、「あって当たり前」と思われているのか、二人から感謝の気持ちを感じなかった。
再びレジメルスが「だる……」とため息をついてから去り始めると、その後から「“だるい”言うなつってんだろ!」と激怒しながらクルエグムもその場を後にした。
「オイラだけ水晶玉を見張ってよ。あの二人を成功させないためにも……」
残されたアジュシーラは、二人の背中を睨みながらつぶやくのであった。




