第117話「もう一つの故郷」
ミラーレ。
弁当屋を去った一行は、近所のキーワード図書館にも挨拶へ行った。
シオリはディンフルとの再会を喜んだのもつかの間、「生きて帰れないかもしれない」と聞いた時、泣きながら引き止めた。
こうやに「みんな、強いから大丈夫だよ」と慰めると泣き止み、安心して五人を送り出すのであった。
そして最後に「あまり会ってないけど、わざわざありがとうね」と礼を言われた。
ユアたちも二人へ感謝し図書館を後にすると、いつもの公園へ向かった。
ユアは、ディンフルと出会ったこの公園から異世界へ飛ぶ決まりを作っていたのだ。ここは、フィトラグス、ティミレッジ、オプダットは初めて来る場所だった。
「ここで二人が出会ったのか!」
オプダットが興奮すると、他の二人もまじまじと公園の中を観察した。
見たところ、ブランコにすべり台、砂場、ベンチがある普通の公園だが、ユアとディンフルにとっては思い出深い場所となっていたのだ。
「それでは、フィーヴェへ飛ぶぞ」
「待って!」
魔法を使おうとするディンフルをユアが止めた。
「みんな、先に帰ってて。私、他にも挨拶へ行きたい場所があるの」
四人は予想がついていた。
ミラーレの他にユアが行きたい場所と言えば、一つしかない。
「もしかして、リアリティア?」
ティミレッジに聞かれ、ユアは深く頷いた。フィトラグスとオプダットも納得の表情を浮かべた。
ただ、ディンフルだけはまた浮かない顔になっていた。
「誰に会いに行くのだ?」
彼が質問すると、フィトラグスが睨みつけた。「また心配してる……」と言いたげな目を向けて。
「グロウス学園と寮のみんな。さすがに“戦ってる”とは言えないから、“お兄さんと海外で暮らす”って言って来るよ」
ディンフルはリアリティアではディーンという名の青年に変身し、ユアの兄を名乗っていた。すでにグロウス学園の園長とも会っていた。
寮の皆にも、画像(もちろん、ディーンの姿)を見せていたので、とうに知られていた。
「アヨという者には会ったりしないだろうな?」
ディンフルが重いトーンで尋ねた。
以前、ユアがファンタジーフォンで寮の友人と連絡した際、旧友のアヨが勝手に替わった上に説教までされてしまった。
それをきっかけにアヨのことを皆へ話してしまったため、彼女はディンフルたちから良く思われていなかった。
「たぶん、会うことになるかも……。寮にいると思うし」
「何か言われても、気にするのではないぞ」
「ディンフル、ついて行ってやったらどうだ?」
横からオプダットが提案するも、ユアは即刻で拒否した。
「い、いいよ! 自分の故郷だし、一人で行けるから!」
拒否したのには理由があった。
ディンフルはリアリティアへ数度行っているが、今でもあちらの世界のルールがわかっていない時がある。
特に対人関係が心配だった。
彼は以前、ユアをいじめたクラスメートと彼女らを庇う教師らへ声を荒げた。
もし、アヨと会わせたらあの剣幕が再来するかもしれない。おそらく、アヨも言われたら言い返すと思うので、修羅場になることが予想された。
それを考えて、ユアは一人で行った方が良いと考えたのだ。
「さすがに一人で行くべきだ。我々はリアリティアでは部外者だ。あまりユアに付きまとうと、心配性だと思われる」
「すでに思われてるよ」
ディンフルもユアが一人で行くことに賛成だが、心配性の部分はフィトラグスに見抜かれていた。彼だけでなくティミレッジ、オプダット、ユアも心から思っていた。
図星に唸るディンフル。
「と、とりあえず、行ってくるね!」
ユアは慌てて言うと、生来の力を使ってリアリティアへ飛ぶのであった。
◇
リアリティア。
たどり着いたのは、駅のトイレの中。
外を出ると、ちょうどグロウス学園の最寄りの駅だった。
学園までのルートはわかっているので、そのまま歩いて向かい始めた。
ところが、すれ違う者たちがユアへ注目した。皆、好奇心に溢れた目で見つめて来たのだ。
(見られるってことは、まだリマネスの動画の影響が残ってるんだ。そりゃ、一ヶ月も経ってなかったら、まだ覚えられてるよね……)
