第127話「危険な船旅」
「ずいぶんと遅かったのう」
海岸に着くなり、イポンダートが無愛想に言った。
「何で海岸なんだ? 瞬間移動出来るなら、魔法で行けば良くね?」オプダットが尋ねた後で提案した。
「調べたところ、北の孤島には瞬間移動避けのバリアが張ってある。おそらく、ヴィヘイトルが仕掛けたものじゃ。時間は掛かるが、こっそり船で行くしかない」
イポンダートが答えた。もう下調べもしてくれたようだ。
フィトラグスらは魔王を倒す旅の時から彼に強くしてもらって来たので、共に旅に出てもらえると非常にありがたかった。
皆の様子を確認してから、イポンダートは魔法で白い船を出した。
十人は乗れるほどの大きさだった。触ってみると、素材はシリコンのような感じなので防水は確実だった。
ユアたちが乗り込むと魔法の船は入水し、古城のある孤島へ進み始めた。
◇
孤島に着くまでの間、作戦会議が行われた。
「クルエグムはどういうわけかユアを狙っている。奴と会ったら、ユアを護衛する。これが最後の戦いになるだろう。あちらも人数が減ったがゆえに、新たな企みがあるはずだ」
ディンフルはレジメルスたちが持っていた石の話を出した。
「もし、奴も例の石を持っているならば、簡単には切り抜けられぬだろう」
「そういえば、あの石って結局何なんだ?」
オプダットが尋ねると、ティミレッジは闇魔導士たちを思い出していた。
「そうだ、闇魔導士たちに聞けてないや……」
「じいさんは何か知ってないか? 青紫色の石なんだが、命と引き換えに力を強化するものなんだ」
フィトラグスがイポンダートへ尋ねた。
老師は戦いに関する知識もあるため、何か知っているかと思ったのだ。
「実物を見ていないから何とも言えんが、世界を毒する“ノクリスタリー”というものなら知っておる」
「ノクリスタリー?」
ユアが名前を復唱したところで、オプダットが遠くに何かを見つけていた。
「あ、あれ……!」
彼が指す先には船が転覆し、その上に人が二人、しがみついていた。
「いかん! 助けるぞ!」
ディンフルが、溺れている二人を魔法の球体で包み、自分たちが乗っている船に乗せた。
乗せる前から、ユアたちはその正体に気づいてしまった。
「あなたたちは?!」
ディンフルが魔法で引き上げたのは何と、闇魔導士・ドーネクトとその助手・ダーケストだった。
どうやら、ドーネクトが急いで用意した船がオンボロだったために転覆したのだろう。
二人のことは、ちょうど話に出していたところだった。
「お……お前ら?!」
ドーネクトがこちらに気付くと、フィトラグス、オプダット、ユアの三人がティミレッジを隠すようにして立った。
魔法陣は消されたが、何かしらの手段で闇堕ちされると思ったのだ。それに気付いたダーケストが服を絞って水分を落としながら言った。
「ご安心を。もう彼には用はありません。魔法陣が消えたようなので」
横で聞いていたドーネクトも残念そうな顔で唸った。ティミレッジから魔法陣が消えたことは気配で感じ取ったらしい。
彼が手から魔法を出すと、ドーネクトとダーケストの濡れていた体が一気に乾いた。乾燥魔法というものもあるらしい。
「せっかく二十年も待ったと言うのに……」
「仕方ありません。闇堕ちして誰の言うことも聞かないのであれば、どちらにせよ右腕は難しかったでしょう」
「知っているなら初めから言えよ!!」いつものように、ドーネクトがダーケストへ八つ当たりした。
「私は直前まで知りませんでしたよ。あなたがティミレッジを手に掛けた時に初めて教えてもらったのですから」
会話を聞き、気になったティミレッジが思わず尋ねてみた。
「だいぶ前から聞いていたんじゃないの?」
「”だいぶ前”とは?」
「僕を闇堕ちさせる日から、何年か前です」
ダーケストは、一旦目を伏せてから打ち明けた。
「……何か勘違いされておりますね。私とドーネクト様は、出会ってまだ日が浅いです」
「えっ? ドーネクトが村を追い出された直後に会ったんじゃないの?」
「違います。あなたを闇堕ちさせる一ヶ月前に出会いました」
「めちゃくちゃ最近じゃん!?」
二人が長い付き合いだとばかり思っていた一行だが、思ったより近頃の話だった。
過去の会話からして、ドーネクトが村を追い出された直後と思っていたのだ。
「ドーネクト様が村を追い出された時って二十年前じゃないですか。そんな昔からの付き合いなど、人生最大の汚点になります」
「それは言い過ぎだろぉ!」相変わらずの助手の毒舌に、ドーネクトは嘆きながらツッコんだ。
「出会いの話はけっこう。それより、お前たちは何故ここにいるのだ?」
ディンフルが二人へ尋ねた。
まさか、古城へ行く道中で闇魔導士たちと会うとは思わなかったからだ。
「俺たちはあの城へ行くんだ!」ドーネクトが北に見える古城を乱暴に指さした。
「な、何しに?!」
目的地が同じと知った一同は驚きの表情を浮かべた後で、ユアが聞いた。
「我々の探しているものが、あの城にあることがわかったのです。あなた方は?」
ダーケストが答えた後で質問した。
ティミレッジは問いには答えず、さらに気になることを聞いてみた。
「その探しものって、前に言っていた“石”?」
「お前たちには関係ない!」ドーネクトはぶっきらぼうに言い放った。
「関係ないことはない。我々もあの古城に用がある。そして、そこから来る者たちが最近、妙なものを手にしていた。何でもそれは、命と引き換えに自らの力を強化する石なのだ」
ディンフルの説明を聞いたドーネクトとダーケストは同時に息をのみ、顔を強張らせた。
それを見逃さなかったフィトラグスが「やっぱり、何か知っているのか?」とさらに聞いた。
二人が気まずい表情で答えずにいると、イポンダートが「もしや、ノクリスタリーを拾ったのか?」と質問した。
彼らは先ほどより緊張しながら、老師を見た。
「ご存じなのですか、ノクリスタリーを……?」
いつも冷静なダーケストですら、まるで怯えるような目でイポンダートを見つめていた。
「“世界を毒する危険な石”だと最近、一部の界隈で危険視されておるじゃろ」
「何なんだ、その……ノリノリスターってのは?」
「“ノクリスタリー”な……」オプダットが尋ねるが、一発で名前は覚えられなかったのでフィトラグスに訂正されてしまった。
ダーケストとドーネクトが説明し始めた。
「あるだけで毒気を出し、傍にいると人体に危険が及ぶ石です。それを悪しき者が手にすると、さらに厄介なのです」
「ノクリスタリーは人々にはあまり知られていないが、闇属性の石だ。だから邪悪な気配には敏感で、妖気などを吸収すると無限に大きくなるのだ」
「物理的に大きくなると、当然毒気も拡大します。我々は闇属性なので、すぐにその気配を感じました。あの古城の方向から」
「だから、我々はそれを壊しに向かっているのだ」
闇魔導士の二人は、同じ闇属性であるノクリスタリーを壊しに向かっている。
ユアたちの頭の中では、どんどん疑問が浮かぶのであった。




