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第133話「モンスターフォーム」

 全身が赤紫色になったクルエグムに一行は言葉が出ず、心の奥で「これはモンスターフォームだ」と思っていた。


 まさにモンスターと化したクルエグムは天を仰ぎ、魔物らしく咆哮を上げた。

 その瞬間、突然オプダットが後方へ吹き飛ばされた。


「オープン!」


 彼を心配するフィトラグスとティミレッジもあっという間に見えない力に当たり、同じように後方へ飛ばされた。

 気付いたディンフルが大剣を構えると、瞬間移動のように速い動きでクルエグムがぶつかって来た。


「速い……!」


 彼は口角を上げ、面白そうに笑っていた。

 ただ、白目が無いため、その笑顔はかなり不気味に見えた。


 ディンフルも後方へ吹き飛ばされた。

 クルエグムが手から気のようなものを彼の腹へ当てたからだ。


「みんな……」


 檻に閉じ込められたユアも顔が青ざめていた。

 今のクルエグムは、明らかにレジメルスたちの時より力が上回っていたからだ。


 それでもフィトラグスたちは諦めず、立ち上がった。


「力を合わせるぞ!」


 フィトラグスは剣を、ティミレッジは杖を構え、オプダットはファイティングポーズを決めた。

 最後に吹き飛ばされたディンフルも大剣を構え直し、三人と同様に相手を睨みつけた。

 四人は必殺技と浄化技を一斉に撃った。


「シャッテン・グリーフ!!」


「ルークス・ツォルン・バーニング!!」


「リアン・エスペランサ・スパークル!!」


「リリーヴ・プリフィケーション・シャワー!!」


 紫、黒、赤、黄、青の光と衝撃波が同時にクルエグムへ直撃した。


 しかしそれらは一瞬で消えた上に、相手はまったくの無傷だった。


「そんな……」


「俺らの力が効かないなんて……」


「やっぱり、ユアと力を合わせないとダメなのか……?」


 ティミレッジ、オプダット、フィトラグスの表情が絶望に包まれた。


「諦めてはならぬ! 超龍を倒した勇者だろう?! あの時を思い出せ!!」


 ディンフルが必死に鼓舞すると、三人は当時のことを振り返った。

 ところが……。


「あの時って、ユアが来てくれて攻略本に書いてた情報を元に、全員で動いてたよな?」


 フィトラグスが思い返すと、ディンフルまで言葉を失った。

 彼らはあの時もユアの助けがあったから、超龍との戦い方を見つけ出せたのだ。


 しかし彼女は今、囚われの身。

 さらに言うと、立ちはだかるクルエグムとヴィへイトルはゲーム本編にいないボツキャラ。攻略本に載っていたのは姿と名前のみ。

 一行はまさになす術がなかった。



 そんなことを考えている間に、ディンフルへ青紫色の魔法弾が直撃した。


「ディンフル?!」


「ディンフルさん!」


 放ったのはヴィへイトルだった。

 彼はこちらに手のひらを向けており、そこから青紫色の邪悪な光が出ていた。


「そうでなくてもクルエグムが強くなってんのに、卑怯だぞ!」


 フィトラグスが剣を構え直すと、突然彼の体に赤紫色の触手が巻き付いた。

 彼は剣を落とし、身動きが取れなくなった。


「フィット!」


 オプダットが助けに行こうとするも、彼も別の場所から現れた触手に捕らわれてしまった。


 次にティミレッジが触手に襲われるが、自身にカウンターバリアを張った。

 だがそれも虚しく、触手は簡単にバリアを割ると彼も捕らえてしまった。

 その複数の触手はクルエグムの背中から出ていた。



 ユアは檻に閉じ込められ、フィトラグスらは身動きが取れず、膝をつくディンフルのみが残された。

 相手は暴走したクルエグムと、一度もダメージを与えられないヴィへイトル。

 一行は大ピンチに陥った。


「どうする、ディンフル? あとはお前だけだぞ。一人で俺たちを倒せるか?」


「くっ……!」


 ヴィへイトルが仁王立ちで弟を見下ろした。

 ディンフルは悔しさに顔を歪めながら相手を睨むしか出来なかった。

 力では二人に敵わない。下手に手を出せば、触手に捕まったフィトラグスたちにさらなる危険が及ぶとも考えたからだ。



 そこへ、ヴィヘイトルが静かに口を開いた。


「なあ、ディンフル。覚えているか? 俺らの母を」


「……何故、急にその話を?」


「何で亡くなったか知っているか?」


 聞かれてディンフルは困惑した。母の記憶はわずかにあったが、気が付いたら自身はすでに施設に入っていた。

 母が亡くなったことは知っていたが、死因などは知らされずに生きて来た。


「俺が父に手を貸したのだ」


 ヴィへイトルから出た言葉に、ディンフルは目を見開いたまま固まった。

 父の存在を思い出すと、彼の息が荒くなり始めた。


「母を消そうとした父を、俺が手伝った。母はディファートを裏切った上、人間になびいたからな。俺が尊敬すべき父は、それを許さなかった」


「“尊敬すべき”……? 母子に手を出した上、子を捨てたあいつのどこに敬う点がある?! 我々が施設に入っても、一度も会いに来なかった男だぞ!」


 ディンフルは噛みついた。

 わずかにある記憶の中には、父が母と自身に暴力を振るったものがあったのだ。

 そして、そういう嫌な思い出に限って脳裏に焼き付いていた。


「父を侮辱するな!!」


 これまでずっと勝ち誇った顔をして来たヴィへイトルは、父を悪く言われると初めて声を荒げた。彼にとって父は唯一愛すべき存在のようだ。逆に、母のことは慕っていなかった。


