第131話「帰って来た黒い白魔導士」
ダークティミーはヴィへイトルに跳ね飛ばされるも、体を宙返りさせてケガなく着地した。
エプンジークからもらったトウソウのおかげでもあった。
ダークティミーがいるということは……、ディンフルたちはすぐに後方の闇魔導士二人を睨んだ。
「ご安心を。今回は簡易的なので、すぐ元に戻ります」
「今の俺らにはこいつが必要だからな!」
ダーケストは淡々と、ドーネクトは自信たっぷりに説明した。
確かに、どの技も効かない今は藁にもすがる状況だった。
ダークティミーは勝ち気な笑みを浮かべると再びヴィへイトルへ駆けて行き、飛び蹴りを繰り出した。
ヴィへイトルは今度は大剣を思い切り振って行くが、ダークティミーは軽い身のこなしで次々と避け続けた。
「よお、ディンフルの兄貴! お前、面白ぇな!」
自身らがまったく敵わなかったヴィへイトルに軽いノリで絡むダークティミーへ、一行は冷や汗をかき始めた。
特にディンフルは、昔からヴィへイトルの恐ろしさを知っていたために一番ヒヤヒヤとしていた。
さらに言うと、今まで「さん」付けして来たティミレッジが、久しぶりに自身を呼び捨てにしたことにも違和感を覚えていた。
先ほどから笑っていたヴィへイトルもすっかり張り詰めた表情になり、一行にさらなる緊張が走った。
「ヴェーゼン・シュプレシオン」
ヴィへイトルが必殺技を繰り出すと、ダークティミーは黒いバリアを張った。
一撃で壊されたが、同時に青紫色の衝撃波も消えてしまった。
「何っ?!」
これにはヴィへイトル本人だけでなく、ディンフルら一行も驚きの声を上げた。
「ティミー、強ぇ……」
「もう、ずっと闇堕ちのままでいいんじゃないか……?」
オプダットとフィトラグスが思わずつぶやいた。
あのヴィへイトルを惑わすほどの力があるなら、闇の力も悪くないと思ったのだ。
むしろ「ダークティミーだけでいいんじゃね?」という考えすら過ぎってしまった。
「何をボーッとしている?! 今のうちに行くぞ!」
ドーネクトが先に古城のドアに手を掛けた。
彼の手に電撃が走った。これはヴィへイトルがディンフルの城を乗っ取った時に掛けた魔法だ。
「これぐらい、何てことはない!」
そう言いながらドーネクトが手をかざすと、目の前に青紫色の壁が現れた。
一瞬で全体にひびが入ると、壁は粉々に割れてしまった。
「何だと……?」
ダークティミーと戦っていたヴィへイトルは思わず手を止め、その光景に見入ってしまった。
自身を圧倒する者が現れた上に、城に掛けていた魔法まで解かれたからだ。
一度に二回の衝撃の事態が起きたことから、思わず立ちすくんでしまった。
その間にドーネクトとダーケストが扉を開けた。これで古城へ入れるようになった。
「ビラーレル村最強の魔導士をナメるんじゃないぞ~!」
「最強はアビクリスで、あなたは二位でしょう」
「それを言うなー!」
興奮するドーネクトのテンションを下げるようにダーケストが過去を思い出させた。
当然、コンプレックスに思うドーネクトは声を荒げずにはいられなかった。
それでも彼のおかげで古城内に入れたことは、紛れもない事実だった。
「よっしゃあ! みんなで突撃だぁ~!」ダークティミーも意気揚々と続く。
すると怒りに震えたヴィへイトルからの魔法弾が背中に直撃し、ドア付近の壁を突き破って城内の床に叩きつけられてしまった。
「ティミー!!」
ディンフルたちが古城内へ駆けつけると、ダークティミーは元のティミレッジの姿に戻っていた。
「いった~……」
「よくやった。感謝する」
ディンフルが倒れたティミレッジを抱え起こし、礼を言った。
心からの感謝だった。ヴィへイトルを突破出来たのは、彼の活躍もあったからだ。
相手が追って来る前に、一行は城の奥へ走って行った。
「おのれ……!」
その場には怒りに震えるヴィへイトルのみが残され、一行の背中を睨み続けた。
古城より少し離れた場所に避難したイポンダートは、城内に入って行ったディンフルたちの無事を強く祈るのであった。
◇
幸い城内には敵はおらず、無事に王の間の前にたどり着いた。
ディンフルが足を止め扉に手を掛けようとすると、ドーネクトが尋ねた。
「ここに入るのか?」
「ああ。ユアの気配がするのでな」
ディンフルが答えた。
あらかじめ、探索用の魔法を使ってユアの気配を探っていたのだ。
「なら、俺たちは上へ行く。用があるのはノクリスタリーだけだからな」
「わかった。ここまでありがとうございました」
ティミレッジが了承し、ドーネクトらへお礼を言った。
二人は再び驚いた目で彼を見た。先ほどのバリアや回復と言い、今回も闇堕ちまでさせたのに感謝されるとは思わなかったからだ。
