第121話「新たなエリア」
幼なじみ・アヨと決別したユアは、スマホをしまった。
そんな彼女を見て、仲間たちは優しく声を掛けるのであった。
「英断だ。あんな者に期待する必要はない」
「あからさまにユアを利用しようとしていた。あれは友情じゃない」
「切って正解だよ」
「よく決断したぜ、ユア!」
ディーン(ディンフル)、ラルス(フィトラグス)、ティム(ティミレッジ)、ダット(オプダット)はユアのしたことを褒め称えた。
さらにディーンが付け加えた。
「長年付き合って来たとは言え、“これからも付き合うべき”と考えてはならぬ。本当に愛してくれる者もいれば、アヨのような例外もいる。無理して付き合っても、自身が損するだけだ。ガマンが増えるようなら思い切った決断も大事である。人生は長い。基準は長年寄り添った者ではなく、自分自身だ。最後は、自分を大事にしろ。他者によって心身を壊されては、元も子もない」
ディーンからの力強い言葉に、ユアは大きく頷いた。
アヨは、元からユアを友人と思っていなかった。初めから裏切り者だったのだ。
彼女から友情のカケラも感じなくなった今、ユアは大きな決断を下した。その結果、心からモヤモヤしたものが消えた気がした。
「何だろう? さっきまで、モヤモヤしてたのが無くなった気がする……」
「それはお前が自由になれたからだ。今まではアヨに縛られて来ただろう?」
「縛られて……」
ユアが彼の言葉を反芻したその時、スマホが激しく振動した。
また電話が掛かって来たのだ。
「きっと、アヨからだ。もう出なくていい」
「拒否したから、もう掛かって来ないはずだけど……」
ディーンに忠告されたユアが画面を確認すると、「ミカネ」の名前が大きく表示されていた。
「ミカネ?!」ユアは思わず声を上げた。
ミカネとは、リアリティアでは知らない者はいないほどの世界的有名歌手。ユアの憧れの存在だった。その正体はリアリティアと異世界をつなぐ扉の番人で、しかもディファートだった。
ユアとディーンは、前の戦いの時に彼女とその秘書 兼 マネージャーのサモレンの助けもあって、リマネスを撃退していた。
ユアは電話に出た。
さすがに人気歌手なので、スピーカーにして声を響かせるわけにはいかなかった。
「何で相談してくれなかったのよっ?!」
開口一番、ミカネが怒りの声を上げた。
ただ、声が可愛いので恐怖が微塵も感じられなかった。
「ミカネ、久しぶり! 元気にしてた?!」
名前を出した途端、ディーンが人差し指を立て「シー!」と息を吐いた。
相手は有名人なので、電話が周囲にバレると大ごとになるからだ。
「“元気にしてた”じゃないわよ! 何で相談してくれなかったの?!」
「な、何が?」
「盗撮のことよ! 今、サーモンから聞いて、ビックリしたわ!」
ユアが挨拶をするも、ミカネの怒りは収まらなかった。
彼女はユアの盗撮動画の件を今頃知り、心配して電話をして来たのだ。
電話口の後ろで「サーモンはやめて下さい」とサモレンの声がした。彼は「サーモン」と呼ばれるのが嫌いなのだ。
「あれは完全にミィたちの出番じゃない! それなのに、頼ってくれないなんて!」
「ご、ごめんね! ミカネたちも忙しいだろうと思ったし、こっちも色々大変だったから連絡出来なかったんだよ~」
「そのようね~」
ミカネはあっけらかんと答えると、急に冷静な口調になった。
「ずっと感じてたもの、異世界で異変が起きていること。まさか、ユアちゃんたちが絡んでるとは思わなかったわ~。まぁ、異世界関係はミィたちにはどうしようも出来ないけど……」
ミカネは異世界で起きる異変に気がついていた。なので、ユアは彼女になら言ってもいいと思った。
「聞いて。私、色々あって今、異世界で戦ってるんだ。これから激戦になるかもしれないから、もしかすると話をするの、これが最後になるかもしれないの……」
「知ってるわよ」
ユアが思い切って打ち明けるも、ミカネは再び淡々とした口調で答えた。
思わずずっこけてしまい、それを四人が異様な目で見た。
