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第126話「過去~クルエグム~ 後編」

 クルエグム、レジメルス、アジュシーラは積極的に人間たちへ攻撃を仕掛けていった。

 その強さから自他共に「三人衆」と名乗ることにした。


 特に、インベクル王国を許せなかった。

 フィーヴェを代表する国だと言うのに、いつまでもディファート問題を放置していることに憤っていたからだ。


 ディンフルが異次元へ送る前に、ダトリンド国王へ詰め寄った。その際に三人衆もついて行った。

 フィーヴェ代表国の国王の周囲には無数の兵士がいた。三人衆はその者たちと対峙することになった。


 兵団と戦っていたクルエグムは突然、手を止めた。

 何故なら、その中には学生時代にいじめて来たクブリートの姿があったからだ。

 互いに固まり、睨み合う二人。


 ここでクルエグムは彼へ言い放つのであった。


「俺を散々いじめて来たくせに、正義の国に就職かよ? 矛盾してんな!」


 クブリートの顔が一気に青ざめたのをクルエグムは見逃さなかった。

 ショックで攻撃出来なくなったのをいいことに、相手へ剣を振り下ろした。

 今回はケンカではない。本気でクブリートの息の根を止めようとしたのだった。


 ところがその間にディンフルが入り、三人衆を連れて国外へ瞬間移動した。

 直後、インベクルは彼の手によって異次元へ送られてしまった。


 ディンフルたち側の勝利だが、クルエグムは納得がいかなかった。

 もう少しで因縁のクブリートへ積年の恨みを晴らせそうだったのに、出来なかったからだ。



 城に帰ってからクルエグムは直談判した。

 途中で邪魔されたことはもちろん、ディンフルの戦法も気に入らなかったからだ。

 すると、相手は冷たい口調で返した。


「殺生は好まぬ。それゆえ、人間は異次元へ送るのみだ」


 さらに憤るクルエグムが「人を殺すために魔王になったんじゃねぇのかよ?!」と問い詰めるが、ディンフルは考えを改めるつもりは無かった。


 自身の家族を奪い、青春時代をいじめで過ごすきっかけを作った人間たちへ復讐したがるクルエグムはその機会を失い、絶望した。

 同時に、新たにディンフルへの恨みが募り始めた。


 このことにレジメルスとアジュシーラも同情し、クルエグムが足を洗う際は一緒に来てくれた。

 二人が同行したのは、出会った時、彼に救われた恩があったためだ。

 こうして三人衆は城から去って行った。


 今の親玉・ヴィへイトルと出会ったのはディンフルが竜巻に巻き込まれ、異世界へ行っている時だった。


 ヴィへイトルは「人間を滅ぼすのは超龍の役目だ」と言い、最初は見ているだけだった。

 その超龍がディンフル一行に倒された時、動き始めた。自身も、嫌っている人間を滅ぼすために。

 クルエグムが、考えが一貫しているヴィへイトルを崇拝するようになったのはこの時だった。



 アジュシーラはクルエグムの過去を話し終えた。

 あまりにも衝撃的だったため、誰もしばらく言葉が出なかった。


「辛い目に遭っていたのは知っていたが、そこまでとは……」


 ディンフルもクルエグムを憐れんだ。

 本人から大まかなところは聞いてきたが、詳細までは知らされていなかったのだ。

 特に幼なじみのクブリートの件は初耳だった。


「インベクルを異次元へ送った後、妙に怒っていたのはそういう理由だったのだな……」


「そうだよ。“殺生は好まぬ”とか言ってたけど、もっと話を聞いてあげても良かったんじゃない?」


「オイラたちの気持ちもあったし」


 レジメルスとアジュシーラに言われ、ディンフルは唸るしか出来なかった。


「気持ちはわかるが、そこで手に掛けなくて良かったんじゃないか? だって、ディンフルが異次元に送ってなかったら、クブリートを殺してたかもしれないんだろ?」


 オプダットがディンフルを庇うように言った。

 確かに、クブリートを殺していれば今度は殺人の罪も加わるからだ。


「どっちみち、クルエグムの死刑は免れない」


 フィトラグスが口を挟んだ。

 窃盗と傷害を繰り返し、指名手配された時点で彼の死刑は変わらないのだ。


「エグはああ見えて、良いとこもあるんだよ」


 アジュシーラは久しぶりに「エグ」と呼んだ。

 彼の過去を振り返っている間に、クルエグムの良いところを思い出したのだ。


「オイラが大人の人間たちにやられてたら助けてくれたし、ディンフルを紹介してくれたのもエグだったんだよ!」


「僕も、姉さんが死んで何もかもどうでも良くなってたところを助けてもらったな。ただ、失敗しまくると八つ当たりしたり、上から目線の発言が多くなったけどね……」


