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第125話「過去~クルエグム~ 中編」

 中等学校を卒業したクルエグムはそのまま高等学校へ上がる予定だったが、それが出来なくなった。

 何故なら住んでいた施設が倒産し、人間のみ他の施設へ入れられ、ディファートは放置されてしまったからだ。

 クルエグムは住む場所すら失い、学校どころではなくなってしまった。


 近くの町では戦闘力がある者同士が戦い、勝ち抜いた者が賞金をもらえる大会が頻繁に行われていた。それはリアリティアで言うストリートファイトだった。

 クルエグムはクブリートと争った日々で培った戦闘力でその大会に出続けた。

 だが、その大会はディファートの出場が禁じられていたため、頭にバンダナをかぶり尖った耳を隠し、瞳孔も見られないたようになるべく人との会話を避けた。


 やはり、クブリートとのケンカで育まれた戦闘力が活き、クルエグムは大会を総ナメにするほど勝ち続けた。

 お金はそれで何とかなったが自身の食事で精一杯で、住む家までは買えなかった。

 同じように浮浪者になったディファートを養ってあげたかったが、大会で稼ぐ賞金だけでは難しかった。


 気が付けば、同じディファートたちはいなくなっていた。

 おそらく、自身が大会に行っている間に討伐隊に連れて行かれたのだろう。

 いじめっ子に反撃するきっかけとなった友人も、中等学校卒業を機に会えなくなり、今はどこで何をしているかもわからなかった。


 クルエグムは完全に一人になってしまった。それでも、生き続けようと思った。

 自分を助けてくれた妹に恥じないよう、彼女の分も精一杯生きるつもりだったのだ。



 ある時、大会での戦闘中にバンダナが外されてしまった。

 尖った耳が露わになり、会場中が混乱した。


 討伐隊もやって来た。実は「ディファートが乱入しているかもしれない」と噂が立っており、ずっと前から見張っていたのだ。

 クルエグムは素早い身のこなしで逃れたが、もう大会の賞金も当てに出来なかった。


 ここから彼の本当の地獄が始まるのであった。



 節約しても金銭は尽き、クルエグムは一文無しになった。

 ディファートなのでもちろん働かせてはもらえないし、人間の奴隷にもなりたくなかった。


 なので、彼は盗みを始めた。

 素早い身を活かして食料、衣類、生活に必要なものなどあらゆるものを盗んだ。


 抵抗する者には暴力を振るうこともあった。彼も生きなければならないので必死だったのだ。

 自身が指名手配されていることも知らずに……。



 住居をなくしてから一年、あらゆる地域でクルエグム対策に討伐隊が見張るようになった。

 今回の討伐隊は抹殺隊一択だった。見つかれば間違いなく殺される。


 クルエグムは見つからないように思考を凝らして盗みをしていった。

 しかし、討伐隊の鋭い見張りで、前より盗みが成功しなくなった。


 腹を満たすのは公園の蛇口から出る水のみ。

 そこで彼は考えた。山や森に行けば食料に困ることもなく、キレイな水もたくさん飲めるのではと。


 町で盗みをすれば、施設にいた頃のような多少は良いものをわずかだが食べられた。

 山には木の実などしかないが、それでも討伐隊の目から逃れるには打ってつけだった。


 クルエグムは山へ向かった。

 腹が満たされなければ、盗みをしたり逃げ切る体力がつかなかったからだ。何より、討伐隊から逃げ回るのも面倒だった。

 空腹で頭が回らない中、彼は重い足取りで歩みを進めた。


 途中、森の中で数種類の果物を入れたカゴを見つけた。

 町では手に入りにくくなった食料。クルエグムにとっては喉から手が出るほど欲しいものだった。

 しかも、カゴの周りに人はおらず、盗むには絶好の機会だった。


 空腹で何も考えられなくなっているせいもあり、彼は無我夢中でカゴに飛びついた。


 だが、もう少しという距離で体が浮き上がり、クルエグムは網に捕らえられ宙づりにされてしまった。

 周りの茂みから討伐隊が顔を覗かせた。彼らが仕掛けた罠だったのだ。



 クルエグムは両手両足を縛られると馬車に乗せられ、砂漠のど真ん中に降ろされた。

 討伐隊はそのまま去って行き、彼はまた一人になった。


 空腹もあり、自身を縛っている縄をほどく元気もなかった。

 だんだん、高温の気候のせいで意識が朦朧として来た。彼は悟った。「ここで死ぬのだ」と。


 思えば、助けてくれた妹の分まで精一杯生きることに決めたが家族を失い、いじめられ続ける人生は自分にとって何だったのか疑問だった。

 最後は住むところもなくし、たった一人で生き延びなければならなかった。だが、そんなことをして何の意味があるのかわからなくなった。

 窃盗や傷害を繰り返して腹を満たすことは出来ても、自身は幸せになれなかった。


 ならいっそ、ここで終わらせた方がいいのかとも思い始めた。

 がむしゃらに動いても幸せになれないのなら、生きていても仕方がなかったのだ。


 クルエグムはすべてを諦め、もがくことをやめた。

 早く終わらせて、あの世に行った家族と再会した方がいいと考えたのだ。


 するとその時、自身の体が浮いた気がした。

「もうどうにでもなれ」投げやりになった彼は、そこで意識を失うのであった。



 気が付いた時には熱い砂漠の上ではなく、涼しい森の中にいた。

 夜で気温が下がっているせいもあった。


 目の前にはたき火があり、その向こうには紫色の長い髪の男性が座っていた。その者が助けてくれたようだ。

 彼から食事を出されると、クルエグムは一心不乱に食べ始めた。

 涙がこみ上げて来た。人から食事を出されるのは約一年ぶりだったからだ。


 これがディンフルとの出会いである。



 まもなくしてクルエグムは彼の部下となった。

 彼の「人間を消して、フィーヴェをディファートだけの世界にしたい」という野望に大いに賛成したからだ。


 北の古城をアジトにし、クルエグムは部屋を与えられ、一年ぶりにベッドの上で眠れた。

 食事だけでなく住むところまで提供してくれたディンフルへ頭が上がらなかった。

 そして、「彼のために戦おう」そう誓うのであった。


 この時、ディンフル一味はクルエグムと二人きりだった。

 クルエグムは、自分と同じように苦しむディファートがいると考え、仲間を探しに行くことにした。

 もしかすると、同級生のディファートが助けを求めているかもしれなかったからだ。


 ところが、彼は指名手配されている身。

 町中で隠れながら移動し、ディファートを探し続けた。


 とある町で大人の男性が数人で子供を痛めつけていた。

 一人が叫んだ。「額に目があるバケモノが!」

 クルエグムはその子供がディファートだと理解し、真っ先に男性たちへ突撃した。


 大人たちにやられていた子供・アジュシーラを助け出した。

 これをきっかけに、彼もディンフル一味に加わった。


 さらに別の町では、放心状態で歩くディファートの男性を見つけた。

 その者はアジュシーラが先に見つけており、クルエグムは男性へ一緒に来るように頼み込んだ。

 だが、返事がない。心ここにあらずという状態だった。


 放っておくわけにいかず、アジュシーラと二人で彼を運んだ。

 これがレジメルスだった。二人はこの時、彼が姉を亡くしたばかりということは知らなかった。


 こうして、ディンフルの元にクルエグム、レジメルス、アジュシーラの三人が集うのであった。

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― 新着の感想 ―
野生動物みたいな捕まり方でちょっと笑ってしまったけど… なるほどね〜 こういう経緯があったなら今のディンディンに対して 裏切られた気持ちになるのは仕方ないわ
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