「し、知ってたの?!」
「予知夢で見たのよ。ユアちゃんが剣かペンライト持って敵と戦う夢。カッコ良くはなかったけど、可愛かったわ~」
「カッコ良くはないけど可愛い戦闘姿」褒め言葉のようだがユアは嬉しく感じず、うなだれてしまった。
「どうした……?」心配したディーンが尋ねた。
「その関係で、リアリティアから離れるのは夢のおかげで予想がついてたから、報告は大丈夫よ。でも約束して。“生きて帰る”って」
最後の方の彼女の声は、いつもの天然ぶりを思わせないほど力強かった。
「色々あるけど、リアリティアにはあなたを応援してくれる人がいるんでしょ? だったら、“私を愛してくれる人たちにまた会うんだ”って気力で臨んで。もちろん、ミィもユアちゃんを愛してるわ」
「えぇっ?!」
ミカネはユアの憧れの歌手。
そんな者から直接「愛している」と言われ、すっかり紅潮し、耳まで一気に赤くなった。
「本当にどうした?!」ディーンがさらに心配した。
それらに答えずユアが無言でいると、ミカネの方から切り出した。
「だから、“最後”とか言わないで。絶対に戻って来て。今回の盗撮だってミィ、本気で心配したんだから」
「ごめん……。ありがとう。私、みんなと一緒に生きて帰るから!」
「うん。異世界でまた変なのを感じ取ったら連絡するわね~」
ミカネとの通話はそれで終わった。
◇
リアリティアでやることを終え、ユアたちはフィーヴェへ戻った。
変身していたディーンたちも元のディンフルたちの姿に戻り、リアリティア仕様に着替えていたユアもチアーズ・ワンドの光を浴びてフィーヴェでの戦闘服に戻った。
着いた先はインベクル城の一室だった。すでに老師・イポンダートが待ってくれていた。
「準備が出来たようじゃの」
ユアが老師へ大きく頷くと、後ろで四人も決意に満ちた表情を浮かべた。
それを見たイポンダートも穏やかな顔で頷くが、すぐに緊迫した表情を浮かべた。
「すぐに出発してもらいたいところじゃが、今フィーヴェではとんでもないことが起きている」
老師の台詞を聞き、五人にも緊張の色が走る。
イポンダートは魔法で、薄型で縦長の楕円形を出した。そこに映像が映し出された。
フィーヴェ海のとある場所で天から光の柱が降り注いでいたのだ。
「な、何だ、これは?!」フィトラグスが驚愕の声を上げ、他の四人は息をのんだ。
「妙な気配がしたから見てみたら、こうなっていたのじゃ。フィーヴェ中も騒然としておる」
結局、その光についてはイポンダートですら正体がつかめなかった。
ユアたちは気になってすぐには発てず、城で一晩待機することになった。
◇
その光はフィーヴェの話題をかっさらい、報道紙では号外も出るほどの騒ぎとなっていた。
そして、光によって今まで見たこともない地域が誕生したことを知ったのは、翌日のことであった。
ティミレッジに魔法でフィーヴェの現在の地図を出してもらい、一行は驚愕した。
光が降り注いでいた場所に、島のようなものが存在していたのだ。この正体がユアにはすぐにわかった。
「これ、DLCだ!」
「ディーエルシー……?」おそらくリアリティアの専門用語だと思ったディンフルが、仲間らと共に首を傾げた。
「“ダウンロード・コンテンツ”って言って、インターネットに接続すると追加で遊べる要素なんだよ。タハナたちが言ってた。“イマストⅤにはこれからたくさんのDLCが来る”って。その第一弾が、この新しいエリアなんだよ!」
「てことは、あの光はリアリティアによって起こったものなんだね?!」
理解したティミレッジの目がキラキラと輝いていた。
彼はリアリティアに一番関心を持っており、新たな要素を知って喜びを感じたのだ。
「だが、それらが追加される度に世界中を大騒ぎにさせるのは勘弁してほしい……」
「今回は新エリア誕生のためのだから、そんな頻繁に起こらないと思うよ」
苦言を呈するフィトラグスへユアが解説した。
確かに新エリア誕生もしくは変更ならともかく、新しいコスチュームや武器の追加だけで世界が騒いでいては、フィーヴェ民の心がもたなかった。