「母は、父とディファートを裏切り、人間との共存を考えていた。父が怒るのも無理はない!」


「母の考えは間違っていない!」


 口論が始まると、フィトラグスたちは黙って見るしかなかった。兄弟同士の事情はわからなかったし、介入する余地もなかったのだ。

 何より、戦闘力に長けたディファート兄弟の過去だ。普通に暮らして来た自分たちに比べると、尋常でないものがあると思い、口が出せなかったのだ。


「ならディンフル。母の仇を取ってみるか?」


 ヴィへイトルの提案に、ディンフルの体がさらに固まった。

 これまで、一度もダメージを与えられずにいた相手へどう仇を取るべきか方法が思い当たらなかったのだ。

 先ほどはダークティミーの力で乗り切れたが、直後に攻撃を受けた彼を見たために闇堕ちの素は使いたくなかった。


「母だけではない。ウィムーダが死ぬきっかけを作ったのも俺だ」


 さらに聞かされる事実に、ディンフルは開いた口が塞がらなかった。


「今、何と……?」


「正確に言えば、俺の部下が勝手に仕掛けたのだがな。俺に忠誠を誓いすぎるあまり、余計な行動に出たのだ」


 ヴィへイトルはさらに打ち明けた。

 その部下は彼に気に入られたいがために、人間の村で暮らすディンフルを何かしら陥れたいと考えていた。ディンフルのことはヴィへイトルから聞いており、同様に敵視していた。

 そこで部下は、ディファートを受け入れている村長の心を操ることに決めた。


「待て。そうなると、フォールトは……?」ディンフルの声が恐怖でかすれていた。


 村長・フォールトはディファートとの共存に大いに賛成で、ディンフルとウィムーダにいつも良くしてくれた。

 だがディンフルがいない時、突然村人たちへウィムーダを殺すように命令した。


 この時、村長の娘のエラがディファート共存に反対する村人たちに人質に取られていた。村長が命令したのはそれが関係していると、ディンフルは思い込んで来た。

 だが信じていた事実は違い、フォールトはヴィへイトルの部下に操られていたのだ。


「その村長に会ったことはないが俺の部下に目をつけられ、ウィムーダを殺し、お前の家まで燃やすように命令させたそうだ」


 フォールトは何も悪くなかった。すべてはヴィへイトルの部下が行ったせいだった。

 衝撃の事実にディンフルは声を荒げずにはいられなかった。


「貴様ぁ!!」


「俺を責めるな。悪いのは勝手に行動した部下だ。ムダに弟からの恨みを買う羽目になったために、息の根を止めておいたがな」


 これにはヴィヘイトル自身も迷惑していたらしく、その部下はすでに殺されていた。

 おそらく、この出来事がきっかけで彼は任務外で働く者を許せなくなったのだろう。

 それでもヴィへイトルは、ディンフルへ冷静に言い放った。まるで、自分は悪くないとでも言うように。


 だが現にこの当時、彼は手を加えていない。

 直接指示したわけでもなく、その部下も、もうこの世にはいなかった。

 行き場のない怒りを抱えたディンフルはどんどん息が荒くなり始めた。


「だが、それもこれも全部、お前のせいだ。母もウィムーダも、お前と出会ったがために命を奪われた。お前は生まれた時に預言者から“ディファートと人間の両方に平和をもたらす”と言われていた。そのせいで父が怒り、母に暴力を振るい始めた。母だけではない。ウィムーダもお前の人間と仲良くしたい思想に付き合わされたから命を奪われたのだ」


 初めに人間と仲良くしたいと願ったのはウィムーダ。

 だが大人になってから、彼らと同じ村で暮らそうと提案したのはディンフルだった。人間とディファートが共存出来る大きな一歩を踏み出すための考えだったのだ。


「確かに、私がウィムーダを人間が住む村へ連れて行った。彼女は死ぬ間際まで人間と暮らせたことを喜んでいた。その気持ちを聞いて、自分のしたことは間違っていないと思っていた……」


「現に今も、俺を倒しに一緒に来た仲間たちも辛い目に遭っているし、ユアもさらわれたではないか」


 最後の皮肉にディンフルは言い返せなかった。

 ヴィへイトルの言う通り、フィトラグス、ティミレッジ、オプダットの三人は苦戦し、イポンダートも腰痛でダウンした。

 さらに異世界で暮らすユアも戦いに巻き込んでしまった。


「私のせいで……?」


「そうだ。お前が関わると、皆が不幸になる。この現状がすべてを物語っているではないか!」


 ディンフルは床に手をつき、視線を落とした。

 反論が出来なかった。ヴィへイトルの言葉は信じたくないが、すべて当たっていたからだ。


「そうだ、ディンフル。これも覚えているか?」


 次にヴィへイトルはA5サイズほどの赤い表紙の本を取り出した。

 それを見た瞬間、ディンフルの表情がさらに硬直した。


「それは……?!」


「お前とウィムーダの写真がところ狭しと貼られたアルバムだ。玉座に置きっぱなしだったぞ」


 ディンフルとウィムーダの思い出のアルバムを、ヴィヘイトルが持っていると言うことは……。

 動きを封じられているユアたちは、さらに胸騒ぎを覚えるのであった。

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思ったより兄弟の因縁が酷い…
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