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ラスボスと空想好きのユア 2 Precious Bonds  作者: レセラン
第2章 ジュエルを求めて

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第27話「弁当屋襲撃」

 ユアの意志を聞いたディンフルは根負けし、「好きにしろ」と参戦の許可を渋々出した。

「何があっても自己責任だぞ」と、最後に付け足した。


「そうそう、これも渡しておこう」


 イポンダートは、ユアに一冊の本を手渡した。

 前の旅で、ランダムに異世界をめぐる際に使ったクリスタル製の本「ボヤージュ・リーヴル」だ。


「ボヤージュ・リーヴル?! 久しぶりに見た……」


 ユアが感激して受け取ると、イポンダートは紐が付いた鍵も渡した。

 それは「ボヤージュ・クレイス」と言い、リーヴルを使う時に必要な鍵で、同じくクリスタルで出来ていた。紐は首から下げるために付いていた。


「前はあちこちに飛んでいたらしいが、今回は念じた場所へ行けるよう調整しておいた」


 ユアは息をのみながら、老師を見た。

 久しぶりのアイテムが戻るだけでも驚きなのに、その力の調整までしてもらったのだ。


 だが、よく考えたら、不調の精霊を回復したり、ディンフルに魔王になるための修行を施した相手だ。魔法のアイテムの調整も、彼に掛かれば朝飯前なのだろう。


 イポンダートが、ユアたちがこれらを持っていることを知っていたのは、フィトラグスたちが話したからだ。

 そして、調整してもらったリーヴルは、リアリティアにも対応しているので、これでユアはフィーヴェとミラーレを直接行き来出来るようになった。


 ここまでで友人・アヨの話を出していないが、彼女と会うこともしばらくはないだろう。

 そう考えたユアは寂しさではなく、安堵に似た思いが込み上げていた。


◇


 翌日、ミラーレの弁当屋。

 とびらは外の仕事が休みだったため、店を手伝っていた。


「せっかくの休みなんだから、手伝わなくていいわよ。今日は、キイ君も来てくれているんだから」


 母のまりねが気遣った。

 今日は図書館の休館日でもあるので、代わりにキイが来ていた。


「大丈夫! 私、弁当屋で働いてる方が楽しいんだ!」


「子供の頃から手伝って来たからな」


 キイも同じように手伝って来たので、とびらの事情を理解していた。


「それに、ユアもまたフィーヴェに行ってるから、しばらく働けないでしょ? いつ対応してもいいように、休みの日も手伝うよ!」


「大丈夫よ。最近、お客さん減ってるから♪」


 まりねが明るく言うが、キイはセリフの内容との矛盾が気になった。


(客が減ってるのを、明るく言ったらダメだろ……)