しかし、今のユアたちに新しく誕生したエリアを楽しむ時間はなかった。
先にヴィへイトル一味を何とかしなければならなかったからだ。
◇
もちろん例の光は北の古城にも伝わり、ヴィへイトルが黙っていなかった。
彼は、ネガロンスが残した水晶玉を通して、新エリアを見つめていた。
「クルエグム」
「はっ」
二人しかいなくなったヴィへイトル一味。
静けさが増えた古城に、彼らの声が寂しく響き渡った。
「これがどういうことか、わかるか?」
「フィーヴェに新しい地域が誕生したということです」
「そうだ。これを見て、いいことを考えたぞ」
「いいこと?」
「光の柱はリアリティアによって起こったものだ。つまりリアリティアから操作すれば、フィーヴェに何かしらの影響が出る。さらに言うと、フィーヴェを支配出来るのも遠い夢では無くなるということだ」
クルエグムは返事をせずに、相手の話を静かに聞き続けた。
「お前がよく会いに行っているユア……彼女はリアリティアとこちらを行き来出来るそうだな?」
「は、はっ……」
質問を受け、クルエグムは返事をした。
さらに、ユアの名前が出たので思わず慌ててしまった。
「フィーヴェでリアリティアへ行けるのは、空間移動を使えるディンフルと、生来の力を持つユアのみ。ディンフルは確実に俺の言うことを聞かんだろう。と、なると……」
少し考えた末に、ヴィヘイトルは怪しく笑い出した。
「クルエグム! ユアを生きたまま、俺の元へ連れて来るのだ!」
「かしこまりました!」
ヴィヘイトルから新たな命令を受けたクルエグムは嬉々とした目をしながら、返事をした。
ユアが絡むことがわかると、彼も不敵な笑みを浮かべるのであった。
古城の屋上。
青紫色の歪な形をした巨大な石が妖しく光り輝いていた。
それはクルエグムが拾って帰り、ネガロンスが妖気を注ぎ続けた石だ。もう城内に入りきらないほどの大きさに育っていたのだ。
◇
とある町を出た闇魔導士・ドーネクトとその助手・ダーケスト。
二人は同時に北方向を睨み始めた。こちらは晴れているのに、北の遠い空は曇っていた。
それも、ただの曇り空ではない。雲が紫色をしていて、まるで終末を思わせていたのだ。
「お前も感じるか?」
「はい、ドーネクト様。おそらく、あそこに例の石が……」
「今すぐ出発だ! 手段は問わん!」
ダーケストが言い終える前に、ドーネクトは緊迫した様子で先を急いだ。
(やはり、ビラーレルの者以外に拾われたか。それも、相当の悪しき者に……)
北へ行く準備を進めながらも、ダーケストは今から胸騒ぎを感じていた。
◇
予感を感じ取ったのは、フィーヴェの闇魔導士らだけではなかった。
ここはリアリティア。夜景の見えるホテルの一室で、ミカネが荒い息を立てながら目を覚ました。
隣のベッドで眠っていたサモレンもその声で飛び起きた。
「ミカネ様、どうされましたか?!」
ミカネは寒がるように体を抱きしめ、震え始めた。
その状態でサモレンへ緊張した目を向けた。
「今、夢を見たの……。フィーヴェとリアリティアが、危ない……」
サモレンは言葉が出なかった。
ミカネが見る予知夢は一〇〇パーセントの確率で当たるのだ。
これから起こる出来事は、異世界だけでなくリアリティアも危険にさらされるものだと聞かされた。
二人は、久しぶりに声を聞いたユアとその仲間たちの無事を強く祈るのであった。
ミカネが見た予知夢とは?
闇魔導士らが恐れる巨大化した石の正体とは?
狙われることになったユアは、ヴィヘイトルらを倒せるのか?
絆を深めたユアたちの運命や、いかに?
(第5章へ続く)
今回で第4章は完結です。登場人物紹介は次章で行います。
来春公開へ向けて、第5章も執筆中です。投稿可能になりましたら、お知らせいたします。
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ハードな内容でしたが、ここまで読んで頂きありがとうございました。




