第120話「決別」
リアリティアのとある公園。
アヨが去った後もユアはベンチに座り込み、動けずにいた。
「初めから友達と思っていなかった」「リマネスに近付くために友達のフリをした」「空想話をガマンして聞いていた」「居場所や職場ををばらしたのも私」
興奮から冷めて来たユアは、アヨから言われた数々のショックが少しずつ戻って来ていた。
隣に座るディーンが優しく彼女の背中をさすると、ユアの目から再び涙が溢れて来た。
「ずっと……友達と、思ってたのに……」
溢れた涙がこぼれ落ちると、ディーンは今度はユアを抱き寄せ、優しく頭を撫でた。
「何も知らずに一生付き合うよりも、ここで切れた方がよっぽどいい」
ディーンは立ち上がり、ユアの真ん前でしゃがみ込むと彼女の手を取った。
「お前には俺たちがいる。フィーヴェの仲間は誰一人、お前を裏切らぬ。ずっと、味方だ」彼は優しい口調で励ました。
「本当に……?」ユアは涙にまみれた顔でディーンを見つめた。
「信じられぬか? 俺がこうして来てやっただろう。それに……」
ディーンが別方向へ視線をやると、電柱が見えた。
そこにはラルス(フィトラグス)、ティム(ティミレッジ)、ダット(オプダット)三人の姿があった。
「悪い……」
「どうしても心配になったから」
「ユア、大丈夫か?」
ラルス、ティム、ダットもユアを心配し、ディーンと共にリアリティアへ来たのだった。
三人がこちらへ来ると、優しさをしみじみと感じたユアの目からさらに涙が溢れ、彼女は声を上げて泣き出した。
「いかん!」
ディーンは慌ててマントを出すと、ユアを頭から包んだ。
一瞬だけ騒がしかった辺りが静けさに包まれた。ディーンのマントには防音の能力もあるのだ。
しばらくすると、泣き止んだユアが中から出て来た。
「ありがとう。もう大丈夫……」彼女の目は泣き腫らして赤くなっていた。
ディーンたちは新たな不安に襲われた。
せっかく決戦を前に別れの挨拶をしに行ったユアだが、却って嫌な思いをさせてしまった。
そのため、「戦いに支障が出るのでは?」と気掛かりになるのであった。
ユアのスマホが突然震えた。
フィーヴェではスマホは圏外で使えないため、今までは電源を切っていた。だが、リアリティアへ戻ってから電源を入れた途端、通知が山ほど届くため着信はバイブレーションにしていたのだ。
確認すると、意味のないDMが届いていた。
それを削除すると、ユアは留守電が数件あることに気付いた。
アヨからだった。しかも、先ほどから順番に送られて来ていた。
「アヨから着信が……」
「構うな。先ほどの対応を見ただろう? あいつは付き合うべき人間ではない」
ディーンは声を低くして警告した。
彼としては、これ以上ユアが傷つけられることがガマン出来なかったのだ。
だが、ユアは最初に届いた一件を開いてしまった。
長く付き合って来た幼なじみが暴言を吐いた後で残した留守電が、どうしても気になったのだ。
「何か事情があって、イライラしていたんじゃ?」ユアは裏切られたにも関わらず、まだアヨへの期待は捨て切れずにいた。
ユアがスマホを耳に当てて聞いていると、横からディーンが奪い取り、スピーカー機能をオンにした。
アヨの声が途切れ途切れに、五人の間に響き渡った。
「ユア……さっきはごめんね。少し……いや、かなり言い過ぎた。私、仕事が好きになれなくて、イライラしてたんだ。それでつい、当たっちゃった。本当にごめん……」
一件目のメッセージはそこで終わった。
聞いていたユアの表情に少しだけ元気が戻った。予想通り、アヨはイラついていたのだ。
謝罪の言葉があっただけでも、ユアには充分だった。
安堵するユアを見て、代わりにディーンが次のメッセージを再生した。
「また……いや、今度こそ友達になってくれる? 今度は、本当の友達として付き合うからさ」
二件目はそこで終わった。
ディーンは続けて、三件目を再生した。
「もし、OKならメールして。LIFEのアカウントも教えてよ。それで、これからも連絡取り合おう。ユアが海外に行っても、友達だから」
メッセージは終わった。ユアの目に少しずつだが希望の色が戻って来た。
「今度こそアヨは友達になってくれる」先ほど言われた数々のショックがウソのように晴れて来た。
リアリティアにはメールよりも重宝されている「LIFE」という無料の連絡アプリがある。それで前よりも連絡がしやすくなる。
ディーンはユアの様子を確認しながら四件目を再生した。
「今、返事待ち。さっき散々言い負かしたからショックで返信出来ない、もしくはシカトされるかもしれない。でも、留守電入れて謝りまくってるから大丈夫。ユアってコロッと騙されるから。LIFEのアカウント聞いたら、またすぐ拡散するから!」
アヨはパソコンなどでビデオ通話しており、留守電を入れていることに気付いていなかった。
その内容からして、彼女はまたユアの情報を拡散しようとしているようだ。
喜びに溢れていたユアの目に再び不安の色が襲った。
ディーンは渋々だが、次のメッセージを再生した。
「ヤバ……。今の会話、留守電に入ったかも? まぁ、いいか。ユアだし」
ユアは再びショックを受け、その場に崩れ落ちた。最後の言葉で、アヨから軽く見られていることを思い知ったのである。
慌ててティムが「大丈夫?!」と彼女を抱え上げた。
ディーンは次のメッセージを再生した。画面を押す指も表情も、重くなっていた。
「ユア! 友達になってあげるから、明日の合コン付き合ってよ。人数足りなくなって困ってんだ。あんたもそろそろ彼氏作った方がいいんじゃない? ゲームばっかするより、外に出て人と会った方がいいわよ。どうせ、私以外に友達いないんでしょ? わざわざ会いに来るぐらいだし」
それが最後のメッセージだった。
アヨは留守電を使ってまで、上から目線で決めつけたような言い方をし、さらにまたユアを利用しようとしていた。
「ひどい奴だな……」
「もう、付き合わない方がいいんじゃね……?」
ラルスとダットも失望していた。
特に、仲間や友人との絆を大事にするダットですら、付き合わない方がいいと推奨するほどだった。
「ユアちゃん、もう会わない方が良いと思う。ここで許したら、またこれからも利用されるよ」
ユアを抱え、ベンチに座らせたティムも助言した。
「皆の言う通りだ。メッセージによると、お前のアカウントを拡散しようとも企んでいた。まったく、リアリティアの教育はどうなっているのだ……? あまりにも陰湿すぎる!」
最後にディーンが怒りを露わにした。
ユアは四人には答えず、スマホを操作し始めた。
「ユア?」
ディーンが呼び掛けると、ユアは顔を上げて彼らを見た。
表情は力なく、虚無を感じさせた。
「……終わったよ」
「何が?」彼女から発せられた一言が理解出来ず、ディーンが再び聞いた。
「アヨとの関係。今、番号とアドレスを拒否して、連絡先も消したから」