「もし前みたいに増えて来たら、キイ君に応援に来てもらうわよ!」



 まりねがそう言った途端、店のドアが開いた。

「いらっしゃいませ」と言おうとしたが、入って来たのはヴィへイトル一味のクルエグム、レジメルス、アジュシーラの三人だった。


「あなた、この前の?! 何しに来たの?!」


 前回の来店ですっかり警戒したまりねが、いきなりクルエグムへ怒鳴りつけた。


「いいのか? 客にそんな言い方して」


「客?」


 同じくキイも警戒心たっぷりに聞くと、相手はニヤリと笑った。


「ユア次第じゃ、客になってやらねぇこともないんだぜ?」


「聞いたわよ、告白の件! ユアちゃんは受けるつもりは、ないみたいよ! あと、あなたみたいな人に買ってもらわなくても、大丈夫ですから!」


「そんなこと、言ってていいのかなぁ?」


 まりねが言い返すと、今度はアジュシーラが怪しく笑ってみせた。ユアへの誘いについては、クルエグムからとっくに聞いていた。

 もし彼女が断れば、弁当屋が襲われる。それも両者とも、すでに知っていた。


「で? 今日、ユアは?」


「いないわよ!」


 クルエグムから聞かれ、まりねは怒りを交えながら答えた。


「ウソつくな! 俺らが来ると思って、隠してんだろ?!」


「エグを怒らせたら怖いよ~。こんなちっちゃいお店、あっという間かも?」


 アジュシーラも面白がりながら脅し始めた。

 それでも、まりねたちは折れなかった。


「本当にいないぞ。君たちに反発するために、旅に出た」


 キイがそう答えると、クルエグムは突然、近くにあった陳列棚を思い切り蹴飛ばした。乗っていた惣菜が落ちると、今度はその中の一つを踏み潰した。

 キイの返答が気に入らなかったようだ。


「やめなさい! 大切な商品よ!」


「俺らに反発って何だよ?」


 クルエグムから邪悪な笑みが消え、キイたちを睨み始めた。

 まりねからの注意は耳に入っていなかった。


「弱ぇくせに楯突こうってのか? お前らみたいに?!」


 さらに彼は、踏んでいた商品をまりねたちへ向かって蹴飛ばした。


「け、警察、呼ぶよ!」


 奥から見に来ていたこうやが、声を震わせた。


「好きにしろ。警察が、俺らに敵うと思ってんのか?!」


 クルエグムが目を見開きながら、怒鳴りつけた。


 だが、そこまでで言うのを止めて、彼は横を向いた。

 向いた先にはとびらがおり、彼らを凝視していた。


 彼女の視線はまりねたちと違って、警戒心がカケラも感じられなかった。

 クルエグムは、その様子に違和感を覚えた。


「何、見てんだよ?」


「そ、それ……!」


 そこまで言うと、とびらはいきなり彼の耳に触り始めた。


「何だよ?!」


「すごい! 本物だ~!」


 思わずクルエグムが離れると、とびらは感激した。


「特殊メイクじゃないんだね?! 私、尖った耳を生で見たの、初めてだよ! よく本とかに載ってるじゃない? ミルクだかシルクっていう、人間じゃないのが!」


「エルフな」


 興奮するとびらとは対照的に、キイが冷静に訂正した。

 内心は「リーダー格の逆鱗に触れたから、終わったわ……」と絶望していた。


 まりねとこうやも「ここまで空気を読まないなんて、私(僕)たちの育て方に問題があったのか……?」と、そろって後悔していた。


 三人が呆然としていると、クルエグムが今度は別の陳列棚を蹴った。

 幸い商品は落ちずに済んだが、彼の怒りは先ほどより増していた。


「バカにしてんのか?!」


 怒りのあまり、とびらを引っ叩こうと手を振り上げた。


 すかさずキイとまりねが止めに入ろうとすると、クルエグムの腕が後ろから掴まれた。

 止めたのは、これまで一言も発しなかったレジメルスだった。


「何だよ、レジー? 離せ!」


「やめときな、女性に暴力振るうのは」


「こいつは、俺の耳を勝手に触ったんだぞ!」


 感情的になりながらとびらを指すクルエグムを、レジメルスは冷たい目で見下ろしていた。

 マスクをしているので表情はわからなかったが、クルエグムが暴力を振るうことに我慢がならないようだ。


「仕方ないよ、エグの耳は珍しい形してんだから。ムカつくのはわかるけど、女性に暴力を振るうのは弱い男のすることだよ」


 今の言葉で余計に怒りが募ったクルエグムは、レジメルスの手を振りほどいた。


「やめればいいんだろ?! あと、俺は弱くねぇからな!」


「わかればいい。どっちみち、店からユアの匂いがしない。本当にいないみたいだよ」


「じゃあ、どうする? さっき、そのお兄さんが言ってたじゃん? “ユアはエグに反発したいから旅に出た”って。つまりそれって、“告白は受けません”ってことじゃないかな?」


 アジュシーラがキイを指した後で分析すると、クルエグムは弁当屋の者たちを再び睨みつけた。


「なるほど。だったら、覚悟決めてもらうか。俺に楯突いたり、勝手に耳も触って来たからなぁ!」


 クルエグムは、すでに店を潰す気でいた。

 こうやはすっかり怯えて厨房へ逃げ、まりねとキイも先ほどの余裕がなくなったのか、表情が強張り出した。

 一方でとびらは実感が湧かないのか、きょとんしていた。


 しかし、そんな時でもレジメルスは落ち着き払っていた。


「やめた方がいいよ。この店、僕らのターゲットじゃないじゃん」


「でも、俺に歯向かったんだぞ?!」


「それはエグの問題でしょ。そもそも、“弁当屋を襲え”ってヴィヘイトル様から指示あった? 関係ないとこ襲ったら、怒るかもよ? 過去に、任務外のことして殺された部下がいるらしいから」


 レジメルスの忠告を聞き、クルエグムとアジュシーラはぞっとした。

 自分たちを圧倒したディンフルに、余裕でダメージを負わせた者だ。怒らせれば何をされるかわからない。

 クルエグムが「命拾いしたな!」と吐き捨てると、三人衆は弁当屋を後にした。


◇


 弁当屋を後にしたクルエグムら三人衆は、近くの公園へやって来た。


「ここが、ユアとディンフルが出会った場所か~」


 アジュシーラは額の目で調べた際に公園の存在を知っていたが、実際に来るのは初めてだった。

 そんな彼へ、クルエグムが怒鳴りつけた。


「おい、シーラ! 何で来る前に下調べしなかった?! おかげで、二度手間になったじゃねぇか!」


「オイラのせい?! 頼まれなかったから“しなくていいかな”って思ったし、エグだって、今日もユアがいる前提で行ったじゃん!」


「うるせえ!!」


 クルエグムは怒鳴りながらアジュシーラの頭を殴った。


「いたいよ~!」


 痛さのあまり、泣き出すアジュシーラ。


「やめなよ。シーラの言うとおり、“ユアが弁当屋にいる”って決めつけたの、エグでしょ?」


 レジメルスの口調は冷静だが、疲れて来たのか気だるさが加わっていた。

 図星なのか、クルエグムがさらにイラついた。


「うるせぇっつってんだろ!! ちょっと年上だからって、偉そうにすんな!」


「一番最初に魔王と会ったからって、リーダー面しないで。今日のは、エグとシーラの失敗なんだから」


「何でオイラまで?! 頼まれてないのに……」


 泣きながらアジュシーラが文句を言った。


「頼まれなくても、やった方がいいこともあるんだよ。気が利かないね」


「そういうお前はいいよな! 気だるくしてても、ヴィヘイトル様に怒られねぇんだから!」


「関係ないでしょ……」


 思ったとおりの結果が出なかったことから、言い争う三人衆。

 だんだん三人とも、気まずさを感じて来た。


「……とにかく、今日は帰るぞ! 確かにヴィヘイトル様から指示はなかったが、ユアも歯向かうようになった件は伝えるべきだ!」


 そう言うと、クルエグムは魔法で先にミラーレから消えてしまった。

「待ってよ~!」と後を追うようにアジュシーラも消える。


 最後にため息をついた後で「だっる……」と疲れとイラ立ちを交えながら言うと、レジメルスもミラーレを去るのであった。

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