 レジメルスも主張すると、失敗した時のエピソードでアジュシーラが苦笑いした。

 最近は崇拝するヴィへイトルのためにこなすあまり、仲間の失敗が許せなかったようだ。


「人間に対しては予想がついていたけど、同族に優しい時もあったんだね」


「動物にも優しいよ」


 ユアが感想を言うと、アジュシーラが付け加えた。


「最初に話したけどエグの家、動物好きだったんだ。その影響もあって、今でも動物を大事にしてるよ」


「あいつが他の誰かを大事にって、想像出来ないんだが……」


 これまで乱暴で卑怯な面しか見て来なかったためか、オプダットが信じられないような素振りを見せた。


「学生の頃、クブリートたちが野良猫をいじめてたんだ。そしたらエグが真っ先にそいつらに殴りかかって、猫を助けたんだよ」


「最近もそうさ。ヴィへイトル様がディンフルの城を乗っ取ったばかりの頃、五人で屋上から一望してたんだ。そしたら、手すりに止まった鳥をヴィへイトル様が魔法で殺してしまったんだ」


「何でそんなことを……?」


 二人が過去を話した後で、ティミレッジが殺された鳥を嘆いた。


「ヴィへイトル様は昔から小さい動物を平気で殺して来たから、その名残だよ。全員が屋上からいなくなった後、エグは鳥の死骸を城外へ持って行って埋葬したんだ。誰にも知られないようにね」


 レジメルスはアジュシーラの額の目で見たのだろう。その場にいたかのように詳しく説明した。


「過去と言い、動物とのやり取りと言い、クルエグムが根っからの悪とは思えなくなって来たな……」


「むしろ、お前の城にいた元兵士の方が悪者だろう」


 フィトラグスが言うと、ディンフルはクブリートを指摘した。

 彼を信じていただけに、フィトラグスのショックは凄まじかった。


「クルエグムに対してもだが、野良猫までいじめてたとは……。そりゃあ、“正義の国にふさわしくない”って言っても納得だな」


 裏切られたような気持ちになり、フィトラグスは彼への怒りが募り始めた。


「クブリートはもういい。クルエグムに指摘され、己の愚かさを思い知ったはずだ。兵団を辞めたのが何よりの証拠である。もう放っておけ」


 ディンフルはフィトラグスを慰めるように言った。

 それでも浮かない顔をする彼へアジュシーラが頼み込んだ。


「お願い、エグを死刑にしないであげて。やっぱり色々思い返すと、可哀想になるんだ」


「可能な限りでいいから……」


 アジュシーラとレジメルスは二人して、彼の死刑撤回を懇願した。

 フィトラグスの心も揺らいでいた。自身が信じていた兵士によって、クルエグムは狂わされた。それを考えると、彼を助けるべきなのか悩み始めたのだ。


 クルエグムを説得するには、やはり古城へ行かなければならない。

 挨拶を終えた一行は複雑な思いを抱えながらも、留置所を出ようとした。



「忘れてた!」


 部屋を出ようとしたら、ユアが突然リュックを降ろし、中から小さな瓶を取り出した。


「あなたにお土産っ!」それをアジュシーラへ手渡した。


「オ、オイラに……? 何これ?」


「リアリティアの漬け物。ティミーから聞いたけど、好物らしいね?」


 ティミレッジはダークティミーになった際に、アジュシーラ特製の漬け物を大量に食べた上に酷評までした。後にそのことを皆へ打ち明けた後、ユアがリアリティアへ帰った際に買って来てくれたのだ。


「あの時はごめんね。あと、それ以外にも色々ひどいことしちゃったよ……」


 ティミレッジが謝罪した。相手が敵でも、悪いことをしたら謝まるのは心優しいゆえの行為だった。

 アジュシーラは「もういいよ」と言わんばかりに、満面の笑みで首を横へ振った。今は謝罪よりも、漬け物の方が嬉しかったからだ。

 何より、幻の世界と言われるリアリティア製と言うことも大きかった。


「リアリティアにも漬け物があるんだ?! すっごく楽しみ! ありがとう!」


「いいじゃ~ん! あとであたしにも分けてよ!」


「僕は遠慮しとく……。漬け物より“ラッコのマーチ”の方がいいから」


 アジュシーラが喜んだ後でネーガも関心を示すが、レジメルスのみ拒否した上に菓子を欲しがった。

 ユアは「今度帰ったら買って来る」と約束すると、仲間たちと共に留置所を後にするのであった。

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― 新着の感想 ―
助命嘆願が通るかは微妙なラインだなあ本人が拒否するかもしれないし ユアの言う事なら聞くか…?いやーどうだろ
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