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ラスボスと空想好きのユア 2 Precious Bonds  作者: ReseraN
第2章 ジュエルを求めて
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第25話「トウソウ」

 インベクル城内の客室。

 サーヴラスが入ると、ディンフルがベッドの上で体を起こしていた。


「起きておられましたか」

「話は済んだのか?」


 突然の質問に、サーヴラスは思わず息をのんだ。

 ディンフルは眠っていたはずだった。それなのに、部下が別の場所で話し合いをしていることを知っていたのだ。


「ご存じでしたか……」

「お前とユアの悲鳴で目が覚めた。その後で話し合いになるだろうと思ったのだ。案の定だったな」


 予想が当たり、ディンフルは得意げに言った。

 ユアは部屋を出る時、サーヴラスと鉢合わせた。その際に二人そろって上げた悲鳴でディンフルは眠りから覚めたのだ。

 二人に気付かれないよう寝息を立てるふりをして事なきを得た。彼らがいなくなってしばらくは、笑いが止まらなかったらしい。


「まさか、お前とユアが共にいる日が来るとはな」


 ディンフルにとってはいわゆる「夢の共演」だったらしく、嬉しかったのか笑いながら言った。

 サーヴラスは魔王が予想外の反応をしたことと、こんなに嬉しそうに笑う顔は初めてで「はぁ……」とあっけに取られるしかなかった。


「それで、どう決まったのだ?」


 ディンフルが表情を戻し、改めて聞いた。


「フィトラグス様たちは、”ジュエル”というフィーヴェに古くから伝わる宝石を探す旅に出ることになりました。しかし、すぐには発たないそうです」

「やはり、そうか」


 ディンフルはこれも想定済みらしく特に驚きもせずに、ベッドサイドテーブルに置かれたコーヒーを飲み始めた。


「イポンダートから聞いたことがある。“フィーヴェの伝説のジュエルを手にすると、強大な力を得られる”と。あのヴィヘイトルが相手では、伝説に頼らねばな。しかし、何故すぐには行かぬ?」

「ユア様の修業のためです」


 ディンフルは飲んでいたコーヒーを喉に詰まらせ、激しく咳き込んだ。


「大丈夫ですか?!」

「も、問題ない……。ユアが修行だと? 連れて行くのか……?」

「そうなりました。何でも、ユア様に与えた懐中電灯のような武器にジュエルを探す力があるそうで、イポンダートさんが“同行させろ”と……。で、でも、戦い初心者のユア様が戦えるように、力を与えて下さるそうです! それがあれば、ヴィヘイトル一味から自動で守ってくれるとか。戦闘に慣れておくために、明日からインベクル周辺で魔物退治を兼ねて修行をするそうです。これには、ダトリンド様もクイームド様も賛成しておられます」


 サーヴラスはディンフルが意見を挟まないようにするため、思わず早口で言ってしまった。


「そ、そうか。あのイポンダートが関わるのなら、一応信じよう……。もし何かあっても、奴に全責任を問えばいいからな」

「本人もそうおっしゃっておりました。しかし話し合いが終わると気が変わり、最終的にはディンフル様に全責任を取っていただくと言っておられました……」

「何故、私が?!」

「ユア様がフィーヴェに来たのはディンフル様に惚れたからだそうですね? そのために、全てのきっかけを作ったディンフル様が取る方が良いと……」

「あのジジイ、ふざけおって!」


 イポンダートへ怒りの矛先を向けながら、ディンフルはコーヒーを飲み直した。


「だが、邪龍退治はどうする? 私も今は出られぬ。この間に増え続ければ……」

「そのことなのですが……」


 サーヴラスはさらに報告した。

 ここ最近邪龍が激増していたのも、ディンフルのアジトである古城を奪ったのもヴィヘイトル一味の仕業ということを。そして、ユアの元にクルエグムが来たことも知らせた。

 当然、ディンフルは怒りを露わにした。


「くっ……。城を奪うだけならまだしも、邪龍を増やしたり、ユアに絡んで行くなど許せぬ……! 私も同行せねば!」

「ダメです、そんな体では! 今は休養が必要です!」

「こうしている間にも邪龍は増え、ユアたちもいつ襲われるかわからぬのだぞ!」

「どちらも心配いりません。ディンフル様が倒れた旨をフィーヴェ中にお知らせしたところ、世界中から参戦者が増えたようです。“今まで助けてもらったから、今度は俺たちが魔王を助ける番だ”と。中には“魔王に借りを作りたくないから、今のうちに人間だけでフィーヴェを守るぞ”という意見もありました……」

「構わぬ。元々フィーヴェは、人間だけで成り立っていたようなもの。やりたい奴にやらせておけ。……だが、恩返しの言葉を聞く限りでは、これまでにして来たことは無駄ではなかったのだな」