「だから、何を言っているのですか……? 我々は礼を言われるようなことはしておりません」
「そんなことねぇよ!」
ダーケストがまたあっけに取られると、今度はオプダットが陽気に否定した。
「お前らのおかげで俺ら、城に入れたんだぜ!」
「いつもなら怒るところだが、今回は感謝だな」
横でフィトラグスも苦笑いしながら言った。
確かに今回は、闇魔導士らの助けがなければヴィへイトルの気を紛らわしたり、古城に張ったバリアが消えることもなかった。二人に感謝しないわけにはいかなかったのだ。
「二人も気をつけてね」
「言われなくてもわかってる! 死ぬなよ。特にお前が死んだら、俺がアビクリスらに怒られるんだからな!」
照れ隠すようにドーネクトが怒鳴った。
ティミレッジの身を案ずると言うよりは、アビクリスからの仕打ちを恐れているように見えた。
「そうそう……」
ドーネクトは急に我に返ると、ローブのポケットから黒い小さな瓶を取り出し、「お前にやる」とティミレッジへ差し出した。
相手が瓶を受け取りまじまじと見ていると、ドーネクトが説明し始めた。
「さっき、お前を闇堕ちさせた素だ。それを振りかければ好きな時に闇堕ち出来る。その名も“インスタント闇堕ち”だ!」
「いらない」
ティミレッジは低い声で即答し、ドーネクトへ素を突き返した。
「な、何でいらないんだ?! 今回は役に立っただろ! あと、これを作るのに、どれほどの魔力と気力を消費したかわかってるのかぁ?!」
「今の説明では誰も受け取りませんよ。名前といい、本当にセンスがないですね……」
「やっかましい!」
ダーケストもいつも通り呆れていた。
返却されても、ドーネクトは頑として受け取ろうとしなかった。すると、ディンフルがティミレッジの手から素を取り上げた。
「私が預かっておこう」
「は……?」
フィトラグスが裏返った声で反応すると、全員でディンフルを見つめた。
その視線に耐え切れず、彼は弁解した。
「誤解するな! 私が使うのではない! “いざという時のために預かる”と言っているのだ!」
「な、何でですか?」
ティミレッジは自身が闇堕ちした時、仲間たちや親に暴言を吐いたり、敵をさらに怒らせたりと散々だった。なので、これを受け取ることで大切な人たちを傷つける機会が増えてしまうと危惧したのだ。
それをディンフルも知っているはずなのに、闇墜ちの素を受け取る行為が理解出来なかった。
「先ほどお前も言っていたが、古城に入れたのは闇魔導士らのおかげだ。感謝してもしきれぬ。それ故いつかまた、どこかでこの力が役に立つかもしれぬ。それで受け取るべきだと判断したのだ」
ディンフルの説明に納得したティミレッジは緊張から穏やかな表情へ戻った。
これまでは大切な人たちを傷つけてしまったが、「今度は逆に助けられたら……」と考えた。
そう思い、闇堕ちの素を受け取ることにするのであった。
話は変わり、今度はダーケストが尋ねた。
「あの腰が痛くてリタイアした老師とは知り合いでしょうか?」
「ああ。俺ら、あのじいさんに強くしてもらったんだぜ!」
オプダットが嬉しそうに答えると、ダーケストは「やはり……」とつぶやいた。
「なら、伝言をお願い出来ますでしょうか? “すべてが落ち着いてからで良いので、弟子にして欲しい”と」
「な、何―――――?!」
ダーケストの頼みに、ドーネクトだけでなくディンフルまで驚きの悲鳴を上げた。
「弟子とは何だ?! お前は俺の助手 及び 弟子としてやって来たのではないのかぁ?!」
「助手は残念ながら認めますが、弟子になった覚えはありません。つまり、お呼びでないです」
「“残念ながら”って何だ~?!」
ドーネクトは天を仰いで絶望の悲鳴を上げた。「及び」からの「お呼びでない」というダジャレにも気付かずに。
さらにディンフルからも反対の声が上がった。
「正気か……? どのような目的かはわからぬが、あのジジイだけはやめておけ!」
「どのような目に遭ったかはわかりかねますが、あなたが普通のディファートから魔王になれたのは少なからず、彼の力があったからでしょう。強くなったあなた方を見て、ますます老師への信頼が高まりました。なので、止めてもムダです」
魔王になれた話は事実なので、ディンフルは反論出来なかった。
ダーケストのイポンダートの弟子になる意志は固く、反対しても聞きそうになかったため、それ以上は言えなかった。
話を終えると、二手に分かれた。
ドーネクトとダーケストはノクリスタリーのある屋上へ急ぎ、ディンフルたちは王の間の扉を開くのであった。