ユアはどこかへ隠れたいと思ったが、引き返すわけにはいかなかった。
そこへ、彼女を見た女子高生数人が口々に言い出した。
「あの子の格好、可愛くない?!」
「コスプレかな?」
「何のゲームだろ? 見たこと無いね」
「オリジナルじゃない? 今年のハロウィンは、ああいう感じで行こうかな~」
彼女らの言葉で思い出してしまった。ユアは今、フィーヴェの戦闘服を着ていることを。
リアリティアとは違う風貌なので、浮いて見られるのも納得だった。
ユアは急いで駅へ駆け戻り、再びトイレに入った。
(忘れてた……。これ、フィーヴェで動く時の格好じゃん! リアリティアで着てた服は、ネクストドアの二階だ。今から取りに戻らないと……。でも、まりねさんも、もう仕事に戻ってるだろうな~)
途方に暮れていると、突然チアーズ・ワンドが光り出した。
ペン先から出た光を浴びたユアは、リアリティアで着ていた夏服の首元に白いフリルがついたピンク色のTシャツワンピースに青のパンツに着替えていた。
「えっ!? 変身の機能まであるの?!」
わざわざミラーレへ行かなくても、リアリティアの服に変わったので、ユアは改めてチアーズ・ワンドに感心するのであった。
今度は堂々とトイレから出て学園へ向かって歩き始めた。今度は誰からも見られることはなく、スイスイと進めた。
グロウス学園へ行くも、園長は不在だった。
なので、代わりに他の先生に伝言を伝え、次はアクセプト寮へ向かうのであった。
◇
グロウス学園から寮までは徒歩ニ十分ほどの場所にあった。門限まではまだ時間があった。
ユアは玄関前で止まり、インターホンを鳴らそうとしたが、ためらってしまった。
「もし、一番にアヨが出たら……?」そう考えると、頭が真っ白になった。
戸惑っていると、後ろから「ユア!?」と名前を呼ばれた。
振り向くと、出掛け先から戻った空想組のタハナ、ラッカ、タイシが立っていた。
「どうしたの、いきなり?!」
「来るなら言ってよ! 心の準備もあるんだから!」
「そうだよ! 久しぶり! 元気?」
三人はユアへ駆け寄りながら、前と同じように声を掛けて来た。
皆、驚きつつも嬉しそうな顔をしていた。
「うん、元気だよ! 今日はみんなに大事な話をしに来たんだ」
「大事な話?」
タハナが聞いたところで玄関の扉が勢いよく開き、ギャル組のヒースが忙しなく出て来た。
「おかえり、タイッシー! ねえねえ! 聞きたいんだけど、このビラーレル村の謎解きってどうやるの?!」
最後に、アヨと一緒になってユアを責めて来たギャル組の一人だ。
彼女を見た瞬間、ユアは少し身構えてしまった。
タイシが対応しようとしたところへ、同じギャル組のズノも玄関から駆けて来た。
「ねえねえ、タイッシー! このインベクルの洞窟の敵、強すぎるんだけど! どうやって倒すの~?」
「おっそ! あんた、まだそんなとこなの?」
「ヒースはゴリ押しで進み過ぎなんだよ! ねえ、タイッシー教えて!」
「今、あたしが聞いてんだけど!」
「ズノの方が遅れてんだから、ズノに聞く権利あるでしょ!」
よく見ると、口論をするヒースとズノの手にはそれぞれゲーム機があった。
ユアは違和感を覚えた。ギャル組……特にヒースとズノは空想組をバカにしており、ゲームなど専ら「子供が遊ぶもの」という認識を持っていた。
そんな二人がゲーム機を持ち、進め方を空想組に聞いていたのだ。しかも、聞いたことがある地名からして、イマストVをプレイしているのだろう。
呆然としていると、次に玄関からギャル組のリーダー・ソウカが出て来た。
彼女は出て来た早々、ユアへ目が行った。
「ユアっちじゃん?! お久~!」
「ひ、久しぶり……」
よく見ると、ソウカの手にもゲーム機があった。
ユアは彼女の大きい声に驚きつつも、ゲームをするギャル組に違和感を持ったまま立ち尽くすしか無かった。
一方で、言い合いをしていたヒースとズノはようやくユアが来ていることに気付くのであった。




