第118話「挨拶~リアリティア~」
アクセプト寮。
タハナたちとギャル組の案内でユアは中へ入り、空想組、ギャル組に分かれて食堂の席に着いた。
一番仲良しだった空想組は、対立していたギャル組と何故か仲良しになっていた。
ギャル組がゲームを始めたのも、それが関係しているようだ。
「ゲーム始めてみたけど、めちゃくちゃ面白いよ!」一番にソウカが感想を述べた。
「ソウカはオープンが好きなんだよ! あたしはティミー推し! 可愛いじゃん!」
「ティミーはズノが狙ってんだけど!」
「あんたは生真面目のフィットじゃないの? この前、“いいな”って言ってたじゃん」
「フィットもいいけど、一番はティミーなんだよ!」
また言い争うヒースとズノ。どうやらズノは同担拒否組のようだ。
「もうやめなよ! せっかくユアが帰って来てくれたんだから!」
諫めたのはギャル組リーダーのソウカではなく、空想組のラッカだった。
「ユアっちは誰推しだったっけ?」
「私は、ディン様……ディンフル」
ユアがディンフルの名前を慌てて言い直すと、ギャル組が爆笑し始めた。
「“ディン様”だって!」
「タイッシーたちから聞いてたけど、本当に“ディン様”呼びするんだね!」
「本当に好きなんだね!」
ユアは顔を赤くした。
ディンフルの呼び方を笑われた怒りではなく、リアリティアでは「ディン様」と呼ぶ人が周りにいないため、恥ずかしくなったからだ。
しかし、ギャル組はバカにして笑ったのではなかった。空想組から聞いていた予想が当たった喜びで笑い転げたのであった。
「でもディンフルって、ビジュアルイケてるもんね!」
「悪役なのに、何か憎めない感じだし~」
「わっかる! 魔王だから最後、フィットたちに殺されちゃうのかな? 生き残ってほしいな~」
最後に言ったズノの話からすると、ギャル組はイマストVの結末をまだ知らなかった。
ユアは「最後はフィットたちとわかり合えて、共闘して真のラスボスと戦うんだよ」とネタバレを言いたかったが、必死にこらえるのであった。
「それよりユア。何か話があって来たんでしょ?」
「何、話って?」
タハナとタイシに促され、ユアはギャル組を含めて打ち明けることにした。
「私、お兄さんと海外で暮らすことにしたんだ。だから、もうみんなとは会えないかもしれないの」
知らせた途端、空想組とギャル組から笑顔が消えた。
「ウソでしょ……?」タハナは信じられない様子でつぶやいた。
次にラッカが何を言おうとすると、横からギャル組が別の意味で驚いた。
「ユアっち、お兄さんいたの?」
「初耳なんだけど」
「どんな人?」
ユアは自身のスマホを出し、ディーンの画像を出した。
ディンフルは、この時のためにディーンに変身した時に撮影させてくれていたのだ。
「カッコいい~!」ギャル組三人が声をそろえて感激した。
ユアが会えなくなることよりも、意識がすっかりディーンへ移ってしまった。
「それよりユア。本当にもう会えなくなるの……?」
ラッカがしおれた声を出した。
横のタイシも泣きそうな顔になっていた。
「ごめん。もう決まったことなんだ」
ユアがスマホをしまいながら言うと、空想組とギャル組が再び沈黙した。
「こんなカッコいいお兄さんと暮らすんじゃ、しょうがないよね……」
ギャル組では、特にソウカが残念そうにしていた。彼女は前々から空想組とギャル組を仲良くさせたがっていた。もちろん、ユアも例外ではなかった。
しかし、そんなソウカも曇った顔から一転、明るく振る舞いながら立ち上がった。
「まぁ、ユアっちの新しい門出だもん! 笑って見送ろうよ!」
「あ、門出っていうか……」
ソウカの言葉を合図にギャル組のヒースとズノだけでなく、空想組三人も立ち上がってユアへ拍手した。
兄と海外で暮らすだけなので何かに合格したわけではなく、祝福とは言い難かった。
「まぁ、いいか……」
六人から意味もなく祝福されたユアは照れくさくなった。
報告はそれで終わり、あとは寮を出て行くだけとだった。だが、ここでユアはどうしても気になることを尋ねてみた。
「何で二組とも、仲良くなったの?」
質問すると、空想組もギャル組も一度気まずそうに顔を合わせてから、すぐに明るい表情を浮かべた。
「ギャル組ってうるさいイメージがあったけど、話してみると良い人たちだってわかったんだ」
「ゲームの趣味も理解してくれたし」
「ノリも良いしね!」
タハナ、ラッカの後にタイシがイタズラっぽく笑った。
三人とも、もうギャル組に悪い印象は抱いていなかった。
「空想組も暗いイメージあったけど、みんな優しいよ! ズノ、見直しちゃった!」
「あたしらの推しもわかってくれたし、見る目あんじゃん!」
続いて、ギャル組のズノとヒースも空想組を讃えた。
お互い、しばらく見ない間に絆を深めたのであった。詳細はわからないが、ユアは両者の和解を嬉しく思っていた。
七人で笑い合う中、ユアはもう一つ気になることを聞いてみた。
「そういえば、アヨは? まだ大学?」
先ほどからアヨの姿が見えず、声もしないので寮にいる気配が感じられなかった。
すると、和やかだった空気が急に一変し、空想組もギャル組も顔が強張った。