 言葉の最後をディンフルは安堵しながら言った。


「ユア様たちもしばらくはインベクルに留まるので、戦力のある国内にいれば狙われる心配はないかと」

「どうしても、すぐに発たぬのか? ユアの戦いを慣らすには、草原を歩きながらでも出来る筈?」


 ディンフルは納得できず、またコーヒーを口に含んだ。


「それが……、近々フィトラグス様に新しい婚約者様がいらっしゃるからだそうです」


 サーヴラスがそこまで言うと、ディンフルはコーヒーを思いきり吹き出した。


「ディンフル様?!」

「こ、婚約者?! この大変な時にか?!」

「婚約者側の都合で、今しかインベクルに来られないそうなんです。一週間は滞在するなので、その間にユア様の修業も出来るかと」

「フィトラグスは王子で、政略結婚もあるからな。それに、二十二だったな。結婚して、子供が生まれてもおかしくない年齢だ……」


 ディンフルは驚きはしたものの、すぐに窓の方へ目を向けた。そして、外の景色を見ながら物思いにふけるようにつぶやくのであった。


                 ◇


 夕食後、ユアたちはディンフルがいる部屋に集まった。

 招集を掛けたのはイポンダートだ。


「食事後にゴロゴロしたい者やそうでない者、もしくは寝すぎて寝られない者、突然すまんの」


 部屋にいるのはイポンダート、ユア、フィトラグス、ティミレッジ、オプダット、ディンフル、サーヴラス。

 ソールネムとチェリテットは先に村と町へ帰って行った。


「“寝すぎて寝られない者”は私のことか? こちらも好きで休んでいるわけではない」


 ピンポイントで指摘されたと感じたディンフルが不服そうに言った。


 そんな彼へユアは目を合わせられなかった。

 チアーズ・ワンドを手に入れた時、彼は真っ先に、イポンダートへ返してリアリティアへ帰るように言って来た。これは、ユア参戦の反対を意味していた。

 だが、王の間の話し合いで参戦が決まったため、ディンフルが良い顔をしないのが目に見えていた。


「今から、ユアの能力について説明する。早速じゃが、もう与えよう」


 そう言うとイポンダートは持っていた杖を光らせた。

 杖の先端から出た金色の光がユアの全身を包み込んだ。


「うぅ……。まぶしいし、体が変な感じする……!」


 一度、全身を包み込んだ光はユアの体内へ吸収されていった。


「これで完了じゃ」


 わずか一分ほどの出来事に、一同はポカンとした。


「い、今ので終わりですか……?」

「そうじゃ」


 特に戦い経験のある仲間たちは信じられなかった。自身らが戦えるようになるまでに、どれほどの時間と体力を費やして来たことか。

 目の前のユアは短時間で、それも与えられるだけで能力を身に着けたのだ。


「先に言っておくが、それは戦闘力ではない。一種の逃避能力じゃ!」

「逃避……逃げるってことですか!?」


 イポンダートから詳細を告げられたユアは愕然とした。

 フィトラグスやディンフルみたいな戦力を期待していたが、与えられたのはまさかの「逃避能力」。


「わしはそう呼んでおるが、お主の使い方次第では戦闘能力にもなり得る。何故、逃避能力を授けたかというと、ユアは一度も戦ったことがないからじゃ。非力の者がいきなり戦線で戦えるわけがないじゃろ。初めてであるゆえ、戦うよりも逃げる方を優先するんじゃ。ただし! “逃げる”と言っても、背中を向けて走ることではない! 敢えて相手と向かい合い、チアーズ・ワンドの力で威嚇するのじゃ。背を見せて走り去るのも逃避じゃが、それではいつまで経っても強くはなれん」

「“攻撃は最大の防御”って言いますからね!」


 イポンダートの話を聞いたティミレッジが大いに納得した。


「私も攻撃が出来るんだ……」


 ユアは自分の手を見つめながらつぶやいた。

 見た目は変わっていないが、今与えられた力で自身の何かが変わったのだ。


「攻撃はわかるが、防御は? 攻撃を受けた時が肝心だろう」ディンフルが尋ねた。

「安心せい、今与えた力がダメージを和らげてくれる。あと、これもやろう」


 イポンダートはユアに、セットになった衣装を渡した。


「今の格好では軽装すぎるし、何より動きにくい。明日からそれを身に着けるのじゃ」

「あ、ありがとうございます!」


 衣装提供は予想していなかった。

「私だけの戦闘服だ!」ユアは心の中で喜びを叫んだ。


「名前もつけておこう。“逃げて走る”の“逃走”と、“闘って争う”の“闘争”と、二つの意味を持った“トウソウ・モード”とでも言っておこうか」

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