「ど、どうしたの……?」
ユアは再び聞いてみた。
両者ともアヨを尊敬していたために、表情の変わり具合で只事と思えなかったのだ。
「あいつなら、辞めたよ」ヒースが代表して、つっけんどんに言った。
その一言がすべてを物語っていた。隣で聞く空想組も良い顔をしていなかった。
「あいつ」と呼ばれる辺り、アヨは六人からも嫌われたようだ。
「辞めたって、何で? みんな、アヨのこと好きだったじゃん?」
ユアは理解できず、聞き続けた。
すると、両者は怒りを露わにしながら次々と答えていった。
「ユア。悪いこと言わないから、付き合うのやめた方がいいよ」
「そうだよ、あんなわからない人!」
「散々だったんだから……」
「ちょっと、アレは無いわ……」
「もう二度と会いたくない!」
「冗談じゃないよね!」
タハナ、ラッカ、タイシの後でソウカが苦笑いし、ヒースとズノも怒り心頭だった。
さすがにウェルカム精神旺盛のソウカですら、アヨが苦手になっていた。
「何かあったの?」
幼なじみが嫌われたことに衝撃を受けたユアは、質問が止められなかった。
両者は明らかに嫌な顔していたが、少しずつ話してくれた。
まず空想組の話から。
将来、空想系の仕事に就きたいタイシのために、アヨは会社や専門学校などの情報を取り寄せていた。
さらに、専門学校のパンフレットまで持って来てくれたので、タイシも「ここまでしてくれるなんて、親切だ」と最初は感謝していた。
だが、そんなタイシは大学に通い、帰ってからも課題やアルバイトなどで大忙しだった。なので、オープンキャンパスや見学会に行く時間がなかなか見つけられなかった。
するとアヨから「何で時間を有効に使えないの?!」と怒鳴られてしまった。
タイシが「他にもすることあって忙しいんだよ」と伝えたが、「本当は行く気ないんでしょ?」と話を聞かずに一蹴されてしまった。
タハナはイラストレーターを目指しており、アヨが昔好きだったキャラのイラストを描いて渡したことがあった。
ところが、アヨはそれを食堂の机に置きっぱなしにして受け取ってくれなかった。後で一人で直接渡しに行った際、衝撃の言葉を掛けられた。
「確かに昔、そのキャラは好きだったけど今はサッパリよ。イヤなとこいっぱい見つけたし、今は苦手って言うか嫌いなんだよね。それに絵自体も良い出来じゃなかったもん。絵師目指してるなら、もう少し勉強した方がいいと思う。そもそも、供給を押し付けないでくれる? そっちが勝手に描いて、“これもらって”って言われても困るんだけど。だから、勝手に落ち込まないで。子供じゃあるまいし」
タハナから聞いたラッカが代わりにアヨへ言い返し、二人は大ゲンカになった。
遠くで見ていたギャル組も、これには引いてしまったようだ。
さらに別の日、ギャル組も被害に遭っていた。
ズノはお調子者で、いつもケラケラと笑っていた。それをヒースは気に入らず、陰でアヨに「あいつ、ウザい」と愚痴ってしまった。
後日、ヒースは急にズノに避けられるようになった。捕まえて事情を聞くと、例の陰口をアヨが本人に伝えたのである。
思わずヒースがアヨへ詰め寄ると「陰で文句言うなら本人に直接言えばいいでしょ。何で、わざわざ私に言うの?」と逆ギレに似た対応をされてしまった。
ヒースとアヨも大ゲンカになった。
その後、ヒースは急いでズノに取り繕った。お調子者のおかげで相手もすぐに機嫌を直し、これからはヒースを不快にさせることはしないと約束してくれた。
だが、それを見ていたアヨから「私に相談して良かったでしょ?」と恩着せがましく言われたため、ますます彼女たちの怒りを買うことになった。
そして、ソウカも被害者だった。
彼女はギャルが好むブランド雑誌の読者モデルだった。別のギャルと並んだ時に自分の方が太って見えたことが「公開処刑」としてコンプレックスとなり、ダイエットのために食事の量を減らしていた。
ところが、アヨが「痩せたいなら食べて運動して!」と、嫌がるソウカに無理やり食事を多めに提供したのだ。
同じ頃、タイシにも「太り過ぎ」と指摘し、逆に彼女の食事量を勝手に減らしていた。
ソウカに嫌がることをするアヨへ再びヒースが怒鳴り、同時にタイシを庇うようにラッカも怒号を上げた。両者が団結したのはこの時だった。
アヨへ注意したのがきっかけで二組は意気投合し、互いの趣味にようやく理解を示すようになり、仲良くなったのであった。
アヨはと言うと仲間外れにされた数日後に、黙って寮から出て行ってしまった。
ユアは両者の気持ちが痛いほど理解出来た。
アヨは昔から極端にお節介を焼き、イライラした時は徹底的に相手を言い負かす癖があったのだ。
二組の気持ちはわかったが、それでもやっぱり幼なじみがハブられるのは聞いていて良い気待ちはしなかった。
(アヨは相手の気持ちを考えられないところもあるけど、根は優しいよ。みんなに辛く当たったのだって、ストレスが溜まってたからかもしれないし……)
六人から「会わない方がいい」と言われたユアだがどうしても気になり、寮母からアヨの新しい住所を聞き、寮を後にするのであった。




